「…アレ、本当に人間なの?」
「会話を聴く限りはレクトの社員らしいわね。…確かに触手が有れば物理的に
「倒せるかな?」
「体力バーは出てるし、多分。3カウントで行くわよ。3、2、1…ゴー!」
世界樹の中で数多の触手を使い、愚痴りながらも端末を叩いている
「ヒッ…な、なんでここにプレイヤーが…?」
「早く吐いて。SAO生還者が居る場所、早く!」
「こ、この先だ!だから、だから助け――」
助けてくれ、そう言いたかったのだろう。が、それは無慈悲な剣により遮られ、言い切る事は出来なかった。体力を全損し、ポリゴンと化すが痛覚遮断は働いている。大した痛みは感じていないか、痛みすら無かったかも知れない。
飛行時間も残り少ない為、走って先程の社員が触手で指し示した場所へ向かう。巨大なガラス張りの扉を半ば蹴り破る様にして入室した2人は異様な光景を目にする事となる。
「これは…!」
「全員、SAO生還者なの…!?」
巨大なフラスコの様な容器の中に入った、恐らくSAO生還者であろう者達。中は得体の知れない液体に満たされており、それに全身浸かっている。助けたいと思うが操作する端末も無ければ衛兵エネミーの様な存在が居ても不思議ではなく、長居は出来ない。名残惜しく思いながらもその場を後にする。
「シュユが、居ない…?」
「まさかALOに居ないなんてオチじゃないわよね…!」
「…そう言えば、シュユはイレギュラーなんだよね?」
「確か、茅場晶彦はそう言ってたけど…」
「ねぇ、シノン。普通、イレギュラーを一般的な検体と一緒にはしないって思わない?」
言われてみれば、とシノンは合点する。良く見れば、更に奥に孤立した容器がある。何故気付かなかったのか不思議だが、その容器には雑に紙が貼り付けてあり、『要観察』と書かれていた。
だが何かしらの端末など無く、先程の場所まで戻るのは面倒だ。シノンはどうするか考えようとした瞬間、甲高い破砕音が鼓膜を貫いた。大体予想は出来ていたが、隣を見てみれば剣を片手に携え、ガラスを長方形に斬ったユウキがそこに居た。破砕音は斬られたガラスが2人の足元に落下し、割れた音だったようだ。
「あなたの腕は信頼してるけど、もう少し慎重にしなさいよ。もし中に何かしら影響があったらどうするの?今回は無害な液体が中身だったから良かったけど…」
「結果オーライだったんだから大丈夫大丈夫。っと、落ちてくるよ!」
中からズルリと落ちてきたのは彼女達が渇望し、希い続けてきた彼――
「…え!?」
「ユノウ…どうして…!?」
ではなく、裸の少女だ。肩甲骨まで伸びた白髪と、今は閉じられているが恐らくは
裸は流石に不味い。そう思ったユウキはユノウに自分が着ていた鴉羽のマントを纏わせ、近くのタブレット端末を模したのであろう端末を操作しようとする。が、生意気な事に指紋認証が仕込まれており、中身を見る事は叶わなかった。
「……ぉ、かあさま…?」
「ユノウ、無理しないで。どうしてかは解らないけど、あなたは生き返ったの。シュユの為にも、また喪う訳には――」
「――おかあさま…はやく、はやくおとうさまを…」
「シュユの場所、知ってるの!?」
「まずは…頂上、コンソールルームに…」
「分かった!シノン、行こう!!」
「行こうって、一体どうやって?場所も分かんないのよ?」
「こう、するんだよ!!」
徐々に意識が覚醒したきたユノウをシノンに抱えさせ、慈悲の刃を構える。そのまま天井へと突進し、紫色の破壊不能オブジェクトにのみ現れるウィンドウと拮抗する。
普通ならば弾かれ、床に倒れるだけで終わる。だが、今のユウキは違う。人の意志の力を信じた茅場晶彦、彼が運営したSAOは人の意志の強さ次第でゲーム内の現実を改変出来た。が、須郷の目的は観察ではなく支配。だからこそ、普通のアカウントならば
