2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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19話 馬鹿の為に(友達の為に)

 「【死者蘇生アイテム】は有ったんだろ?頼むよ、シュユ。コルでも武器でも幾らでも出す。だから、そのアイテムを俺にくれないか?」

 

 キリトがシュユに話し掛ける。だが、キリトはシュユを『見て』いても『視て』はいない。彼の心は今、死者(サチ)に取り憑かれ、死者を蘇らせようという狂いながらも純粋な執念で動いていた。こうなる気はしていたのだ。

 シュユは自分が普通とは違うと自覚している。だからこそ、キリトがサチの死に直面し、耐える事が出来ないと思っていた。サチが死に、【死者蘇生アイテム】という眉唾物の噂がぶら下げられた今の状況は現実から目を背けるのに最適だ。だが、それが終われば?今シュユが所持している死者蘇生アイテムの説明文を見れば、きっとキリトは立ち直れないだろう。だからシュユは――

 

 「...断る。このアイテムはオレの物だし、渡す気は無い」

 

 悪者を、演じる事にした。

 

 「...頼む。あのイベントボスをソロで倒したんだ、確かに対価は高く付くと思う。でも、俺にはソレが必要なんだ!だから、頼む」

 「ハッ、使い道はサチを蘇らせようって訳か。傑作だな、キリト」

 「なんで...なんでサチの事を知ってるんだよ、シュユ!?」

 「アイツに剣を教えたのはオレだ。色々聴いたな、ギルドの仲間の面白い話も、お前が頼りになるって話も。...そして、お前が嘘を吐いていたって事も、知ってる」

 「なっ...!?」

 「良い御身分だな、キリト。嘘を吐いて潜り込んだギルドを壊滅させて、自分は暢気にイベントの攻略か?」

 「――さ、い...」

 「なに?」

 「うるさいッ!!」

 

 文字通り、弾丸の様な速さの突進。右手にはしっかりと【クイーンズ・ナイトソード】が握られており、双貌からは怒りと殺意が滲み出ている。シュユの中の、解放されて芽生えた『何か』が鎌首をもたげ、キリトを殺さんとして大鎌を構えろとシュユの身体を動かそうとするが、ソレを押し殺して剣形態に変形させる。

 そして、今のこの状況でデュエル申請を行える程キリトは精神的な余裕が無い。そしてシュユも余裕が無い。今のシュユの状況は最悪に近い。先程のニコラス戦の疲労は抜けておらず、謎の動悸や目眩に襲われている。本来なら立っている事すらかなりの気力を使っているのに関わらず、トッププレイヤーであるキリトと真剣の殺し合いをしようと言うのだ、正気ではない。

 

 「ウアアアァァァァァァ!!」

 「っ...オオオォォォォォ!!」

 

 大鎌では殺してしまう。シュユの目的は飽くまでキリトを止める事、違う意味で(殺して)止めるのは流石に論外だ。故に、純粋な剣士相手に似非剣士(シュユ)はこの最悪なコンディションで戦わなければならないのだ。しかもキリトは殺す気で来ているとあっては、無力化するのも至難の業だ。

 キリトは左下から右上に鋭い逆袈裟斬り、シュユは右上から左下に叩き潰す様な袈裟斬りを叩き込む。が、弾みを付けて跳ね上がる様に跳んだキリトに剣を弾かれる。跳んだキリトに悔し紛れに折り畳んでいる大鎌の柄を突き出すが、【弦月】の蹴りで容易く弾かれる。しっかりと着地したキリトはシュユに向けて【バーチカル】を繰り出すがシュユは【ホリゾンタル・アーク】を使用してキリトの剣を弾きつつ反撃を繰り出す。

 シュユの斬撃を斜めに構えた剣で見事に流したキリトは突きを放つ。シュユの胸部を狙った突きは当たれば必殺の威力を持つ。思い切り身体を捻って回避するが、足が動かず地面に倒れる。それが致命的な隙になる事は解っていたので、地面に積もる雪を巻き上げる事で目眩まし代わりにして距離を取る。

 

 「俺はサチを生き返らせたいだけだ!それの何がいけないんだ、シュユ!?」

 「お前は馬鹿じゃない、解ってるんだろ、キリト!この世界(SAO)にそんな都合の良い話が有る訳が無いと、もう学んでいるだろう!!自分が原因だという事実から、目を逸らすな!!」

 「俺が原因....?」

 「全てお前が悪いとは言わない。けどな、お前が黒猫団に関わらなければ、ギルドが壊滅する事も無かった!それが事実だろう!」

 「違う!俺はただ、皆を――」

 「――守りたかった、そうなんだろう!?だが、その傲慢がギルドを潰した!お前が入らなければ、きっと黒猫団は中層でゆっくりとレベリングしていたんじゃないのか?お前が嘘を吐いて変に調子に乗らせなければ、死ぬ事は無かった、防げたんじゃないのか!?」

