2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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26話 抑止力

 「き、キリトさん...」

 「大丈夫だ、シリカ。俺が護るから」

 

 第47層の【思い出の丘】でシリカとキリトは犯罪者(オレンジ)ギルドである【タイタンズハンド】のメンバーに取り囲まれていた。メンバーの狙いはシリカが入手したテイムした存在を蘇生する事が出来るアイテム【プネウマの花】。それを横取りする為に待ち伏せしていたのだ。

 キリトはタイタンズハンドによって壊滅させられた【シルバーフラグス】のリーダーから仇討ちを依頼され、それを引き受けたのだ。その為に、と言っては悪いがキリトはシリカと行動を共にして、こうして誘い出した。

 

 「っ.....」

 

 しかし、このデスゲームはレベル差を数で補えるゲームである。純粋なMMORPGならばそれは難しいが、SAOは回避も防御も自分次第。オートヒーリングの回復量はそれなりにあるとは言え、それを上回る速度で削られれば普通に低レベルプレイヤーにも殺されてしまうのだ。故に、今のキリト達はそれなりに危ない状況にあった。

 だが、シリカはそんな事は頭に無かった。何か、恐ろしい何かが近付いてくる様な感覚がしている。コツ、コツ、と1歩1歩、ゆっくりと確実に近付いてきているかも知れない『ソレ』が恐ろしくて仕方が無かった。震えるシリカに、タイタンズハンドのメンバーに怯えていると感じたキリトは自分の陰に隠す様に立ち塞がる。

 一触即発、もし何か物音がすれば激突しそうな雰囲気の中、悠然と歩いてくる者が居た。帽子を目深に被り、両手をポケットに突っ込んで歩いてくるその人物はこの場には不釣り合いで、それでいて誰よりも濃密な雰囲気を醸し出していた。

 

 「さっさと帰れよコラ!お?殺すぞ」

 「逃がす必要は無いよ。後々面倒だからね」

 

 男とリーダー格の女性、ロザリアが言う。殺害予告をされたというのに、胸ぐらを掴まれても何も動揺の気配を感じさせないその人物は呟いた。

 

 「.......匂い立つなぁ........」

 「あ?俺が臭うだ?」

 「嗚呼、匂う......薄汚い、獣の匂いだ」

 「んだ--ッ!?」

 

 男は激昂し、胸ぐらを掴んだまま斬り殺そうとするがそれは叶わなかった。一瞬でアイテムストレージから実体化した刀が、男の身体を真っ二つに両断したからだ。本来なら血飛沫が噴き出すが、それは深紅のダメージエフェクトで代用されてはいるのだが、それでも周囲の人間を驚愕させるには充分かそれ以上だった。

 

 「な、あんた達、ビビってないで殺っちまいな!!相手は1人だ、数で押せ!」

 

 周囲から押し寄せてくる男達。その目には殺気がみなぎっており、彼を殺す気満々である事を分からせる。それぞれが剣や斧を彼に振り下ろすが、彼はもうそこには居なかった。周囲の空気に溶け込むかの様に姿が消え、次に男達が認識したのは凄まじい速度で振るわれる大鎌だった。

 残りの男は2人。彼は大鎌から片手剣に武器を変形させると1人の心臓の辺りを刺し貫くが、最後の1人が逃げてしまう。彼は呆然と見詰めた、そんな素振りを見せた次の瞬間、逃げた男の背中から投げナイフが貫通して体力が全損してポリゴンを撒き散らして死亡した。

 

 「な、何が目的なの!?お金、それとも女!?何でもする、だから私だけは助けて!!」

 

 先程まで高圧的な態度でいたロザリアは怯え、命乞いをする。彼はロザリアを見詰めると、剣を握ったまま近付く。そしてそのまま--

 

 「キミは()()人間だ、見逃そう。だがそのまま罪を犯せばオレは、お前を狩る(殺す)よ」

 「ヒッ.....!!」

 

 武器をアイテムストレージに収納し、再び歩き出す彼。シリカはその背中を無我夢中で追い掛けた。キリトは依頼を達成しなければならない為、ロザリアを黒鉄宮に送還する事を優先した。

 

 「っ、()()()()()!」

 「......キミ、誰?」

 

 『彼』はシリカの予想通りシュユだった。だが、あのカーヌスと居た時の雰囲気は欠片も残っていない。2週間でここまで変わってしまったシュユに若干恐怖する。そして、確かに自分の名前を呼んだ筈の彼が、自分に誰だと問い掛けた事に驚愕した。

 

 「私です、シリカです!」

 「シリカ....シリカ...?あぁ、あの竜使い(ドラゴンテイマー)の?」

 「あなたと1度だけですけど、お話しました!それは覚えてないんですか?カーヌスさんと、一緒にお話しましたよね!?カーヌスさんは--」

 「--カーヌスって、誰?」

 

