2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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 シモン「前回のあらすじだ」

 シノン「前回は悪夢の辺境に私が迷い込んで、あなたと出会ったわね」

 シモン「あぁ、その通りだな」

 シノン「........」

 シモン「........」

 シノン「話が続かないわね」

 シモン「元々俺達は饒舌な方ではないだろう、仕方が無いさ。さて、どうなるかね今回は」


45話 シュユ編 1つの可能性(末路)

 目覚めた時、目に入った景色は見覚えのある景色だった。自分の記憶はここがオドン教会と同一であると言い、だが自分の本能はここはオドン教会とは違うと言う。取り敢えず目の前に有った【灯り】を灯すが転移機能は使用不可能だった。

 旧市街に出る扉は無かった為、前方にある(ここがオドン教会ならばの話だが)聖堂街へのショートカットに繋がる扉から外に出る。そして、一瞬でここがオドン教会ではないと知る事になった。

 

 「ここは....少なくとも居心地が良いとは思えないな」

 

 精神を病んでいる人の心象を風景画に起こせばこうなるのではないだろうか?岩には風化した様な跡が付いているが、シュミラクラ現象のせいか人の顔に見えなくもない。空は暗く淀み、全体的に色味が灰色がかっている印象を受ける。

 取り敢えず坂を登る。階段でも良いのだが、双眼鏡を使って先を見てみると門が閉まっていた。無駄足を避けるのは悪い事ではない。むしろ、得体が知れないこの場所に於いては最善手とも言えるだろう。

 少し遠くに【獣患者】が2体歩いているのが見える。投げナイフを実体化させ、遠距離から仕留めようか迷うが曲がり角から人が現れる。その人は肩に担いでいる大剣を思い切り横に振る。すると、剣が鞭の様に伸びて獣患者を2体纏めて薙ぎ払った。一見すれば頼りになる味方に見えるが、シュユにはそうは見えなかった。走り出し、高AGIプレイヤーにのみ許された()()()()という妙技を披露しつつ、大鎌形態の武器で彼の首を斬り落とした。

 

 「.....狂ってる。あんな半狂乱な状態でも戦えるのは身体に刷り込まれてるからか?」

 

 少なくとも口の端から涎を垂らし、血走った眼で武器を振るう者を正気だとは誰も思わないだろう。涎を垂らすその口は、獣を狩る愉悦に浸っていた。ふざけるな、シュユは思う。

 確かに、暴力行為には快感が伴う。ボクシングの試合で応援する選手が相手をダウンさせた時は喜び、自分が喧嘩で相手を殴り倒した時には『雄』として相手の上に立ったと無意識に快感を噛み締める。だが、快感の濁流に身を任せた先に行き着く末路は獣になる未来だ。人はあらゆる事を自制しなければならない。その自制を出来なかった人間が作ったギルドが【ラフィン・コフィン】だ。

 限定的とは言え、感情を封じられたシュユでも敵を倒したその時は快感を感じる。故に、生き物としてソレは仕方の無い事だと言うのは判る。

 

 「狩りに酔った狩人か....厄介極まりないな」

 

 今のは半ば不意討ちだったから簡単に倒せただけで、実際はもっと強いのだろう。狩りに酔える程に狩りを成し遂げた狩人なのだ、弱ければその段階まで生き残れない筈だ。

 それに、アイテムや装備の消耗も有る。特に武器の中でも壊れやすいカテゴリのカタナである千景や、全損はしないとは言え耐久力を攻撃力に加算する付与効果(エンチャント)のある葬送の刃の2つは言わずと知れたシュユのメインウェポンだ。どちらも温存しなければ、戦おうにも攻撃する手段が無い、ないしはダメージが通らないという事態になりかねない。

 葬送の刃の付与効果には【不壊属性(デュランダル)】と呼ばれるものがある。ユニークウェポンに付いている事が多く、稀にではあるがプレイヤーメイドの装備でも付与される事が有る。効果は単純明快で、『壊れない』というだけだ。正確に言えば耐久度が全損しても問題なく使用出来る上に決して修復不可能にはならないというもの。某ダンジョンに出会いを求める小説の様に自動修復とはいかないが、これだけでも使える付与効果だ。

 これを知っていたシュユはある実験を行った。それは破壊不能オブジェクトを葬送の刃で斬り続け、耐久度を全損させた状態で探索を行ったのだ。結果、耐久度が全損した葬送の刃は使い物にならない事が判明した。付与効果の数で『ぶっ壊れ』認定される葬送の刃だが、元々の攻撃力に限ればユニークウェポンの中でも控えめな方だ。シュユはそれに耐久力による補正、ステータス補正によるダメージの底上げ、隠し補正である速度ボーナスと遠心力を乗せているだけであり、片手剣形態や静止状態から放つ一撃の威力は素の状態の千景と同等か又はそれ以下だ。

 幾ら元々の耐久度が桁違いに大きいと言っても、使い続ければガタが来る。【灯り】の機能で武器の修理が有るが、灯りは極力使いたくないのが本音だ。と言うのも、灯りを使用した際にそのエリアの敵がユニークを除き、全てがリスポーンしてしまうからだ。複数人のパーティで攻略するならまだしも、ソロで何度も戦っていては武器を修理しても戦う本人にガタが来る。だからこそ、接敵は極力避けねばならない。

 

 「...広いな。戦いやすいとは言え、最悪だ...」

 

 何だかんだ、このフィールドに影は無いので【闇潜みのマント】と【気配遮断】を併用してもバレずにここを抜けるのは至難の業だろう。それでも、実際は気付かれなければ良い訳だ。シュユは今度こそ投げナイフを4本実体化させ、【シングルシュート】を4回発動させる。片手剣形態の葬送の刃によりDEXの補正が掛かり、威力も正確さも底上げされた投げナイフは獣患者の頭をぶち抜き、その命を奪い去る。

 目視で見れる範囲にはもう何も居ない。広場に降りると、右から凄まじい濃度の殺気を感じる。サイドステップでその場から逃げると、爆発音を響かせた金槌が右腕を掠める。シュユは千景を右に突き出し、敵の身体を貫く。そのまま身体ごと右を向き、横に斬り払う。そして納刀、そこからの居合いで終わらせる。

 

 「エリア名【狩人の悪夢】か...確かにこれは、最悪の悪夢だな」

 

 彼は葬送の刃を背中に担ぎ直し、だらりと垂らした右手に千景を持ち、歩き出した。マリアと再会し、この悪夢から抜け出す為に。

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