2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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 シュユ「今回の紹介はリズベットだな。まだこの作品には登場してないんだが、設定は大体固まってるから安心してくれ。…SAO主要メンバーが50話行っても全員出てないって、大丈夫なんだろうかな」


 リズベット

 しれっと【OWM】を解放している数少ない熟練鍛冶士。アスナとの親交はあるがヤーナムに入れていないので最近は会えていない上にキリトとの面識は無い。
 攻略組に入ろうとはせず、かつてSAOを揺るがしたプレイヤーメイドの剣を越えようと躍起になっている。因みに、リズベットの【OWM】はカーヌスを目指している為似通っているが、才能の問題からか尋常ではない程に使い難い。


54話 シノン編 『やつしのシモン』

 「んぅ…暖かい…」

 

 夢現、何気なく漏らした言葉。いつもなら反応する人は居ない。勿論だが、今も居ない。だが、決定的な違和感に気付いたシノンは跳ね起き、周囲を警戒する。

 

 「…居ない…?」

 

 自分をこのバルコニーまで運び、辺りに打ち捨てられている様な石像を柱に布を掛け、テントの様にしたモノの中に寝かせた誰かが居なかった。その中には焚き火が起こされており、しっかりと暖を取れるようになっていた。身体には厚手の布(ブランケットとは流石に言えない程ゴワゴワしている)が掛けられており、身体の下にも布が敷かれていて雪解け水で服が濡れないようになっていた。

 流石にエネミーが気絶したシノンを前にこんな事をする訳が無い。意識が途切れる前に聴こえたあの声と喋り方は間違う事は無い、シモンなのだが、ここには居なかった。

 

 「安全圏…な訳が無いわよね」

 

 少し強めに床を殴ると蜘蛛の巣状にヒビが入った。安全圏内なら紫色のウィンドウと共に【Immortal Object】の表示が出る筈なので、都合良くここが安全圏ではない事が分かる。

 立ち上がり、伸びをするとポキポキと身体の節々から音が鳴る。仮想とは言え現実、こんな所まで再現した茅場晶彦には脱帽すべきなのかどうか、良く分からない。

 武器は隣に置いてあるが、長大な腕がゴロンと転がしてある様には流石に引いた。その腕でエネミーを叩き潰したシノンが言える話ではないのだろうが。

 

 「凄いわね…皆1発で倒されてる」

 

 周囲にはエネミーの死体が散乱していた。ボスはポリゴンになって跡形も無く消え去るが、普通にポップするエネミーはそうではない。このヤーナムに限ってだが、普通のエネミーの死体は消えずに残る。その癖、どこかのモンスターを狩猟するゲームとは違って素材を剥ぎ取れる訳ではなく、血の(にお)いを発したりそこに在るだけで不快感を撒き散らすだけなのだから性質(タチ)が悪い。その全ての死体に矢が突き刺さっており、シモンが倒した事は一目瞭然だった。

 だからといって警戒を解く事はせず、シノンは着実に先へと進む。尖塔の中にある螺旋階段を昇って屋根の上に出ると、空からガーゴイルの様なエネミーが3体現れてシノンを囲む。シノンは小アメンの腕を構え、周囲を見回す。

 

 (使えそうな物は無いわね。地形もあんまり有利じゃないし…速攻で決めなきゃ、嬲り殺される!)

 

 爪を使っての薙ぎ払いを屈んで躱し、小アメンの腕を振るう。攻撃属性的には打撃に入る小アメンの腕はガーゴイルには効果抜群で、鈍い破砕音と共に身体が砕け散る。そのまま撃てを変形、鋭利な爪による追撃を加えて1体を撃破する。背後に気配を感じたシノンは振り向き様に一撃を加えようとするが予想外の速さの突進に不意を突かれ、容易く吹き飛ばされる。嘔吐感が込み上げてくるものの、出せる物はこの世界に無い。溢れた唾液を拭い、前方を見据える。

 再び突っ込んでくるガーゴイルにシノンは野球の様に小アメンの腕をフルスイングする。自らの速度と小アメンの腕の持つ運動エネルギーが合わさり、胴体のみならずガーゴイルの全身を破戒して見せた。仲間意識が有ったのか、たじろぐ様な動きを見せる最後の1体。その隙をシノンが見逃す訳も無く、ガーゴイルを正面から叩き壊した。

 

 (先に進める道は無さそうね。…屋根伝いに行くしか無いって事か)

 

 雪で滑る屋根を身長に歩き、尖塔の屋根へと落ちる。着地時、予想外に足が全て空中に身が投げ出される。シノンは変形させた小アメンの腕の爪を屋根に引っ掛け、どうにか事無きを得た。仮想の心臓がバクバクと鳴り響き、命の危機に瀕していた事を教えていた。

 更に慎重に屋根を移り、梯子を昇る。両側に柵が設置された屋根に辿り着くと、シノンは人影を見付けた。みすぼらしい格好をした人物など、シノンが思い付く人物では1人しか居ない。

 

 「――シモン」

 「…シノン、か。調子は、どうだ…?」

 「完全、とはいかないけどかなりマシよ。あなたのお陰ね。…その代わり、あなたが死にかけてるみたいだけど」

 「ハッ、違いない…な。まさか、ここまでしてやられるとは、思わなんだ…」

 

 息も絶え絶えな様子で喋るシモンの身体には無数の剣が突き刺さっていた。地面に落ちているソレを拾おうとするが霧散してしまい、手に取る事は出来なかった。実体が在るのかどうかすら判らない剣だが、突き刺されば確実に体力は減っていくだろう。その程度の事ならシモンの身体から流れ出る血液で解った。

 

 「――無駄だ。今直ぐ…輸血をしたとして、もう手遅れに、は変わらない。ただの時間稼ぎにしか…ならないなら、あんたが使った方が…数倍、は有意義だろう?」

 「でも――」

 「俺は…民衆の中に紛れ込んで、獣を捜す狩人だった」

 

 最後の力を振り絞る様にシモンは流暢に話し始めた。

 

 「だからこんな格好をしてるのさ…こんな、みすぼらしい格好をな。何度も殺したよ。狂えたらどれだけ良かったか…。シノン、気を付けろ。あんたの近くに居る狩人はここよりも醜い悪夢に魅入られた。戻れるかは誰にも解らない」

 「それってシュユの事よね!?どうして――」

 「知りたいなら、この世界の遺子を殺せ。この世界を創り出しているのはヤツだ。上位者の遺子を、狩れ」

 

 シモンは自分が握っている剣をシノンに差し出した。幅広の刃の剣には返り血が付着していて、激戦を乗り越えてきた事が分かる。

 

 「持っていけ。その(武器)じゃ、戦えないだろう」

 「…ありがとう」

 「嗚呼…これで、終わる。報われ、る。俺の…終わらない、狩りも…血生、臭い獣狩りの…夜も。これで、終わっ――」

 

 言い終わる前にシモンの身体はポリゴンへと還り、その姿を散らす。シモンが居た証明は雪に付着した血液と今シノンが握る剣だけになった。シノンは小アメンの腕を装備から外し、受け取った【シモンの弓剣】を装備して歩き出す。

 

 「何だかんだ、あなたには世話になったわね。…連れて行くわ、あなたの意志をこの剣と一緒にね」

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