32話 代償
「....眼が、ボヤける」
目覚めたシュユの第一声はそれだった。仮想空間での視力の良し悪しは現実世界とは何の関係も無い上に、現実のシュユの視力はどちらもAなので眼が悪くなったという事ではない。考えられるのはゼロモーション・シフトの多用による後遺症だろう。ただ、ボヤけるのは右目だけなのでシュユは無視して外を見る。
最近は街に顔を出すどころか、今寝ている様なベッドにすら寝転がっていなかった。後遺症の影響で街並みも朧気にしか覚えていないので、ここがどこだかシュユには分からなかった。
「シュユ、目が覚めたの!?」
「まぁ、そうだな。迷惑掛けたな、ユウキ」
「そんな事無いよ!ボクがやりたくてやった事だからね」
「そうか、ありがとう」
ユウキはいつもの
「オレはどれぐらい寝てたんだ?」
「3日も寝てたんだよ?本当に恐かった...」
「3日、か。あれだけ無茶な戦いをしたのに、その程度で済んだのか。むしろ御の字だな」
「それでも心配したの!」
「お、おう。これからは気を付ける」
武器の状態を見れば千景は壊れる寸前で、葬送の刃は壊れないとは言え耐久力は無くなるどころか既に無くなっていた。剣を実体化させてみると、刃こぼれが酷く物を斬るには不向きと感じる程だった。葬送の刃の効果には耐久力を攻撃力に転化する効果がある為、修理は急務だろう。
「...そうだ、シノンは?」
「--の?」
「え?」
「なんで、シノンなの?」
ユウキはシュユをベッドに押し倒す。STRの実数値的には大きく上回っている筈のシュユだが、異様に強いユウキの力と突然押し倒された事による驚きで呆気なく倒されてしまった。ユウキはシュユに抱き着き、呟いていた。
「シュユを助けたのはボクなんだよ?なのに、なんでシノンなの?ボクじゃダメなの?シュユはボクなんかよりもシノンを優先するの?ごめんね、不満な所が有れば直すから、教えて?」
「な、ユウキ?」
「胸は小さいかも知れないけど、ちゃんと有るよ?シュユが望むならどんな事だってするし、何だって捧げる。身体も心も、全部シュユのモノなんだよ?だから捨てないで。どんな事だってするから、お願いだからシュユの傍に--」
「ユウキ!!」
涙を流してシュユに「捨てないで」と懇願するユウキ。それを見たシュユは自分とユウキの位置を入れ替え、自分が押し倒している様にする。いつもとは違う強引なシュユの行動に驚いたのか、小声で捲し立てていたユウキが黙る。
「....ユウキ」
「し、シュユ?」
「
「...え?」
今のシュユは演技などしていない。
それも当然だ。シュユはゼロモーション・シフトを数回使用しただけでカーヌスとサチの事を忘れてしまった。それを短時間で、しかも最悪に近いコンディションと負担が蓄積した仮想脳で通常時でも凄まじい負担になる処理を行ったのだ。記憶に更なる障害が出ても不思議ではない。
確かにシノン--詩乃とは家族としての時間は過ごした。しかし、それはシュユの人生の中の4年程度。つまり、ユウキと過ごした年月とは文字通り桁が違う。ユウキとは人生の過半を共に過ごしているのだ、忘れる順序が違うのも仕方無いだろう。
どうにか思い出そうと、表情を歪めて記憶を探るシュユだが、その記憶自体が損傷を受けているのだ。キズが付いたCDを読み込もうとしているのと変わらない。ある程度までは思い出せるかも知れないが、思い出せない所の方が多い。
「...ううん、何でも無い。気のせい気のせい」
「そうなのか?焦ってるみたいだったけどな...」
「大丈夫!」
「....そうか。ユウキが言うなら、それで良いけど」
「じゃあ、ボクご飯作ってくるね!【料理】スキルも熟練度カンスト寸前だし、かなり期待してくれて良いんだよ?」
「お、じゃあ楽しみにさせて貰おうかな」
「フッフッフッ、楽しみにしててね!」
ドアを開けて部屋から出ていくユウキ。彼女の足音が遠ざかった所で、彼は呟いた。
「....オレは、どこかで誰かの料理を食べた事が...?」
キッチンでシュユと自分の料理を作るユウキ。自分が想いを寄せる彼の今の状況を把握し、彼女は呟いた。愛に狂った笑みを浮かべて。
「....これで、シュユはボクのモノだよね...」
作者「お気に入り登録、500件突破しました!」
シュユ「本当にありがとう」
作者「まさか30数話しか投稿していないのに500件を突破するとは思ってませんでした」
シュユ「まぁ、これからモチベを保つように頑張るんだな」
作者「頑張ります。じゃあ、早いけど締めましょうか。せーの--」
作者・シュユ「「次回もお楽しみに!!」」