2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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 次回作の案が頭を駆け巡ってます。え?バンドリの方?
 ………書き溜めはしてますよ、書き溜めは。


99話 夢の狩人

 「グッ…いってぇ……」

 「勢いだけなら素晴らしいが…やはり途上の狩人、狩りを遂げた狩人には敵わないか」

 

 目の前で大鎌を構えて立つ老人、彼はSAO攻略初期にシュユに装備を与えた老人だ。葬送の刃に老狩人シリーズ、それらは全て本来彼の装備であり、それ故にシュユは手も足も出ていなかった。

 自分も葬送の刃で対抗しようとしたが年季の差だろう、容易く流され、或いは弾かれて今は弾き飛ばされたせいで手元には無い。千景での攻撃も連撃の隙を片手に持っている銃で的確に狩られ、どうにか避けても片手剣に変形させた葬送の刃で斬られる。頼みの落葉で攻撃を仕掛けようとしたが、散弾銃で右手を撃ち抜かれたせいでロクに剣を握る事が出来ず、更に襲い来る痛みのせいで今は立つことすら出来ていない。

 

 「だが安心してくれ、君は強い。私が戦ってきた狩人の中でも最高峰のポテンシャルだった。ただ、ソレに目覚めるのが遅かっただけの事だ」

 「っ、ざけんなよ…オレはまだ負けてない。まだ…っ、まだやれる…!」

 「解っているだろう?君は…いや、狩人(私達)は決して物語の主役ではない。ただ血に依りて血に酔わず、目の前の獣を狩るだけの者。都合良く力に覚醒などと、そんな馬鹿げた夢想は起こる訳が無い。現に、今まで1度たりともそんな事は無かっただろう?」

 

 その通りだ。シュユは1度もその様な、所謂【主人公】の様に唐突に力に目覚める様な事は無かった。ただ単に多大なる負担を受容し、それで実力差を誤魔化して戦っていただけだ。だからこそ何も喪わずに得るなんて事は無く、いつだってシュユは何かを喪って何かを得る、酷い時は喪うだけで何も得ない事すら有った。

 そう、彼は英雄ではない。シュユの歩む道は誰からも喝采を浴びる事は無く、浴びてはならないものだ。もし彼の事を大して知らない者がシュユを英雄と持て囃すのなら、きっとシュユはこう問い掛けるだろう。

 『じゃあオレはどうして手錠を掛けられた?』と。

 

 「アンタは…アンタらは何なんだ!?このシステムに造られた紛い物なのか、それとも本当に狩人なのか!!どっちなのか、オレには解らない!」

 「強いて答えるのなら、私達は何故ここに居たのか解らないのだよ。私は新たな助言者を求め、その結果夢から醒めた(死亡した)筈だと言うのに、気が付けばあの森に在って君に私の装備を渡した。まるで何かの意志に衝き動かされる様にね」

 「ならアンタのその殺意は造られたものじゃなく――」

 「私自身が抱いているものだね。…しかし、殺意か。可笑しい話だ、私達狩人は狂っていない者など居ない。特に殺意…狩りの興奮には少なからず酔うものだ。愛情と殺意が同一になる者も珍しくはない。君はその典型だ」

 「何…!?」

 「解るさ。君はその抑えられぬ殺意に身を灼かれながら、それでも大切な者を愛そうとしているのだろう?大したものだ。そこまで溜まり、澱んだ殺意に耐えられる者などそうそう居ない。それが狩人なら尚更だ。…いや、そうでなければ狩人狩りの血を受け継いだ彼女に殺されているのか。やつしの狩人に狩人狩りの2人が肩入れするとは、流石は君の大切な存在だ」

 「何を言ってる…?」

 「知らなかったのか?彼女達が使っていた武器は本来狩人の物だ。慈悲の刃ならまだしも、まさか弓剣を使い熟せる人材だとはね。まぁそれはさておき…終わりにしようか」

 

 大鎌の刃が首筋に当てられる。葬送の刃の切れ味は嫌になるほど解っている。だから、このまま大鎌を引かれれば容易く首は落ち、痛みを感じる事なく死ぬだろう。何度もシュユがやってきた事だ、それを本来の持ち主である老狩人がやり方を知らないなんて事は無い。油断した隙を突ければやりようは有るのだが、流石は数多の狩人に助言をしてきた人物だ。油断もしなければ慢心など有る訳が無い。漬け込む隙すら与えない、それが狩人なのだと悟らされる。

 死が近付いてくる。あと数秒後には死ぬのだろう。誰にも看取られる事無く、この電子空間の中で無様に死ぬ。これも人殺しにお似合いの死に様なのだろうと、シュユはそう思う。

 

 「さぁ、眠れ。もう2度と――」

 

 せめて抵抗していた事を伝える為、老狩人を睨み付ける。殺されても尚喰い付かんと、視線に力を込める。

 

 「悪夢に――」

 

 …でも、抵抗していた事をアイツらは知る事が出来るのか?何も知らないなら、オレが諦めたとしか思えないんじゃないのか?

