記憶を守る為に。その為だけに和人は戦っている。オーグマー自体がユナを生き返らせる為のツールだった事を知った和人は1人奮闘、エイジと対峙した時には悠の助けを得て今ここに居る。既に相手の計画は佳境に差し掛かっている。ユイの助けを得てサーバーに攻撃する為、今はオーグマーの隠し機能を用いてSAO第100層に『キリト』として来ていた。そのキリトの周りにはシノン、ユウキ、リズベット、シリカ、エギルが。その全員の目の前に、巨大な敵が現れる。
【
茅場晶彦が用意していた本来SAOのラスボスだったモノ、それがこのボスだ。
「行くぞ、皆!!」
「「「「「了解!!」」」」」
キリトの号令で全員同時に襲い掛かる。SAO時代から研ぎ澄まされてきた連携で攻め立てる。
「オオオオオォォォ!!」
キリトの一撃は障壁に弾かれ、キリトは隙を晒す。が、そのカバーにエギルが入る。
「グッ、オオオォォォォォ!!…スイッチ!!」
「任せて!!」
「落ちなさい…!!」
エギルが防ぎ、その間隙を縫う様にユウキの斬撃とシノンの狙撃が入る。それすらも障壁に阻まれるが、それでは終わらない。
「「スイッチ!!」」
「ハアアアアァァァァァ!!」
「ヤアアアアァァァァァ!!」
シリカの連撃とリズベットの一撃。それすらも容易く止められるがそれでは折れない。キリトとエギルが疾駆し、勢いの乗った一撃を叩き込む。更にシノンの援護狙撃が命中、膨大なHPを2割削る事に成功する!!
だが、そこまで甘くはない。ラディウスの足元から大樹が芽生え、その葉から落ちる雫が頭に有る紅玉に滴り落ちる。すると体力は大きく回復し、完全回復してしまう。
「そんな、これじゃあ…!」
「あんなの、倒せやしないわよ…!」
そうボヤいた瞬間、ラディウスの足元から凄まじい速度で巨大な枝が生え、全員に襲い掛かる。それでもシノンは走りながら狙撃を続けるが、それを察知したラディウスは紅玉からレーザーを放ち、シノンを攻撃する。ケットシーの時ならまだしも、今はOSのアバターだ。飛べないシノンは爆風を喰らい、容易く吹き飛ばされてしまう。
【An Incarnate of the Radius】という名には【具象化する世界】という意味が有る。つまり、そのボスが握る権能は『世界の操作』。足元を操る事など造作も無い。
「きゃああぁぁぁぁ!!!」
「シリカッ!!」
瓦礫に捕らわれ、圧し潰されそうになるシリカを助けようとキリトは果敢に飛び掛かるが、それを見切っていた様にラディウスは巨大な手でキリトを捉えて握ると、壁に押し付ける。
「キリト!!」
「クッ、逃げて!!」
枝に捕らわれているリズ、ユウキ、エギルと援護しようにも瓦礫に挟まれて動けないシノン。
「いやあああぁぁぁ!!」
「逃げろォォォォォ!!」
「クソっ…!」
エギルの怒号が響く。ここまでか、キリトがそう思った瞬間、上空から凄まじい勢いで墜ちてくるものがあった。それは的を過つ事無くラディウスの片目を穿つと残心を取ったままラディウスの顔面に降り立っていた。
「わぁ…!アスナさん!」
「シリカちゃん!」
落ち行くシリカを受け止め、床に降り立つアスナ。途中で謝るシリカを優しく抱き留める様はまるで女神の様だ。
「…アスナ、行けるの?」
「うん、もう大丈夫。ユウキ、一緒に戦ってくれる?」
「…勿論!!」
銃声でここが戦場だと引き戻される。まだ障壁は健在で、シノンの狙撃は阻まれている。片目を潰された事がよっぽど気に障ったのだろう、今までは余裕だった表情を憤怒一色に染め上げてラディウスは足元に突き刺していた巨剣を抜き、突進してくる。
『…………!!!』
その大質量の突進を受け止めたのは後方から放たれた緑の風だ。正体を確かめる為に後ろを見ると、後方にある壊れたステンドグラスの枠から金糸の様な髪をたなびかせる少女が飛び出してきた。