 次は、何の言葉も出なかった。確かに信頼関係を築いていた筈のシュユが、カーヌスをだれだと問い掛けたのだから。少なくとも、何か良からぬ事が有ったのだと思った。だから、シュユに近付こうとしたのだがそれは出来なかった。

 今気付いたが、シュユの視線は今初めてシリカを射抜いている。その双貌は純粋に濁っていた。どこも澄んでいない、ただ純粋に濁っている様に感じたのだ。

 

 「ねぇ、オレンジかレッドプレイヤーの居る場所、知らない?」

 「...え?」

 「狩らなきゃいけないんだよ。奴等は人間に害を及ぼす獣なんだ、狩らなきゃいけない」

 「狩るって...殺すんですか!?」

 「まぁ、そうだね。で、知らない?」

 

 シリカはもう恐怖以外抱けなかった。あまりにも無邪気に、幼さを感じる口調で狂った内容を嘯く彼に、恐怖したのだ。犯罪者、殺人者とは言っても元は同じ人間。それを【獣】と呼んで『殺す』のではなく『狩る』のだ。その思考と豹変に彼女は怯えてしまった。

 

 「知ら...ない、です」

 「そっかぁ、じゃあ仕方無いね。それじゃあ、キミが【獣】になったらまた会うかもね。そうならない事を願ってるよ」

 

 また歩き出したシュユの背中を見送るしか、シリカには出来なかった。

 

 「シリカ、いきなり走ってどうしたんだ?」

 「い、いえ...」

 「じゃあ早速ピナを--ん?」

 「どうかしたんですか?」

 「いや、メールが来て....珍しいな、KoBからグランザムのギルドホームに来て欲しいってさ。なんか、【オレンジプレイヤー狩り】の話らしいんだけど--」

 

 【犯罪者(オレンジ)プレイヤー狩り】など、そんな狂行としか思えない事をしているプレイヤーは、彼しか居ないだろう。そう思ったシリカは、決断した。恐怖を圧し殺して、勇気を出したのだ。

 

 「--キリトさん、私も連れてって貰って良いですか?」

 「え?まぁ、多分大丈夫だと思うけど....ピナはどうするんだ?」

 「ピナには悪いかもですけど、ここで蘇生します。じゃあ、早速やりましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第55層、グランザムの街。黒鉄の建造物が立ち並ぶその街の中にSAO最強と名高い【血盟騎士団】のギルドホームは有る。キリトとシリカはKoBメンバーが放つ、少なくとも歓迎されてはいない視線に晒されながら会議室に来ていた。

 

 「....キリト?」

 「シノンか?どうしてここに居るんだ?」

 「私だって知りたいわよ。シュユの事を早く捜したいの」

 「どこかに出掛けてるんじゃないのか?」

 「....多分、違いますよ。あの人は--」

 

 オレンジプレイヤーを狩っている。そう言おうとしたシリカの眼前に、槍の穂先が突き付けられる。と言うより、実際に突かれていた。目の前に現れる紫色の安全圏内の保護ウィンドウが何よりの証だ。シリカが怯えながらシノンの顔を見れば、先程のシュユの様に濁った瞳がそこには在った。

 

 「--シュユを、どうしたの?」

 「...え?」

 「あなたがシュユを誑したの?」

 「違います、私は--」

 「--揃っている様だね」

 

 シリカの言葉を遮る様に入ってきたのはKoBの団長にして唯一のユニークスキル保持者、ヒースクリフ。その後ろに控えるのは【閃光】アスナと【絶剣】ユウキのSAO内でもトップの実力と名声、美しさを誇る2人の女性プレイヤーだ。

 流石にここで槍を突き付けている事がバレるのは不味いと感じたのか、シノンは槍を納めている。流石の反応速度と言うべきか。ヒースクリフは全員の顔を見ると、話を始める。

 

 「君達に集まって貰ったのは他でもない、最近現れた【犯罪者(オレンジ)プレイヤー狩り】の事を教える為だ」

 「ねぇ団長、それってボク達に関係あるの?しっかりカーソルはグリーンのままなんだけど」

 「確かに、私達も呼ぶ必要性は無かったと思いますが。それよりも攻略を進めるべきでは?」

 「まぁ待ちたまえ、ユウキ君にアスナ君。確かにここの全員はグリーンカーソル、つまり犯罪者狩りの対象ではないが、少なからず関係は有る」

 「まずはその犯罪者狩りの粗方の情報を教えて欲しいわね。じゃなきゃ、関係性なんて見出だせないわ」

 「確かにその通りだ、それでは教えよう。...その犯罪者狩りが現れたのはつい最近だ。そのプレイヤー...仮に『彼』としよう。彼はグリーンカーソルの者は狙わず、オレンジカーソルのプレイヤーのみを殺している。その手口は単純な正面突破で、ギルドごと壊滅させた事が有るらしい。恐らくレッドを見付ければ狙うだろうが、彼はふらりと現れると犯罪者を狩り、そしてまた直ぐに立ち去ると聞く」

