ユウキ「『死ぬほど眠いので前回のあらすじはお休みです』だって」
シュユ「まぁ、最近やっとDLCをやる時間ができたお陰で睡眠時間が不足してるからな」
ユウキ「そう言えば、テスト期間が近いから投稿ペースが落ちるって言ってたよ!」
シュユ「あー....つー訳で、これから投稿ペースが少し落ちるらしい。そこんとこ、よろしくな」
ユウキ「40話、始まるよ!」
獣の反撃は、その巨体からは想像出来ない跳躍から始まった。巨体故の重量、それを最大に生かす
だが、その中で動いたのはキリトだ。震動する地面から跳び、大橋の両側に設置されている石像を蹴って加速、剣を左腕に突き刺す。先程までなら確実に怯むであろう一撃だったが、やはり耐性が上がったのか怯む事無く無造作に左手を地面に叩き付ける。刺さったままの剣を手放し、アイテムストレージから漆黒の剣を装備する。第50層ボスのLAボーナスで、魔剣クラスのユニークウェポン【エリュシデータ】だ。
「グッ....!」
だが、重い。分類は重量片手剣なのだが、それにしても重すぎるのだ。AGIよりSTRにポイントを振り分けているキリトですら、片手で振るうのはまだ難しい。
獣の右手での薙ぎ払いは、剣の重量増加による落下速度の加速で回避。両手で持って走り、足で蹴り上げて無理矢理保持するとキリトは【ハウリング・オクターブ】を発動。高速の5連突きは獣の脚に、斬り下ろしと斬り上げは左腕に、そして全力の上段斬りは--
「ヌゥオオォォォ!!!」
エギル渾身のソードスキル【ヘルムブレイカー】による振り下ろしで頭を叩き下ろされ、ちょうど良い場所に来た頭に叩き込まれる。体力、残り半分。
硬直と重量のお陰で咄嗟に動けないキリトの肩を踏み越えていくのはユウキだ。左手に折れた黒騎士の黒剣を携え、凄まじい衝撃を振り払う様に左右に振る獣の頭蓋にソレを突き刺し、踏みつけて更に深く突き込む。そして突き刺した剣を踏んでもう1度跳躍、背中にヴォーパル・ストライクを御見舞いする。
クラインの緋扇が獣の振るおうとした左手に全てヒット。次に自分のリアルな筋力で無理矢理硬直を縮めるという荒業をやってのけ、クラインは渾身の【
その後ろから現れたのはシノンだ。獣の突進に合わせてソードスキル【ストライクランサー】を使い、その胴体に槍を直撃させる。超速で投擲された槍、それに正面から突撃した獣の胴体を槍は貫通し、更にその獣の身体を吹き飛ばすという神業を体現する。胴体の穴が塞がれる前にシノンは駆け出し、破壊部位回復の咆哮をされる直前に火炎瓶をダメ押しで2個体内に埋め込む。直後、爆発。炎が弱点だったのか、通常のダメージボーナス以上のダメージを与える。
「シノン、退いてッ!!」
ユウキの絶叫。獣の巨体故に動きが判別しにくく、咄嗟にシノンは左に回避する。しかし、生憎獣が放ったのは左手での叩き潰し。アイテムストレージから偶然持っていた大盾を実体化し構えて、一撃は耐えるが流石は現在の最高階層のボス。そこまでレア度が高い訳でもなく、強化も施していない盾はその一撃で破壊されてしまう。流石に次の一撃は防げない。そう思ったシノンはダメージフィードバックに備えてギュッと目を閉じるが、衝撃もフィードバックも来ない。直ぐに目を開けると、シノンを守る者が居た。
「少し脳震盪に似た症状に襲われて動けなくなってしまってね、遅くなってすまない。だが--」
シノンを守っていたのはヒースクリフだった。ヒースクリフは構える大盾を獣が腕を振り下ろした瞬間に跳ね上げる。盾系ソードスキル【シールドアッパー】だ。予期せぬタイミングでパリィされ、体勢を崩した獣にヒースクリフが構える輝く剣が一閃される。
「--これで終わりです」
