2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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111話 暴発

 ここはアインクラッド28層、狼ヶ原。何もない殺風景な荒野にシュユと2人は立っていた。シュユは問い掛ける。

 

 「…なぁ、覚えてるか、2人とも」

 「勿論だよ!ね、シノン?」

 「全くだわ。流石に嘗めないで貰える?」

 「あぁ、そうだよな。ここ…狼ヶ原は、2()()()()()()()()()()()()()()()

 「()()()()()()()()()()

 「()()()()()()()()()、シュユ」

 

 少し口角を上げていたシュユはその言葉を聴いた瞬間、笑顔を消す。確信したのだ、2人からもうSAOの記憶は殆ど()()()()()()()()()()()

 

 「…嫌なら、言ってくれよ」

 「…シュユ?」

 「もうSAOの事を忘れたいなら、早く言ってくれよ!!」

 「え…」

 「覚えてないんだろ!?ここは2人がオレを拉致った所じゃない!ここは犯罪者(オレンジ)狩りをしていたオレを、皆が止めようとしてくれた場所だ!」

 「…!」

 

 2人は自分達が返答を間違えた事を直感した。滅多に声を荒らげない彼が叫んでいる。そして自分達は責められて然るべき立場なのだ。

 

 「本当はオレの祈りなんてただ迷惑なだけだったんだろ!?あぁ、気付けなくて悪かったな!オレの勝手な押し付けで縛り付けて、もう良いよ!!」

 「そんな事無いよ!ボクはキミの――」

 「――なら、どうして覚えていてくれないんだ?」

 「それは、その…!」

 「どうしてあなたはそんなに過去に囚われるのよ、シュユ!?先に進みたいって言ったのはあなたじゃない!」

 「進む…?進める訳が無いだろう。オレは人を殺した、その上友達を守れなかったんだぞ!?目の前で死なせておいて、はいそうですかさようならと前に進める程オレは鈍感な人間じゃない!!!」

 

 殺した人の為にも、助けられなかった人の為にも彼は生きて進み続けなければならない。()()()()()罰せられなければならなかった。2人はその為の楔であり、悠に寄り添って支え続ける――ある意味では悠を罰し続ける事が悠にとっての柱であった。

 ぎしり、と何かが軋んだ音がした。

 

 「犠牲の英雄、影のヒーロー、美しい自己犠牲!!散々騒がれた!!殺人鬼とか散々言っておいて、真相が明らかになればヒーロー扱いだ!それも飾られただけの偽装だと知らないヤツらはとことんおめでたい!!!」

 

 彼の奥底で煮詰められ、澱みと化した重い想いは1度吐き出せば止まらない。自分を圧し潰す程の自責と罪の意識、それを隠して単一の戦力として振る舞い続けた彼にとって、それ程までに2人に託した記憶は大事なものだった。それを忘れられたという事実は重く、取り返しのつかないものだった。

 みしり、と何かがヒビ割れた様な音がした。

 

 「薬を飲んでも夢に見る!!オレが殺したプレイヤーがオレを殺そうとしてくる夢をな!!その中にオレを救ってくれる人は居ない。誰も、皆がオレの死を望む!!」

 

 殺人を犯した犯罪者は、自ら行った場合を除いて悪夢に悩まされる人が多いと言う。悠もその1人だ。そもそも幾ら大人びていたとして、彼はまだ成年もしていない少年だ。そんな彼が友人を目の前で失い、友人との待ち合わせをとことん待った後に死んだ事を知ったとしたら、トラウマを抱かずにいれるだろうか?そのまま現実を生きていけるだろうか?ましてや必死な想いで託したモノを忘れられたとしたら、正気でいられるかどうかすら怪しいではないのか?

 バキッ、と何かが折れる音がした。

 

 「…でも、もう良いよ。ありがと、さよなら」

 

 彼はログアウトした。アバターが消え、フレンド欄を見れば彼がこの仮想世界に居ない事が判る。急いでログアウトした2人が見たのは、開け放たれた窓と風にたなびくカーテン、そして空っぽの彼のベッドだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…!ユウキ、シノのん!どうかしたの?」

 

 2人が縋ったのは友人だった。ALOのプレイヤーホーム、そこでアスナと待ち合わせをしていた。アスナは何も気にせずに家に入れてくれた。シノンが状況を説明する。

 

 「――そっか…でも良かった」

 「え、良かったって、どうして…?」

 「私と同じ不安を抱えてる人が居たって、やっと分かって…!」

 「アスナ…」

 

 アスナは2人に抱き着く。その身体は微かに震えていて、本当に怖いと感じているのだと嫌でも理解させられる。そしてユウキとシノンは2人でどうにか支えられていた。だが、その不安を1人で今まで抱えていた重圧がどれ程のものか、2人には量れなかった。

 3人は泣いた。静かに涙を流した。それはただ哀しいからではない。各々に託された記憶を、祈りを忘れてしまった事に対する赦しを請う、懺悔の涙だった。そしてそれを窓から覗う、黒ずくめの少年も覚悟を新たにしていたのだ。

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