シノン「ま、直ぐに戻ると思うけどね。今回の話が遅れたのはロマに苦戦した事が無い作者が書き方に詰まったのが原因だし」
シュユ「今回は肩慣らし的な所もあって、キャラ紹介は休憩だ。その代わり今回は少し長めだから、それで許してくれ」
シノン「さて、どうなるのかしら49話?」
【ビルゲンワース】の湖に落ちる。キリトの手を途中で掴みはしたものの、肝心の自分が掴める所が無く延々と落ちていく。流石に水底が遠過ぎる、そう思った瞬間に身体が
周囲を見回してみれば、有るのは『白』だけ。湖の中だと言うのに水は足元に薄く張っているだけで、水中に潜っている訳ではないのだ。隣でユウキを庇って背中から地面に叩き付けられたキリトはゲホゲホと咳き込んでいる。受け身は取ったんだろうが、衝撃を逃し切れなかったのだ。流石に仕方がない。
「何…コレ…?」
何も無いこの空間に唯一鎮座する、ナニカ。顔らしき所には石の仮面の様なものが有り、小山の様な身体には白い綿毛の様なものが生えている。接地面には無数の足らしきものが生えており、生命体なのかも知れないと思わせる。微動だにしない謎の物体、何となくユウキはその表面を撫でてみた。
――ゾワッ
その瞬間、背筋を蜘蛛が這い回った気がした。凄まじい悪寒が全身を包み、反射的に剣を振りつつ後退る。傷口から血液が出る事は無く、ただ
ゆっくりとユウキの方を向くナニカ。眼があるかどうかは判らないが、その視線に敵意は無い。ただ単に羽虫が鬱陶しいから潰す、そんな無感情かつ無機質な感情とも呼べない意思が向けられる。
【白痴の蜘蛛、ロマ】
キリトも合流し、ロマを斬ろうと迫るが空から落ちてきた物体に阻まれる。左肩を強かに打たれたキリトはその異様なまでのダメージフィードバックに歯を食い縛り、後ろに下がる。ユウキとキリトを取り囲むのは【ロマの子蜘蛛】という特殊なエネミーで、体力も防御力は大した事は無いが攻撃力だけはブッ飛んでおり、迂闊に突っ込もうものならば2人の体力は溶ける様に無くなってしまうだろう。
「気を付けろユウキ!本体が攻撃してこないとも限らない!!」
「分かってる、よ!!」
この2人、武器系統のスキルは片手剣しか持っていない。片手剣はあらゆる戦況に対応出来るが、それ故に突出した性能を持たない。そして対多数の戦闘は苦手な部類に入る。つまり、今の状況はかなり厳しいのだ。
後ろから高く跳躍して飛び込んでくる子蜘蛛を回避、柔らかい胴体を斬り裂き、前方に固まっている3体の子蜘蛛を【ソニックリープ】で纏めて貫く。更にユウキはストレージから【仕込み杖】を取り出す。変形すると杖は蛇蝎の剣となり、鋭く振るわれた杖は大きく
(――埒が空かない!)
