2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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9話 攻略開始

 「はーい、それじゃあ始めさせて貰いまーす!皆、俺の呼び掛けに応えてくれてありがとう!俺はディアベル、職業は気持ち的に、ナイトやってます!」

 

 水色の髪の男が広場の中央で話している。職業(ジョブ)という概念が無いSAOでは勿論ナイトという職業はタンクに分類されるのだろうが、見るからに優等生タイプのディアベルは確かにナイト気質だろう、とシュユは思う。

 シノンとユウキは髪型と髪の色を変え、ユウキはあの特徴的なアホ毛の髪型に紫に近い黒、シノンはあの碧に近い青色にしたらしい。シュユは特に拘りは無いのでそのままだ。ただ髪が跳ねるのは邪魔なのでバンダナで髪を押さえている。帽子を装備しないのはただ単にシュユは帽子が嫌いだからだ。それ以外はあの老狩人一式の装備である。

 

 「皆も知っての通り、俺達はこのデスゲームに閉じ込められた。でも、ここで引き籠ってちゃクリアできるゲームもクリアは出来ない!ここに集まってくれた全員はクリアしようとする意思がある人だ。その勇気に称賛を贈りたい」

 「え、ボク?」

 「違うから。ブレイブよブレイブ、あなたの名前じゃないわ」

 

 あんな爽やかに振る舞うディアベルだが、シュユは知っていた。シュユが今装備している【アニール・ブレード+3】を欲して交渉をしに来る男の雇い主が彼だと。これはβテストの時に知り合った信頼できる情報屋から対価を支払って聴いた事なので確実だ。自分で裏を取った情報しか売らない彼女の情報はこのSAO内でもかなりの精度を持つ。とは言え、女性との密会など2人に見付かればどうなるか分からないからある意味危険なのだが。

 それはそれとして、あんな悪は許せないと声高に叫びそうな好青年の実態は清濁合わせ飲む事が出来る男だという事だ。さしずめ、今のディアベルは『表側』なのだろう。

 SAOの武器強化は姿や名前が変わる派生型ではなく、武器名の末尾に+X(Xは強化回数)が付くタイプの強化システムである。NPC鍛冶屋かプレイヤーの鍛冶スキルを持つ者の所へ持っていき、素材を提供すると確率で強化成功武器の名前に+と強化回数が追記され、Sharpness(鋭さ)Weight(重さ)Ruggedness(頑丈さ)などの複数のパラメーターに与えられる強化ポイントを振り分ける、という人それぞれの考え方が顕著に現れるシステムになっている。ただ、強化は回数を重ねる度に成功確率が低くなっていき、強化が失敗すると武器と素材はロストする。現に、ユウキは1本剣をロストしていた。ロストしたのは初期装備の【スモール・ソード】だったので大したダメージではなかったのだが。

 アニール・ブレードの強化最大回数は8回、つまりシュユのソレはかなり強化された剣であり、ユニークウェポンでなければ第1層の最強クラスと言っても良い。それを先頭に立ってフロアボス攻略を謳う彼が欲しがるのは当然と言えば当然だった。指導者は強ければ強い程に説得力を増していくのだから。ましてや、プレイヤーの腕前が実力に影響するSAOならば尚更だ。

 そんな事を考えている間にもディアベルは話を続けていた。が、そんな中に乱入する男が居た。

 

 「ちょお待ってんかぁ!」

 「...あなたの名前は?」

 「ワイはキバオウってもんや」

 

 奇抜な髪型に特徴的な関西弁。何とも濃い男の乱入に、場は凍り付いた。が、シノンとユウキはそんな事を気にせず、近くに座っていた2人組に話し掛けていた。

 

 「ねぇねぇ、2人ともパーティなの?」

 「あ、あぁ。今組んだ、即興のパーティだけど」

 「じゃあ、私達と組まない?2人よりも5人の方が生存率も上がるだろうし」

 「....5人?あと1人はどこに?」

 「あそこに座ってるバンダナの目付き悪い人!実は優しいから、安心して大丈夫!」

 「俺は構わないけど....君は?」

 「私も構わない。よろしく」

 「やったぁ!えっと...キリトに、アスナ?か。よろしくね!」

 「私はシノン。よろしくね、キリト、アスナ」

 「あなた...キリトって言うのね。ねぇ2人とも、どこで名前分かるの?」

 「視界のこの辺に、パーティメンバーの名前と残りHPがあるわ」

 「...本当だ、ありがとう」

 

 シュユとは違い、コミュ力が高い2人は新たなパーティメンバーを加えていた。ただ、ユウキの紹介は少し傷付いていたりする。目付きが悪いも強面なのも、実際は彼のせいではないのだから仕方無い。

 

 「ボス戦の前に、今まで死んでいった2000人に詫び入れなアカン奴がおる筈や!」

 

 キバオウは広場から他のメンバーが座る所に指を指し、続ける。

 

 「このデスゲームが始まったその日に、ビギナーを見捨てて、自分達だけポンポン強なっていったβテスターなる奴らが!そいつらに土下座さして!溜め込んだ金やアイテムを吐き出して貰わな、パーティメンバーとして命は預けられんし、預かれん!」

