第1層のフロアボスは未だに討伐されていない。シュユ達3人はクエストを終え、それぞれ初期装備からシュユとユウキは【アニール・ブレード】、シノンは【アニール・スピア】にメイン武器を切り替え、レベリングに勤しんでいた。が、初めはポンポンとレベルが上がっていたのだが、【EXPキャップ】の存在にいち早く気付いたシュユ達は違う狩り場へと行っていた。
【EXPキャップ】というのはつまるところ、無限レベリングの防止策だ。普通のレベリング制MMORPGはどんなに高レベルになろうとMOBを倒せば経験値が入る。上限が高くなるせいで微々たる数値にはなるが、確かに経験値が入るのだ。塵も積もれば山となる、という諺の通り、根気さえ保てれば第1層でもレベルを際限無く高められる。それではゲームが格段に簡単になってしまう、という事で設けられたのが【EXPキャップ】だ。簡単に言えば狩り場や狩りやすいMOBに数が制限されており、それを超えるとどんどん獲得できる経験値が減っていく。最後は0になり、レベルは一定以上は上がらなくなる。階層を越えた同一のMOBはカウントがリセットされ、その階層ごとの【EXPキャップ】の対象になる、という訳だ。
つまるところ、彼等はレベリングが終わり、フロアボス攻略に踏み出せるレベルまで来たという事だ。
「う~ん、【フレンジーボア】もキャップに引っ掛かっちゃったよ。もう狩れるモブも居ないなぁ」
「どうするの、シュユ?フロアボス攻略に踏み出すの?」
「βテストの時に3人で突破できたのは何度か死んで、パターンを把握できたからだ。今は死んだら終わりだし、流石にリスクが大きい。多分、これから攻略に踏み出すプレイヤーが出てくると思うから、それまで待とう」
そう言って村へと戻ろうとするシュユだったが、何かを見付けて森へと歩いていく。そこに居たのは車椅子に座った老人。帽子を深く被った老人の表情は全く分からない。老人の頭上には友好NPCのマークが付いており、敵ではないと理解すると安堵感が込み上げる。
「....君は、何の為に戦う?」
「決まってる、あの2人を護る為だ。それ以外の何物でもない」
「フ、ハハハ....そうか....良いな、誰よりも純粋で、誰よりも歪曲している....それでこそ、君は狩人となれる」
目の前にメッセージウィンドウが現れ、下部にはYESとNOの選択肢が表示される。内容を一通り読んではみたが、意味が分からない。
《君は狩人に成り得る。獣を狩り、人を狩り、あらゆる存在を狩る者。血に酔い、血に依りて、血に揺られる。狩人の力は君を変える。獣へ、人へ、狩人へと君を変えるだろう。それでも、君は狩人になるか?》
だが、これはイベントだ。そして、恐らくは1度きりの。彼は迷わなかった。指を伸ばし、YESをタッチする。
「そう、それで良い....。餞別だ、使いたまえ。狩りの完遂を、心から願っているよ....」
老人が消えると共にアイテムストレージにアイテムが収納される。シリーズ装備らしいが、確実にユニーク装備だ。固有名詞の時点で彼は悟る。
【老狩人の帽子】
【老狩人の服】
【老狩人のズボン】
【老狩人のコート】
【葬送の刃】
取り敢えず全て装備してみる。色彩変更が出来たので好みの灰色に変え、アイテム化した【手鏡】で大体の姿を見てみる。先程の老人と同じ服装で、武器は右手に持つ歪な片手剣と背中に背負う何か。セットらしいが、使い方が分からない。
【葬送の刃】
《あらゆる狩人の原点である老狩人が使っていた『仕掛け武器』。鉄の城から失われた技術である『仕掛け武器』の原点となるマスターピースであり、その刃には星に由来する貴重な隕鉄が用いられている。
老狩人は狩りを弔いに見立てていたのだろう。せめて安らかに眠り、2度と悪夢に目覚めぬ様に》
シュユは背中に背負う木の棒の先端に、何かを嵌める様な場所を見付ける。それに剣を近付け、嵌め込むとガキンッ!という音と共に大鎌へと剣が姿を変える。フレーバーテキストは読んだが、性能を見ていないと思い性能のページを開く。
攻撃力に耐久値は高い方で、これでもかなり良い性能なのだが度肝を抜いたのは
【
【残り耐久値を攻撃力に乗算】
【剣モード時、
【大鎌モード時、ソードスキル使用不可】
【大鎌モード時、
【一定の力を込めると次の一撃の威力向上】
【動物系MOBへの攻撃力に超上方補正】
【人型MOBへの攻撃力に超上方補正】
【アンデッド系MOBへの攻撃力に超上方補正】
【対人攻撃力に超上方補正】
【正気である限り全パラメーター上昇】
【狂気に染まる度に全パラメーター上昇】
【未解放】
【未解放】
【未解放】
