2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

16 / 117
13話 強い人、弱い人

 「んぅ.....ふぁ......ここは...?」

 「目が覚めたか?ここは【スウェイ】の宿屋だ」

 「男の人....?って、えええぇ!?」

 「何もしてないから安心しろ。気絶した君を放っておくのは忍びなかったから運んできたんだ」

 「そうだったんですか...あ、あのエネミーは?」

 「倒した。一応これでも攻略組ではあるんでな」

 「流石は攻略組ですね。本当に凄いです」

 「ありがとう。でも敬語は使わなくて良い。多分君と歳は大して変わんないからな」

 

 第10層の街、【スウェイ】の宿屋。特に特筆する事もない小さな街で、街と呼称してはいるものの少し発展した農村の様な街だ。それでも発展しているヨーロッパ系の街並みや他の村では味わえない、程好いのどかさと人々(NPC)の優しさからリピーターは多い。そしてもう1つ、この村がプレイヤーから好まれる最大の要因が――

 

 「取り敢えず、これでも飲んで」

 「コレ...ホットミルク?でも、味は...」

 「良いから。騙されたと思って」

 「う、うん。じゃあ、頂きます。.....ッ!?」

 「どうだ?」

 「お、美味しい....ホットミルクの味がする!」

 「だろ?案外知られてないけど、ここは味のする牛乳が飲めるんだ」

 

 そう、この村では味のある物が飲めるのだ。酪農家のNPCの所へ行き、街のどこかは複数ある場所のランダムだが御使いをするクエストの報酬が牛乳だ。幾つか選択肢が提示されるのだが、大事なのは『全工程を自分で行う事』、これがキモだ。まず牛乳を牛から絞り、加熱殺菌、そしてボトルに入れて持ち帰るのだがこの工程を行う際にウィンドウが現れ、NPCに頼むか自分でやるか問われる。この時NPCに任せてしまうと味の無い牛乳の出来上がりだ。全てを自分でこなして始めて味のする牛乳が手に入る。

 これをシュユは湯煎で加熱し、ホットミルクにしたのだ。直接加熱しないのは鍋で直接加熱すると【料理】として扱われてしまい、スキルを持っていないシュユでは失敗(ファンブル)してしまう。それを防ぐ為に試行錯誤し、辿り着いたのが湯煎、という訳だ。

 久し振りに飲んだ味のする飲み物に彼女は喉を鳴らして飲み続けた。熱々ではなく人肌ほどの程好いホットミルクはあっという間に無くなり、少女は嬉しさと哀しさが入り交じった顔で中身を飲み干したマグカップを見た。

 

 「ありがとね、【狩人】さん」

 「【狩人】?」

 「全身灰色ずくめの大鎌使いで攻略組の人なんて【狩人】さんしか居ないと思うよ。第1層攻略後に広まった2つ名って聴いたけど」

 「....シュユだ」

 「え?」

 「オレの名前。そんな2つ名は名乗った事無いし初耳だ。だからシュユって呼んでくれ。ぶっちゃけ恥ずかしい」

 「ふふっ、分かったよ、シュユ。私はサチ、よろしくね」

 「あぁ、よろしく。で、サチはなんであそこに居たんだ?あんなネームドにケンカ売る程命知らずじゃないだろ?」

 

 その問いに、サチは気のせいか少し表情を暗くした。

 

 「えへへ、レベリング...のつもりだったんだけどね。あのエネミーと鉢合わせて、逃げた。でも追い付かれて、死にたくないって槍を刺そうとしたら武器は折られて...やっぱり、実力も勇気も無いのに攻略なんてしようとするんじゃなかったね」

 「...確かに、今のサチは実力が無いかも知れない」

 「今の、じゃないよ。多分、私はこれからも――」

 「でも、勇気は有る筈だ」

 

 彼はサチの俯いた顔を見詰める。

 

 「君はあの時フィールドに居た。サチの実力じゃ死ぬかも知れないが、そんな危険なフィールドで君はレベルを上げようとして死にかけた。そうだろ?」

 「...うん」

 「でも勇気が本当に無いのなら、フィールドには出ない。この現状(デスゲーム)に立ち向かおうと思えるなら、まだ負けてない筈だ」

 「負けてないって、何に?」

 「自分と、この現状に」

 

 彼は嘘も吐くし隠し事もする。しかし、今この時の彼が言う事は彼が感じた事実だ。サチはシュユを比較対象にせずとも、SAOプレイヤーの中でもその実力は低い方だろう。

 だが、下層に籠って実力者を装い、自分より弱いプレイヤーや逆らえないNPCを虐げる者も居るこの現状で、サチは死ぬかも知れない安全マージンギリギリのフィールドでレベリングを行っていたのだ。しかも1人だけで。シュユでさえマージンギリギリのフィールドでレベリングをしろ、と言われれば少し躊躇する程の事を、彼女は成し遂げているのだ。

 

 「...まだサチが強くなりたいって思うなら、1週間後の今日、この街の入り口で落ち合おう」

 「それって、私に戦い方を教えてくれるってこと?」

 「オレの戦い方はかなり危ういし、確実に君とはキャラの構築(ビルド)が違う。だから触りの部分――立ち回りとか武器の扱いとか、その程度の事で良ければだけど」

 「.....お、お願いします!」

 「じゃあ決まりだ。1週間後の今日、この街の入り口で。まだ疲れてるだろうし、今日はこの宿屋に泊まってくと良い。金はもう1日利用分で払ってあるしな」

 「え!?か、返さないと...」

 「他人からの好意は受け取っておけ。戦闘中にPOT(ポーション)が切れた時に味方が差し出したソレに君は遠慮するのか?」

 「じゃ、じゃあ受け取っておく。ありがとう」

 「おう。じゃあな」

 

 彼は早々にドアを開けて立ち去った。何故なら、メッセージウィンドウに数件シノンからのメールが来ているからだ。現在も送られてきている上に、加速度的に送られてくる頻度が速くなっている事も明らかだ。彼は全速力で走りつつ、シノンへの言い訳を考えているのだった...




 サチちゃん可愛いですよね。なんで私が好きになるSAOの女の子は死ぬのだろうか...
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。