この武器の補正の殆どは槍系のスキルに掛かっており、槍系のスキルを持たないユウキでは本来の威力が引き出せない。が、何度も振ればDEXが威力に関わる仕込み杖はその威力の一端を発揮して子蜘蛛程度の体力ならば奪い去る事も出来る。
「オオオォォォォォ!!」
子蜘蛛を全滅させたキリトはヴォーパル・ストライクをロマに見舞う。そこからシステム外スキル【スキル・コネクト】を利用してシャープネイル、最後にノヴァ・アセンションを全て当てて見せる。流石は
ロマがとぐろを巻く様に身体を渦巻かせる。身体がだんだん透明になっていき、最後は消えてしまう。だが視界の端に在る体力バーは未だに顕在であり、まだ戦いが終わっていない事を2人に教えている。
「やっぱ、そう簡単にはいかないか…」
「それにしたって、数が多いし厄介だね。微妙に硬いし…」
子蜘蛛の体力は少ないとは言え、片手剣の一撃では倒し切れない。それは軽量片手剣を扱うユウキだけではなく、重量片手剣を使うキリトも同じ話で、一撃では微妙に足りないが2回斬ればオーバーキルなのだ。生憎
もう一度召喚された子蜘蛛を斬り捨てつつ、徐々にロマに近付いていく。動きは未だに無い――そう、思っていた。
「グッ、あぁぁぁ!!??」
ロマがのたうち回る。言ってしまえばそれだけで、衝撃波を出した訳でもないので被弾する要素は一切無い。しかし、現にユウキは被弾して打ち上げられている。理解が及ばない、そう思いながらキリトに視線を寄せる。
そのキリトも、空から降り注ぐ隕石から逃れようと疾走している最中だった。高く上げたロマの頭、その上空から降り注ぐ氷にも似た隕石はキリトの肩を掠め、あまりの勢いに足を止めたキリトに何度も直撃する。剣や防具で防ぐが、正直な話焼け石に水だ。まぁ、今回はそのお陰でどうにか生き残れたのだから馬鹿には出来ないのだが。
「ボクは…死ねないんだ!!」
飛び掛かってくる子蜘蛛の攻撃をゼロモーション・シフトで躱し、剣を突き出す。頭の堅い甲殻と柔らかい胴体の隙間に剣の先端は突き刺さり、頭の甲殻ごと引き剥がして子蜘蛛の1体をポリゴンへと還す。更に返す刃で右に陣取っていた1体を斬り捨て、態勢を整えようとする。が――
「――あ、れ?」
ロクに休息を取ってこなかったツケが、今ここで払わされた。ゼロモーション・シフトによる過負荷と今までの過労により、一時的に脳から仮想脳に出される命令系が混乱しているのだ。簡単に言えば、今のユウキは金縛りに遭っているも同然だ、このMOBに囲まれたボス戦という、最悪の状況で。
動きが止まった所をロマの隕石に狙われる。どうにか、本当に僅かに身体を転がして隕石の直撃は避けたものの着弾の衝撃に耐え切れずユウキの軽い身体は浮かされ、そして地面に叩き付けられる。動けないユウキを嬲る様にゆっくりゆっくりと近付いてくる子蜘蛛、もう終わりも同然だ。
「クソ、邪魔だッ!!俺はまた仲間を目の前で死なせたくない!」
そのキリトの願いを嘲笑う様に子蜘蛛は小さい身体に不釣り合いな程長い腕でユウキを殴り、体力を削っていく。
「この状況を打開する力――何か、何か無いのかよ!?頼む、ユウキを死なせたらアイツに、シュユに合わせる顔が無い。だから…シュユの大切な人を護る為の――」
――力をッ!!
キリトのその声が放たれる事は無かった。――否、聴こえなかったのだ。それは突如現れた、エメラルドの光を放つ剣が放った光と轟音が、全てを掻き消したからだ。
キリトの前に現れたその剣は宙に浮き、早く手に取れと言わんばかりに光を明滅させる。
【
「ブッ…飛べッ!!」
横薙ぎの一閃は光を伴い、光に触れた子蜘蛛の胴体を上下2つに分かつ。それだけでは終わらず、彼の放った斬撃は他の子蜘蛛3体を纏めて葬っていた。
【ラピッドステップ】を使い、ロマの胴体の横に陣取る。そのままバーチカル・スクエアを放ち、閃打を使って硬直を短縮する。ガラ空きの胴体にホリゾンタル・スクエアを全て当てると、柔らかい肉を斬り裂く刃と碧い光がロマの体力を削っていく。再びロマはとぐろを巻き、どこかへワープする。
