2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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31話 誇りと救いを

 体力バーが、減っていく。だが、減っているのはシュユ(自分)の体力バーではない。減っているのはユウキの体力バーだ。必死に剣を振り、時々耐え難い頭痛に身体を強張らせながらも善戦していた。そう、()()していた。

 だが、戦いに於いて数の有利というのは彼我の実力差を縮めるのに最も有効であり容易な手段だ。どんな豪傑でも、圧倒的な数の前には無力である。1体の巨大な象でも多数の軍隊アリに喰われる様に、ユウキは緩やかに死に近付いていた。

 

 --止めろ、止めてくれ。どうしてそこまでしてオレを護る?オレはキミを覚えていないんだ、なのにどうして...?

 

 覚えていないなど、()()。シュユは自分を偽っている。だが、忘れかけている事は確かだ。何度も仮想脳に多大な負荷を掛けた影響で記憶中枢が損傷を受け、自らの専属であった『(カーヌス)』と誰よりも臆病だった『彼女(サチ)』の記憶は既に無いも同然。もう顔も声も覚えてはいない。だが、幼少から共に過ごし、そして自らを捧げようとしたユウキを忘れられる訳が無い。

 自分が忘れてしまったと偽れば、諦めてくれると思っていた。武器を折って体力をレッド寸前まで削ればもう関わらないと思った。だが、それは間違っていた。ユウキは拒むシュユを受け入れ、そして元に戻そうと我武者羅に突っ込んできた。それが堪らなく嬉しくて、そして自分が情けなくなった。何故【獣】を狩っているのか、その理由すら覚えていない自分を追ってくれるその事実が、まだ自分が【人間】で在るという証だと思っていた。

 

 --逃げてくれ。オレが死のうと、ただの狂人同士の殺し合いと何ら変わらない。でも、キミは必要な人だ。希望になれる人なんだ...

 

 だからこそ生きて欲しいと願う。今すぐ起き上がって、彼女を生かす為に戦いたい。だがシステムがそれを許さない。シュユの身体を蝕む麻痺は身動きを一切ゆるさないのだ。

 

 --何故動かない?お前は恩を返さぬまま絶望に染まるのか?

 

 --動けないんだ。動きたい。あの人を助けたいのに、オレの身体は動かない。

 

 

 老いた人の声が聴こえた。幻聴かも知れない。だが、今は仮想の声帯すら麻痺して声も出せない。それなら、例え幻聴でも誰にも聞かれる事は無い。なればこそ、シュユはその声に応えた。

 

 --あの少女を助ける為に、何かを捨てる覚悟は有るか?

 

 --有るさ。オレの命は彼女の為に受けた。捨てられないオレはオレじゃない。

 

 --若く未熟な狩人よ、お前はこの(SAO)の中で苦しみ、そして狩りを続けるだろう。戦い抜く為の、その為の力を与えよう。さぁ、何を捨てて力を得る?

 

 --オレの殆どをくれてやる!だが、この想いと記憶だけはオレだけのモノだ!オレのユウキへの想いと記憶だけは、オレが持っていく!!

 

 --良い返事だ。実に愚か、実に夢物語、実に戯れ言。だからこそお前は【狩人】に相応しい。

 

 胸が熱い。貰ったモノなど解らない。スキルや武器を得たならウィンドウが表示される筈だ。だが、目の前にあるのは濡れた草と土だけ。貰ったモノは解らずとも、貰った事だけは解る。

 叫べ、自分が何者か!自分が何を狩り、何の為に狩る(殺す)のか!!そして、誰を護るのかッ!!

 

 「ッ.....ォォォ.....」

 「シュユ....?」

 

 もうユウキの体力はレッドゾーン寸前だ。もっと速く、もっと疾く、もっと強く。そして狩る。だが、それはつい先程までの盲執に囚われた狩りではない。目的を持った。そして護る者を得た、誇り在る狩りだ!!

 

 「ユウキに、何しやがるッ!!」

 「有り得ん!レベル3の麻痺だぞ!?早すぎる!」

 

 ゼロモーション・シフトを使って移動するのはユウキの眼前。嗜虐的な笑みを浮かべて武器を振る男の首に大鎌の刃を宛がうと思い切り引く。斬られた首は重力に従って落下、地面に接触するとポリゴン片となって砕け散った。

 シュユの全身からは半透明のオーラが立ち上っている。そして体力バーの下にはステータス変化を意味するマークが数個、状態異常(デバフ)無効と攻撃力と攻撃速度上昇、そして防御力低下のマークが点滅していた。だが、これはスキルではない。その証拠に効果時間の表示は文字化けを起こしており、そしてこの状態が幻の様にマークは明滅を断続的に繰り返していた。

