2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

106 / 117
104話 仮・想

 「こんな所か…」

 「いやおかしいですからね!?」

 「…何が?」

 「普通の人は()()()()()()()2()0()()()()()()()()()()()()!!」

 「…そうなのか」

 「リーファさん、シュユさんに常識を求めちゃダメです。キリトさんとは違うベクトルでブッ飛んでますから」

 「みたいだね…ユウキさんもシノンさんも、良く心臓が保つよ…」

 「あの2人も無理はしないにしても中々ブッ飛んでますよ」

 

 シュユはリーファ、シリカと共にサラマンダーの一団を全員倒していた。3人とは言えリーファとシリカは補助魔法をシュユに掛けるだけで、シュユが1人で倒したのに近いのだが。流石に魔法を跳ね返すのは()()()()()()()()()左手に小型の盾が付いた篭手を装備し、その試運転がてらこの惨状を作り出していた。

 数少ないキリトの友達のSAO生還者は自分達の種族カラ離反、傭兵団の様なものを組織して楽しんでいた。その中でも敵に回すと不味いと呼ばれる【黒ずくめ(ブラッキー)】と【灰刃】はキリトとシュユの事であり、魔法主体になりやすいこのALOで魔法を斬り、魔法を跳ね返すという馬鹿げたプレイヤーとして有名になってしまった。

 キリトは現在GGOに行っているとは言えシュユは普通にALOにログインしており、片割れだけなら勝てるのではと思って攻めてくる者が居たのだ。それも返り討ちにされた訳だが。

 

 「刀も篭手も強いし…そもそもどうやったら魔法跳ね返せるんですか?」

 「純粋な技で跳ね返すのは流石に無理だ。流すならまだしも、な。全部この盾のお陰だよ。タイミングさえ合えば全方位から魔法撃たれてもも躱しながら跳ね返せる」

 「ユニークウェポンだったんですよね?それをリズさんが作り直したって聞いたんですけど」

 「そうだな。物理防御力を全部魔法防御力と反射に回して、サイズを小型化というか改造して貰った。刀はそのまんまだけど、これはこのままの方が使いやすいから別に良いしな」

 「全部躱せば良い理論、お兄ちゃんも言ってたけど無理でしょ…」

 「考えるだけムダです、リーファさん。リーファさんは自分の戦い方をしてた方が良いですよ、絶対!」

 「随分な言い種だなシリカ…」

 

 シュユは2本の刀を使い分けている。今使っているのはプレイヤー、モンスター問わず倒せば倒すほど威力と切れ味が上がっていく所謂【妖刀】であり、もう1本は何の効果も無い、単純なまでに頑丈さと切れ味と軽さに重点を置いたリズベットの最高傑作だ。銘は【無銘】で、今使っている妖刀は【村正】となっている。因みに村正はユニークウェポンである事も有り未だに折れてはいないが無銘は数回折っており、その度にリズベットに説教される事は不本意ながら半ば恒例になっていたりする。

 傭兵団的な立ち位置ではあるが、飽くまで好き勝手やっているだけで金額で動く訳ではない。むしろ無償の奉仕の方が多いくらい(何だかんだ全員お人好しだから)だ。高圧的な態度の者が多いサラマンダーが1番このグループの標的になる事が多く、シュユはトッププレイヤーでもある【ユージーン】と何度も対峙している。その度にシュユは撹乱と逃走を繰り返している。本気で戦えば負ける訳が無いが、そのアドバンテージは()()と思っているからだ。

 

 「さて、帰る――」

 「見つけたぞッ!!」

 「げ、ユージーン…」

 「いい加減に逃げるのを止めたらどうだ!!貴様は弱者ではない。では何故本気を出さん!?俺は貴様と戦いたいというのに!!」

 「そんな理屈聴いてられるか!」

 

 煙玉を投げようとするがそれすら上回る速度でのショルダータックルが肉薄してくる。後ろに飛びながら迫るユージーンの肩を蹴り、空中で1回転して着地する。が、その隙を突き振り下ろされる剛剣を紙一重で回避すると、ユージーンと目が合う。今までとは違い、絶対に逃さないという決意をひしひしと感じる眼差しをしていた。

 

 「…本気か?」

 「無論、本気だ。あの黒ずくめ(ブラッキー)とはもう既に本気の刃を交えた。後は貴様だ、灰刃」

 「その名前、あんまり好きじゃないんだがな……分かった、本気で相手しよう」

 