 「...まさか、俺達が会ったあのプレイヤーか?」

 

 キリトの言葉に、全員がキリトの方向を向く。

 

 「見たのかね?」

 「あぁ。だけど顔は見えなかったし、何より速すぎて見えなかった。俺は色々有って話が出来なかったけどな」

 「.....私は、正体を知ってます」

 「そうなのか、シリカ?」

 「.....はい」

 

 全員は視線で続きを促す。シリカはそれを察すると、しっかりとそのプレイヤーネームを口にした。しかも、2つ名まで添えて。

 

 「その人は【狩人】、シュユさんです...」

 「その冗談は笑えないよ、シリカちゃん。その言葉、本当にそうなのかな?ねぇ、本当にシュユがその犯罪者狩りだって言うの?」

 「は、はい。しっかりと話もしましたし、確実にシュユさんでした。.....でも、前と雰囲気が違いました」

 「前も会ってたって事はこの際置いといてあげるよ。で、雰囲気が違うって?」

 「何と言えば良いのか....世捨て人、みたいな感じでした。何もかもを見限って、フラフラとしている。そんな感じです」

 「ふむ....確かに、その姿を見たプレイヤーは【狩人】と類似した格好をしていたと言っていたな。情報提供、感謝する」

 「それで、どうするんですか?私達で指名手配を--」

 「--それはさせないよ、アスナ」

 

 シュユの指名手配を進言したアスナの首筋に、ユウキの剣が当てられる。その手に震えなどの迷いの兆候は無く、本当にやる時は殺る、その未来が簡単に見えた。

 

 「指名手配するつもりなら、ボクはこのギルドを抜けるよ、団長。攻略なんてシュユの前ではどうだって良い。ボクはシュユを優先する」

 「ユウキ、あなたは皆の命よりも1人の命を取るの!?」

 「ボクはそうするよ。ボクには、それが出来る」

 

 その言葉に室内は静まり返るが、ヒースクリフの一言でその静寂は切り裂かれる。

 

 「早とちりしないでくれ。指名手配をしない為に私は君達をここに集めた。君達は...シリカ君は分からないが、少なくともシリカ君を除いた全員はシュユ君とパーティを組んだ事がある者だ。だから、君達にはシュユ君を連れ戻すなり正気に戻すなりしてくれたまえ」

 「......中々に太っ腹ね。しかも、ギルドに所属してない私達まで集めて」

 「私達が総力を以て情報の拡散は防ぐ。攻略も一旦ストップし、自治の強化に力を注ぐ。だが、幾ら犯罪者とは言えプレイヤー狩りには違いない。グリーンも狩られるかも知れない、そういう不安が積もれば爆発し、処刑という結果に行き着いてしまうかも知れない。そうなる前に、頼む」

 「団長の目的は何なの?正直、メリットが見付からないよ」

 「簡単な話だ。攻略する為に強いプレイヤーは必須、シュユ君の損失はSAO全体の損失だ。ならば助けるのは当然だろう?」

 「....俺も、シュユには借りが有るしな。俺はやるぜ」

 「私は言わずもがな、言われずともやるわ」

 「ボクも、当然ね」

 「....団長に頼まれれば、やらない訳にはいきませんよ。彼には借りも有りますし」

 「私も、微力ながらお手伝いします!」

 「頼んだぞ。支援は出来る限り行おう」

 

 シュユを止める為に、動き出す者達が現れた。そんな事は望んでいない、彼を止める為に...




 ユウキ「投稿遅れてごめんね!春休み終わっちゃったから、書く時間が減って作者も死にかけてるから許してあげてね」

 シノン「あれ、シュユは?」

 作者『本編であの状態のシュユ出すのはメタ空間とは言えなんか嫌なので、暫くお休みです』カンペ

 シノン「中々勝手な理由ね。...あぁ、これからは投稿ペースが遅れると思うわ。作者の部活も始動するし、休日も忙しくなりそうだからね」

 ユウキ「それでも投稿はしっかりするから、暇な時に読んであげてね!感想をあげると喜んで睡眠時間を削って書くよ!」

 シノン「ほんと、単純な作者よね。じゃあ締めましょうか、せーの--」

 シノン・ユウキ「「次回もよろしくね!」」
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