2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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 シュユ「今回のキャラ紹介はもう1人のメインヒロイン、シノンだな。何だかんだユウキとシノンが1番変更点が多いな、まぁヒロインっていう関係上、仕方無いのかも知れないが」


 シノン

 特典により救済。郵便局での強盗事件に巻き込まれはしたものの、銃に対するPTSDは発症していない。しかし、1度発砲した際に弾が悠の頬に掠り、傷痕が残ってしまった事に罪悪感を感じている。学校では授業態度も良く成績も優秀だが、交友関係が狭く心を許していない人とは殆ど喋らない。が、そのクールさが却って人気なのだが、悠に好意を寄せているのは皆知っているので告白はされない。
 SAOダイブ前は悠の母から手芸を学んでいた。手先が器用なので、悠にマフラーなどを贈っていたりもする。
 SAOダイブ後の殆どはシュユと行動していた。『悠』との付き合いはユウキより短いものの、『シュユ』との時間はユウキより長い。

 拘束系ヤンデレ。完全な実行には移していない。


50話 シュユ編 聖剣

 「ハッ、ハハハ…クソ、笑えねー」

 

 地面に突き刺さった大剣に、翠の光が宿る。その煌めきはこの死体溜まりを照らし、気持ち悪い程の血の紅を際立たせる。そんな状況で、シュユは幽鬼の様にゆらりと立ち上がって剣を構えた。

 

 「嗚呼ずっと、ずっと側に居てくれたのか。我が師、導きの月光よ…」

 

 【聖剣のルドウイーク】

 

 醜い獣は聖剣の輝きにより、かつての英雄へと変貌を遂げる。あの醜い姿から外見は変わっていないが、解る。肌で、空気で、本能で感じる。今、自分の目の前に立つのは獣などではない。かつて獣を狩り続けた、歴戦の『狩人』であると。

 突き出される聖剣をスレスレで回避。確実に躱せるコースだったが、装備の脇腹が斬り裂かれ体力が数コンマ減少する。が、怯まない。態勢を低くし、一切速度を落とす事無く駆ける。突きの状態から薙ぎ払いに移行するが、それは地面をスライディングする事で回避。立ち上がり、千景を抜くが腹部を凄まじい衝撃が突き抜け、堪らず吹き飛ばされる。

 

 「ガッ…!?――ッ!!」

 

 ダメージフィードバックによって齎される吐き気を無理矢理呑み込み、咄嗟に左に転がる。もしも、もう少し長く悶えていたのなら正確にシュユの身体を狙った突きに貫かれていただろう。

 隠れる場所も無い。シュユは千景を納刀すると、【アサルトステップ】で距離を詰め、複数ある脚の1本に斬撃を浴びせる。が、効いていない。否、効いていない様に見せているのだろう。弱点を見せれば、そこから崩されるのだから。

 嫌な予感。前方に回避、背後を聖剣が通っていく。更に聖剣から放たれた光が地面を抉り、そして揺らす。足元に溜まった粘性の高い液体――血がシュユの脚を捉え、転ばせる。そんな大きな隙をルドウイークが見逃す訳も無く、容赦ない斬撃が放たれる。ゼロモーション・シフトで少し移動したものの、それも光波の齎す余波によってシュユは吹き飛び、背中を強かに打ち付け息を詰まらせる。

 

 (クソ、好き勝手やりやがって…)

 

 【匂い袋】と闇潜みのマントを使って隠れる。しかも死体の山に無理矢理入り込むというオマケ付きだ。最後に寝転がったのはいつだろうか?最近はずっと三角座りで武器を抱き、ただ目を閉じていただけだ。ただ入ってくる情報を絞って脳を少し休めるだけ、仮想脳自体や蓄積された疲労が解消される事は無い。むしろ、少し意識が残っている分疲労が増しているまである。そんな極限の疲労状態だからだろうか、瞬きをする度に瞼は重くなり、5回程瞬きをひた時には、既にシュユの意識は現実(ここ)ではない場所に旅立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――見えるのは、笑顔。この世界(SAO)で腐る程見てきた狂った笑顔ではなく、心からの笑顔。今の自分にとって眩しいソレは他の誰でもない、自分に向けられていた。紺色に近い黒髪と、灰色が入った茶髪、見紛う訳がない。ユウキ(木綿季)シノン(詩乃)だ。

 今のシュユ()は寝転がっている。横に伸ばした腕の上には木綿季と詩乃の頭が乗っている。所謂腕枕、というヤツだ。2人の顔には微笑みが浮かべられ、見ていると自然に悠の口角も上がっていく。とても、とても幸せなものだ。