 ガチャリと音を立て、右手の篭手が手を覆う。この篭手は左手の篭手とは違い魔法に対する耐性は一切持たない代わりに物理耐性に全てを割り振ったものだ。元々1つのユニークウェポンだった【アイギス】と呼ばれる盾の性能を二分したものの片割れがこれである。

 そしてシステムウィンドウを開き、設定から『限定解除』と書かれた項目をタップする。すると鎖が断ち切られた様な音が鳴り、シュユが見ていた世界の全ての色彩が彩度を1段階増した。

 SAO攻略後に明らかになったVR適正という数値がある。それが高ければ高い程仮想世界で肉体を動かす脳、【仮想脳】の発達が著しく、仮想世界での動きが人間離れしていく。そのVR適正がシュユは全プレイヤーの中でぶっちぎりで高く、故にのめり込み過ぎてしまう欠点があった。仮想脳が仮想世界を現実と勘違いし、ナーヴギアの時は現実世界の身体に仮想世界の肉体の刺激をフィードバックしてしまう。それ故にシュユの使うアミュスフィアには制限が掛けられており、それを外せばSAO時代とほぼ同じ動きが出来るという訳だ(それでもキリトと渡り合える時点でどれだけ強いか解るのたが)。

 

 「フンッ!!!」

 「ッツ!!」

 

 剛剣が横に振り抜かれ、それにぶつかったシュユは凄まじい勢いで吹き飛んでいく。何本もの木をへし折って飛んでいく様子を見て、リーファはつい声を上げた。

 

 「シュユさん!?」

 「大丈夫ですよ、あの人は。そうじゃなきゃ――」

 

 そこでシリカは言葉を切る。直後、ユージーンの背後に影が差した。

 

 ――SAO最強格なんて、言われる訳が無いんですから。

 

 「ぬぅっ!?」

 

 素早く振り向いたユージーンの鼻っ柱に拳がめり込む。ユージーンと比べるとシュユは小柄だ。だから吹っ飛ぶまではいかず仰け反るが、好都合とばかりに鳩尾に膝が叩き込まれる。ユージーンの武器は特大剣、つまり取り回しが決して良い訳ではない。密着を嫌った彼はバックステップで距離を取るがそれを許す程シュユは甘くない。刀を構えたシュユは居合の様に腰溜めに刀を構える。だがシュユの腰に鞘はない。居合は刀と鞘、その2つが揃って通常の振りよりも早い加速を生み出す技だ。そのままではただの横振りに過ぎない。そう、そのままでは、だ。

 

 「風よ、奔れ!!」

 

 単純な魔力の行使、魔法にすら満たないソレは風の奔流を生み出す。シュユはそれを半ば暴走させ、しかし流れの制御だけは続けて刀を射出する様な風の流れを作る。そのまま振り抜く一閃は正に神速、銃弾のような疾さで振り抜かれた。

 だが、それで終わるのならサラマンダーの英雄は務まらない。その一閃を篭手を装備した右手で受ける。ユニーク級ではないとは言えかなりの頑丈さを誇る篭手と、漢らしい剛腕を容易く両断する。が、致命傷ではない。失った腕を生やす様な劇的な回復は出来ないが、体力の回復くらいなら出来る。むしろ、その隙をシュユは見逃していた。その行動が【英雄】のプライドを刺激する。回復などという最大の隙を見逃されている、その事実が嘗めているとしか思えなかったのだ。

 

 「貴様、オレを嘗めているのか?」

 

 その言葉にシュユは首を横に振る。その表情は顔の半分ほどを覆う襟と目深に被っている帽子のせいで判らない。

 

 「お前は戦士、そうだろう?オレは狩人、その狩りにオレの矜持は在ろうとお前に持たせるプライドは無い。…だが、お前はオレに戦士として挑んできた。だから対等に。部位欠損の継続ダメージでの幕引きなんざ認めない。徹底的に叩きのめす。それだけだ」

 「…ならば、オレは貴様を返り討ちにするだけだ!!」

 

 ユージーンが誇る最強の魔剣【グラム】が輝きを放つ。ALOの中でも性能は然ることながら、ぶっちぎりの()()()()()()を持つ剣を全力で握り締め、大上段に構える。使うソードスキルはアバランシュ、突進系のソードスキルにしてユージーンが最も頼りにしているものだ。

