シュユは眠っていた。フィールドにある洞穴に身を潜め、【
【獣狩りの夜、開演】
《
余りにも出来過ぎているイベントだった。SAOは犯罪を助長する要素は無く、そして罪を犯した者の居場所を無くしていく。にも関わらず、このメールに記載しているイベントの参加者はその犯罪者プレイヤー以上であり、しかもユニークウェポンかユニークスキルを贈呈するという。流石に怪しく感じるメールだが、彼は立ち上がった。
「...殺ってやるさ。【獣】は全て、オレが狩ってやる....」
彼はしっかりと装備のコートを羽織ると、ゆっくりだが確かな足取りで歩き出した。もう覚えてもいない後悔を、2度としない為に。
「やっぱり罠、か」
狼ヶ原に到着したは良いが、やはり誰も居なかった。元々SAOはイベントの告知をメールではしない。だが、来ずには居られなかったのだ。例え分かりきった罠でも、そこに【獣】が来る可能性が僅かにでも有るのなら、シュユはそこへ行く。そして狩り、生き残る。
現れる人影は4人。
だが彼は逃げない。まだカーソルが視認出来ていないが、自分が狩る対象ならばどんな不利な状況でも狩るだけなのだから。
「会いたかったよ、シュユ。グランザムでの再開の次が、まさかこんな会い方だとは思ってなかったけど」
「..............」
「そのまさかよ、シュユ。あなたに人殺しなんてこれ以上させない」
「そうだ。...俺はお前に借りが有るんだ、シュユ。それを、今返す!」
「私だって、護ってくれた借りとか有るんだから。借りっぱなしは性に合わないの、返させて貰うから!」
「.........キミ達、誰?オレの事を知ってるのか。でも--」
シュユは片手剣形態から大鎌形態に【葬送の刃】を変形させ、言った。
「--狩りを邪魔するのなら、殺すよ」
「ッ、シュユ!!」
ユウキの声で全員が駆け出す。が、シュユはそれを超える加速と速度で接近、大鎌を振り抜いた。流石はトッププレイヤー、しっかりと大鎌の軌道を見抜くと全員は回避し、反撃を加えてくる。槍と細剣の突きは身体を全力で反らして回避、剣の横振りは跳んで回避した。だが、跳べばシュユでも派手に動けない。全員は狙い澄ました一撃をシュユに向けるが、シュユは何とキリトの剣を【閃打】を使用して殴り、無理矢理身体を動かす事で回避して見せた。
着地するとバックステップして距離を取り、シュユは胸を押さえる。過労から来る目眩と動悸に苦しんでいるのだ。ステータス上では何も表示されないが、戦いに関しては話は別だ。どれだけ小さい不調でも、その小さな不調で強者は死んでしまう。
顔を上げた瞬間に、目の前を剣が通過していく。ユウキの剣だ。次は前方にステップ、ユウキの腹部を殴る。STRに補正が掛かっているシュユの一撃は、軽いユウキの体躯を容易く吹き飛ばした。
「オレが....狩らなきゃいけないんだ....!」
肩を掠っていく槍の刺突。大鎌の柄で叩き落とし、足で踏みつけてシノンの反撃の手段を潰すが、ダガーのソードスキル【ラピッドバイト】により二の腕を斬られる。マトモに斬られたからか、体力バーが5%ほど減ってしまう。不快なダメージフィードバックに一瞬身体が強張った瞬間、キリトの剛剣が迫る。当たれば大ダメージは必至だろう。
「なっ.....!?」
だが、次の瞬間シュユの身体がブレたかと思えば、
「ッ、シャアアアァァァァァァァァ!!!」
大鎌で薙ぎ払い、キリトの背中を斬る。更に遠心力に任せて蹴りをシノンに叩き込み、ユウキには顎を掠める様に拳を放つ。咄嗟に反応したアスナは大鎌の一閃を避け、反撃の突きを放つがまたしても一切の挙動も無く側面に回り込んだシュユの拳を受けて、地面に倒れ伏す。ユウキはまだ倒れずにシュユに【レイジスパイク】を放つが、それはシュユの右手首に着いている鍵の紐を斬っただけで、回避されてしまう。脳震盪を起こしているにも関わらず、反撃を試みた代償に倒れてしまう。
「な、にが...?」
「.....ぅ、ぁ.....」
全員、シュユに与えられた数値的なダメージよりも仮想脳を揺さぶるダメージを重視した一撃に苦悶の声を上げる。だが、ダメージを与えた筈のシュユも頭を押さえて苦しんでいた。
今シュユが使用したのは後に【ゼロモーション・シフト】と呼ばれる裏技、もっと言えばズルとも言える。何故なら、この技はVR適性が高い事が前提条件であり適性が高くない人間は使えない技だからだ。
元々VR適性というのは仮想世界での
通常では有り得ない、全く挙動の無い動きはあらゆる抵抗を無視して予兆も無く移動できる。しかし、空気の動きや地面の抵抗を無視した反動は仮想脳に多大な負荷を掛け、シュユの脳に痛みとしてその反動を伝えてしまう。もっと言えば、無理な移動による痛みはダメージフィードバックとして脳を襲う為、耐え難い頭痛とダメージフィードバックの両方に耐えなくてはならないのだ。
シュユはそれに耐える。そしてもう1つ、彼等への耐え難い殺意に耐えていた。今すぐにでも倒れている背中にその刃を突き立て、殺してしまいたいという欲求は膨れ上がり、彼の手足を動かす。
「.....オレは、まだ【人間】なんだ。オレが狩るのは、【獣】だけだ....」
シュユは立ち去った。誰にも言い残した訳でもなく、ただ目的だけを口にして。そして、落とした鍵を省みる事は無かった。
「...この鍵は、どこの鍵なのかな、シュユ....?」
【工房の鍵】と名付けられた鍵はユウキの問いに答える訳も無く、ただ鈍い輝きを放つだけだった。
シリカ「そう言えば、作者さんってリア友さんに何か言われたんですよね?」
作者「どうも、今回はカンペじゃない私です。で、まぁその通りですね。この小説って主人公最強なのかどうなのか、です」
シリカ「そこの所どうなんですか?」
作者「最強と言うより最凶ですかね。負ける事も有りますが、最終的には勝てる。でもその結果がキリトの様に最善とは限らない、そんな感じです」
シリカ「へぇ~、そうなんですね。でも強いんですよね?」
作者「そうですね。さて、そろそろ締めましょうか。せーの--」
シリカ・作者「「次回もお楽しみに!!」」