2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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113話 因縁

 ARアイドル、ユナ。そのライブに木綿季と詩乃、明日奈は来ていた。最近沈んでいる3人を見かねた珪子が連れてきたのだ。この様なライブに来るのは殆ど初めての3人はペンライトを握り、徐々に高まっていく会場のボルテージにドキドキしている。

 

 『ワァァァァァァァァ!!!』

 

 そして爆音と共にユナが登場する。会場の全員は立ち上がり、歌のリズムに合わせてペンライトを振る。自分達が着けているオーグマーが放つ点滅する光、それがライブの演出と信じ切って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アンタの狙いは解ってる。人を生き返らせるなんて出来ると本気で思っているのか!?」

 「出来るかどうかじゃない、やるんですよ!!アンタには解らないでしょうね、力が無いヤツの気持ちなんて!!」

 

 地下駐車場では和人とOSランキング2位、【エイジ】が相対していた。エイジ達の目的はSAO生還者達の記憶、その中に含まれる死亡したプレイヤー【ユナ】の記憶を掻き集め、本物のユナを生き返らせる事だった。それは茅場晶彦ですら触れなかった分野、つまり出来るかどうかすら解らないものだ。その為に他人の記憶を奪うなど論外、そう信じる和人は叫ぶが、エイジには届かない。

 

 「あなたからも記憶を頂きますよ。ユナの為に、ね」

 「クッ…」

 

 早くこの事を伝え、仲間を連れ戻したい和人だが、目の前にはエイジが立ちはだかる。以前彼と戦った際、キリトは本気ではなかったとは言え負けた。それでも…そう思った時、後方から聴き慣れた声が響く。それは、今は絶対に聴く事は無いと思っていた声だった。

 

 「随分と言う様になったな、【ノーチラス】。SAOが終わって負けても死なないと知ったからか?」

 「俺は【エイジ】だ!!誰だ、俺のその名前を知ってるのは一握りしか居ないハズだ!」

 「言うようになったじゃないか。昔はオレの姿を見ると逃げてった癖にな」

 「まさか…悠、なのか?」

 「…その通りだ、和人。どうやらオレは、まだ英雄になりたいらしい。…助けに来たぜ」

 

 彼は背負っているバッグからリモコンを2つ取り出し、オーグマーを着ける。既に臨戦態勢は出来ていた。後はボイスコマンドを唱えれば直ぐにでも戦えるだろう。

 

 「それに記憶を奪いたいならオレから奪えよ。オレは、死んだ後のユナの記憶を持ってるぜ?」

 「死んだ後の…?まさか、ユナの幽霊を見たとでも?」

 「その通りだ。必要なんだろう、お前達には?死後の彼女の記憶がな」

 「何故それを!?」

 「調べた。こっちは政府にコネが有るんだ、後は色んな専門家に意見を聞いてそれを纏めてしまえば仮定は出来る。そういう事だ」

 

 そんな訳が無い。幾ら彼が政府の立ち上げた部署『VR犯罪予防課』と面識が有ると言っても、それだけの事で判る訳が無い。そう、これは運だ。既にもう意味を成さなくなった()()()()、リアルラックの向上。メリットもデメリットもごちゃまぜになり、既に無くなったと思っていたソレがやっと活かされた。偶々専門家が父の知り合いだった、普段は多忙な教授がその日は偶々研究室に居た、気難しい気性の老教授と話のウマが合ったお陰で話せた。そんな、宝くじが当たるなどのブッ飛んだ運ではない、小さな運(リアルラック)が今の悠をここに立たせていた。

 やっと活かされた特典、そのお陰で立っている事には気付けない。悠はこの世界の予備知識を持たない。それがデメリットだからだ。だが、だからこそ固定観念に囚われない。原作(正しい世界)を再現しようとはしないし、原作を変えようともしない。ただ、今の彼は助けたいのだ。きっと自分を英雄と信じてくれる人を。

 

 「早く行けよ、和人。ここはオレに任せろ。今は先に進め、良いな?」

 「…あぁ、頼んだぜ、悠」

 「…そっちこそ、頼んだ」

 

 エイジの隣を通り過ぎて和人は中へ走る。妨害しようとしたエイジに飛び掛かり、悠はボイスコマンドを叫ぶ。

 

 「オーディナル・スケール、起動!!」

 「クッ、邪魔を…!!」

 

 悠の服が変わり、両手には片手剣と短銃が握られた。エイジもOSを起動させ、襲い来る剣を往なして距離を取る。エイジの頭上に燦然と輝くのは2の数字、対する悠は6の数字だった。

