2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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 また間に合わなかった....(懺悔)


18話 夢物語

 おぞましい数のメールを受信している。その全てがシノンから送られてくるもので、数は100を越えた所で数えるのを止めた。彼はたった一言、「待っていてくれ」と入力するとメールを送信する。すると、ピタリとメールの着信は止まった。信じてくれたのだろう。

 

 「久し振りだナ、シュー坊」

 「その名前は止めてくれ、アルゴ。坊なんて呼ばれる歳じゃない」

 

 背後から話し掛けてくるのは同じβテスターでこのSAOの中でもトップの情報屋、【鼠】のアルゴだ。特徴的なフード付きのローブと赤い鼠の様なヒゲのペイントがトレードマークだ。シュユが唯一信頼している情報屋であり、だからこそシュユはある情報の調査を彼女に依頼したのだ。

 

 「オネーサンからすればシュー坊はシュー坊サ。....シュー坊に頼まれたあの情報、多分真実だヨ」

 「【死者蘇生アイテム】....本当に有るのか」

 「多分、ナ。クリスマス、つまり明日の0時にイベントボスが出現して、何かしらのレアアイテムをドロップするらしイ。NPCの台詞を何度も聴いたけド、死者蘇生としか思えない情報だっタ」

 「...そうか、それなら充分だ。対価は?」

 「実際、オレっちの読み間違いって可能性も有るしナ。今回限り、無料(タダ)で大丈夫ダ」

 「...じゃあこれは次の前金だ。このコル分の依頼をするまで、死ぬなよ」

 

 彼は10万コルをアルゴに押し付ける。アルゴは驚いた様な表情を浮かべた後、シュユを心配している声音で言った。

 

 「...いつものシュー坊らしくないナ」

 「そうか?」

 「オネーサンには分かるのサ。....分かってるとは思うけどナ、多分このアイテムはシュー坊が思う様なアイテムじゃ――」

 「――分かってる」

 

 アルゴの言葉を遮り、シュユは言い切る。分かりきっている事でも、最後まで聴きたくはなかったからだ。言われなければ、まだ希望的で楽観的で馬鹿な妄想に浸れるのだから。

 

 「....分かってるんだよ、そんな事は」

 「...まぁ、オレっちが止める事じゃないからナ。それはシュー坊の勝手だけど、借りを返すまでに死んだら許さないからナ?」

 「.....あぁ」

 

 彼は一切アルゴの方向を向かず、街の雑踏へと溶け込んでいった...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスマス、深夜0時。イベントが始まる。迷いの森のどこかにある枯れたモミの木の場所は既にアルゴから聴いている。彼は大鎌を持って走る。底上げされたAGIのお陰で普通に走るよりも格段に速く走る事が出来るのだが、止まらざるを得なくなる。

 

 「待てよ。そのユニークウェポン、俺達に寄越して貰わなきゃな」

 「.......【聖龍連合】か」

 

 【聖龍連合】などと言う正義のヒーローが名乗りそうな名前とは裏腹に、その実態はレアアイテムの為なら一時的なオレンジカーソルを厭わない犯罪者(オレンジ)ギルドだ。シュユの道を塞いだ全員がオレンジなのは確実にシュユの【葬送の刃】を奪おうとしているからだろう。

 だが、彼等には同情せざるを得ない。今のシュユはマトモとは言い難い。少なくとも、目的の為なら見知らぬ人を殺す事くらいなら簡単にやってのける精神状況だ。そんなシュユの道を塞いでしまったのだ。

 

 「だんまりかぁ?怖がって――」

 「――邪魔だ、()()

 

 大鎌の一閃が、1人の男の首を刈り取る。クリティカル判定を受けた男のHPバーは一瞬で消失した。

 

 「ヒッ!?に、逃げろぉぉぉ!!」

 「...逃がさない」

 

 逃げようとするが彼等は重そうな装備を着けている。そんな彼等に、身軽な装備でAGIに補正が掛かっているシュユが追い付けない訳がない。全員の首を大鎌の一閃で刈り取ると、彼等が居た存在証明であるポリゴン片を無視して先に進む。そんなシュユのカーソルはグリーンのままだ。