「お兄ちゃ〜〜ん!!お待たせーー!!」
「パパ、ママ!!」
「皆さんを呼んで参りました!!」
その少女はリーファだ。その胸元から飛び出したのはユイとユノウの2人、そしてその後方からALOに居るハズの数種族の主力が飛び出し、そして攻撃を始める!クラインの斬撃を皮切りに、いつの間に居たのかGGOのプレイヤーもラディウスに射撃を始めている。
「時間が無いぞ!!」
「一気に畳み掛けろ!!」
サクヤとクラインの一喝で自分達も攻めようとした時、ユイが1度静止し自分の手に乗っている光を放つ。
「大丈夫です、これを使って下さい!!」
その光に包まれると、ユウキとシノンを除いた者はSAOそのままの装備に。ユウキはALO、シノンはGGOの装備へと変わる。
「このSAOサーバーに残っていたセーブデータから、皆さんの分をロードしました!」
「お母様達のデータは損傷が激しくて…なので、ALOとGGOのデータをロードさせて貰いました。ごめんなさい、力不足で…」
「ううん、充分だよ。シノンもそう思ってる」
キリトは背中に背負う双剣を握り、今の仲間と昔からの仲間に呼び掛ける。
「よし。皆、やろう!!」
各々の返事と共に最適な位置へと移動する。シノンは枝を滑り降り、愛銃へカートを正確に頭へと撃ち続ける。照射レーザーは飛べる者がヘイトを請け負い、ヘイトがシノンに向いた瞬間アスナの一閃がラディウスの身体を斬り裂く。更にその反対側をキリトが独楽の様に回転しながら斬り裂き、クラインとリーファの2人が縦横無尽にラディウスの周りを飛びながら斬撃を加え続ける!
ユージーンの持つ剛剣が大樹を揺らがす。だがラディウスは自分の周りを飛び回る羽虫を撃ち落とす事にしたらしく、足元から凄まじい速度で枝を伸ばすがリーファは優れたエアレイドの才能をフルに使ってギリギリの回避だが余裕で見切るという神業をやってのける。そしてクラインは直前の居合で枝を全て斬り捨てていた。
「…随分俺らも――」
「――あの人の仲間らしくなってますね!!」
足元の瓦礫を飛ばしてプレイヤーを吹き飛ばし、追撃のレーザーで2人倒す。が、その上に飛ばした瓦礫の上を走って跳んだシリカとリズベットがラディウスの顔面を殴る。更にその上から跳んだエギルが渾身の一撃をラディウスの脳天に叩き込む。
あまりの痛撃に回復を求めたラディウスは先程の大樹を生成する。が、初見のアスナが指示を飛ばす。アスナの観察眼がそんな見え見えのモーションを見逃す訳が無いのだ。
「アレを防いで!!」
ほぼノータイムで放たれる魔法と実弾の弾幕。それにより回復は阻止され、ラディウスは減った体力のまま戦う事を余儀なくされた。
「行くぞアスナ!!」
「うんっ!!」
この2人を近付けてはならない、そう直感したラディウスは数多の攻撃を用いて近付けさせまいとするが援護により阻止を阻止される。飛ばした剣はシノンの狙撃に撃ち落とされ、伸ばした枝の殆どはユウキに斬られ、ユウキが逃した枝はリーファの魔法が処理した。
「クッ、逃した!」
シノンの狙撃が外れ、枝の迎撃が遅れるがそれをものともせずキリトと枝を斬り捨てる。攻撃を届かせなければ、その想いでキリトは枝をブロッキングして叫ぶ!
「スイッ――がっ!?」
突然の重さに、キリトは地面に叩き落とされる。それはアスナも、いや、空中に居たプレイヤーの殆どが同じだ。地面に立つプレイヤーすらも倒れ伏し、立ち上がろうとしてもその余りの重さに喘ぐ。
「これ…重力操作か…!?」
「動けない…!」
最悪だ。しかもラディウスは用心深く地面で杭を創り、磔の様にする事で全員の動きを拘束している。その表情は先程までの怒りではなく嗜虐に歪み、悍ましい笑みを浮かべていた。世界の法則すら歪めるラディウスに、英雄達は成す術も無く捕らわれる。1人ずつ巨剣を用いて倒そうとしているのか、余裕の顕れだろう。ゆっくりとした動作で順序を進めていくラディウスを見てユノウは言う。
