マリア「前回は私とシュユの逢瀬とシノンが誘拐されたね」
シュユ「お前のも誘拐と大して変わらないだろうに...」
マリア「そんな些末な話は置いておこう。さて、どうなるかな43話」
SAOで最も有名な2つ名と言えば何だろうか?最前線で戦うプレイヤーの有名どころと言えば、ヒースクリフの【聖騎士】、アスナの【閃光】、キリトの【黒の剣士】、シュユの【狩人】、ユウキの【絶剣】、シノンの【流槍】だろう。
しかし、2つ名とは得てして行動により付けられるものだ。アスナの【攻略の鬼】やシュユの【犯罪者狩り】は正に本人の行動や言動により付けられた名前だ。そう、だからこそ、今のユウキの2つ名は畏怖を込めてこう呼ばれている。
「邪魔」
敵が殺される。抵抗も逃走も許されず、ただ剣を振るえばその度にポリゴンが散り、敵が消えていく。
「邪魔」
その戦いぶりと、ある『もの』への執着により付けられた2つ名は【
現に、最近のエリア攻略はユウキが先導していた。...いや、先行していたと言うべきか。以前の速くとも連携を取る戦い方ではなく、単独で自分自身の速さで敵を圧殺する戦い方へと変貌し、表情も乏しくなっていた。
「ユウキ!」
「...アスナ、どうかした?」
「もっと連携を重視して。皆が皆、あなたに着いていける訳じゃないの」
アスナの指摘は尤もだ。元々、速度型であり手数を重視するユウキはステータスをAGIに重点的に振っている。そんなユウキの全速に着いていくだけではなく、そのユウキを守る役割にあるタンクは既に息切れしている。アスナも息切れこそしていないものの、肩で息をしている所からユウキの速さが窺い知れる。
だが、それで止まるのなら【灰被り姫】などと呼ばれる事は無い。ユウキは至極当然の事の様に言った。
「別に、着いて来なくて良いよ」
「.....え?」
「足手纏いになるなら来なくて良いよ。ボクはシュユを捜さなきゃいけないんだ。キミ達に構ってる暇は無いんだよ。じゃあ、ボクは行くから」
「待ちなさい!」
ユウキはアスナの友人だ。【攻略の鬼】と呼ばれようがアスナは人間で、そして友人が死地に赴くのを悠々と見守れる程心は死んでいない。アスナは歩き出すユウキの左手を掴む。
「ッ、離せッ!!」
ユウキは反射的に剣を実体化、アスナの腕を斬る。咄嗟に手を引いたアスナだが、薄く赤い1本線が腕に刻まれ、体力バーが僅かに減少する。体力の面で言えば極僅かな、危険を感じる程でもないダメージだが、友人から斬られた衝撃は大きい。呆けている隙にユウキは乱暴に腕を振り払うと先に向かって歩き出した。
「どうして....ユウキ....!」
実際は感情が豊かなアスナだ。友人に斬られたというその事実が胸を締め付け、涙が溢れる。自分が何か悪いことをしたのだろうか?そんな見当外れな自責がアスナを苦しめていた。
そんなアスナの後ろから、黒ずくめの男が現れる。彼はアスナの肩に恐る恐る手を置き、慰めとも諦念とも取れる言葉を言った。
「アンタは何も悪い事はしてないよ。ただ、タイミングが悪いんだろうな。....知ってるだろ、シュユとシノンの事」
「...分かってます。いつからか、行方不明になったんですよね。でも、
「アンタにとっては
「少し、落ち着くですって?そんな事をしてる間にも――」
「――そんな事も出来ないヤツが、友達を助けられるかよ。....少なくとも、俺には無理だったよ」
そう言い残して去っていく彼――キリトに、アスナは少しだけ驚愕した。いつも飄々として危なげなく攻略を終えてニヤつくキリトが浮かべた今の表情はとても悲痛で、何より最後の言葉が耳に残ったのだ。少なくとも俺には無理だった?それでは、彼は誰を助けられなかったのだろうか...?
そんなアスナの疑問は、ついぞ晴れる事は無かった。だが少しだけ、ほんの少しだけ、『キリト』というプレイヤーへの見方が変わった。
2人を捜さなければ。その執念にも似た想いが今のユウキを突き動かしていた。ある日突然、霧が晴れる様に消えたシュユとシノン。自分だけ除け者にされたと思い激怒したユウキだが、落ち着いて考えればそれは有り得ないと気付いたのだ。
2人が消えた日、シュユはオドン教会で休養しており、シノンは気になる事が有るからと大聖堂へと向かった。駆け落ちという可能性も無いとは言えないが、オドン教会から大聖堂は地味に距離がある上に普通の駆け落ちならフレンド機能にある同階層での探知機能が働かない可能性が薄い。故に、何かトラブルに巻き込まれたと考えるのが自然だろう。
言ってしまえば、このヤーナム自体が従来のSAOとは違うイレギュラーだ。故に、プレイヤーに利する事から害する事まで幅広く発生する。それがどう転ぶのかは分からない。
「随分と独り善がりな女だねぇ」
「ッ!?」
「そう驚く事はないじゃないか。...いや、こんな服じゃ驚くのも当然かい?」
横から突然声を掛けられたユウキは咄嗟に飛び退き、剣を構える。そこに居たのはペストマスクの様な仮面を着けた鴉羽の装飾が特徴的な人物だ。声的には結構年老いた女性だろうか。だが、その立ち姿に隙は無い。変な動きをすれば狩られる、そんな確信がユウキには有った。
「あ、あなたは....?」
「ん、あたしかい?そうさね、あたしは【狩人狩り】さ」
「狩人狩り...?」
「そうさ。血に酔った狩人を狩る、馬鹿みたいな役割だよ。それより、あんた外から来たんだろう?」
「あ、う、うん」
「こんな獣狩りの夜に来るなんて酔狂なヤツだね。....あんたは気を付けた方が良いかもね」
「気を付けるって、何に?」
「見たところ、あんたは中々手練れみたいだ。でもね、そんなヤツが血に酔っていく所をあたしは何度も見てきたのさ。あんたを狩るのは面倒そうだし、ババアにあんまり苦労を掛けないで欲しいもんさね」
片手を挙げて歩き去る彼女の背中に、ユウキは問い掛けた。思えば、何故この場面でそれを訊いたのか自分でも解らない。
「あのッ」
「...ん?」
「ボクはユウキ。その、あなたは...?」
【烏羽の狩人】は烏の嘴を模した仮面の奥から笑みの気配を漏らす。
「ユウキ、良い名前だね。名前は1番分かりやすい、自分を人間に繋ぎ止める楔さ。しっかりと覚えておくんだよ。しっかし、あたしの名前かい....」
烏羽の狩人はその鴉羽のマントを1度揺らすと、一言だけ言って去っていった。
「ま、その内さね」