2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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110話 懐疑

 「あ、ここも復元されてるな。ユウキ、覚えてるか?この店」

 「…う、うん。勿論覚えてるよ、確かボクは…サンドウィッチ食べたよね」

 「いや、ここはパスタみたいな麺類の店だぞ?珍しいな、ユウキがそういうのを覚えてないなんて」

 「そんな事無いよ!その…少しこんがらがっちゃって」

 「…そっか、そういう事もあるよな。取り敢えず入ろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――あ…」

 「どうかしたのか?」

 「いえ…ここ、何が有ったか思い出せなくて」

 「ここはシノンがオレを拉致した所だろ?いきなり麻痺ナイフでさ、アレは焦ったよ」

 「えぇ、そうだったわね。…年かしら?」

 「まさか。さ、クエストはこの先だろ?早く終わらせよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…ねぇ、シュユ君」

 「アスナか、オレに用なんて珍しいな」

 「う、うん、ごめんねいきなり」

 「別に構わない。なんだ?」

 「キリト君とシュユ君が食べてたサンドウィッチ、味付けを忘れちゃって。覚えてたりしないかな?」

 「ちょっと待ってろ。……有った。ほら、レシピだ。お前が預けてくれたヤツ、持ってて良かったな」

 「ありがとう!」

 「日頃の恩だ、気にするな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………どうして」

 

 何故だろうか、最近木綿季と詩乃の物忘れが激しい。しかもそれは日常生活のものではなく、SAOに関する事が殆どだ。それがもし彼女達が忘れたいものなら仕方無い、それは悠には強制出来ないからだ。だが、2人は後悔していないと言っていた。ならば忘れるのはおかしくないだろうか?悠はたった1人、真っ暗な部屋で壁にもたれ掛かっていた。

 明日奈も同じだ。和人とは最近会っていないが、もし彼も忘れていたらと思うと悠はゾッとする。それ程までに彼が忘却を恐れるのは偏に自分を許せていないからだ。彼が望むのは2人の傍に在る事であり、それは彼が自らに課した贖罪でもある。2人の望みを何があっても叶える事、それだけが今の【秋崎悠】を支えている。それが無くては彼は無い。余りにも大きな自責で潰れてしまうのだ。

 

 「忘れちゃったのか?SAOの事、忘れたかったのか?なら言ってくれよ、オレが馬鹿みたいじゃないか。オレが託した祈りも、やってきた事も、これじゃあ何も……」

 

 弱った心は少しずつ悪い方向へと思考を侵食していく。いつもなら積み重ねてきた2人へと無上の信頼でそんな弱気な事など簡単に跳ね除けられた。だが、今の悠はボロボロなのだ。幾ら悠とは言え人間だ。もうとうの昔に限界を超えていた。暗闇に包まれた部屋の中、悠は涙を流して「どうして」と誰も居ない虚空に問い掛け続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうして…?どうして思い出せないの!?」

 

 ユウキは仮想世界の中、そう叫んだ。今居る夜の森には誰も居ない。だからこそ積み重なっているフラストレーションを全て敵にぶつける事が出来ている。その切り口は乱れていて、普段のユウキの腕前からは想像出来ない程見るに堪えないものだった。周りに落ちているアイテムを回収する事は無く、ある意味では死屍累々と言える光景だろう。

 それも全て自分の記憶のせいだ。一昨日のOSでのイベント、そこでユウキは死んで(ゲームオーバーして)しまった。それからだ、SAOでの記憶が徐々に思い出せなくなっていったのは。初めは店の名前や町並みなどの細かい事が、今では重要な思い出すら思い出せなくなっていた。それは詩乃も同じで、段々と思い出せなくなっていく事に恐ろしさを感じていた。それは全てに於いて悠に捨てられるかも知れない恐怖だ。

 彼は赤の他人には決して言えない様な恐怖を抱えていた。それを溜め込みそうになる度に悠は詩乃と木綿季に吐き出し、彼が恐怖を抱えていた記憶を託されていた。それが戦闘で戦いの負の面に呑まれやすい彼がしっかりと恐怖を感じていた、つまり人間である証拠と人間で在りたいという祈りを託していたのだ。それを忘れてしまう事がどれだけ2人にとって、悠にとって残酷な事か。

 今は詩乃もどこかで鬱憤を晴らしているのだろう。メニューを開いてフレンドの欄を開けば直ぐに判るが、そんな事をする気力も無い。どうせ死んでもALO(ここ)では現実に何の影響も無い。むしろ記憶を無くしてしまうのなら死にたい、それが今のユウキの想いだった。

 

 「ああああァァァァァ!!!」

 

 獣の様な慟哭が響き渡る。そんな状況でもユウキが他人事の様に考えていたのは、どうにか誤魔化せるか否か、そんな事だった。

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