 

 その言葉で、一瞬場が静まり返る。全体の数では少ないβテスターだが、確かにシステムや狩り場の事は知っているだろう。しかし、βテストと違う点も多い上に【はじまりの街】を含めた場所ではβテスターが本を発行して基本やアイテムの採れる場所、狩り場を紹介している。この時点で出血大サービスだろう。

 そんな静まり返った空間を、シュユの声が斬り裂いた。

 

 「....馬鹿だろ、お前」

 「はぁ!?アンタ、今なんつった!?」

 

 そんな声をキバオウが聞き逃す訳がなく、シュユの胸ぐらを掴む。それでもシュユの方が身長が高いので、大した迫力は無いのだが。

 

 「もう1度言ってやるよ、ゲーム初心者。馬鹿だろ、お前」

 「ワイの言っとる事が間違っとる言うとんのか!?」

 「あぁ、その通りだ」

 「アンタ、さてはβテスターやな!?でなきゃ、そんな事言う筈があらへん!」

 「そうだ、オレはお前が言うβテスターってヤツだ。だが、だからどうした?」

 「だからどうした...?アンタらテスターがワイらビギナーを見捨てて、自分達だけポンポン強なってったんやろうが!こんな状況(デスゲーム)なのに、アンタらが足並みを乱したんや!」

 「あのSAO第1層のガイド本を発行したのはβテスターだ。それも知らないのか?それにな、間違った言い分はそっちだろ?」

 「なんやと!?」

 「なんでβテスターがお前らの命を背負わなきゃならない?強くなりたいならパーティでも組んで狩れば良いし、情報屋を頼ってテスターを捜して狩り場の場所を聴く事も出来た。それをしなかったのはそっちの怠慢、こっちには何も非は無い」

 「だがなぁ!普通なら、こんな命が懸かっとんのに怠慢もクソも無いやろ」

 「そこが甘いんだよ。自分の命は自己責任、それがこの世界だ。テスターだって人間だし、他人の命までは背負えねぇんだよ。βテストから変更された所の方が多い現状、そんな責任転嫁しか出来ない雑魚に構う暇は無い。つまり、だ。オレが言いたいのは1つ。βテスターを非難するヤツははじまりの街にでも引き籠れ。変な感情を抱かれて動きが鈍れば足並みを乱すのはそっちだ。....それに、勝手に命を預かられても預けられても困るし、何より頼むなら相応の態度が――ぐおっ!?」

 「何してんのシュユ?!みんな、本当にゴメンね!」

 「私達がよく言い聞かせておくから、安心して」

 「こんなんでも根は良い人なんだよ!誤解しないでね!」

 「おおぉ....頭が割れる....」

 

 先程までの冷酷な物言いと雰囲気はどこへ消えたのか、アイテムの【丈夫な枝】が砕けるくらいの威力で頭を叩かれたシュユは不快なダメージフィードバックに悶絶し、そのままシノンに元居た場所に引き摺られていった。しれっとシノンはシュユに膝枕をしていたりする。激怒していたキバオウは毒気を抜かれたのか、ぶすっとした顔で石段に座る。

 

 「え、えっと....はい、フロアボス攻略は3日後だ!その間にパーティメンバーの連携とか、武器やアイテムの準備をしてくれ!解散!」

 

 その言葉を最後に散り散りになってそれぞれの場所へ向かうプレイヤー達。その際、ガタイの良い男が悶絶しているシュユの前に現れる。

 

 「あんたの言う事は極端だが、目が覚めたよ。あの場を鎮めてくれてありがとうな。俺はエギル、そっちは?」

 「この悶絶してるのはシュユよ」

 「そうか。じゃあ皆の名前は?」

 「シノンよ。よろしく、エギル」

 「ボクはユウキ!よろしくね、エギル!」

 「キリトだ。よろしく」

 「......アスナ」

 「っと、パーティの奴らが呼んでる。じゃあな、また会おう!」

 

 小走りで去るエギルを見送ると、やっと復活したシュユが頭を押さえて呟く。

 

 「また会おう、ね。しれっと死ぬなって言い残してったな、アイツ。あ、もう大丈夫だ。ありがとう、シノ――んがっ!」

 「まだ危ないわ。膝枕されてなさい」

 「いや、もう大丈夫――」

 「さ れ て な さ い」

 「.....ハイ」

 

 気付きにくいが、語調を強められれば仕方が無い。彼はシノンの膝枕を堪能する。瑞々しい太ももの柔らかさとふわりと香る女子特有の香りを感じつつ、彼はキリトの何とも言えない視線とアスナの冷ややかな視線とユウキの凄まじい圧を感じる視線に晒されていた。

 彼は脳内で呟く。

 

 ――これは後でユウキに何かしないとな。シノンにもだけど。...コルが減るなぁ。

 

 彼の金欠は仮想世界でも同じな様だ。




 エギル「発言――」
 シュユ「馬鹿だろ、お前」
 エギル「」チーン
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