「たっだいま〜!!」
「ただいま」
「お帰り、2人とも。どうだった?」
「最っ高だったよ!ねっ、詩乃!?」
「悪くはなかったわね。歌も踊りもしっかりしてたし」
「へぇ…じゃあ手洗いしてきてくれ。ご飯出来てるから」
母は今日夜勤であり、父は今本格的に進出してきたARに関する会議をする為帰りが遅くなる。なので先に帰ってきた悠は先に夕飯を作り、2人の帰りを待っていたのだ。
「クラインが居るとは言え、かなり帰りが遅いな。2人とも、帰り道は大丈夫だったか?」
「えぇ、問題無かったわ」
「なら良いけど…明日はOSのイベントやるんだっけ?」
「うん。悠は来ない?」
「行っても良いけど…オレは1人でバイクに乗る事になるかな。2人はクラインと行くんだろ?」
「仕方無いわね、私が――」
「――いや、ボクが行くよ!」
「…じゃあ行きが詩乃で帰りが木綿季、これでどうだ?」
「そうね、私は異論無いわ」
「ボクもー」
「じゃあ決まりだな。ほら、早く食べな。疲れてるだろうし、早く寝るに越した事は無いだろ」
「と言う訳でやって来ました、イベント会場ってな」
「車も良いけどバイクも良いものね。風を切る感覚が気持ち良いわ」
「そうか。じゃあ今度2人でツーリングでも…っと、来たな」
「おう、悠――っといけねぇ。シュユじゃねえか!久し振りだな!」
「今日はありがとな、クライン。帰りは詩乃を頼むぜ?」
「任せとけぃ!」
シュユはオーグマーを付け、リュックから
「【オーディナル・スケール】、起動!!」
すると両手に持っていたリモコンが形を変え、右手は片手剣に、左手は短銃を握っている。そして現れるのは巨大なゴーレム――ではなかった。
「告知と違う!?」
「慌てるなよ、ユウキ。…武士みたいなヤツだな」
空から降ってきたのは朱い鎧を纏う巨大な武士。体力バーが3本現れると同時にSTARTの表示。戦闘が始まった。
まずは遠距離から、つまり銃持ちの射撃が始まった。既に囲むように陣取っていた遠距離部隊は四方八方から射撃を開始するが、なんと武士は腰から刀を抜刀すると回転し、発生させた凄まじい風圧で弾丸の起動を全て逸らして見せた。
「行くぞォォォォ!!!」
クラインが先陣を切り、それから近接部隊が突撃する。剣と槍の2種類、中距離と近距離の波状攻撃が開始される。が、武士のAIはそのまま応戦する程単純ではない。大きく跳躍し、囲んでいる遠距離部隊の一角に急接近する。
「シノンッ!!」
シュユはそれをいち早く察知し、剣を口に加えて短銃を腰にマウントすると駆け出し、シノンを抱えて離脱する。その直後放たれたのは紅いエフェクトと土煙を伴う一撃。良く使っていたから見覚えなら幾らでもある。先程の一撃は普通の攻撃ではない、
「【旋車】だぁ!?」
「面倒な…!」
カタナ系ソードスキル【旋車】。シュユも愛用していた一撃が重い360度の範囲攻撃だ。それを巨大な武士であるこのボスが防御の手段が乏しい遠距離部隊のド真ん中で使えばどうなるか、想像には難くない。現に範囲内に居たプレイヤーの殆どが体力を全損してゲームオーバー、観戦に移行する者が出ている。
頑張れーと少しの声援が上がるが、今の状況は最悪だ。このOSに於いて最も大事なのは近接ではなく遠距離攻撃要員であり、近接要員はダメージよりもヘイトを稼ぐ役割にある。VRゲームなら反射神経に任せた刹那の見切りもやれるのだが、これはARゲーム。つまりは現実だ。動きは現実の肉体が反映される為、シュユが良くやっている人外機動は封印されている様なものだ。つまり安全かつ安定してダメージを出せる遠距離が居なくなるというのはほぼゲームオーバーを意味すると言っても過言ではない。その程度の知識なら見聞きしている為、この状況の不味さは理解していた。
「これ、詰みじゃないか?」
「ううん、まだ…やれるよ!」
駆け出したユウキが斬撃を潜り抜け、足元に4回連続で斬りつける。が、減った体力は微々たるものだ。ダメージを与えた事でヘイトが向いたのだろう、刀を振り上げた瞬間武士の面に覆われた顔の唯一の弱点――眼を正確に狙った弾丸が武士の眼を穿った。
「…当たるもんだな」
「幾ら弾が落ちないからって良くやれるわね。…私の特技が形無しじゃない」
「安定はしないんだ、許してくれ」
シュユは駆け出し、握っている片手剣を無造作に振り下ろす。が、直ぐに立て直した武士はそれを自らの刀で受け止める。そのまま巧みにベクトルを変え、返す刀でシュユに振り下ろすがそれを往なして地面に刀を誘導する。が、振動が手を伝わり痺れている。最低限の
『頑張ってるね〜!!皆、盛り上がってる〜!?」
そして空から舞い降りる少女。パラシュートも無しに空から舞い降りてきた事から、人間ではない事は直ぐ様判る。アレが恐らく木綿季が言っていた所謂『話題のアイドル』なのだろう。見た事は無いハズなのに、記憶のどこかをチクリと刺激する。
そして歌い始めるアイドル。それに合わせる様に、シュユの目の前に1人の男が姿を現した。頭上に燦然と輝く2の数字、それはランキング制のゲームであるOSに於いて2位である事を指す数字だ。噂によると1位は何故か顔を出さないらしく、事実上の1位である。
その彼は現実で起きているとは思えない程の運動神経をしていた。跳び、走り、壁や木を蹴って縦横無尽に戦う。まるで1人だけ仮想世界で戦っているかの様に。ランキング制のこのゲームではランキングに応じ、武器やアバターの性能が少しずつ上がる様になっている。そのお陰か、1人でシュユ達を超えるダメージを叩き出し、ゲージを丸々1本削った所で初めて口を開いた。
「何をボーッとしている?行くぞ!!」
その声に、多数のプレイヤーは駆け出していく。それはユウキもシノンも例外ではない。だが、シュユは動けないでいた。何故なら今も空で歌う少女が気になっているからだ。シュユは知っているハズなのだ。だが思い出せない。判っているのに、識っているのに思い出せない。その事に何故か納得していなかった。ヤケに気になるその感覚に、動けないでいたのだ。
「――。ユ、シュユ!」
「っ…!あ、あぁ、なんだ?」
「もう終わったよ?帰らないの?ボクはそれでも――」
「――悪い、少しボーッとしてた。じゃあ帰ろう。夜は冷えるしな」
ヘルメットを木綿季に投げ渡し、しっかりバイクに跨った木綿季が腰をホールドしたのを確認し悠はバイクを発進させる。視界の端に映る水色が基調の服を着た少女が、こちらを見詰めた気がした。