2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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3話 強盗事件

 「郵便局か~、結構久し振りに来るね!」

 「銀行とか郵便局は大体母さんが行くからな。今回は偶々だし、ちゃちゃっと払い込み済ませて買い食いでもしよう」

 「お、悠も中々分かってきましたな?」

 「ハハ、木綿季のお陰だな」

 

 今日は母親の仕事の都合が悪くなり、払い込みに行けなくなってしまったので2人でお使いだ。とは言っても、悠は原作の知識と自分に関する記憶が無いだけで、大学までの勉強や社会人に必要な事は覚えているので苦戦する事は無い。

 

 「じゃあお願いします」

 「はい、少々お待ち下さい」

 

 局員に必要な書類を預け、手続きが終わるまで席で待つ。後は局員に呼ばれるまで待ち、終われば郵便局から出て帰るだけ――の、筈だった。

 

 「テメェら動くんじゃねぇぞ!!オラ、さっさと金出せ!!」

 

 無骨に黒光りする物体――銃を持ち、中に入ってきたのは強盗3人。何処で手に入れたのかは悠には皆目検討が付かないが、少なくとも強盗に手を染めた時点でロクな理由ではないだろう。

 

 「.....木綿季、大人しくしていよう。大丈夫、危なくなったら助ける」

 「.....悠が言うなら大丈夫だね」

 

 さっき悠が書類を預けた女性局員が、とにかく撃たれたくない一心で強盗が用意したバッグに金を詰め込んでいる。それもそうだ。そもそも銃なんて代物に関わりは無い人生を歩んできただろう彼女に、銃を目の前に突き付けられた状態で強盗に抵抗しろなどと言えるものか。

 周りを見渡せばそれなりに人が居る事に気付く。しかも、悠達と同年齢くらいの少女も居る。

 

 「よーし、そんなんで良い。後は人質だな。....お前だな、ガキ」

 「ッ!?」

 

 人質として選ばれたのはよりにもよって木綿季だった。確かに、悠は小学生とは言え力が強くなる5年生、もう1人の少女は木綿季と比べれば入り口から遠い。時間との勝負でもある強盗からすれば入り口に近い木綿季を選ぶのは至極当然の事だった。

 驚きの中に信頼と、少しの怯えが混じり合った眼で見られる。そんな眼で見られてしまっては、悠が動かない理由は無い。彼は幼少の頃に決めたのだ。太陽よりも眩しく、何よりも暖かい笑みを浮かべるこの少女の為に、自分はこの2度目の命を使おうと。

 そんな彼女が強盗に襲われ、もしも殺されてしまったのなら?それを一瞬思っただけで吐き気を催し、そんな事はさせないと奮起する。

 

 「チッ、このクソガキが!!」

 

 木綿季が暴れたのか、と思って木綿季の方向を見るが、暴れてはいない。まさか、と少女の方向を見れば強盗の1人と揉み合い、拳銃を奪い取っていた。これなら好都合、そう感じた彼は駆け出して勢いを付け、銃を奪われた強盗の腰を飛び蹴りで打つ。小学生とは言え40㎏近くある体重に加えて加速による衝撃の増加。その威力を思い切り腰に叩き込めば、幾ら大の大人とは言え戦闘不能には出来る。

 

 「キミ、その銃貸して!」

 「でも――」

 「良いから早く!!」

 「...分かった」

 

 此処で、2人目の男が悠に襲い掛かる。愚直に殴り掛かってくる事は無かったものの、自らが持つ有効打である銃を乱射してくる。

 このまま行けば少女まで弾丸が当たってしまう。そう感じた悠は、悪いとは思ったが思い切り手を引っ張り、抱き抱えてから椅子の陰に飛び込む。そのせいで押し倒した様な格好になってしまうが、今は照れている場合ではない。

 撃ち尽くし、リロードに入ると悠は背もたれを飛び越え、右手に持っているグリップで額を殴る。金属から伝わる鈍い衝撃が男の脳を揺さぶり、脳震盪を起こした男は立っていられずに崩れ落ちた。

 

 「おっと動くなよぉ?さっさとその銃を捨てろ。じゃねぇと――」

 

 3人目のリーダー格の男が木綿季のこめかみに銃口を当てる。幾ら転生者の悠とは言え、瞬間移動やら空間跳躍などのトンデモ能力は持っていない。故に、引き金を引けば木綿季の人生は此処まで、The Endだ。それだけは避けたい悠は、ある一縷の望みを託して椅子の後ろに銃を捨てた。足元でも良かった男は予想外に遠い場所に捨てた事に喜び、笑う。

 

 「そうだ、それで良い。安心しな、このガキは終わったらしっかり返してやる」

 

 愉悦に満ちた言葉を垂れる男。だからこそ気付かなかった。男を狙う、たった1つの銃口に。

 ガァンッ!!と雷管(運動会で使うピストル)の様な音が響く。と共に彼は走る。ジリッ、と後ろから前に右頬に鋭く熱い感覚が走るが、無視して男の元へと辿り着く。当たらなかったにしろ予想外の銃声で一瞬フリーズした男。そんな男に、無慈悲な金的が突き刺さる。まずは飛び蹴りで1度、着地してから思い切り下から、つまり玉を潰す様にもう1度だ。

 男が玉を潰される時は片方だけで気絶、両方同時に潰されれば余りの痛みにショック死するとすら言われる。それほどに凄まじい痛みを2度立て続けに、しかも正確に叩き込まれた男は泡を吹いて倒れた。その際、木綿季が下敷きにならない様にしっかり抱き抱える事も忘れないのが悠である。

 

 「悠、その傷!」

 「え?」

 

 木綿季に指摘され、此処で初めて右頬に触れる。と同時に鋭い痛み、触った右手を見れば真っ赤だ。椅子の方向を見れば、拳銃を握る少女が顔を真っ青にして悠を見ている。

 あぁ、そういう事ね。そう悠が認識すると同時に緊張の糸がプツンと切れ、悠は気を失った。自分の名前を呼ぶ少女に「大丈夫だよ」と言いながら。




 うわ、スッゴい痛そう。書いてて少しゾワッとしました。
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