 これは一時のバグ、そう判断した男達はシュユに向かって武器を振る。その速度は速く、絶対に被弾は避けられない様にも見えた。

 

 「ルゥォォォォォオオオオ!!!」

 「チッ、退け!オレが殺る!!」

 

 アドレナリンが溢れ出す。ゼロモーション・シフトを繰り返して1人に肉薄、そのまま大鎌を下から上へと振り上げる。浮き上がった男を叩き落とす様に振り下ろすと、簡単に男はポリゴン片へと還っていった。

 包丁型の魔剣クラスのモンスタードロップ【友斬り包丁(メイト・チョッパー)】を構えたPoHが突撃してくる。シュユは距離を取らずにそのまま前方にステップ、大鎌の先端の刃を取り外して片手剣にするとそのまま【ハウリング・オクターブ】を発動。高速の5連突きからの斬り下ろし、斬り上げをどうにか捌いたPoHだが、それでは終わらない。何とシュユはソードスキルの発動中に大鎌へと剣を変形させ、そのまま使用したソードスキルの最終段、つまり渾身の上段斬りを叩き込んだのだ。

 STRに補正が掛かっているとは言え、それ以上に強い力にPoHは狼狽する。現在確認されているプレイヤーの最高レベルはヒースクリフ、次点でユウキだ。シュユはそれよりも少し低い。にも関わらず、今のシュユの一撃は異常な程に重かった。剣に皹が入った事を悟ると、PoHは片腕を犠牲にして脱出する。ハンドサインでメンバーも退却させようとするが、そうは問屋が卸さない。

 

 「逃・が・す・かァァァァァァッ!!」

 「ッ!?......化け物がァァァァァァ!!」

 

 シュユは垂直に跳び上がると、5メートル辺りで静止する。そのまま大鎌を横一閃に振るうと、通常では破壊不可能な筈の地面に地割れが発生し、そして巨大かつ強力な鎌鼬の刃が逃げるラフコフのメンバーを追う様に全てを斬り裂いた。

 受け身も取れないまま落下すると、体力バーが極僅かではあるが減少してしまった。だが、落下のダメージフィードバックよりもアドレナリンが切れかけているせいで姿を見せてきている頭痛に苦悶の声を漏らす。1度使うだけでもかなりの負荷を掛けるゼロモーション・シフトを多用したのだ、当然の帰結だろう。

 目の前にウィンドウが現れる。内容は、ユニークスキルを獲得するか否か。シュユは指を伸ばしてNOを選択する。

 

 「.....【二刀流】なんて英雄染みたスキル、オレには使えんさ」

 「シュユ!!」

 

 駆け寄ってくるのは当然、ユウキしか居ない。体力は回復しているが、可憐な顔は泥だらけで土砂降りの雨に打たれてグシャグシャで、薄汚れていた。シュユは既に激しい頭痛に苛まれているが、それを押し殺し立ち上がってユウキの眼を見る。

 

 「....済まない、ユウキ」

 「え?」

 「オレはキミの事を忘れてなんかいない。しっかり覚えてる。でも、オレはユウキを傷付けた。赦して貰えるかどうかだけど、もし赦されるなら....」

 「赦されるなら?」

 「もう1度、キミの為に戦わせて欲しい」

 

 ユウキは黙ってシュユの頭を自分の胸元に引き寄せる。トクン、トクンと一定のリズムで刻まれる心拍に、少しだけ頭痛が和らいだ気がした。そのまま、ユウキはシュユに話し掛ける。

 

 「....赦してあげる。だからその代わり、ボクから離れないでね?」

 「勿論、だ....」

 「疲れちゃったね。眠って良いよ、シュユ。シュユはずっと頑張ってきたんだから、少しだけ休んでも多目に見てくれるよ、皆」

 「そ...か....」

 

 今までロクに休息も摂らず、無理な負荷を掛けてきた代償なのだろう。シュユはユウキの身体に全てを預けて眠ってしまった。ユウキは転移結晶を用いて、シュユと共にその場を立ち去る。シュユの寝顔は雨の中で眠ったにも関わらず、どこまでも安らかであった...




 シュユ「やっと復活だな」

 ユウキ「やったねシュユ、出番が増える--」

 シュユ「--それはダメだ、ユウキ」

 ユウキ「冗談だよ。で、ヤンデレ要素はまだなのかってそろそろせっつかれそうだけど」

 シュユ「作者曰く、準備運動は終わったらしいぞ」

 ユウキ「初めてだからねー、書くの。どうなるのかな」

 シュユ「ま、それは頑張るだろ、アイツは。じゃあ、そろそろ締めるか」

 ユウキ「そうだね、せーの--」

 シュユ・ユウキ「「次回もお楽しみに!!」」
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