 

 「ねぇ、悠」

 「…どうした?」

 「流石に解ってるわよね?『ここ』が夢だってこと」

 「…流石に、な。解ってるさ」

 

 当然だろう。先程まで自分は吐き気を催す程に血の匂いがこびり付いた死体溜まりで戦っていたのだ。少なくとも、今の様に綺麗な花の香りなど嗅げる訳が無い。

 

 「うん、『ここ』は夢。頑張って、頑張って、頑張り過ぎて、死にそうになってる悠の脳が見せてる白昼夢みたいなものだよ」

 「死ぬ程頑張った、か。それもそうか。マトモに寝もせず、ずっと戦ってたんだからな。…そろそろ、休みたいな」

 「ダメだよ。今休んだら、悠は死んじゃう。もし休んだら、少なくとも数日は目が覚めない。そんなに時間は稼げない事、解らない悠じゃないでしょ?」

 「ハッ、ハハ…解らないオレなら、どれだけ良かったかな…」

 

 幾ら隠蔽率(ハイディング・レート)を上げて死体の山の中に埋もれたとしても、10分も時間を稼げれば良い方だ。しかもこのヤーナムに属するエネミーは異様に発見率が高い。ボスとなれば尚更という事は、既にガスコインとの戦いで学んでいる。

 

 「だから、戦わないと」

 「…もう、疲れたよ」

 「じゃあ死ぬ気なの?私達との約束を破って」

 「約、束…」

 「言ったよね?ボク達は悠が死んだら後を追うって」

 「そしてあなたは約束したわ。また3人で笑い合う為にってね」

 

 悠は目を閉じていた。ゆっくりと瞼を開ければ、腕枕を止めた2人がじっと悠の顔を凝視していた。『シュユ』は帽子を被り直し、いつの間にか握っていた大鎌を構える。

 

 「約束、約束か…そうだな。なぁ、2人とも」

 「どうかしたの?」

 「オレが約束を破った事、今まで有ったか?」

 「無いよ。1回も、破られた事は無い」

 「そうか。…ありがとう、2人とも」

 「「…うん、頑張って(ね)」」

 

 そこは揃える所だろ、そう苦笑しながら『シュユ』は大鎌を振り抜く。夢は硝子の様に罅割れ、甲高い音を立ててシュユを現実に引き戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルドウイークは聖剣を地面に突き立て、目を閉じていた。シュユを捜す事は無く、ただずっとそこに立っていた。まるでシュユが再起する事を信じているかの様に、静かに立っていた。どれだけ経ったか、誰にも判らない。だが、ゆっくりとルドウイークは目を開ける。その視線の先には、血塗れで刀を携えるシュユが居た。

 

 「――死ぬ気でやる。死ぬ気は無いが、死ぬ気でアンタを狩る。…行くぞ」

 

 死体の山を蹴って駆け出すシュユに向け、ルドウイークは無造作に、しかし渾身の力で聖剣を突き出す。シュユはそれを跳躍し、()()()()()()()()()()()()。ルドウイークは表情を変える事は無いが、確かに息を呑んだ。それはただ、無謀としか言えないシュユの選択に畏れを感じたのだ。

 今の選択、ルドウイークの賭け金が多少のダメージだったとするのなら、シュユの賭け金は自分の足と大量のダメージだ。ちょっとでも高く跳べばルドウイークの斬り上げでシュユは縦に真っ二つ、低かったのなら足を斬り飛ばされて移動が出来なくなり、殺される。明らかに釣り合っていない。

 

 「血に酔うのが狩人なんだろ?なら、とことん血に酔って狂ってやるッ!!」

 

 補正が掛かったAGIにより、シュユは剣の上を凄まじい速度で走る。剣が纏う光が足裏を焦がす感覚がするが、そんなものは気にしない。どうせ、意味は無いのだから。

 剣を持つルドウイークの腕に到達するが、シュユは止まらない。更に駆け上がり、顔に到達する直前で千景を納刀、次にアイテムストレージから大きな布を取り出し、ルドウイークの鼻っ柱に引っ掛ける。覆い被さった布はルドウイークの視界を遮り、ルドウイークにとって予想外だったその動きは一瞬の硬直と混乱を引き起こす。シュユはルドウイークの後ろに降り立つと闇潜みのマントを装備、そして準備を始める。

 千景を抜刀、そしてもう1度納刀する。勢い良く減っていく体力バーを尻目に、抜刀すればシュユの血を刀が纏い、禍々しい紅に染まっていた。そして、シュユはその刀を――

 

 「――グッ…!!」

 

