カーヌス「前回は、シュユさんとユウキさんとシノンさんの話でしたね。認識の差異、って所でしょうか」
サチ「だね。そう言えば、カーヌスくんの名前の由来って何なの?」
カーヌス「僕の名前の由来、ですか。そうですね....ローマ神話の鍛冶の神の名前を調べてみて下さい。そうすれば分かりにくいんですが、大体分かりますよ」
サチ「へ~、そういう...あ、さてさてどうなる42話!?」
カーヌス「さては忘れてましたね...」
ヤーナムの攻略は順調に進んでいた。ボス【教区長エミーリア】を倒し、更に【禁域の森】、【ヘムウィックの墓地街】、【ヤーナム旧市街】を解放している。
禁域の森とヘムウィックの墓地街は薄暗いので全員携帯ランタンを購入し、少しずつではあるが攻略を進めていた。旧市街の攻略はガトリング砲を撃ってくるNPCにより難航しており、現在は禁域の森と墓地街の攻略に全力を注いでいるのが現状だ。
現在、シュユはオドン教会で1人休んでいた。ユウキはヒースクリフに呼ばれており、シノンは気になる事が有るからと出ていってしまった。アイテムストレージからエミーリアを倒した際のLAボーナスを実体化させ、シュユは直ぐに目を反らす。
【血に酔った狩人の瞳】
《血に酔った狩人の瞳。瞳孔が崩れ、蕩けており、それは獣の病の特徴でもある。
血に酔った狩人は、悪夢に囚われるという。悪夢の中を永遠に彷徨い、獣を狩り続ける。
ただ狩人であったが故に》
まるで顔面から無理矢理剥ぎ取られた様な瞳は何を思うのだろうか。文字通りに瞳孔が崩れており、少なくとも見ていて気持ちが良いものではない。
アイテムをストレージに戻し、正面の扉ではなく左の扉から外に出る。空を見れば大きな満月が優しく、だが無機質に冷たくヤーナムの街を照らしていた。たまに巡回している杖を持ったエネミー【教会の使い】は既に倒しているので他のエネミーが現れる心配は無い。
シュユを除いたプレイヤーは全員攻略か個人の用事を済ませに行っている為、ここにはシュユ以外居る訳が無い。が、目の前の井戸には1人のプレイヤーが立っていた。後ろ姿しか見えないが、その身体のライン的には女性だろう。その姿には見覚えが有った。シノンを捜すシュユに場所を教えてくれた彼女にそっくりだ。確か名前は--
「--マリア、ここで何をしてる?」
「...あぁ、キミか。いや、少し懐かしくてね、感慨に耽っていた」
懐かしいとはどういう事なのだろうか?月夜が懐かしいとは考えにくい。SAOでも月夜は見られる。そう言えば、ヤーナムの街並みはヨーロッパの様な異称が見られる。つまり、マリアは元々そっちの出身か育ちなのだろう。そうシュユは結論付け、話を続ける。
「マリア、どうやってここに来た?KoBが規制を掛けてる筈だろうし、入るのも中々に苦労するぞ」
「私のする事に一々許可を取るのは面倒だ。スルーしてきたよ。...まぁ、訊かれてはいないが私の目的を言ってとこうか」
「目的?」
「そう。私はね、シュユ--」
一瞬マリアの姿が消え、次の瞬間視界が暗くなる。抱き締められていると気付くのに、少しの時間を要してしまった。女性特有の柔らかさと甘い匂いが鼻孔を擽る。更に感じる深い匂いは、何の匂いなのかついぞシュユには判らなかった。
「キミに逢いに来たのさ」
「お、オレに?」
「あぁ、その通りさ。だからシュユ--」
柵の所に追い込まれ、逃げられなくなる。近くにはトップハットを被った遺体があるが、それは何も気にしていないらしい。マリアの綺麗な唇が次の言葉を紡ぐ。
「一緒に、夢を見よう」
「がっ!?」
横からブラックホールの様な何かが接近してくる。市会の端でそれを捉えていたシュユはマリアと共に逃げようとするが、マリアは全く動かない。それどころか、顔に浮かべる笑みを更に深くしている様にも見えた。
透明な『何か』に掴まれ、空高く持ち上げられるシュユとマリア。脳が何か邪な存在に蝕まれていく感覚と共に意識が薄れていく。全身から
「っ、畜生...!」
そして、ヤーナムからシュユの姿は消え去った.....
--だから奴らに呪いの声を。
--赤子の赤子、ずっと先の赤子まで....
シノンが来ていたのは【大聖堂】の正面から見て右にある場所だった。人型のエネミーが2人現れたが難なく撃破、更に進んで大きな斧を持ち鎧を着込んだエネミーを各個撃破し、目的地に到着する。
禁域の森攻略中にNPCから渡された【扁桃石】。これは一応鍵に分類されるらしいが、使い途が分からないでいた。その時、渡してきたNPCから教えられた場所がここなのだ。大聖堂の右、固く閉ざされた大扉と言えばここしか無い。
大扉をグッと押してみるが、動く気配は無い。石を嵌め込める場所が無いか探してみるが、自分の背丈の何倍もある大扉のどこにもそんな場所は存在しなかった。
「...フラグ不足かしら。まぁ良いわ、帰りましょう」
踵を返した瞬間、シノンの背筋を死の気配が伝う。咄嗟に前方に飛び込む--筈が、その手は空を切る。凄まじい吸引力で引き寄せられたシノンは抵抗する術もなく、何かに持ち上げられる。
勿論、無抵抗など有り得ない。隙間から出した右手にダガーを握り、自らを掴む何かに突き立てるがその刃が通る事は無かった。仮にも最前線で通じるクオリティのダガーが、だ。
自分を掴む何かに力が込められる。それと同時に見えるのは半透明の異形。扁桃石と同じような頭に埋め込まれた無数の目玉が開き、シノンの身体を射抜く様に見詰める。それと同時に蓄積してくる不快感と邪な感覚。それに耐え抜く事は難しく、意識を失う前にシノンは呟いた。
「たすけて、シュユ...ッ」
--アメンドーズ....アメンドーズ....
--憐れなる落とし子に慈悲を....