2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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 お気に入り1000件突破、ありがとうございます。あと数少しで完結の本作ですが、気を抜かずに頑張っていきますのでよろしくお願いします。


112話 認識

 秋崎悠は家出をした。と言っても原因は親との喧嘩ではなく、もうあの2人の前に姿を現さない方が良いと思ったからだ。別に死のうとは考えていない。彼の通帳には今まで使わずに貯めてきた(使い途が無く貯まっていった)中々の金額が入っており、暫くの間は食い繋げる。いざとなれば人間、どうにかして生きていけるものだ。そんなガバガバな考えで彼は放浪していた。今は公園に来ている。街を見渡せるここは彼の気に入っている場所だった。

 

 「――よう。隣、良いか?」

 「…クライン、どうしてここが…?」

 「バカヤロー、誰がここを教えたと思ってやがる。ついでにな、オメーと和人の野郎は考えが読みやすいんだ、ちっと考えれば分かんのさ」

 

 ホットの缶コーヒーを差し出したクラインは返事を待たずに悠の隣に座る。ベンチの端と端で少し距離はあるが、それが悠には好ましい。そしてそんな距離を自然に取れる彼を凄いとも思った。

 見てみれば片手には未だにギプスを着けている。つい最近折ったばかりなのだから当たり前なのだが、よく見れば服も病院の服だ。抜け出してきたのだろうが、その手で運転してきたのなら流石に駄目なのではないだろうか。

 

 「…家出したって聴いたが、本当かそりゃ?」

 「…あぁ、そうだ。いきあたりばったりだが…あの2人の前に顔を出せないからな。戻れと言われてもオレは――」

 「――戻れとは言わねーよ。ただ、話しようってだけだ」

 

 クラインは缶コーヒーを一口煽ると上を向き、満天の星空を見上げる。

 

 「俺もよ、最近SAOの事を思い出せなくなっちまった」

 「……!」

 「なんでかは良く分かんねぇ。ただ忘れたい訳じゃねーのに忘れちまった」

 「別に忘れても…どうせトラウマになる様な記憶だ、無い方が良いだろ」

 「俺もそう思った。やっとあの胸糞悪い感触を忘れられるってな」

 「え…?お前、人を殺して…」

 「あぁ、有るさ。和人もな。覚えてるだろ?えぇっと、アレだ…あの殺人ギルドの…」

 「【ラフィン・コフィン殲滅戦】、そうだろ?」

 「あぁそうだ、それそれ。俺達も参戦してて、自衛の為に仕方無く、な…。リアルな感触じゃあ無かったが、刀が命を刈り取る感触は手に染み付いて取れやしねぇ。最近じゃSAOの事はあんまり思い出せねぇんだが、あの感触だけは簡単に思い出せる。まぁ、あの胸糞悪い階層で人型を1番倒してて、プレイヤーも仰山倒したお前よりかは少ないがな」

 

 【ラフィン・コフィン殲滅戦】とはSAO終盤に行われた攻略組のギルドが結託し、突き止めた本拠地を攻略組最高クラスの実力を持つ者が行った作戦だ。目的は文字通りラフィン・コフィン構成員全員の殲滅であり、その際悠は勿論和人も手を汚した。むしろ汚していない者の方が珍しい。その汚した者を尚更悩ませたのはオレンジ以上のプレイヤーは殺したとしても自分の色は変わらないシステムだ。まるで自分のした殺しが正しいと言わんばかりのそのシステムに心を病み、攻略組から抜けた者も一定数居た。曰く『SAO史上最大の戦争』とも呼ばれている。

 

 「お前はすげぇよ、悠。俺ならお前みたいに踏ん張れない。幾ら大切なヤツが居たとしても、俺は多分人を数人殺しただけで潰れちまうだろうよ」

 「…それは遠回しにオレがバケモノって言いたいのか?」

 「ったく、何でそう捻くれた捉え方をするかな…。俺がんな事言うと思うか?」

 「……いや、冗談だ」

 

 クラインは確かに強い。それでも純粋な強さなら悠や和人には遠く及ばないだろう。だが、彼の本当の強みはそこではない。彼の強さは彼自身の奥底から湧き出る様な人の良さと裏表の無い性格、人を従えるのではなく惹きつけるカリスマだ。それを総称して、人は『人望』と呼ぶ。そんな彼が今の悠に嫌味を言うとは思えない。

 

 「悠、お前はな、お前自身は自分をただの犯罪者としか思ってないだろうよ。お前はそういうヤツだ、大体解ってる。自罰的ってヤツなんだろうな、お前はいつでも自分を責めてる」

 「…………」

 「だけどよ、たった2年の付き合いのヤツが何言ってんだって思うかも知れねぇけどよ、俺はこれだけは言えんだ。和人のヤツは確かに英雄だ。それは変わらねえ。SAOを攻略に導いたって言われんのも当然みたいな働きをしてたからな。…だけどな、お前も俺らからしちゃ英雄なんだぜ?」