 オーディナル・スケールに於けるランキングとはプレイヤーの強さを表す。その数字が大きければ大きい程自由度が高くなり、服や武器のカスタマイズに加えて段々と体力が上がっていく。故にランキングとは言わば変動するレベルの様なものだ。2位という順位を保持するのがどれだけ大変か、悠には想像もつかない。

 

 「あなたは俺の事を覚えてるみたいですね。あの黒の剣士とは違って、直ぐに名前を呼んでくれましたし」

 「勿論覚えてるさ、ノーチラス。KoB後衛部隊に配属、恐怖心からか死に瀕すると動けなくなる…今出せるのはこれぐらいのもんだが、合っているだろう?」

 「俺はエイジだと言っている!!その弱い自分は、もう殺したんだ…!!」

 「……お前も、囚われているんだな」

 

 悠は袈裟掛けに振り下ろされる剣を躱し、右手の剣で反撃するが容易く往なされる。それを見越していた悠は短銃の引き金を3回引くがエイジの超人的な見切りから繰り出される斬撃により、銃弾3発は斬り捨てられた。ならば、と接近し鍔迫り合いへと持ち込むが押し切れず、ギチギチと剣が鳴る。

 

 「死者を甦らせる事がどうとは言わない!だが、それで彼女が喜ぶと思うのか!?」

 「解りませんよ、だからやるんです!!あの時守れなくて済まなかったと、ただ謝りたくてもう1度逢いたい!その気持ちの何が悪い!?」

 「それで他人の記憶を犠牲にする事が身勝手だと言っている!!」

 「別に良いじゃないか!!アンタだってそうだ、どうせロクな記憶じゃない!なら、俺が奪ったって良いじゃないか!むしろ、あの悪夢を忘れられるなら嬉しいハズだ!!」

 「それはお前が決める話じゃないだろうがッ!!」

 「それはアンタも同じだッ!!」

 

 このまま潰す、そう思って剣を押し込むがエイジは1度身体を沈ませ、そこから伸び上がる事で悠の剣を弾く。当然悠の体勢は崩れるが、短銃を乱射する事で近寄らせない。それを焦れったく思ったのかエイジは柱を斬り、崩す事で土煙を起こし悠の視界を奪う。自然体で構え、襲ってきた所をカウンターする覚悟で待ち構える。常に走り回っているのか、地下駐車場である事もあり反響してエイジの声が響く。

 

 「大切な人を目の前で死なせて、それで諦められると思うんですか、アンタは!?謝りたいと、もう1度逢いたいと願うのが、だから奮闘する事が悪だと、アンタは言うのか!?」

 「あぁそうだ、言ってやる!!お前がやってる事は悪だ!死者の眠りは何者も汚してはならない。祈りも無く、苦しみも無く、ただただ安らかに眠らせてやらなければならないんだ!!それをお前は汚そうとしている!」

 「それはアンタの正義だ!死者に意思なんて無いんだ、だからアンタの正義はおかしい!!」

 「なら、お前もおかしいだろうが!!死者に意思が無いなら、死者を甦らせようとしているお前達は何なんだ!?ソレが生き返ったとして、ソレはただの人形だろうに!!」

 「ユナは生きてる!!アンタら全員の記憶の中で、しっかり生きてるんだよ!!だから生き返らせるんだ!!」

 「っ、この…馬鹿野郎がッ!!」

 

 煙の中から現れたエイジの斬撃を受け流す。が、通常エイジが剣を握るのは利き手の右手のハズだ。だが、今は左手に握っている。それに気付いた直後、悠の鳩尾に拳が突き刺さった。仮想世界なら問題無い一撃だが、生憎ここは現実だ。胃から胃液が迫り上がり、身体は無意識に衝撃を逃がそうとくの字に折れ曲がる。下がる悠の頭にエイジは膝蹴りを打ち込む。鼻に当たる事だけは回避したが、頭が大きく振られたせいで足元がフラつく。エイジは右手の悠の剣を弾き飛ばすと足を払い、転んだ悠の鼻先に剣を突き付けた。

 

 「どれだけあなたがあっち(VR)で強かろうが、ここ(現実)ではこの程度です。分かったら早く記憶を渡して下さい。今なら、応急処置だってやってあげられますよ」

 

 左手の銃には既に残弾は無い。既に使い切っているからだ。剣は右後ろに落ちてはいるが、今ここで拾いに走ったとしてもエイジは容易く追い縋り、悠の背中を斬り捨てるだろう。そうなればゲームオーバー、つまり悠は記憶を奪われる。既に盤面はどうしようもなく、詰んでいた。