 このSAOはオレンジとレッドのカーソルが付けられたプレイヤーに居場所を用意しない。グリーンカーソルのプレイヤーがオレンジ、又はレッドカーソルのプレイヤーをPK――殺害したとして、グリーンカーソルのプレイヤーのカーソルが変わる事は無いのだ。つまり、殺人を犯しても無罪のままでいられる。このルールが無かったのなら、シュユはスルーしていただろう。だが、このルールを知っていたが故に彼等は殺されたのだ。

 それも、今のシュユにはどうだって良い話だ。アルゴが調べた座標に辿り着くと、一際巨大な枯れ木が目に入る。そしてそこには赤い服に長い白髭を生やした、サンタクロースそのものな姿をした人型のエネミーが佇んでいた。

 

 【Apostate Nicholas(背教者ニコラス)

 

 ニコラスはシュユの姿を視認すると、大きな笑い声を発して走ってくる。

 

 『HAHAHAHA!!』

 

 人型とは言え巨人クラスの体高を持つニコラスはただ走るだけでも地面を揺らし、シュユをよろめかせる。そして脚に蹴飛ばされれば大ダメージは必至だろう。全力で右に跳び、片手剣に切り替えてニコラスの脚に火炎瓶を1つ投げる。が、体力は殆ど減らず、怯む様子も無い。服も燃える訳でもなく、ニコラスは立ち止まるとその顔を歪んだ笑顔に変えた。

 

 『Hallelujah!』

 

 ハレルヤ、と発音するとニコラスは右手に持つ白い袋を地面に叩き付ける。凜、という鈴の音が連続して響き、叩き付けられた袋から怨霊の様なモノがぶちまけられる。全ては回避し切れず、1つの怨霊に当たってしまうがダメージは無い。その代わりにシュユのHPバーの下に【呪い】が蓄積し、直ぐに消える。呪いは厄介だ、と舌打ちを1度打つと彼は一気に後ろに跳んで距離を取る。

 【呪い】は完全に蓄積すると体力の上限値が減らされる。毒の様な数値固定のダメージも低VITのシュユにとっては脅威なのだが、体力の上限を減らされるという事はただでさえ少ない被弾できる回数を減らされるのと同義なのだ。厄介この上無い。

 火炎瓶が効かないのなら投げナイフも牽制にしかならないだろう。シュユは剣を大鎌に変形させると前にステップ、膝の部分に刃の切っ先を突き刺し、回転する。手放さず回転した事により大鎌はニコラスの膝を斬り裂き、赤いダメージエフェクトが視界を埋める。そのままもう1度1回転し、全力で横一閃の一撃、地面に切っ先を突き刺す様に力任せの縦振りでゲージの1本を持っていく。人型エネミー特有の防御力と耐久力の低さは適応されているらしい。2本あるHPバーの20%は削れた様だ。

 だがニコラスは止まらない。袋の口を開放すると、中から骸骨が現れてシュユに殺到する。武器は堅そうな木の枝で、動きもそこまで速い訳ではないが何分数が多い。流石に全部の骸骨を処理するとなると時間も労力もそれなりに掛かるので、シュユはストレージ内から【誘い骸骨】を取り出すとニコラスと自分から離れた位置に投げる。認識にタイムラグがあるものの、骸骨達は【誘い骸骨】をしっかりと認識し誘い骸骨が落ちた場所に走っていく。虚空を殴るが、密集している為仲間である筈の骸骨に枝が当たり、ポリゴンの光が上がっている。

 【誘い骸骨】とは読んで字の如く、骸骨の形をした囮に使える投擲アイテムだ。が、知性の高いエネミーや視覚や聴覚でプレイヤーを見分けるエネミーには効果が薄い。骸骨などのアンデッド系のエネミーに対して有効な囮だ。

 

 『Hallelujah!!!』

 「悪いが、オレは神を信じていない!!」

 

 神への賛美を口にするニコラスに、シュユの大鎌の溜め攻撃が直撃する。元々STRに超高補正が掛かる大鎌形態に、更にブーストを加えるのだ。フロアボスではない、隠しイベントのボスに過ぎないニコラスには充分な一撃を与えられる。

 しかし、それで終わればボスの名を冠する事は出来ない。骸骨を1つの塊に、骨塊を棍棒の様にするとニコラスは自らの前方180度を薙ぎ払う。シュユは跳んで避けるが、それを待っていたと言わんばかりにニコラスの左手がシュユを殴り飛ばす。

 

 (袋、手放せたのかよ...!)