 「…は?オレが、英雄?」

 「あぁ、そうだ」

 「人を沢山殺したオレを?正気か?」

 「その分、お前は沢山救ったさ。…そもそも、幾らお前が犯罪者と思ってたとして、手錠を着けて街中を歩けるヤツなんてお前くらいだ。他の、攻略組じゃないヤツらを安心させたかったんだろ?」

 「…買い被りだ。アレはやられて然るべき処遇だった」

 「それで納得出来ちまうんだ、充分すげぇよ。それにな、少なくとも一定数はお前の戦いに憧れてたヤツが居るって知ってたか?」

 「…初耳、だが…」

 「和人の戦い方はな、真似出来ねぇ。アレは才能とユニークスキルの問題だから仕方ねぇが。だけど、お前のは違う。道具と周りのもんを駆使して戦う、お前独自のやり方はな。確かに才能は要るが、ユニークスキルは必要無かったろ。木綿季やら詩乃もユニークスキル絡みだし、明日奈は本人の才能の部分がデカかったハズからな。その点、お前は周りをよく見るっつー戦いの基本を押さえてればある程度は真似出来る。多分、そこじゃねぇかって俺は思ってる」

 

 和人、木綿季、詩乃の戦いはユニークスキル頼みだ。本人のセンスも然ることながら二刀流、幻影剣、射撃とユニークスキルを持っていなければ真似すら出来ない。だが悠は違う。確かに大きい一撃を喰らえば終わりという馬鹿げた体力の低さはかつての武器、葬送の刃の持つバフを活かした速度は真似は出来ないだろう。だが、彼の戦いの本質である『何でもあり』はやろうとすれば誰にでも出来るものだ。それも本人の才能に関わるが、それでも醜く生き残る程度なら誰にでも出来る。

 だがそこには和人達の様な華麗さは無いし憧れられる程良いものでもない。才能が無いからこそ尋常の勝負ではなく、自分の土俵に引きずり込む事しか勝つ方法が無いのだ。泥臭いだけの醜い戦い、それが【灰の狩人(シュユ)】の戦いだ。

 

 「まぁ憧れてたのは下層の…始まりの街に居たチビ共だな。お前の人柄を知ってるヤツが、お前みたいになろうって皆で訓練してたんだぜ?」

 「どうして…お前が、そんな事を?」

 「あ?そりゃあ俺が見てたからな。本当なら本人…お前に頼んだ方が確実だし喜んだんだろうが、お前も自分の事で精一杯だったしな。まぁ、アイツらはお前の事を本当のヒーローって思ってたさ」

 「……なんで…」

 「和人、確かにアイツには助けられたぜ。でもな、アイツは見ず知らずの他人の為に命を使える程優しくはない。最低限、忘れてても後から思い出せる程度には関わってるヤツの為には動けても、な。だがよ、お前は違うんだ。お前は本当に見ず知らずの他人の為に戦える。たった1度一緒に戦った和人を助けて、そんでボロクソに言われてもお前は踏ん張って最前線に居た、それだけは覚えてる。確かに大人とかはお前を殺人鬼とか言ってる。ただ俺は…攻略組に居たからこそ言える。お前も英雄だ、俺は胸を張って言ってやる。何度も、何度もな」

 「……………」

 「この程度の関係の俺がそこまで断言すんだ。あの2人が思ってねぇ訳が無いだろ?それが分かんねぇお前じゃない、俺はそう思ってる。…これも、押し付けなんだろうがな」

 

 押し付け、それはSAO攻略組の全員に課せられたものだ。畏怖と尊敬を込めて付けられた異名は誇らしく、だがだからこそ並々ならぬ重さを放つ。その異名に恥じぬ様、死した者に敬意を払い、『攻略組』である事を押し付けられるのだ。休暇中に「サボらずに責任を果たせ」と言われた事すら有る程に、彼らは『責任』という名の生き残っているプレイヤーの命を背負わされ、押し付けられていのだ。

 

 「俺が言いてぇのはこれだけだ。…あと、1つ俺が判る事を教えとくぜ」

 「…なんだ?」

 「俺は少なくともSAOの事を忘れたくはなかった。それは他のヤツらもそうだと思うぜ。特にあの2人はな。…そして俺を含めた忘れちまったヤツの共通点はO()S()()()()()()()()()()()ともう1つ、1()()O()S()()()()()()()()()()()()()()()()()ヤツだと思う。…これを聴いたお前がどうするか、それはお前の自由だぜ。後悔しないようにしろよ」

 

 そう言って去っていくクライン。その背中はいつもと変わらない、頼りになる兄貴の様な背中だった。

 

 「…オレが、英雄か…」

 

 そう言って悠は自分の右手を見つめ、少しすると唐突に顔を上げ、自分のバイクに乗り込むのだった。

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