2度目の命は2人の為に   作:魔王タピオカ

49 / 117
 シュユ「今回から少しの間、あらすじ紹介は休んで登場人物の原作との相違点を紹介していくって事になったらしい」

 作『そういう事です。と言う訳で、先ずは主人公・オブ・主人公であるキリトからです。どうぞ!」

 キリト

 シュユとの戦いを経て単独先行は無くなり、どちらかと言えば防御メインの戦法を取る。【二刀流】スキルをまだ取得しておらず、圏内事件もまだなのでアスナへの好感度はそこまで高くはない。


46話 ユウキ編 始まり

 【禁域の森】のボスである【ヤーナムの影】を撃破し、進んだ先には湖と湖畔にポツリと佇む学舎があった。敵も少なく、特に広い訳ではないエリアだが敵の容貌が異形の一言に尽きるものだ。蝿の様な頭部に瞳がやたらと多いエネミーに提灯の様な器官を垂らし、火球を飛ばしてくるエネミーの2体。

 

 4階建ての大して大きくもない建造物の中には人型エネミーが居た。ユウキはそのエネミーの討伐に参加してはいないが、かなりの消耗と少数の犠牲が強いられたらしい。魔法の様な技を使い、更に仕込み杖による中距離ミドルレンジでの攻撃に加えて戦場の狭さもあり、どうしようもなかったとの事だ。

 

 「確かにここからの景色は綺麗だね。シュユにも見せてあげたいよ」

 

 今、ユウキが居るのは月見台だ。現実世界で見られる所は限られるであろう大きく蒼い月が湖面に反射し、2つの月が対照に眼に映る。最近はずっとここに入り浸っているのだ。昔、詩乃シノンが家に来るよりも昔に、悠シュユと天体観測をした記憶を蘇らせる。

 見た事もない満天の星空に、降り注ぐ流星群。生憎星座には興味を持たなかったので、あの流星群が何座の流星群なのかは知らないが、幼い頃の記憶でもあの星空は忘れられない。珍しく悠が自分の為の買い物で買った望遠鏡で見た月は何よりも綺麗で、そして感動する自分を見て笑う悠が堪らなく愛しかった。 

 

 「確かに、ここは綺麗だな」

 「.....キリト」

 

 後ろのドアから入ってきたのはキリトだ。ドアは開けっぱなしなので開閉音は無いが、流石に気配は察知できる。最近はキリトとクラインしか会いに来ない。あの純粋だったユウキは今は居らず、今のユウキは酷いものだ。戦闘での疲れと寝不足のせいで目の縁には隈があり、髪もボサボサ。あの2人が消えてから風呂にも入ってないので頬に付いた土の汚れや服の汚れと摩耗が目立つ。そんな人と会おうとするなど、変わり者の一言に尽きるだろう。

 別に、皆の事は嫌いではない。むしろ好きと言っても良い。だが、シュユには敵わない。シュユにとっての優先順位がユウキとシノンが一番なら、ユウキの優先順位はシュユが一番なのだ。『紺野木綿季』という人格は『秋崎悠』によって作られたと言っても過言ではないのだから。

 

 「最近の君は見てられないな」

 「だからどうしたの?見てられないから見なきゃ良いじゃん」

 「そこだよ、見てられないのは。シュユとシノンを捜す為に周りを遠ざけて、独りで戦おうとしてる。...どうだ、楽しいか?悲劇のヒロインごっこは」

 「それ、本気で言ってる?本気なら、流石にボクも許せないんだけど」

 

 キリトは剣を実体化させるユウキから少し離れた場所に座る。至近距離に座らないのは剣が届かないからだろう。STRに多く振っているキリトなら、剣が使えずとも【格闘】とそのソードスキルだけでユウキを倒せる。だから、ユウキの間合いの範囲内に座ったのだ。

 

 「...俺さ、1度ギルドを全滅させた事があるんだ」

 「...........」

 「あっちは仲間として認めてくれてたのに、俺は謗りが怖くて自分がテスターだって言えなかった。俺が入ってたギルドのメンバーは良くて中堅レベルの腕前で、レベリングの時に俺は防御メインで立ち回って、トドメを他のメンバーに刺させてたんだ」

 「...........」

 「でも、人ってやっぱり誤解しやすい人間なんだ。どうなったと思う?」

 「......調子に乗った、とか?」

 「そうだ。俺のせいで自分の腕前を見誤ったメンバーは安全マージンギリギリの迷宮ダンジョンでレベリングをしたんだ。...俺も、止められなかった」

 

 キリトの顔はユウキではなく、月に向けられている。その表情はユウキの位置からは判らない。

 

 「初めは危ないと思ってたけど、何だかんだで安全に進んでいた。帰る最中、小部屋と宝箱を見付けた1人が俺達を連れて宝箱を開けたんだ。でもそれは罠だった。【モンスターハウス】って知ってるだろ?」

 「宝箱とかに仕掛けられてるトラップでしょ?開けると沢山エネミーが出てくるヤツ」

 「正解。レベルが高かった俺ならまだしも、皆はその場を切り抜けられなかった。パニックの中、皆死んでいったよ」

 「全滅したの....?」

 「うん。全滅した時、ある1人が何かを呟いた。だから俺はそれが聴きたかったから、蘇らせようとしたんだ。軽く噂になってた死者蘇生アイテムを使ってね。.....結局、それは出来なかったけど」

 「どうして?」 

 「止められたんだよ、シュユに」

 「シュユが.....?」

 

 にわかには信じがたい話だった。ユウキが見てきたシュユはお世辞にも他人の為に自分を擲なげうつ様な人間ではなかった(ユウキとシノンは例外なのだが)。そんなシュユがキリトを止めるなど、想像が難しかったからだ。

 

 「俺もかなり早くボスエリアに行った筈なんだけど、シュユはそれよりも早くボスを倒してて、俺の前に立ち塞がった。悲劇の主人公を演じていた俺はキレて、あいつに掛かっていったよ。…当然、殺して奪い取るつもりだった」

 

 それにも驚いた。キリトは確かに強いがどこか飄々としており、身を焦がす様な憤怒に囚われる事は無いと勝手に思っていたからだ。

 

 「でも負けたよ。あいつは俺を殺さずに倒すっていうハンデが有って、しかもボス戦直後で疲弊してる筈のシュユに。少し憎んだりもしたけど、それは直ぐに間違いだって解った。クラインのお陰だ。…だからこそ、俺は君を止める。あいつの大切に思ってる君を、間違いに向かわせる訳にはいかないから」

 

 ユウキはここで初めてキリトを『視る』。朧気に見るのではなく、【キリト】というプレイヤーの想いを受け止める。今の言葉に嘘偽りが無い事は馬鹿でも解る。キリトはこんな真面目な場面で嘘を吐ける程常識知らずではない事を知っている。今、彼の中に渦巻く感情は何なのだろうか。自分への怒り?仲間を喪った哀しみ?自分を止めてくれたというシュユへの感謝?少なくとも、ユウキはその感情を窺い知る事は出来なかった。少なくとも、今のキリトの声音には()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「俺みたいな目には遭って欲しくない。だから――ッ!?」

 「キリトッ!?」

 

 何が起きたか、この場に居る2人には理解出来なかった。月見台の縁に腰掛けていたキリトが、直下の湖に突き落とされたのだ。見捨てるなどユウキに出来る訳も無く、ユウキはキリトに手を差し出して追い掛ける様に落ちていくのだった…




 スマホを機種変したので、表記のやり方が少し途中で変わってます。具体的に言えば「......」を「…」という三点リーダに変えた事ですね。もう少し有りますが、殆ど変わらないので御安心下さい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。