 

 木に叩き付けられて追加ダメージを貰う事は無かったものの、ボスのパンチをマトモに喰らったのだ。体力はかなり減っている。

 もう撤退するべきだ、自分の理性も本能もそう叫ぶ。だが僅かに残る感情が嫌だ、退かないとシュユらしくもない事を死にかけの体で嘯く。その時、誰かが話し掛けてきた気がした。

 

 ――まだ、人を捨て切れていないな、次代の狩人よ。

 「誰....だ...?」

 ――人を捨て、血に酔え。我等は狩人、血に依りて、血に酔い、血に揺られ、血の中で果てる者だ。その中に人間性など必要の無い雑味。さぁ立て!そして奮い、振るえ!その為の力は既に与えたのだから!

 

 訳が分からない。この声が誰なのか、はたまた幻聴なのか、それすらも判らない。だが、それでも構わない。力を得られるのならシュユは迷わず力を得るし、それがシノンとユウキを護る事に使えるのなら人間性など捨てて見せる。でも、今この時だけは2人の為ではなく、死者の為にその力を振るう。そう、決めたのだから。

 回復をせず、大鎌でニコラスの腕を斬り付ける。すると、()()()()()()()()()()()()。紅いダメージエフェクトが返り血の様にシュユの身体に張り付き、姿を紅く染める。回復したのなら好都合、シュユは強化されたAGIを生かしてニコラスの身体を()()()()()。その間にニコラスの身体に刃を突き立てると、線を引く様に大鎌を引く。紅いダメージエフェクトが暗い夜を照らし、そして大幅にニコラスの体力を減らしていく。頭頂部まで辿り着く頃には体力バーは残り1本、そしてその半分しか無かった。

 

 「ウラァァァァァァァアアアアア!!!!」

 

 脚力とステータスの許す限りの全力で真上に跳躍、一瞬シュユを見失ったニコラスの頭頂部から股間まで、重力加速を含めた斬撃はニコラスを真っ二つに斬り裂いた。当然クリティカル判定であり、ニコラスの残り体力は猛スピードで左端に辿り着き、凄まじい輝きとポリゴン片を放ち、その巨体は消え去った。

 

 『YOU GET THE LAST ATTACK BONUS!!』

 

 そのウィンドウが現れると同時にアイテムストレージを確認する。中には新たなアイテムが3つ入っており、1つはLAボーナスのソウルアイテムとサンタ帽、そして噂の【死者蘇生アイテム】が入っていた。

 

 「.....ハハ、解ってたさ。そんな都合の良い話、ただの夢物語だってな」

 

 アイテムの説明を読んだシュユの反応を見れば、都合の良い話は無かった事が嫌でも分かる。半ば解っていた事実だ。だが、シュユの()()()()()()()()。確かにこのアイテムに一縷の希望を抱いていた事も事実だ。だが、本当は違う。彼は、彼の目的は――

 

 「....シュユ、なのか?」

 「....やっぱり来たか、キリト」

 

 キリトを、止める事だったのだ。




 ユウキ「今回のゲストはボクなの?」

 作「最近出番無いからね、仕方無いね♂」

 ユウキ「ほんと、閑話から話してないんだけど?名前がチラッと出ただけだし、本当にボクヒロイン?」

 作「うん、ヒロイン。その内出るから、その内」

 ユウキ「作者のその内って凄く遠いよね、知ってるよ?昔の作品でその内新キャラ出すって言ったけど、本当に出したの15話くらい後だったって話」

 作「....HAHAHA、次回もよろしくお願いします!」

 ユウキ「あ、逃げた!まぁ良いや、感想と評価もよろしくね!」
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