そんなバグに塗れたユウキの望み、たった一点に集約された渇望はウィンドウごと天井をブチ抜き、コンソールルームの直ぐ近くまでショートカットを無理矢理開通させる事に成功した。
「ホント、ご都合主義みたいなやり方ね」
「ハッ、ハッ…かなり辛いし、武器も壊れるんだから…これぐらい、許してよ…」
事実、ユウキは満身創痍寸前だった。手の中の慈悲の刃は粉々に砕け散り、顔色を蒼白くして息切れしていた。実際は金槌で頭を殴られている様な鈍痛が断続的に襲ってきており、吐き気もある。それでも前に進もうとしていた。
「キリト…良かったね」
「あぁ、やっと取り戻せたよ。…でも、シュユは?そこに居るのはユノウ…」
「ユノウちゃん!?え、どうして!?」
「お父様のお陰です、アスナさん。時間が有りませんから、簡単に説明しますね」
「うん…お願い」
「解りました。まず――」
その説明を聴いた4人は頭を抱えたくなった。ユノウが今生きているのはシュユのお陰と言ったが、やっていた事がどう考えても正気の沙汰ではなかったのだ。
まずSAOクリア時、彼は異様に高いVR適性の恩恵か、SAOの根幹を成す【カーディナル・システム】の中枢への道を見付けてしまった。それにより、帰れなくなるとは知りながらも彼はある事をする為に残ることを選択した。そのやる事とはつまり、データの海へと還っていたユノウをサルベージ、その後
シュユは実際にデータの海からユノウのデータを救い出し、ALOというゲームの運営をカーディナルが担っている事を知り、システムの管理者権限を利用して本来は彼の
取り敢えず、何かしら考えていそうで考えていないその考えにキレそうになる。ALOがもし無かったらどうするつもりだったのか、データの海に飲み込まれたらどうするつもりだったのか、そういった感情が吹き荒れる中、いつもそうだったという諦観の念も存在する。と言うより、もうそれが半分以上を占めていた。
「で、どうすれば良いの、ユノウ?あの人を助ける手段、有るんでしょう?」
だからこそユノウはここに居る。問い掛けられたユノウは一言応えた。
「有りません」
「…え?ユノウ、もう1度言ってくれるかしら?」
「有りません。お母様達には、直接的にお父様を助ける手段が有りません。と言うより出来ません」
「どういう、事…?」
「ユウキ母様は、さっき現実を
「そんな、じゃあ私達は何の為にここに――!!」
「落ち着いて、シノン…ユノウが、ボクらの娘が、無意味にこんな所まで…連れて来る様な娘な訳、無いじゃん…?何かやれる事、有るんでしょ、ユノウ?」
「はい、有ります!でも、それでもお父様がカーディナルの排除システムに勝てるかどうかは五分五分です。勿論、それでもやりますよね?」
愚問である。頷く事すらしない2人だが、娘たるユノウには簡単に解った。その後ろに居るキリトとアスナも1度目を合わせるとユノウの目を見る。やる気は充分、という事だろう。
ユノウはコンソールの前まで移動すると、4人の前に端末を用意する。六角形の端末の中心にはディスプレイが、角には手の形に凹んだ場所がある。恐らく、そこに手を嵌めるのだろう。
「…これから、コレを使ってお父様に私達の願いを届けます。現在私はカーディナルから遮断されているので、お父様がどんな状況かは解りません。でも、この願いの強さ如何でお父様の帰還の確率が高くなるかも知れませんし、変わらないかも知れません。…願って下さい、お父様の事を」
その言葉を聴くと共に全員が手を嵌め、目を閉じる。
良き友人を、恩人を、父親を、想い人を。それぞれの関係は違うが、たった1人の帰還を願ってひたすらに祈る。ディスプレイから光の柱が屹立し、ALOの空を切り裂く。その光が出てもなお、5人は目を閉じて祈っていた。