2度目の命は2人の為に   作:魔王タピオカ

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 シュユ「今回の軽いキャラ紹介は原作ヒロインことアスナだ。案外多いかもな。まだ敬語だし、色々イベントもしてないしな」


 アスナ

 リズベットとは友人関係だが、本編での絡みはまだ無し。現在タメ口で話しているのはユウキだけで、他の人には大抵敬語。シュユに恩が有るが、基本認識は戦線を掻き乱すイレギュラーで、あまり良い印象は持たれていない。最近、キリトの人となりを垣間見た事により少し気になっている模様。


47話 シュユ編 醜い獣

 ――会いたい。2人に、会いたい。

 

 願う。ただひたすらに(こいねが)う。あの2人に会いたいと。独りで戦うには、この【狩人の悪夢】は過酷で身体と精神に負担を掛け過ぎる。幾ら人よりも感情の起伏が乏しいシュユだとしても限界は有る。

 目を開け、目の前に振るわれる金槌を回避する。そのまま右手に握る【獣肉断ち】を横薙ぎに振るう。刃が蛇の様にのたうち、金槌を持つ狩人の腹部を内臓ごと削り喰らう。怯む敵に肉薄し、左手の手刀をその傷口に突っ込み、力任せに引き裂く。多量の返り血と共に敵は消え去った。

 近くに有った椅子を引き寄せ、身を投げ出す様に身体を預ける。古い椅子が軋み、悲鳴を上げるがその耳障りな音すら今のシュユには心地良い。少なくとも、敵の叫び声と剣が肉を引き裂く音よりはマシだ。

 風邪に罹った時の様に思考が定まらない。身体に伸し掛かる様な重さは過労と睡眠不足から来る一時的なものだが、それよりも深刻なのは脳への負担だ。一度の使用ですら常人ならその負担の余りに死ぬ可能性も有る【ゼロモーション・シフト】、それをマトモな睡眠と休養が取れないままに使っているのだ。既に倒れていてもおかしくはない。

 

 「――ッ、【灯り】は、どこだ…?」

 

 【灯り】の周辺や中にソレがある建物は絶対的な安全圏だ。保護はされないが誘い込まない限り入ってこないし入ってこれない。それだけで今のシュユには充分だった。

 担ぐのも面倒になったのか、右手に握る獣肉断ちを引き摺って歩いている。ガリガリと地面を削る不快な音が敵を引き寄せているという簡単な事にも、今のシュユには気付けなかった。

 斧と大砲を持った巨人が2体現れ、シュユの前に立ち塞がる。大斧持ちが走って突っ込んでくるがシュユは真上に跳躍、そして伸ばした獣肉断ちを巨人の腕に巻き付け、重力と自身の力を加えて下に思い切り引っ張る。鎖を巻き取る様な音と共に獣肉断ちの刃は無骨な剣の形へと戻り、巨人の右腕は無惨な姿となって地面に落ちた。痛覚の有無は不明だが、耳障りな大声で叫ぶ巨人の身体目掛けて千景を突き刺す。グリグリと念入りに捩じ込み、そして袈裟掛けに振り下ろすと大斧持ちの巨人は消滅した。

 完全に消滅するその前にシュユは大斧を掴むと遠心力を利用して大斧を大砲持ちに向けて投擲する。大砲の銃口に大斧の刃がめり込み、砲弾を撃つ機能を奪い去る。丁度発射しようとしていたのか、暴発してしまう。そんな隙を晒せば無事でいられる訳もなく、内臓を目茶苦茶にされる感覚と共に大砲持ちの巨人の意識と身体はポリゴンへと還っていった。

 

 「…崩落で封鎖されてるのか」

 

 今シュユが居るのは原作の『Bloodborne』だったなら【悪夢の教会】と呼ばれる灯りが有った所だ。しかし、その入り口は崩落した瓦礫により塞がれ、灯りを灯す事は出来なくなっている。だが、転生者とは言っても前世の記憶を殆ど持たないシュユはそんな事を知る由もなく、ただ進む。腰が曲がった老婆の様なエネミー【アイコレクター】を倒し、大きな鉄門を延々と叩く亡者を倒して【輸血液】を調達して先に進む。

 地下道の様なトンネルを進むと、足元の水が紅く染まっていく。匂いはより生臭く、濃密に鼻腔を突く。この匂いはもう嗅ぎ慣れた、嗅ぎ慣れてしまった。この【狩人の悪夢】に居れば延々と嗅ぎ続ける事になる、血の匂いだ。

 一際広い場所に出ると、警戒は解かずに周囲を見回す。足元は水と言うよりも完全に血液で、そして辺り一面に死体の山が積み重なっていた。

 