まず付与効果に未解放の項目がある事もおかしいが、他の効果もブッ飛んでいる。デメリットらしいデメリットは大鎌モード時のソードスキル使用不可くらいのもので、他の効果は全てシュユにメリットしか及ぼさない。
ちょうどイベントも終了したのか、ユウキとシノンが駆け寄ってくる。少し心配そうな顔を浮かべているのはやはりデスゲームであるからだろう。
「シュユ!ほんと、どこに行ってたの!?」
「イベントを、ちょっとな」
「イベント?製品版で追加されたイベントなのかしら。報酬とかはどうなの?」
「....これ、見てくれよ」
「この武器?どれどれ........え゛?」
「何かおかしいの?えっと.......は?」
純粋な性能の流し読みならば普通のリアクションだが、付与効果の欄に行くと流石に固まってしまった様だ。そんな状態の2人に警告する様に、2匹の騎士型のネームドが現れる。
【黒騎士】
【ハイデの騎士】
黒騎士は片手剣、ハイデの騎士は槍を構え、シュユと相対する。
「シュユ、ボク達も――」
「いや、大丈夫。この武器の慣らしも必要だし、1人でやってみる。危なくなったら直ぐにヘルプ出すから、しっかり見ててくれよ?」
「....分かったわ。あなたを信じる」
「ありがとう、シノン。....さて、やるか」
大鎌から剣に変え、相手の様子を窺う。同時に現れたが味方ではないらしく、黒騎士がシュユ目掛けて突っ込んでくる。眼前に突き出される剣をサイドステップで回避、剣を横薙ぎに振るう。黒騎士は籠手で弾き、蹴りを叩き込もうと脚を上げる。読んでいたシュユは黒騎士の軸足を大鎌の柄になる木の部分で払うと、単発斜め斬りのソードスキル【スラント】を使い、体力バーの8割を一気に削る。その勢いのまま硬直時間の終了後直ぐに逆袈裟に刃を振るう。黒騎士の体力バーは消え去り、ポリゴンの破片となって消え去った。
それを待っていたと言わんばかりに、黒騎士とは対照的な色のハイデの騎士が突きを放つ。シュユも負けじと突きを放つが、ハイデ騎士はバックステップで回避。そしてシュユの胸目掛けて突きを放つ。サイドステップで避ければ次は胴薙ぎの一閃。伏せて回避し、自分もバックステップで距離を取る。柄の部分を展開、先端に刃を結合させ、大鎌モードへと移行させる。
「....行くぞ、ハイデの騎士」
一瞬脚に力を込め、地面を蹴る。その次の瞬間、彼はハイデ騎士の横に位置取っており、大鎌を振るう力を込めていた。リン、という鈴の様な音が鳴ると同時に放たれる一閃。ハイデ騎士が防御の為に構えた槍ごと斬り、ハイデ騎士の上半身と下半身を斬り離す。そんな攻撃を受ければ幾らネームドでも一堪りもなく、体力バーが消失、独特の破砕音と共にポリゴン片となって消えた。
メッセージウィンドウを見ればネームドからのドロップがアイテムストレージに収納されていた。シュユはそれを交渉の画面に変更、黒騎士の片手剣をユウキに、ハイデ騎士の槍をシノンに譲渡しようとする。
「え!?そんな、受け取れないよ!ネームドはシュユが倒したんだし、シュユが持ってるべきだよ!」
「そうね。さっきのシュユの武器と比べれば見劣りするけど、この2つもかなり優秀よ。私達よりあなたが持ってるべきだわ」
「オレは最低でも第2層、下手したら第6層まではアニール・ブレードで乗り切る気だし、槍は使わない。その黒騎士の剣も軽量片手剣だから使いにくいからな。宝の持ち腐れよりも2人に役立てて欲しいだけだよ、オレは」
「それなら、まぁ....ん?第6層までその武器温存するの!?」
「それこそ宝の持ち腐れじゃない?武器なんだし、使ってあげないと」
「仕方無いだろ。こんなぶっ壊れ、こんな序盤じゃ使えないし。何より攻略の最前線に立たされるのは死にやすくなるしゴメンだ。オレだけならまだしも、2人まで影響が及ぶのは嫌だからな」
「まぁシュユの事はシュユが決めるから良いけど.....ねぇ、シュユ」
「ん?」
「死んじゃ駄目よ、絶対に」
「...了解。シノンに言われちゃ、死ねないな」
「ボクだってシュユに死んで欲しくなんてないけど!?」
「ハハ、悪い悪い。確かにそうだな。...オレが死なない事が、2人の為になるんだもんな」
「そうだよ?シュユが死んだら、ボク達も後を追うからね」
「私達は本気よ。だから、私達を死なせたくないならあなたが死なないで」
「解った。2人には生きて欲しいし、その中にオレも居たい。3人で笑いたいからね、頑張るよ」
彼は背中に大鎌を背負い、村へと帰っていく。第1層の攻略開始まで、あと数日....
【葬送の刃】の簡単な説明。
つよい。ぼくのかんがえたさいきょうのぶき。この武器が無いとシュユは凄く弱くなる。でも強い。