 

 「悪夢に――」

 

 そうなれば2人はどうなる?下手すれば後追い自殺なんて事も有り得る。それは駄目だ、それだけは駄目だ!アイツらには沢山迷惑を掛けた。沢山救われた。だからこそ、あの2人は幸せにならなきゃ、なって貰わなきゃ困るんだ!!

 

 「――悩まされぬ様に」

 

 その為には死ねない!オレはまだ死ねないんだ!!

 だが、その想いを踏み躙る様に、老狩人が握る大鎌は引き上げられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――死なせて堪るか!!俺の仲間を、もう2度と!

 

 「…どうやって逃げた?」

 

 頭の中でキリトの声が響いた。文字通り胸に光が宿り、直ぐに消えてしまったがその光がシュユの命を繋いだのだ。

 それはキリト(和人)の意志の具現。もう2度と仲間を失わないという覚悟と願いが籠もった涙だ。仲間との別れを惜しみ、それ故に仲間を無理矢理踏み留まらせる為の力。どこか遠い世界では、その(魔法)は【惜別の涙】とも呼ばれていた。

 

 ――いつも無理するんだから。皆カバーしないし、私がするしか無いよね。

 

 手の中に小さな瓶が光と共に現れる。キャップを弾いて中身を一気に呷ると、どこか懐かしい味と共に体中に刻まれていた傷がみるみる内に治っていく。

 それはアスナ(明日奈)の意志の具現。無鉄砲に突っ込み、ボロボロになっていく想い人とその親友を心配し、それ故にその無茶を抑えずにむしろ祝福する事を選んだ彼女の手段だ。その飲み薬は【女神の祝福】と呼ばれている。

 

 「君は狩人か?…いや、問いを変えよう。何だ、君は?」

 「…オレはオレだ。狩人でも人殺しでもないし、シュユでもない。オレは秋崎悠、ただの人間だッ!!」

 

 体の傷が治ると共に老狩人へと襲い掛かる。老狩人の顔には獰猛な笑みが刻まれ、狩りの興奮に震えている事が簡単に解る。

 

 「ならば来い。…ゲールマンの狩りを知るがいい」

 

 今の悠は素手だ。幾ら回復したとは言え素手で老狩人――ゲールマンと戦うには些か分が悪い。だがシュユは確信している。いつも何かが必要な時、必ず与えてくれた人がいる事を。そしてそれは、今でも何も変わらないという事を。

 

 ――解ってるよ。こんな時、悠に必要なのは新しい武器じゃない。使い慣れた武器、そうでしょ?

 

 「……あぁ、その通りだ」

 

 悠の手の中に生まれた光、その中から現れたのはまるで黒曜石から削り出したかの様な片手剣だ。その剣には特別なギミックなど無く、手に馴染む重さであり、故に1番腕前が必要になる事を。

 これはユウキ(木綿季)の意志の具現。彼にただ必要な物を献身的に与え続け、故に彼が最も必要とする物が解るようになった彼女が彼にとって必要だと直感した物だ。その剣の銘は【マクアフィテル】、この世界とは別の世界の()()が使っていた愛剣だ。

 

 「面白い!それでこそ狩りの興奮に震え、奮われると言うものだろう!!」

 

 大鎌の一閃を潜り抜け、胴体を剣で突くがそれは幅広の片手剣で受け止められる。葬送の刃の片手剣モードだろう。よくやっていた手口なので簡単に解る。

 ならば、と左拳を突き出して腹部を殴り付ける。利き手ではないがそれなりの威力は出るその一撃は見事にゲールマンの腹部を捉えるが、どうも手応えは無い。どうやら衝撃を逃されたらしい。そのまま追撃を加えようと動くが、脳裏を警告が過ぎり、その警告の通り横に跳ぶ。その直後、ゲールマンが左手に握る散弾銃(ショットガン)から弾丸の壁が放たれた。

 

 「ほう、今のを躱すか…」

 「…優秀な参謀が居るもんでね!」

 

 ――全く、あなたは熱くなると周りが見えなくなるんだから。でも大丈夫、私があなたの『眼』になってあげる。

 

