「ぅ.....アアァァァッ!!」
痛い、苦しい。
「何でだよ.....誰が獣を狩るなんて決めたんだよ....どうしてオレが苦しんでんだよぉ....」
辛い、止めたい。
「....もう、全員殺しちゃおうかな。フフ、そうだな。みんな殺せば、獣に成る人も居なくなる....みんな、みんな殺せば--」
道を間違えそうになる。だが、胸元のペンダントがそれを止めている気がする。まだ人間で在りたいと、在って欲しいと願う誰かが、墜ちてはならないと繋ぎ止めていた。
「--ダメ、だ。オレは人でなきゃいけないんだ....獣にはならない....」
それでもシュユは歩く。過労から来る倦怠感と【ゼロモーション・シフト】などの仮想脳に掛け過ぎた負担に苦しんでいても、獣を狩る為に。記憶の靄に包まれ、忘却してしまった2人に、どうにかして報いる為に。
「やっぱり、ボクの予感はシュユに関してなら当たるんだね」
「またキミか....もう関わらないでくれないか」
大鎌を遺体から引き抜くシュユ。恐らく犯罪者プレイヤーだったであろう遺体はポリゴン片となって破砕音を響かせ、森の緑へ融け合って消えた。
既に1度、倒した筈のユウキが現れた事にシュユは辟易している。非生産的で、何よりシュユにとってはグリーンプレイヤーは標的ではなく、寧ろ護るべき対象だ。そんな彼女と戦うのはシュユにとって望む所ではなく、オレンジやレッドと違って殺すべきではないプレイヤーとの戦いなど、加減が難しい。しかも、その苦手な対人戦の相手がSAO内トップクラスの実力を持つユウキだと言うのだから厄介この上無い。
「イヤだ。ボクはシュユを放っておけないよ」
「だから、それが面倒なんだよ。オレはキミが誰だか知らないし、絆なんて必要ない」
「そうやって、殺し続けた先に何が有るの?確かにシュユは犯罪の抑止力にはなってる。いつかは犯罪を完全に無くす事も出来ると思うよ。でも、完全に犯罪が無くなったらシュユは用済みになっちゃう。それでも良いの?」
「
「そうだよ。シュユにこれ以上殺人なんてさせない!」
「....どうせキミも獣になる。そうなる前に--」
シュユは葬送の刃ではなく、千景を実体化させる。ユウキも腰に下げている聖女の祈剣を抜き放ち、構える。
「--オレが、狩ってやるよ」
千景を納刀、そこからカタナ系ソードスキル【辻風】を発動する。対するユウキは振るわれるカタナを斜めに構えた剣で流し、【水月】を使う。鋭い中段回し蹴りは空を切り、シュユはバックステップで距離を取っていた。シュユの【ソニックリープ】の突進は回避され、ユウキは猛スピードで通り過ぎていったシュユの背中に向けてナイフを投げるが、【投擲】スキルを持たないユウキの貧弱な投げナイフではシュユを捉える事は出来ず、容易く回避される。
お返しとばかりにナイフを3本同時に投げる。スキルの速度補正が掛かるそのナイフの速度はユウキのソレとは比べ物にはならない。ナイフに一瞬だけ気を向けた瞬間、シュユの姿は消える。その姿を捜そうとしたその時、背後から迫る殺気を感じ取るとユウキは迷わずに反転、剣を思い切り上へとカチ上げた。
「シュユが言う【獣】だって、元は人だったんだよ!」
「人を自らの意思で虐げる人なんて【獣】と同等じゃないか!それを狩って何が悪い!?この
「だからって殺すなんて、そんなのはシュユが言う【獣】と何も変わらないんだよ!」
「黙れェェェェ!!!」
感情のまま放たれる大振りの一撃を掻い潜り、全力を籠めて放たれる突き。完全に隙を突かれたその一撃をシュユは【ゼロモーション・シフト】を使って回避する。通常の移動では有り得ない機動に仮想脳が悲鳴を上げるが、それを無視してシュユは千景を振る。液体の様に飛び散るダメージエフェクトは小さいながらも攻撃力を持ち、ユウキの体力を僅かに減らしていく。これが刃と共に密着すればどうなるか、想像に難くは無い。
垂直4連撃ソードスキル【バーチカル・スクウェア】をシュユが放つ。それに対抗する様にユウキは水平4連撃ソードスキル【ホリゾンタル・スクウェア】を放つ。垂直と水平、そのまま放てばぶつかる軌道を持つ2人のソードスキルは当然の様にぶつかり合って火花を散らし、凄まじい速度の斬撃の威力が相殺された反動で後退せざるを得なくなる。既に戦場は森から平原に変化している。