 「…ああ、ああ、あんた…助けてくれ…あいつが…おぞましい、醜い獣がやってくる…ああっ、呪われたルドウイークが…赦してくれ…赦して…くれ…」

 

 死体も同然の物体がシュユに向けてか誰かに向けてか、言葉を放つ。が、後ろから巨大なモノに踏み潰される。ソレは見るだけでも吐き気を催す様な、そんな姿をしていた。4足歩行でありながら脚でしっかりと立ち、腕も4本。その顔は馬にも見えるが、髪の毛が一応生えており顔立ちは人間の様にも見える。

 

 【醜い獣、ルドウイーク】

 

 悲鳴の様な鳴き声と共に超速の突進。右に飛び退く事で回避するが、振り向き様に腕での薙ぎ払い。ジャンプして回避し、獣肉断ちの刃を伸ばして攻撃を加えるが、効いた様子は無い上に体力バーもあまり減ってはいない。ならば、とアイテムストレージから取り出したのは【爆発金槌】だ。先端部にあるシリンダーの様な部分を回すと炉に火が灯る。ルドウイークの脚の1つに狙いを定め、全力で横に振るうと爆発が文字通り『爆発的な』加速を生み出す吸い込まれる様に当たった金槌だが、その手応えからシュユは1つの結論に達する。

 

 ――コイツ、打撃は効かないッ…!

 

 お返しとばかりに巨体を活かしての薙ぎ払い。敢えて懐に潜り込む事で回避するが、更に頭突きを放ってくる。異様なまでに速い頭突きに対応しきれず、爆発金槌の柄で受け止めるが巨体が生み出す衝撃に矮小な人の身体で耐え抜ける訳もなく、後方へ吹き飛ばされる。

 次に取り出したのは【ルドウイークの聖剣】だ。目の前の獣と同じ名を冠するその剣の見た目は細身の剣だが、セットで付いてくる重い鞘を装着する事で敵を叩き斬る大剣へと変わる。

 シュユは背負う鞘をガキンッ!!と音を立てて剣に装着し、大剣形態に変形させる。腰と身体を使うフルスイングで脚を斬ると、先程の金槌と獣肉断ちの威力よりは高いダメージを与える。更に1発入れようとするが、直ぐに思い留まる。この大剣形態の聖剣は威力こそ大きいが隙も大きくなるのだ。深追いはするべきではない。

 

 「ッ、オオォォッ!!」

 

 雄叫びを上げて恐怖心を圧し殺し、左手での薙ぎ払いを躱して縦斬りを叩き込む。更に巧みな体重移動で横斬り、最後にもう一度縦斬りを入れてからバックステップで下がる。直後、自分が居た所が轟音と共に上から叩き下ろされて水柱を上げる。自分も視認出来ないが、それでもシュユには予測がある。

 武器を入れ替えて爆発金槌を持ち、火を灯してから足元を殴る。衝撃と共に空に打ち上げられ、そのまま回転しながら武器をルドウイークの聖剣に持ち替え、剣を振り下ろす。大量の血を噴き出し、咆えるルドウイークを凝視しながら後ろに下がる。

 

 (ソードスキルが使えないにしては上出来か…?いや、このままじゃこっちがジリ貧だな)

 

 ヤーナムで入手できる変形武器はとても強力だ。2形態の変形は状況に合わせて武器を選択出来るし威力の底上げも可能なのだが、その欠点として変形後はソードスキルが使えない(一部の武器は例外だが)。

 ソードスキルの火力補正はSAOの攻略に於いて多くのプレイヤーが頼りにしてきたもので、それはシュユとて例外ではない。葬送の刃の補正が有るとは言え、やはり威力の面では千景に軍配が上がる。この武器を打った鍛冶師の腕前が良く分かる。

 シュユは駆け出す。短距離の超高速ステップである【アサルトステップ】を使い、懐に潜り込むとカタナのソードスキル【浮舟(ウキフネ)】を使う。地面スレスレからの斬り上げは小型のエネミーなら打ち上げてコンボの起点に出来るものだが、今回は違う。技後硬直する一瞬前にソードスキルを挿し込む事で硬直を無視、ルドウイークの身体を歩法のソードスキル【クライム】を使って登り、大きく跳躍する。そのまま一度納刀、そして【旋車】を使う。血液を纏った刃がルドウイークの身体を撫で切りにし、凄まじい勢いでルドウイークの体力が減っていく。

 そして怯んだルドウイークの頭に【エンブレイサー】をブチ込み、そして力任せに引き裂く。体力バーが半分を切るとルドウイークの身体は崩れ落ち、そして動かなくなった。体力バーも消失し、シュユもあまりの疲労に崩れ落ちる。ルドウイークの身体が落ちる音が響いたその場に、身体に突き刺さっていた大剣が落ちる音が大きく響いた…


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