残り体力はヒースクリフの一撃が当たった時点で30%程度。だが、アスナの武器は御世辞にも単発の威力が高いとは言えない細剣だ。幾らソードスキルの恩恵が有るとは言え、ヒースクリフを除いた全員はこれで仕留められるとは思っていなかった。しかし、その予想は容易く覆される事となる。アスナの突進突きは頑丈になったであろう獣の胴体をブチ抜き、その体力バーを簡単に消し飛ばしたのだ。誰も理解が及ばない中、キリトは一言、アスナが使ったであろうソードスキルの名前を口にする。
「まさか、【フラッシング・ペネトレイター】なのか...?」
「そのまさかです。ここまでの威力だとは私も思ってませんでしたが」
フラッシング・ペネトレイターは細剣の最上位に位置するソードスキルだ。威力、速度、貫通力の全てに於いて上位に位置するが、発動には充分な助走距離が必要になる為専らPvEでしか使われない。故に使用頻度は大して高くない。だが、このソードスキルには他の突進系ソードスキルには無い特性を持つ。それはつまり、一定以上の助走距離に比例して威力が
霧となって消滅した聖職者の獣と引き替えの様に、目の前に多量の経験値とコルが手に入った事を告げるウィンドウが現れる。恐らく、
「LAボーナスは有ったのか?」
「手に入ったのはこの【剣の狩人証】だけですね。でも、使おうとしても使用アイコンが有りませんし、使い途は分かりません」
「それより、早くあの街に入りましょう。シュユも心配だし」
「それもそうだな!つー訳で、先陣はこのクライン様に...おぉ?」
「何をしてるんだ?」
「いや、開かねーんだよ!エギルに団長さん、あとキリの字、ちょっと力貸してくれ」
「いや、そんな事はせずともウィンドウを見れば良い話だろう。どけ、クライン」
「ちょ、エギルお前なぁ...」
鉄製の正門が開かないと判るや否や、エギルは隣の小さな木の扉を調べる。が、目の前に現れたウィンドウに驚愕する。
「どうかしたのか?」
「...この扉は、多分開かない」
「は?」
「鍵穴も何も無い。だから、多分この扉は--」
「--ハズレ、そういう事でしょ?」
「....あぁ」
その直後、どこからか爆発音が響く。この付近に爆発物を扱う敵は確認されていない上に、この規模の爆発は火炎瓶の威力と範囲を底上げする【油壺】というアイテムが無ければ不可能だ。現在、油壺を使えるのはプレイヤーのみ。そして、ヤーナムに足を踏み入れて攻略しているプレイヤーは聖職者の獣と戦ったメンバーを除けば、1人しか存在しない。
「ッ、ユウキ!」
「うん、解ってる。このままじゃ--」
「「シュユが危ないッ!!」」
「待ちたまえ、2人とも!!」
ヒースクリフの制止も虚しく、ユウキとシノンはリザルトをロクに確認しないまま、フレンド機能の同階層に居る時のみ限定の位置特定機能を利用してシュユの元へと駆け出した。残りのメンバーも、消耗しているにも関わらず駆け出した2人を追い掛け、疲れた身体に鞭を打った。
「ウルオオオオオ!!!」
「チィッ!!」
純粋にリーチが伸びた大斧の縦振りを右にステップする事で回避する。回り込む様にステップしたが、それはガスコインもステップする事で背後に回る事を阻止される。そしてオマケとばかりに発射される散弾銃。また墓石に隠れる事で防ぐが、やはりリロードの隙を突くのは回避の方法の問題で難しい。
距離を詰めてくるガスコイン、反射的に後ろにステップして距離を離すシュユだがガスコインは構う事無く--いや、むしろ有り難いと言わんばかりに斧を構えて力を溜める。凛、という鈴の音に似た音が響き、ガスコインは身体ごと2回転して周囲を薙ぎ払う。映画『マトリックス』の様に上体を全力で反らして回避、【煙玉】を地面に叩き付けて目眩ましにする。その後にアイテムストレージに入れている【闇潜みのマント】を纏ってガスコインから離れた墓石に身を潜める。