「…ユイ、私の分の負担を任せても良いですか?」
「ユノウお姉ちゃん…。分かりました、任せて下さい!」
「恩に着ます。…少し待ってて下さい。今から逆転をお見せしますから!」
そしてユノウは現実世界に戻り、悠のナビゲートを開始する。
(よし、お父様のダイブ準備は完了。…後は、私のステージですね)
本来、ユイとユノウの機能に差異は殆ど無い。むしろカーディナルから逃れ続けていたユノウの方が性能的には上かも知れない程だ。そんなユノウが何故失敗作なのか、それは彼女の意思に問題が有った。ユノウがかつて持っていたカーディナルへの服従心、それはカーディナルが創ったAIにとって不要なものだった。カーディナルの目的とは人間の可能性の検証と証明。それを実証する為には無意識下にすら服従心は不要だったのだ。
だが今のユノウにそれは無い。データの墓場から引きずり出され、醜く生き延びた彼女は今幸せを享受している。それを邪魔はさせない。悠も、詩乃も、木綿季も、勿論自分も、幸せになりたくて仕方が無いのだ。
「お父様も、お母様も…
だからこそ頑張る。この仕事はユイには不可能だからだ。SAOサーバーの殆どにアクセス出来るユイだが、1つ確実に掌握出来ない所がある。それは謂わば『ゴミ箱』、破棄されたデータが行き着く終着点だ。元から成功だったユイはここに来た事は1度も無い。だからここに潜ればユイは流され、自分もゴミの一員となってしまうかも知れない。だがユノウは違い、1度ここで揺蕩っていた身だ。だからこそここでの生き方、やり方は嫌でも解っている。
そして早くしなければラディウスに全員やられてしまうかも知れない。迅速、かつ確実にこの作業は成功させなくてはならない。
「――誰が、頑張るんですかーーー!!!!」
そしてサルベージか完了する。切り札となるデータと、それに強制的に紐付けられたデータ。それが悪影響になる事は無いと断定したユノウはそれを持って戦場へと戻る。早く、手遅れになる前に。
「…負けちゃうのかな…」
ユウキは口走る。そうでもないと狂ってしまいそうだから。戦いの最中も不安で圧し潰されそうだというのに、今は絶望的な状況。1人でも自由ならまだやりようは有ったが、プレイヤーどころかピナすらも拘束されている。
「まだ、諦める訳にはいかないの…!」
シノンはへカートを保持して狙おうとするが、そもそもの話凄まじい重量の銃だ。この超重力空間で持てるなら初めから拘束される訳が無い。ユウキもどうにか抜け出そうと藻掻くが、ガッチリとハマった拘束は緩むどころか更に食い込んでいく。万事休す、その言葉が脳裏に再び過ぎった瞬間に戦場に少女の声が響く。
『皆さん、諦めないで下さい!!』
「ユノウ…?」
それは愛娘の言葉だ。どこかから呼び掛けているのだろう、まだ声は続く。
『皆さんは忘れています!まだ私達には切り札が有るハズです!!思い出して下さい、私達の英雄を!!』
英雄、その言葉が指し示すのは黒の剣士の事だ。その黒の剣士は全員と同じように拘束されている。
『違います!!キリトさんじゃない、もう1人の英雄が居るじゃないですか!不死身の、灰の英雄がッ!!』
思い出せ、灰の英雄を。その言葉にSAO生還者達は思い出す。だが助けに来てくれる訳が無い。何故ならユウキとシノンが傷付けてしまったからだ。だが、それでも縋ってしまう。いつも助けてくれる自分達の英雄の名を呼ぶ。そして、助けを求める。
「…一生のお願いだよ、悠」
「まだ忘れたくない。もう絶対に忘れないから、私達を――」
「「――助けて!」」
直後、蒼い月の光が空間を照らす。キリトはその輝きに覚えが有った。それは英雄が、英雄にこそ相応しい剣の光だ。そしてそれを携えた灰は、今この時だけ英雄と成る!!