 「っ、それは....!」

 「黒猫団の壊滅は、他ならないお前の臆病さと傲慢さが招いたんだよ、キリト!」

 

 そう、全ての責任がキリトのものではない。だが、殆どの責任がキリトにある事は紛れも無い事実なのだ。彼がもしレベルを偽らずにいたのなら、全員はキリトの指示に耳を傾けただろう。キリトが黒猫団メンバーのレベリングの際に防御メインの立ち回りではなく、いつもの攻撃的な立ち回りで前に出ていたのならトドメはキリトが刺す事になり、変に増長する事は無かった。彼が上の階層の情報を「情報屋から聴いた」とか「フレンドが言っていた」などと言わずにしっかりと「自分が見た」と言えば信頼性も上がり、トラップに引っ掛かる事は無かったのかも知れない。極論にはなるがキリトが黒猫団と関わらなければ、黒猫団は中位ギルドのまま、壊滅する事は無かったのだ。

 キリトは泣き喚く子供の様に頭を振り乱し、叫ぶ。

 

 「そうだ、その通りだ!!だから償うって決めたんだ!だから、俺の邪魔をするなァァァァァァ!!!」

 「っ、馬鹿が!サチがそんな事を望む様な人じゃないと、お前の方が理解してる筈だろうがァァァァァァ!!!」

 

 2人は左手を前に翳し、右手に握る剣を肩の上に大きく引く。片手剣のソードスキルの中でも最高峰の威力を誇る単発重攻撃【ヴォーパル・ストライク】の構えだ。赤紫のライトエフェクトが剣を包み込み、2人の気迫が周囲の空気をピリピリと刺激する。とっくに規定のチャージ時間は過ぎている。だが、2人は動かない。どれだけの間動かなかったか判らない。数秒かも知れないし、数分かも知れない。次に2人が動いたのは木の枝から雪が落ちた音が響いた瞬間だった。

 

 「「.......ッ!!」」

 

 全く同時に動き出し、寸分も狂わずに剣を突き出す。このソードスキル発動時特有のジェットエンジンの様な音が静寂を斬り裂き、そして2人の頬も斬り裂いた。紅いダメージエフェクトと不快なダメージフィードバックが走るが、シュユは無視して()()()()()()。スキル発動中に手放した為、剣は凄まじい速度で飛んでいく。一瞬気を取られたキリトの懐に、ステップで潜り込む。

 握り拳を作ると、【体術】のソードスキルを使用しようとする。が、また芽生えた『何か』が確実にキリトを殺せる【穿牙】を使えと囁く。だが、彼は従わない。キリトの鳩尾に【閃打】を一撃、よろめいてスキルが中断された隙にもう一撃叩き込む。

 

 「ぁ.....サ、チ......」

 「Good Night(グンナイ)、キリト」

 「き、キリト!?」

 

 振り向けば、バンダナを巻いた赤毛の男が数人の仲間を連れて来ていた。キリトの名前を知っているのなら、仲間だろうと思いシュユはキリトを抱えて男の元へと向かう。

 

 「...アンタは、キリトの知り合いか?」

 「あぁ、仲間だぜ」

 「じゃあ、コイツを頼む。...オレの名前はシュユ、アンタは?」

 「クラインだ、よろしくな、シュユ」

 「あぁ、よろしく。クライン、頼みがある」

 「何だ?」

 「コイツの目が覚めた時、一緒に居てやってくれ。今のキリトに必要なのは不安と怒りの捌け口(スケープゴート)と信頼できる仲間だ。...捌け口は、オレだけで充分だ」

 「...な、なぁ、【死者蘇生アイテム】は使えねぇのか?惜しいのは分かるがよ、それじゃキリトが不憫で仕方ねぇ」

 

 その言葉に、恐らくギルドメンバーの男達が一斉に頷く。それを見てシュユは、彼等は善い人だと直感した。そんな彼等に現実を見せるのは酷だと思うが、嘘は時に人を傷付ける。そう思ったシュユはアイテムのテキストを彼等に見せた。

 

 【背教者の冥鈴(めいりん)

 《背教者ニコラスがその生涯を文字通り捧げて得た中途半端な祈りであり呪いの鈴。

 元は熱心な殉教者であったニコラスは貧困や飢餓に喘いで死んでいく人を憐れみ、神の教えを捨てて悪魔となりながらも死者を蘇らせる力を手に入れた。

 しかし、その力は不完全であり死んで直ぐの人しか蘇らせる事は出来ず、これでは人を救えないと絶望したニコラスは人を自らの手で殺し、蘇らせるという狂った救済を行った。

 ニコラスの力が籠ったこの鈴を使えば死んで1()0()()()()の人間の魂を呼び戻す事が出来る》

 