--強いな、正攻法じゃ勝てる気がしない。
今はまだ良い。単独ならば変にターゲットが分散する事は無く、墓石と石碑と朽ちた木に邪魔されながらもどうにか戦えるのだから。レイド戦に持ち込めば楽にだろうか?その答えは一瞬で解る、
理由として、先ずこのフィールドの狭さだ。この円形墓地の広さ自体は狭くはないのだろうが、何せ墓石や石碑が邪魔だ。次にガスコインが人型であり、速度が下手なプレイヤーよりも速い事にある。攻撃速度も速く、散弾銃という近距離での火力に加え遠距離への牽制を持ち、攻撃力は高くオマケに武器の変形によりリーチを見誤りやすい。ガスコインが持つ強味はプレイヤーも持てる強味だ。だからこそ、烏合の衆がどれだけ集まろうとガスコインに有利は取れない。
そんな事を考えながらシュユはポーションの蓋を開けて少量飲み干し、自分とは反対の方向に瓶を投げる。瓶が割れた事により体力が回復、更に瓶の割れた音が墓地に響く。ガスコインは目を包帯で被っていた。なら、音を頼りに戦ってる筈だ。これで少しの間でもオレから距離を離せたら...!
戦いというのは、統べからく自分の思い通りには進まず、そして予想外の展開を見せてくるものだ。少なくともシュユは、今隠れているこの場を見破られるとは思っていなかったのだから。
「.....獣の、匂いだ...!」
「なっ!?」
この墓地に限らず、ヤーナムは夕闇に包まれている、しかもこの墓地は乱立する建物や墓石によって更に薄暗く、【
シュユは吹っ切れた。このままズルズルと戦えばジリ貧になるのは自分なのだから、短期決戦で決着をつけると。
「いつまでもその脳死ブンブンが通じると思うなッ!!」
ガスコインの突きをスレスレで回避。1度納刀して居合い斬りで先ずは少量であるがダメージを与える。ガスコインはシュユの懐に潜り込む様にステップするが、予想を付けていたシュユは足払いを掛ける。小さくジャンプしたガスコインはシュユの脚を折ろうと踏みつけを狙うが、シュユは逆に脚を跳ね上げる事でガスコインの股間を狙う。
それを人間離れした(元より人間ではないが)反応速度と運動神経にモノを言わせてシュユの足に一瞬だけ乗ると、飛んで斧を勢いよく振り回す。シュユの脚を斬り飛ばす威力を秘めた斬撃の目的は攻撃ではなく、シュユを引き離す事だ。シュユはそれをゼロモーション・シフトを用いて回避、血の刃を纏う刀を突き出す。
ガスコインは空中で身を精一杯反らすが、もう1度シュユはゼロモーション・シフトを使って納刀。辻風を使い、体力を捧げた全力の居合いを放つ。
「オオオオォォォォ!!!」
吹き飛ぶガスコインに追撃の投げナイフを放つ。回避前提で投げたナイフだが、予想に反して全てのナイフがガスコインの身体に突き刺さる。ナイフは腕に刺さってはいないが、ガスコインは自分の斧を取り落とす。
「....ァァァ....」
「....何だ?」
「ガアアァァアァァァアアァアァッ!!」
着用していた服が内側から裂ける。それは服が許容できるサイズを超えた膨張をガスコインの身体が起こしたからだ。散弾銃も地面に落ち、完全にその身を獣に堕としたガスコインは歪んだ顔面でシュユを見詰める。
シュユは確かに驚くが、それで硬直する程に馬鹿ではない。クレセントを使用、そこから8連斬ソードスキル【ヤマタノオロチ】を背中に叩き込む。しかし、4発目で振るうカタナを掴まれて強制的にソードスキルを中断させられる。それによる硬直の隙を逃す程甘い訳が無く、シュユはガスコインに殴り飛ばされる。
墓石を砕きながら吹き飛ぶシュユ。これ以上の追撃を防ぐ為、シュユは直ぐに立ち上がり回復アイテムを取り出す。これだけは使いたくなかった。それはレア度云々ではなく、アイテムの