 ()()()()()()()()()()()。安全圏ではないこの場所でそんな事をすれば体力は凄まじい勢いで減っていく。だが、これで良い。むしろこうでなければならないのだ。

 突然だが、SAOに於いて最強のソードスキルは何だろうか。片手剣のヴォーパル・ストライク?槍のハイジャンプ?両手剣のアバランシュ?はたまた、細剣のフラッシング・ペネトレイター?確かにどれも強力だ。ヴォーパル・ストライクは片手剣の中でも屈指の射程と威力を誇り、ハイジャンプは当てるのが難しいとは言え、当てさえすれば凄まじい威力を見せてくれる。アバランシュも妨害されやすいとは言え、充分な威力と速度を持っているし、フラッシング・ペネトレイターに関しては助走距離さえ有れば理論上無限の威力を秘めている。だが、どれも最強ではない。

 確かにプレイヤーの技量によって最強は変わる。だが、【カタナ】カテゴリーの中には凄まじいソードスキルが存在する。射程も有り、溜めは短く、発動も速い。そして勿論威力も絶大だ。だが、何故誰も使わないのか?そもそも知名度が低いのは何故か?それはとても簡単な話、使()()()()()()使()()()()()()だ。

 このSAOはデスゲームだ。だからこそ、そのソードスキルは使えない。誤解の無い様に言っておくが、決して自爆技ではない。ただ、使用には危険が伴う。それだけの話だ。

 そのソードスキルのトリガーとなるアクションは『カタナカテゴリーの武器で自分の身体を突き刺す事』であり、使用には危険を伴う。当然、体力は減るからだ。全ソードスキルの中で唯一、自傷行為を含めたソードスキル。諸刃の剣、【最凶】とも名高いそのソードスキルの名は――

 

 「無常…紅吹雪ィィィィィィ!!!!」

 

 【無常紅吹雪(むじょうべにふぶき)】、それがそのソードスキルの名だ。シュユの血を纏った刃は飛び、ルドウイークの身体を斬り裂く。だが、まだ終わらない。だからシュユはもう1度千景を振り抜いた。【無常紅吹雪】ではなく、純粋な千景の能力である血の刃がルドウイークに飛来し、その胴体をぶった斬った!!

 ルドウイークの体力バーは消し飛び、巨体が崩れ落ちる。と同時にシュユも崩れ落ち、膝をつく。視界の端の体力バーの残りはたったの1。これが使われない理由だ。ボスエネミーの体力を半分以上消し飛ばす威力と近付かなくても当てられる長射程、その代わりに使用後は体力が1になる。こんなもの、死んだら終わりのデスゲームで使おうなどと思えないだろう。

 

 「…不味い…」

 

 ハイポーションを2本飲み干すとシュユは少し歩き、階段に腰掛ける。その下にはルドウイークの生首が落ちていた。本来は全て消える筈のボスエネミーの身体の一部が落ちている。となれば、何かイベントが有るのは必然。そう思っていたからか、その生首が喋ってもシュユは驚かなかった。

 

 「…問おう、未熟なる狩人よ。貴公は、導きの光を見たか?」

 「導きの光?…あぁ、見てるよ。いつでもオレを導いてくれる、2つの光をな」

 「2つだと?それは違う。導きの光は月光、たった1つの――」

 「五月蝿い。…もう、眠れ」

 

 シュユは【ルドウイークの聖剣】を放り投げる。投げられた剣は回転し、重力に従って落ちる。その切っ先の先に有るのはルドウイークの生首。貫かれたルドウイークは何も言わず、塵となって消えていった。それと同時に、シュユの目の前にメッセージウィンドウが現れる。

 

 『YOU GET THE UNIQUE WEAPON 【THE MOONLIGHT HOLYBLADE(月光の聖剣)】』

 

 システム上の演出か、勝手にシュユの右手に収まった聖剣に対し、シュユは言った。

 

 「…オレに聖剣なんざ不釣り合いだ。居る筈だろ、もっと良いヤツが。英雄になれる、お前を使うのに相応しいヤツが。…どうかソイツの所に、行ってくれ」

 

 一瞬の静寂、その後に不服そうに1度強く光を放つと、どこかへ聖剣はワープしていた。シュユは立ち上がり、【灯り】を灯すとルドウイークに引っ掛けた布を敷き、上に座る。品質が良い訳ではない安物なので、畳んだ上に座っても大して座り心地は良くない。だが、今のシュユにそんな事は関係ない。胡座で座ると、目を閉じて真っ暗な眠りへと落ちていく。夢すら見ない程、深い眠りに。その中で、聖剣を使う少女の姿を見た気がした。

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