ぶつかり合う斬撃の派手なライトエフェクトは夜闇を照らす。もう2人以外のプレイヤーの影は無く、ただ2人は金属音を奏でていた。シュユのステップはフォーカスロックと呼ばれる、プレイヤーが使える補助的な捕捉機能を混乱させる。右に動くかと思えば左に、左に動くかと思えば右に、フェイントを疑って反対に動けば普通に動くその動きは、システムを誤認させて何も無い空間にフォーカスロックを留まらせる事が出来る。だが、ユウキは野性的な本能と持ち前のVR適性の高さでシュユのステップによる混乱を差し引き0にしていた。
「どうしてオレにそこまで構う!?オレとキミは赤の他人、オレが傷付こうがキミには何の関係も影響も無いだろう!?」
「有るよ!!」
「ッ!?」
「シュユが傷付くのはボクがイヤだ!シュユが傷付くとボクも痛いし、シュユには傷付いて欲しく無いんだよ!!」
「理解が出来ない!そんな感情、オレは知らないッ!!」
「これが『恋』なんだよ、シュユッ!!」
ユウキが放った袈裟斬りは数少ないパリィ系のソードスキル【
死ぬ、ただソレだけの予感がユウキの背中を伝う。が、次にシュユが放ったのは腹部目掛けての【閃打】のみで、追撃の手を打ってはこなかった。地面に転がり、圧迫された事による仮想の嘔吐感を咳き込む事で解決する。仰向けに転がるユウキの顔を水滴が伝う。涙ではなく、ただの雨だ。大粒の、激しい雨だ。
シュユの追撃。それを喰らえばVITにポイントを振り分けていないユウキは死んでしまうだろう。そんな事をすれば、シュユは自分が【獣】に墜ちたと言って自殺を選ぶ。それだけはイヤだ、例え自分が死のうと、シュユだけは生きていて欲しい。そう願うユウキは自分を鼓舞する。もっと速く、もっと
「ボクは、死ねないッ!!」
その瞬間、
「おっと、そこまでだ」
「ッ、麻痺...!?」
シュユの左肩に突き刺さったのは投げナイフ。しかもその刀身にはレベル3の麻痺薬が塗布されていた。レベル3ともなれば蓄積値も速度もレベル2以下とは比べ物にはならない。簡単に麻痺したシュユは倒れながらも、自分にナイフを投げた人物を見る。その人物は黒いポンチョとフードを目深に被り、大きな包丁の様な片手剣を持っていた。その周囲には数人の仲間とおぼしき男達が黒ポンチョを取り囲む様に立っており、その全員の身体には棺桶から骸骨が出てこようとしているタトゥーが彫り込まれていた。
「ラフコフ....貴様ら....」
「そうキレんなよ、【狩人】。お前を殺すのは中々に惜しいんだが、どうせ仲間にはならんだろうからな。殺させて貰うぜ?確実にな」
黒ポンチョの男--PoHが率いるギルド、その名はSAO内で最も有名な2つのギルドの内1つ。攻略組という栄光を受ける、SAOの希望の光として有名なのが【血盟騎士団】とするのなら、このギルドは絶望の闇。多くのグリーンプレイヤーを殺害し、そのギルドのエンブレムとなっている棺桶と骸骨はSAOでの恐怖の象徴。名前は【
「シュユは、殺させない」
そこに立ち塞がるユウキ。だが、仮想空間では不慣れになってしまった激しい頭痛と倦怠感のせいでコンディションは最悪だ。しかも相手は殺人者、それも快楽殺人者だ。躊躇など一切存在しない、文字通りの獣。トッププレイヤーすら獲物にしてしまうラフコフの実力は間違いなくトップクラス、それをたった1人で止めようと言うのだ。このまま戦えば、ユウキは間違いなく死ぬ。
「...ま、お前を殺して狩人を絶望させるのも悪くはない、か。じゃあ狩人、まずは女の殺人ショーを楽しんでくれよ。イッツ・ショウ・タイム」
その言葉と共に、取り巻きの男達は走り出す。ユウキは剣を構え、無謀なる戦いを始めてしまった。助かる見込みは、無い。
リズベット「.....あたしの出番が無い!!」
リーファ「私の出番も無い!!」
作者「仕方無いじゃないですか。リズベットはもう少しで出られるけども、リーファに関してはALOに移行しなきゃならないんだから」
リーファ「名前くらいは出してよ!リアルネームなら出せるでしょ!?」
作者「シュユくん、あんまりキリトとは絡まないんで。まぁ、攻略に本格的に参加すれば絡むんですが」
リズベット「辛抱よ、リーファ。この作者、自分が考え付くままに書いてるだけだからキャラの出番が偏るのはデフォルトらしいから」
作者「失敬な。でも間違ってませんけどね」
リーファ「むー.....不満は沢山あるけど、そろそろ締めないとね。じゃあ、せーの--」
リーファ・リズベット「「次回もお楽しみに!!」」
リズベット「あれ、作者は言わないの?」
作者「こういうのはキャラに言わせたいんです」
リーファ「出たよ変な拘り....」