追跡しようと周囲を見回すキリトだが、踏み出そうとした瞬間に凄まじい倦怠感に襲われ、マトモに受け身も取れずに倒れてしまう。剣の輝きは失われて石の剣の様にくすみ、見るからに
「――ぁ…ど、して…?」
少なくとも、さっきまでは普通に扱えていた。だが【スキルコネクト】を併用したラッシュを行った途端に身体が重く、身体が鉄の塊になったかの様になってしまった。
それも当然だ。何故なら、
言ってしまえば、キリトは本来持てない重さのダンベルを無理矢理持ち上げた様なものだ。短時間なら持てても、無理に持ち続ければ後で皺寄せが来る。本来キリトでは扱えない聖剣を使い、聖剣に光を纏わせるだけでも精一杯の筈が纏わせるだけでなく、光波を飛ばしていたのだ。それも、1発や2発ではなく、10発は軽く超えている。当然、皺寄せも大きくなっていく。その結果がこれだ。
「…なら、ボクがやる。それぐらいなら、やってみせるよ」
キリトが右手に握っている聖剣を、キリトの指を解いてユウキが装備する。アイテムとしてこの場に存在している訳ではないのか、アイテム欄に名前は出てこないが使えるなら問題無い、そうユウキは割り切って剣を構え、疾走する。
剣を横一閃に振り抜くが、慣れない重さに身体ごと振り回される。片手で振っているとは言え、この剣は確実に両手剣クラスの大きさだ。ユウキのSTRでは十全に扱えないのも当然だろう。
子蜘蛛を掃討する事は諦め、最低限しか倒さない事にする。地面から突き上げてくる隕石は全て勘で回避、攻撃を続ける。頭が灼き切れそうな程に痛い。それでも彼女は止まらない。確証が有る訳ではないし、見た訳でもない。だが、確信は有った。この剣はシュユがくれた剣だと、何故か解った。このヤーナムのどこかで戦っているであろうシュユが、ピンチを救う為にこの剣を贈ってくれたと。
だからこそ、負けられない。負ける事をほかならぬユウキ自身が許さない。背中に飛び掛かってくる子蜘蛛の攻撃をサイドステップで回避、ラピッドステップで前方に勢い良く駆ける。一瞬だけ存在する硬直時間、その時にユウキはゼロモーション・シフトを無意識に使う。ロマの身体の上空に転移したユウキは、左手を前に翳して右手に握る剣を肩の上に大きく引く。キィィィン、とジェットエンジンに似た効果音が耳に響く。
そして、ユウキは自分の横にシュユを見る。まるで手本を見せるかの如く、ユウキの前で同じ構えを取っていた。2つの凛、という鈴の音にも似た音が重なる。行け、と言わんばかりに横顔で笑みを浮かべるシュユを見て、ユウキは剣を全力で突き出す。
「ハアアアァァァァッ!!!!」
片手剣系ソードスキルの中でも単発の威力は最強とも言われる【ヴォーパル・ストライク】。本来の刀身の2倍近くある紅いエフェクトがロマの身体を貫き、更に翠の光が内部から身体を破壊し、真っ白い空間を紅と翠が染めていく。既に、ロマの体力バーは消失していた。
「…ありがと、シュユ」
聖剣が砕けて、ポリゴンへと還っていく。恐らくはユニークウェポンの聖剣がこの一戦で壊れたのはほぼ確実に非正規な手段でこの武器を使ったからなのだろう。オリジナルの聖剣は無事なのだろうが、今この場に送られたレプリカはここで壊れる事が正常なのだろう。ユウキも、惜しいと思っていない訳ではない。だが、それではシュユに顔向け出来ない。強くなったとしてもそれが胸を張って言えないやり方なら、シュユに話せないやり方なら、意味が無いのだ。
「何なんだ、あの月は…?」
キリトが呟く。釣られて後ろを見れば、つい先程まで蒼く照らしていた月が禍々しい紅に染まり、世界を照らしていた。見れば見る程引き込まれ、まるで近付いてくるかの様だ。――否、実際に引き込まれているのだ。身体ではなく、2人の意識が。
どんどんと近付いてくる月に、2人は両腕を前に翳す。狂った月光から逃れようとするかの如く、意味が在るのかも解らないままに。そのまま、彼らは『月』に呑まれた――