 対するシュユも無銘を握り締め、自然体で構える。空いた左手にはアイテムを握り、どう攻めてきても良いようにする。

 

 「オオオオォォォォ!!!」

 

 猛然と駆け出してくるユージーン。シュユは左手に持っていたアイテムを地面に叩き付ける。すると、黒色の煙が立ち上りユージーンはシュユの姿を見失ってしまう。だが、こんな時のテンプレは決まっているものだ。上を見たユージーンは刀を構えるシュユをしっかりと捉えていた。

 左手を前に翳し、右手の刀を肩の上に大きく引く構え。その発動モーションの()()()()()()()()()()を脳内から検索しようとするが全く判らない。直後、シュユの技名発声が凛と響いた。

 

 「【ヴォーパル・ストライク】ッ!!」

 「なんっ、だと…!?」

 

 ジェットエンジンにも似た効果音と共に放たれる超速の突き。それをユージーンはグラムをしっかりと構える事で受け止めようとするが、ソレをすり抜けた。グラムの効果が発動するのは刃が触れた時だけであり、剣の腹で受け止めようとした今その効果が発動する訳が無い。

 

 ――届かなかったか。

 

 その想いと共に砕け散るユージーン。最期に見えたのは滞空しながら不安定な姿勢で息を整えているシュユの姿だった。上には上が居る。そう思いつつ、暗闇に身を任せるのだった。

 

 「ギリギリだった…どうにか、だな」

 「()()、また隠し玉ですか?」

 「ん、まぁそうだな。とは言っても、ただ片刃で刀に似てる片手剣ってだけなんだけどな」

 「それでもシュユさんの疾さと戦ってる途中に突然カタナのソードスキルじゃなくて片手剣のソードスキル使われたら焦りますよ。…あ、あの急加速ってどうやったんですか?」

 

 シュユはヴォーパル・ストライクを放った瞬間に半身だけ急加速したのだ。知る者が見ればゼロモーション・シフトに見えたかも知れない程の急加速だが、これはただのテクニックである。

 

 「ALOの飛行は肩甲骨の動きで制御する、それは分かるな?」

 「加速するこう…ですよね」

 

 リーファは両腕を後ろに引き、肩甲骨を急接近させる。

 

 「で、減速する時は腕を前に出して肩甲骨を開く訳だ。どれだけ熟練したヤツでも剣を使えば一瞬の停止は免れない」

 「槍使いに限れば話は別ですけどね。腰溜めで攻撃できますし」

 「ま、その通りだな。それで、あの加速は簡単な話、加速なんてしてないんだよ。当然、ヴォーパル・ストライクは突き技だから腕を前に出す以上、減速するからな」

 「加速してないけど速くなる?………分かんないです!」

 「そう怒るな、自分で考えるのも大事なんだからな。で、アレは簡単に言うと突く瞬間に左手を思いっ切り引いて左の翅で短距離スラストを掛けたんだ。右半身は急減速、左半身は加速する事で左にズレながら加速する訳だ」

 「…加速する訳だ、って、加速してるじゃないですか」

 「そんな冷ややかな目で見ないでくれよ、シリカ。因みに嘘じゃないぞ。だって急減速と急加速を同時にしてる訳だからプラマイゼロだろ?ただ左にズレるから半身だけ加速してる様に見えるだけだ。…まぁ、アレはユージーンが動揺してる隙にやったから通じただけで、多分初見殺し程度にしかならないかな。特にユウキとかキリトみたいな反射神経の塊みたいなタイプには簡単に見切られそうだから、そんなに使えない技術だよ」

 「それを土壇場でやる度胸が凄いんですよあなたは…」

 「お褒め頂き恐悦至極ってな。疲れたし、転移結晶使って帰るか。そら、奢りだ」

 「え、転移結晶って確か凄く高価だったような…?」

 「大丈夫ですよ、リーファさん。この人のストレージには色んなアイテムが大量に有りますし、くれたって事は在庫が有るって事でしょうしね」

 「オレはどっかの英雄と違って、剣だけで勝負なんて出来ないからな。狡い狩人は狡猾に、道具と罠と戦略で差を埋めるもんさ」

 「…充分強いと思うけどなぁ、シュユさん」

 

 その言葉と共に自分達の溜まり場となりつつあるキリトのホームへと転移する。その際、2人の耳に「赤字だろうなぁ」という言葉が聴こえたのは無かった事にしておこう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。