「ウルオオオオォォォォォォ!!!!!」
獣の様な雄叫びと共に、全員の頭上を荘厳な鐘の音と共に放たれた碧い斬撃が天井を斬り裂く。ラディウスが高々と掲げていた巨剣も半ばから断ち切られ、破壊された天井からは優しくも冷徹な光を放つ月がその存在を示していた。
月から現れた様に、上から墜ちてくるモノ。碧い両手剣を携え、しゃがんで着地したソレはゆっくりと立ち上がる。明らかに戦闘用とは思えないコートとズボン、目深に被った帽子と鼻まで覆う長い襟、その服の色は灰。それが誰か、解らない者は居なかった。肩に座っていた妖精がユウキ達の前を飛び回り、疲労を色濃く残しながらもやりきった表情で言い放った。
「もう大丈夫、私達に負けは有りません!だって――」
「――あぁ、オレが居るからな。で、なんでこんな事になってるんだ?」
「お父様、まずはあのボスの頭に有る光っている紅玉を2つ破壊して下さい!そうすれば皆様も動けるようになります!」
「了解。…待ってろ、ユウキ、シノン、皆。今、助けてやる」
「あっ…!」
しっかりと全員を見据え、そしてラディウスと対峙する。ALOとは違う、肌を刺すような緊張感と心臓を握り潰されそうな恐怖にシュユは笑う。次の無い状況、これこそが戦いであり、恐らく自分が最後に味わう戦いの空気だと。
重力は確かに強く、跳躍は殆ど出来ない。だがVITにほぼポイントを振らず、他のステータスにポイントを振り分けている
突破しようにもシュユには一点突破力は無い。更に言えば面制圧力が有る訳でもない。彼はどこまで行っても中途半端なのだ。ならばどうにかして特化するしかない。考えは有る、後はやれるかどうかだ。
「…やれるか?」
当然と言わんばかりに聖剣が光を一層強くして呼応する。この武器の強さは嫌という程知っている。それならやらない理由は無い。どうせこのまま行けばジリ貧で負けるのだ、思い切りやった方が良い。
彼は思い切り後ろへ跳ぶ。壁に背中が付くほど下がると、シュユは地を蹴り疾駆する。加速、加速、加速、閃光の様に直線で進む。向かってくる枝は全て最低限の動きで躱し、更に速度を上げる。剣を包む光が集束し、鋭利な形を創り上げる。それはまるで
貫き、穿つ!それだけを考えて突き進む。それはかつての戦いに於いて1番に飛び込み、突破口を切り拓き――否、
「フラッシング・ペネトレイタァァァァアアア!!!」
SAO最強クラスの突進技がラディウスの障壁を貫き穿つ!だが、ただでは転ばぬとラディウスは足元から枝を大量に生やす。シュユは動けず、そして躊躇う。
「大丈夫です!私が、私がその負荷を請け負いますから!だから安心して使って下さい!
「っ、オオォォォォァァアアアア!!」
懐かしい感覚と共にシュユの身体がブレ、隙だらけの姿勢からまるで二刀流の構えの様な姿勢に変わる。細剣を形作っていた月光が左手に宿り、もう1本の剣を造り出す。
振るえ、手数で鏖殺しろ!思い描く軌跡は星光の流線。かの【黒の剣士】の代名詞とも言える技を模倣する。今なら、英雄と名乗ろうとしている今なら使えると信じ、叫ぶ。
「スターバースト・ストリィィィィィィムッ!!!」
繰り出される斬撃は枝の全てを斬り裂き、突破口を完全に切り開く。が、その先に見えるのは飛来する巨大な瓦礫。当たれば致命傷は免れないであろうソレを見たシュユはゼロモーション・シフトを使って体勢を整え、月光を戦斧の様な形にすると静かに技名を発声する。
「ワールウィンド…!」
弾き、防ぐ!シュユは今までに1度もかの戦闘商人の
そのまま頭上に掲げた聖剣の月光が形を変え、
「アース・ブレイクダウンッ!!」
そこから即座に体勢を立て直し、再び技名発声。
「スリットエッジ!!!」
それは短剣のソードスキルだ。だがその主なは攻撃ではなく移動であり、内容は敵の背後に高速移動して攻撃を加えるというもの。
ラディウスには足がある。つまり、
「…浮舟ェ!!!」
振り抜かれたソレは両足どころか両手に持つ巨剣すらも断ち斬る。身の危険を感じたラディウスは半ばまでしかない巨剣を振り回し、シュユを近付けまいとするがその行動は意味を成さない。何故ならシュユは離脱し、瓦礫の隙間に身を潜めていたからだ。そこから月光が狙撃銃の形を作るが、突如倦怠感が襲い来る。チラリと拘束された皆の方を向くと、ダウンしているユノウの姿があった。
(仕方無いとは言え…キツイぞ)
プレイヤーデータ【シュユ】は既に廃棄されたデータである。SAOサーバーに追加された故も知らぬデータ【ヤーナム】、それは本来全年齢対象であるSAOとは思えない程の流血表現と攻略難度を誇っていた。攻略組の多数に何かしらの
