106話 オーグマー
VRとは『バーチャル・リアリティ』、つまり仮想現実の事を指す。今ではアミュスフィアを通して視覚に映像を投影、更に機器が脳が出す命令を汲み取り仮想の肉体に反映、それによりアバターを動かす。そのアバターに下される命令の速さなどが仮想脳の働きによるもので、それ故に才能の差が有るのは確かだ。故に先天的にVRゲームに強い者も居れば仮想世界に於いて重大な欠陥を負ってしまう者も居る。
そのVRと対を成すものがAR、つまり『オーグメンテッド・リアリティ』と呼ばれるものだ。VRが機器を用いて世界そのものを形成するのに対し、ARは視覚を通して映像を現実に投影する。現在は網膜に映像を投影し、それを内蔵されたモーションセンサーにより仮想視覚ディスプレイの操作を行う。そのプロセス故にARは視覚にさえ障害が無ければ才能の差異なく利用可能で、その点ゲームとしては平等と言える。
ただARを利用できない視覚障害者に関してはVRゲームの方が視覚を再現できるのでそこは使いようだが。
その話は置いておこう。まず今はVRよりもARが流行っている。そもそもSAO事件なんて事が有ったのだ。万が一の危険よりも安全なARを選ぶのは自然だった。
そんな流行の中でも未だにAR機器――【オーグマー】を使わない者が2人居た。
「悠、またオーグマー使ってないの?」
「ん、あぁ…あんま好きじゃなくてな。別にスマホで事足りるし」
「お父さんに買ってもらったんだし、使わないと勿体無いわよ?」
「解ってはいるんだが…」
『そのせいでお父様の視界に私が入れないんですよ?オーグマーを着けて下されば会話も出来るのに…』
「悠君、和人君と一緒なんだね。和人君、全然オーグマー使わないよね。折角買ったのに…」
「…俺もそんなに好きじゃなくて。それに君達、ゲームし過ぎじゃないか?取り敢えず里香のその動き、何かしらしてるだろ」
「バレたー?クーポンが有ってさ!オーグマー使ってる人だけ安くなるんだー♪」
「…里香、それでも人の目の前は止めた方が良いと思うぞ。オレは別に気にしないけど、癖になると困るのは里香だぞ」
「別にいーじゃん!お得にはなるんだし、ね、珪子!」
「えぇ、はい。私のお財布事情も有りますし…」
「まぁ…別に良いんだけどな」
今ここに居る7人の内、和人と悠の2人だけがオーグマーを着けていない。実際問題オーグマーでやれる事の殆どはスマホでやれる事なのだ。電子マネーの支払い然り、マップでの案内然り、悠達ならばユイとユノウの可視化と会話然り。やれない事は現在人気のARゲーム【オーディナル・スケール】とARアイドル【ユナ】のライブの観覧程度のものだ。アイドルには欠片も興味が無い悠には関係の無い話だが。
それでも人気なのは視界に映像を投影する関係上、歩きスマホの様に視界が制限されず事故が起き難いという事も一因だろう。一々端末を出さずとも操作できる利便性の良さから、今時の社会人や高校生ではオーグマーを持たない者の方が稀な程に普及している。
「ね、アンタ達はオーディナル・スケールやらないの?面白いわよ?皆やってるし」
「俺は…まぁ、ゲーム自体は有るけどALOの方が好きだし、そんなにやらないかな」
「へぇ〜、悠は?」
「前にやったけど、
「PvPなら悠はボク達より強いんだけどね」
「仕方無いだろ、オレが戦うのは大体人型かプレイヤーなんだから」
「ちょっとは練習しなさいよ。そんなのだから他のプレイヤーに
「え、それは初耳なんだが」
「まぁ前もそうだけど今も狩人とか言われてるよね。前のイベントで性別反転した時は
「嘘だろ…嘘だと言ってくれ明日奈…」
「そもそもアンタの戦い方が変態なのが悪いのよ。あたし、アンタにマトモな武器造った記憶無いし」
「今じゃ里香さんも変態じゃないですか。レプラコーンの人が言ってましたけど、あんな武器使えるの悠さん位ですからね?」
「確かにそうだよね。だから里香、今度からはボクに使い捨てパイルバンカー渡すの止めてね。渡すなら和人にして」
「俺だって使わないぞ。てか、武器を躊躇なく使い捨てられるヤツなんて悠しか居ないって」
『前にエクスキャリバーを投げた人は誰でしたっけ、パパ?』
「うっ」
「お前も人の事言えないじゃないか。人の事を言う前に自分の事を――」
『つい先日、渡された無銘3本をたった一戦で全部使い捨てた人が居るらしいですよ、お父様』
「は?アンタまた折ったの!?今月に入って何本目か分かってんの!?」
「持ってる10本を1回ずつ折ってるな、うん」
「アンタねぇ………まぁ良いわ、好きに武器を造れるのもアンタのお陰だしね」
「え、それどういう事?」
「あら、木綿季は知らないの?珪子は知ってたと思うけど」
「知ってますよ、一応」
「私は知らないわね」
「俺もだ。明日奈は?」
「私もだよ。悠君、説明してくれる?」
「別に大した事じゃない。レプラコーン領の近くに無限に鉱石が採れる場所有るだろ?」
「あのツルハシさえ持ってけば幾らでも採れる場所?」
「そうそう。あそこの土地を買い占めたんだよ、オレ」
「「「「は?」」」」
「いや、だから、オレがあの無限資源のある土地を買い占めたんだって」
この事を悠は平然と言っているが、実際はかなりブッ飛んだ事を言っている。幾らレプラコーンが鍛冶などの加工が得意な種族とは言え、鉱石を無から産み出す事は出来ない。つまり、採取が必須の種族なのだ。良質な武器を造るには相応の素材が必要なのは当然であり、その良い素材は結局顧客に頼んで持ってきて貰うのだが、鉱石は見つけるのにも良質な鉱石を採るのにも種族による適性が有る。その適性最高値がレプラコーンであり、それ故にレプラコーン領には運営が用意した無限に良質な鉱石が採れる採掘場が有る。
そしてALOに於ける土地の購入だが、その土地の特色により値段が変わる。例えば痩せた土地なら安くなるし肥沃な土地なら高くなる。つまり利用価値が元から高い土地の値段はビックリする程高いのだ。それを悠は無限資源という利用価値の塊の有る土地を買い占めたと言うのだ。どれだけの金額が動いたか予想も出来ないが、それ以前に悠の蓄えがどれだけ有ったのか、まずそこだろう。
「銀行にそれだけ預けてたって事…?」
「蓄えとレアドロップを全部売り捌いて捻出した。あぁ、安心してくれ。他のレプラコーンから採掘料を徴収するから直ぐに儲けが出る」
「そういう事を言ってる訳じゃないんだけれど…」
「まぁ今に始まった事じゃないし…」
「取り敢えず今日インしなさいよ。仕方無いから作ったげる。皆は?」
「俺はパスかな。課題も残ってるし」
「ボク達は
「はい!」
珪子と木綿季はユナの大ファンだ。今回のイベントはOSとユナのコラボとの事で、それに詩乃も付き合つ事になっていた。これから4人はショッピングモールで時間を潰し、それからクラインこと壺井遼太郎の運転する車に乗り会場へと行くらしい。
目的地も違う事なので、悠は2人の帰宅時間の目安を聞くと帰路についた。いつもなら一緒にALOにログインするので、少し寂しさを感じながら。