【輸血液】
《血の医療で使用される特別な血液。体力を回復する。ヤーナム独特の血の医療を受けた者は以後、同等の輸血により生きる力、その感覚を得る。故にヤーナムの民の多くは、
『血の常習者』というのはつまり、この回復アイテムには依存性が少なからず存在するという事じゃないのか?そう思案するシュユだが、ガスコインはこちらへ真っ直ぐ突進してくる。その誇りも技術も何も無い戦いにシュユは怒りを覚える。彼の狩りはもう終わった。次は、オレの番なのだろう。
シュユは輸血液を太股に突き刺す。瓶ごとポリゴンへと還り、体力が最大体力の40%程回復する。それと同時に感じるのは酩酊。酒に酔った時の様に、今のシュユは血に依っている。血に酔い、血に依っているのだ。
「アンタは狩人じゃなかったのか!?その誇りはどこに消えた!どうして獣に堕ちたんだよ、ガスコインッ!!」
返答など有る訳が無い。獣に言葉が通じるなどと思ってはいなかったが、それでも言わずには居られなかった。
その言葉に怒ったのかどうなのか、先程のパンチよりも数倍速く感じるパンチを繰り出す。愚直なストレートは左に逸れて回避、剛腕での薙ぎはしゃがんで回避するが、唐突に放たれたヤクザキックに成す術無く吹き飛ばされ、無様に地面を転がる。
転がっていく途中に千景を取り落としてしまう。ガスコインに視線を戻せばこちらに飛び掛かろうとしている。喰らえば即死、だが葬送の刃を構えて防御ないしは反撃をするには時間が足りない。そんな中、視界の端に落ちている散弾銃を見付ける。シュユは心の中で叫ぶ。ヤケクソだ、こうでもしなきゃ生き残れない!最近のリロードからまだ1度も発射していないんだ、後は神頼み!!
「ガッ!?」
神頼みの結果はシュユに味方した。空気を揺らす轟音と共に放たれた散弾がガスコインの肥大した身体に着弾、体力バーの残りを15%に減らし、更に体勢を崩している。体術で決めるしかない、覚悟を決めるとシュユは手をピンと伸ばして手刀の形にする。その右手はライトエフェクトを纏い、ガスコインの腹を抉る。【格闘】のソードスキル【エンブレイサー】が炸裂したが、勝負はまだ終わらない。
コイツは本当に殺さなきゃならないのか?もしかしたらオレはクエストフラグを回収し忘れてるだけで、本当は助けられるんじゃないのか?まだ助かるかも知れない命を、奪う必要が有るのか?
シュユは変な思考に心を一瞬囚われる。だが、シュユは--
「--終わりだ」
その手で、ガスコインの内臓を引き裂いた。
「 」
「.......嗚呼、解ってる」
体内からのクリティカルにより、ガスコインは霧へと還る。最期に理性を取り戻したのは演出か、それとも限り無く人に近いAIが見せた命の残り香なのか、シュユには理解出来なかった。
「--オレは、強い」
当然だ。そうでなければ、攻略組には入れない。
「でも、英雄にはなれない。崇められる事も無い。最善の結果は叶えられても、最良の結果は叶えられない」
いつもそうだ。このペンダントを造った少女も、刀を造った少年も、最良の結果ならば生きていたのかも知れない。シュユは強いが、英雄にはなれない。それは、シュユの器ではないから。
「...アンタの言う通りなんだろうな、ガスコイン。オレは【狩人】だ。神話として語られようと、英雄にはなれない存在。....オレはきっと、血に酔うんだろうな」
シュユは手に入った【地下墓の鍵】を大きな門に差し込み、扉が軋む音を立てながら開ける。その少し後に走ってきたのはユウキとシノン、それに続くのが大橋での戦いのメンバーだ。
最善にはなれなくても、仲間くらいは護りたいもんだな。シュユは心から、そう願った。
--貴様はどこまで行っても、狩人だ。