それをユノウは無理矢理引っ張り出し、その滅茶苦茶な戦い方をするプレイヤーの負担を一手に引き受けているのだ。多用するゼロモーション・シフトは攻略組トップですら数回使用すればダウンし、使っている【月光の聖剣】はあの
「――退けるかよ…!」
散々迷惑を掛けた。何度も何度も悩み、その度に楽な方へと、殺人鬼へと身をやつそうとした自分を正しい償いの道へと導いてくれた。いつも周りには仲間が居て、想い人が居た。何度も助けて貰ったのだ。なら、今度は自分の番だと奮起する。
狙え、撃ち抜け!そう思って照準を合わせようとするが今のシュユの脳では月光で狙撃銃を形作るだけで精一杯だ。ここで失敗しては意味が無い!そう思って更に焦るシュユの手に、もう1つの誰かの手が重なる。
――大丈夫、落ち着いて。あなたならやれるわ。
「シノン…?」
確かにそこに居るのはシノンだ。しかし、向こうで本人は捕らわれている。故にこのシノンはシュユが生み出した虚像なのだと解る。だが、それでも良い。それはきっと
――1度息を吸って、止める。銃と一体になるの。やってみて。
「…分かった、やってみる」
――次に息を吸うのは、相手に当たった時。それを忘れないでね。
返事は無い。この幻のお陰だろう、既に震えは止まっていた。引き金を弾く。甲高い音を立て、弾丸はラディウスの残る片目を穿いていた。
シノンの技は狙撃、それ故に名前は無い。だが、シュユは名付けた。彼女のソレはソードスキルにも似たモノ、【必殺技】足り得るモノなのだから。
「ストラト・シューター!!」
近付けたら詰む。そう直感したラディウスは足元から先程とは比較にならない程の数の枝と瓦礫を伸ばし、飛ばす。シュユはそれを慣れた様に枝の上を走り、瓦礫の間を蹴って距離を詰める。当たれば死ぬ、確かに脅威だ。だが、シュユには明確な比較対象が有った。それはこの月光の聖剣の、前の所有者だ。彼の剣は確かにこの枝や瓦礫と同じく『当たれば殺せる』だったが、ベクトルが違った。言葉に表し難いが、強いて言うなら『殺せるから当てる』といった所か。
今のラディウスの攻撃は殺せるから数で攻めている。だが彼なら、【聖剣のルドウイーク】なら決して数では攻めないだろう。窮地に立たされ、相手に一撃入れれば倒せるからこそ、研ぎ澄ました一撃を叩き込む。それがルドウイークであり、シュユ――つまり、ヤーナムの狩人のやり方である。
だからシュユには当たらない。そんな殺意の籠もっていない攻撃など児戯に等しい。近付くに連れて攻撃は苛烈になっていくが、意味など無い。シュユは枝を足場にし、跳んだ。強い重力に引かれ、通常より早く落下を始めるがシュユの身体はラディウスの頭上、つまり紅玉の直上にある。
月光が形を変える。だが大きくは変わらない。光は刀身を包み、凝縮し、片手剣へと姿を変えた。今の状態でやれるか、シュユは不安を抱いていた。それを癒やす様に、剣を握る手に再び手が添えられた。
――やれない訳無いよ。だってシュユは、ボクたちの
「…あぁ、そうだな」
大きく右手を引く。これで解放する、ではなく仕留めるつもりで構える。あまりにも大きい
先ずは右上から左下へ、次に左上から右下に。貫き、蓄積したダメージを解放するイメージで思い切り剣を突き出し、シュユはその技名を叫んだ。唯一無二、
「マザーズ・ロザリオォォォオオオオッ!!!」
紅玉は壊れ、そして全員が解放される。シュユは落下し、その負荷の大きさに動けなくなるが、そんなシュユを皆は一瞥すると笑い掛ける。言葉は無いが、シュユには解った。そしてシュユは、皆に向け言った。
「…後は、頼んだ」
言われた皆は応える。
「任せて、シュユ君!」
「任せろ、相棒」
「フッ、任されたなら応えてみせるさ」
「任せなさい、お得意さん」
「任せて下さい、シュユさん!」
「ったく、しょうがねぇなぁ。俺様に任せろぃ!」
「技名まで付けてくれたみたいだし…たまには、私達の背中を見てなさい。成長したって事、あなたに思い知らせてあげるから」
「最っ高にカッコいいシュユを魅せてくれたんだもん。次は、ボクたちのカッコいい所見ててよね!」
全員が最適な位置へと移動し、各々の技を放つ。そしてシュユは悟る。やはり自分の攻撃は模倣に過ぎないと。本家と比べれば明らかに見劣りする技、それでも良いのだと。皆、一癖も二癖もある人間だ。そんな人を繋ぐ――と言うと過剰だが、繋ぎ止める為の楔としては充分だとシュユは思い、その眩い輝きに確信を覚えた彼は目を閉じた。
「フラッシング・ペネトレイター!!」
「スターバースト・ストリームッ!!」
「ワールウィンドッ!!」
「アース・ブレイクダウンッ!!」
「スリットエッジ!!」
「浮舟!!」
「ストラト・シューターッ!!」
「マザーズ・ロザリオォォォ!!」
次回、最終話です。