 だが悠は空中を指で指す。まるでスキルツリーを表すように、詰んでいるとは思えない程に自然に。

 

 「ユナは【吟唱】を持っていた…そうだろ?」

 「…えぇ、そうですよ。彼女はそのスキルを持っていた。そして…死んだ」

 「その、様子じゃ…あのスキルの取得条件、知らないみたいだな…」

 「何?」

 「あのスキルは、手間の割に専用の武器が無けりゃ単体じゃ戦えない…同じ準ユニークスキルの調教師(テイマー)とは違って、完全に支援に寄ったスキルだ」

 「…それが、どうだと?」

 「そのスキルの取得条件はな、音楽系のスキルを3つ以上所持して、それで全部熟練度をカンストさせる事だ。それで得られるのは完全支援型の自衛すらままならない準ユニークスキル…そんな酔狂なものを使い続けてたんだろ、彼女は」

 「だから、それがどうしたんですか!?」

 「…1つ教えてやる」

 「…?」

 「オレの一挙一動は、意味が無いものは無い。…つまり、油断して目を離すなって事だ!!」

 

 悠の指が空中を押す。すると()()()()()()()()()()()()()()、悠は弾丸をバラ撒く。そう、先程からの動きは設定を弄っていたのだ。取り回しは悪くなるが、その分威力や射程は折り紙付きだ。幾ら強いとは言え、エイジだって人間だ。飛来する銃弾を斬り捨てるなど、どこぞの黒の剣士の様な真似は出来ない。更に悠はエイジの足元を撃つことで煙を発生させる。

 

 「…鈍りましたね、シュユさん!!」

 

 エイジには見えた。剣を拾いに行く悠の背中が、薄っすらと煙の向こうに影として見えたのだ。だが、手応えが無い。斬り捨てたソレは悠ではない。そう、それは悠が着ていた上着だ。ここは現実、幾らARであろうとも服を重ね着していた事実は変わりようがないものだ。それをエイジは失念していたのだ。

 

 「その強さの種、もう見切ってるんだよォォォッ!!」

 

 後ろから飛び掛かり、首筋に有る機械部品を引き千切る。力任せに引っ張られたコードはブチブチと音を立てて千切れ、エイジが着用していたパワードスーツは機能を停止した。

 そのまま振り向いたエイジの顎を悠の右拳が打ち抜く。脳が大きく揺さぶられ、たたらを踏んだエイジの胴体に、隠し持っていた3()()()()()()()()()()()を起動させて現れた剣を用いて十字に斬り裂く。銃弾数発と斬撃のクリーンヒットにより体力はみるみる内に減っていき、エイジはゲームオーバー。衣服は現実のものになり、立てないエイジは壁にもたれている。

 

 「…オレは、本当にユナに会った事が有る。恐らく、死後のな」

 「………」

 「だけど、彼女は笑っていたよ。憎悪や怨恨なんて無縁な笑顔で、笑っていたよ」

 

 そう言って悠は会場に入る。が、ドアを潜った瞬間膝をついてしまう。そのまま込み上げてきたものをブチまける。

 

 「グッ…ごぶぇっ…!クソっ…」

 

 パワードスーツを纏ったエイジの一撃はしっかりと悠の内臓にダメージを与えていた。吐瀉物を床に吐き出し、フラフラになりながらも壁を使って身体を支えて立ち上がる。すると視界に見慣れた、しかし久し振りに見るシルエットが入ってくる。

 

 『お父様、助けて下さい!皆さんが…このままじゃお母様達が!!』

 「ハッ、ハッ…任せろ。取り敢えず、ナビ頼むぜ…」

 『了解です!』

 

 ユノウのナビに従い、幾つかの扉を開けると会場に着く。ここは職員用の裏口らしく、何とか入ってこれたが中は酷いものだった。オーグマー越しに見えるのは見覚えのある化け物が暴れ回る光景。SAOのフロアボス達がOSユーザーを蹂躙していた。悠はそれをフラフラの状態で躱し、ナビに従う。ナビの終点は木綿季達の隣で、気まずくはあるが悠は地面に座って目を閉じる。

 

 「これで良いのか、ユノウ?」

 『はい、後は私をしん――』

 「皆まで言うな。もう信じてるさ…自慢の、娘をな」

 『…はい!』

 

 目を閉じると見えるのは白く眩い光と身体を包む落ちていく様な感覚。これはいつ味わった感覚か、記憶を辿る暇もなく悠の意識は闇に沈んでいくのであった…




 案外忘れがちですが、実はこの小説、転生系の小説なんですよね。転生特典とか覚えてる人居たら凄いな…()
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