 これを見たクライン達は絶句した。これでは、確実にキリトが救いたいと願った者を救えないと理解したからだろう。

 

 「...そして1つ、伝言を頼む。『サチが何も遺していないと思うのか?』と、それだけだ」

 「....承ったぜ、シュユ。帰る場所が有るんだろ、行きな」

 「感謝する、クライン」

 

 シュユは直ぐ後ろの木の幹に突き刺さる剣を回収すると、ソウルアイテムのテキストを読む。

 

 【背教者ニコラスのソウル】

 《神に殉じ、神を呪った者のソウル。

 鈴を用いて人を救いたいと願った彼は絶望し、自ら殺し自ら救済をもたらすという行為に走った。その際、絶望の余りに髪と髭は白く染まり、服は返り血で紅く染まった。

 狩人に狩られた彼の思念は永遠に下界をさ迷い続け、ある日だけ具現化してエゴの救済をもたらす。死が唯一の救済であり、永遠に楽になれるという夢と幻をプレゼントする、サンタクロースの模倣はもう1度狩られるまで救済を騙る殺戮を続けるのだろう》

 

 設定でしかないこのエピソードが、酷く自分達に合っていると感じた。たった1人の命を助ける為に東奔西走、そして現実を叩き付けられたシュユは疲弊していた。だが、友人に自分と同じ思いはさせないと、壊れてしまわない様にと彼は友人の憎まれ役を買って出たのだ。見えず、見せない様にはしていたがシュユは限界だった。

 いつ転移門(ポータル・ゲート)を潜ったのか、それとも転移結晶を使ったのかは覚えていない。だが、シノンが居る筈のホームを見て、そして部屋に灯りが灯っている事を確認したシュユは思わず走り出していた。ロックされていない扉を蹴り開ける様に開け、自動で閉まる扉を省みずリビングに飛び込む。そこには、テーブルに頬杖を突いて雪が降る外を眺めるシノンが居た。

 

 「シノン....!」

 「シュユ!?ねぇ、今までどこに――」

 

 問い詰める言葉は途中で遮られる。それはキスでも何でも無い、ただ彼が縋り付く様に抱き着いたからである。幼子の様に、膝を床に付けてシノンの腹部に顔を埋めていた。キリトとの戦いで解放され、離れた事で再び抑圧された感情がシノンを見た事でまた解放されたのだ。しかもキリトよりも心を許しており、弱味を見せられるシノンなのだ、もう限界だった彼は耐えられなかった。

 

 「頼む...今日だけで良い。だから、今だけはこうさせてくれ....じゃないと、耐えられない...!」

 

 彼は表情に出さないだけで、怒りもすれば哀しみもする。そして傷付く時は傷付くと知っているが、シュユはそれを抑え付けて表に出す事は滅多に無い。それを知っているシノンは、自分を抱き締めているシュユの身体が小刻みに震えている事を感じると、何も言わずに背中を一定のリズムでポンポンと叩き、頭を撫でる。

 正に幼子にする行為だが、それ故に安心する。人肌の温もりとシノンの身体から聴こえる心音、そして安心する甘い匂いと撫でて貰っているという安心感。彼の意識はもう保つ事が困難だった。

 

 「....大丈夫よ、シュユ。今は私しか居ない。泣いても良いし、寝ても良いの。今日はクリスマス、あなたにもプレゼントが無いと不公平だもの、ね?」

 

 その言葉が耳元で囁かれる。いつもはストイックな彼だが、もう限界だ。肉体的な疲労と精神的な疲労に呑み込まれ、彼はシノンに抱き着いたまま眠りの世界へと旅立っていった....

 

 「お帰り、そしてお休みなさい、シュユ....」

 

 そしてシノンも、座っている安楽椅子の背もたれに身体を預けて意識を手放した。




 シノン「原作主人公を結構な扱いするのね、あなた」

 作「始めから中々な毒舌ですな」

 シノン「だって事実じゃない。まさかあんなにキリトに責任が有るって押し売りするの、見たの初めてよ」

 作「えっとですね、今回の話は私の考えそのものを少しオブラートに包んだ感じなんですよ。実際問題、黒猫団の壊滅はキリトが絡まなければ無かった話ですしお寿司」

 シノン「批判は?」

 作「覚悟はしてる。と言うか、原作改変で死亡キャラ生存とかタグに書いてるんだから苦手だったり嫌いな人は読んで貰わなくて結構ってのが私の考え。それで批判やら低評価付けられても、互いが嫌な感じになるだけだしね」

 シノン「それ、前も後書きで言ってたと思うんだけど?しつこい男は嫌われるわよ?」

 作「ヌッ」(絶命)

 シノン「あ、死んじゃった....。まぁ、多分元に戻るから大丈夫よね?えっと、取り敢えず、次回もよろしくね!」
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