 それはシノン(詩乃)の意志の具現。反射神経では才能の壁を超えられず、2人に追い付けないと理解した彼女が伸ばした自分の武器。思考と先読みで敵を封殺する彼女の【才能】、それこそがシノンの最強の武器だ。

 袈裟掛けの一撃を躱す。この空間ではソードスキルを使えない。それ故に求められるのは個人の力だ。だが今なら、【主人公】になれるかも知れない今なら、彼を想う者の意志の力で強くなる。不確定要素が強い今だが、それでも構わないと悠は笑う。たまにはこんなのも悪くはない、と。

 放たれる銃弾、それはブラフだ。本命は投げナイフ。このまま横に跳んで避ければ遅れて投げられるナイフに当たる、或いは弾く隙に斬撃を挿し込まれるだろう。だから悠は横には避けない。後ろに跳び、多少の被弾は目を瞑る。回復した身体に銃創が刻まれる感覚を感じつつ、投げられたナイフを掴んで投げ返し、同時に自分も前に踏み込む。ゲールマンの銃は散弾銃であり、短銃に比べて取り回しが悪い。それ故に敵に張り付き、撃たせない様にする。撃たれれば悠に不利が押し付けられるだけだからだ。

 大鎌と散弾銃、そして大きめの片手剣を使うゲールマンに超至近距離での戦闘は辛いのだろう。距離を取ろうとするが、それを好機と更に悠は踏み込む。

 

 「【マザーズ…ロザリオ】!!!」

 

 思い出す様に、一瞬のタメを置いて放たれる超速の11連撃。軽量片手剣のマクアフィテルだからこそ使えた贋物だが、それでもユウキの神速には及ばない。それでもゲールマンの胴体に突きをブチ込み、更に最後の一撃の前にゲールマンの眼前に火炎瓶を放り投げ、火炎瓶ごと貫いて攻撃する。爆炎が迸り、ゲールマンの視界が一瞬眩む。

 

 「…どこに消えた…!?」

 

 先程までひしひしと感じられた殺気さえ消え去り、悠を探知する手段は消えた。アイテムは引き続き使える為、アイテムを用いて潜伏したのだろうとゲールマンは思い至る。そしてどこから襲われようとも反応出来る様に落ち着き、不動の姿勢を取る。()()()()()()()()()()()()。ゲールマンが次に感じたのは、肩を貫く熱感と凄絶な痛みだった。

 

 「グッ、ガァアァァァァ!?」

 「やっぱりな、狩人(アンタ)は上への警戒が疎かだ!!頭上注意って言葉、学べたみたいだな!!」

 

 狩人の対人戦は基本的に平地で行われ、そして直ぐに終わる。それ故にゲールマンは不慣れだったのだ。戦闘中に相手が逃げる事ならまだしも、その相手が直上に跳び上がり落下攻撃を仕掛けてくるなど、少なくともそんな事をしてくる相手は居なかった。

 

 「これで、終われっ!!!」

 

 何の模倣ですらない、我武者羅な連撃。数多く、それでも重みのある一撃はゲールマンの身体を斬り裂き、それ故に抜け出させなかった。実はゲールマンには、ここから抜け出す手段は有るには有る。容易く抜け出し、悠が今まで使っていた狩人の高揚(ハンターズ・ハイ)のオリジナルを使って、そのまま鏖殺する事も出来るかも知れない。だが、彼はそれを敢えてしなかった。

 

 ――ここまで生に執着する者が、狩人とは笑わせる。

 

 狩人に生など無い。生が有るのなら獣を狩り、獣が狩れないのなら死ぬだけだ。それ故に生に執着する悠がとても滑稽で、だからこそ美しかった。息切れしながらもバックステップし、剣を投げた悠を見て思う。これが、人の在るべき姿なのかも知れないと。

 投げられた刃は狙いを過たずにゲールマンの胸へと突き刺さり、その命を絶つ。冷たい刃の感覚が心地良く、ゲールマンは笑った。

 

 「……少年の旅路に、血の加護があらん事を」

 

 その言葉を遺して消えたゲールマンを看取り、悠は膝から崩れ落ちて剣を取り落とす。アドレナリンが切れかけているのか、じくじくと痛み出す傷に生きていると実感する。言葉を発する事もギリギリの彼は、たった一言だけ零した。

 

 「――今から、帰るよ」




 本作ですが、アリシゼーション編は書きません。GGO、OS編で完結となります。理由としてはアリシゼーション編を書き切る自信がない事ですね。そもそも1度しか読んでないので読み込みが足りませんしね。
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