2度目の命は2人の為に   作:魔王タピオカ

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 シュユ「さて、SAO編のキャラは粗方説明を終えた事だし、次回からは前回のあらすじに戻るぞ。で、今回はアンケートって感じだな。端的に言えばゲーム独自のキャラを出すかどうかって事。ストレアとかレインとか、プレミアとかその辺だな。活動報告にアンケートを書いておくから、返信を送って貰えると助かる」


55話 ユウキ編 『狩人狩りの狩人』

 「…行かなきゃ」

 

 何かを感じる。その感覚は形容し難く、説明しろと言われてもユウキには出来ないだろう。だが、これだけは解る。自分はある場所に行かねばならない、と。

 

 「…ユウキ?」

 「ごめんね、キリト、アスナ、団長。ボク…行かなきゃ」

 「行くって、どこに行くの?」

 「呼んでるんだ、誰かがボクを」

 「それなら護衛を連れて行くと良い。このフィールドは危険だからね」

 「ううん、ダメなんだ。これは、ボク1人で行かなきゃならない。…そんな気がする」

 

 当然、同じギルドであるアスナとヒースクリフは心配する。この【隠し街ヤハグル】に遅れて到着した血盟騎士団はユウキとキリトを休ませながら先に進んでいた。そんな時、ユウキがどこかへ行こうとしているのだ。止めない訳が無い。

 

 「…ユウキ、それは本当に大丈夫なのか?俺は君が死んだらシュユに――」

 「――ボクは死なないよ。まだ、シュユとやりたい事が有るからね」

 「…そうか、なら行っておいで」

 「ありがと、キリト!」

 

 ユウキは踵を返して走り出す。その後ろでアスナがキリトを問い詰める声がするが、ユウキは振り返らない。脚が勝手に動く。まるで誰かがユウキを導く様に、迷う事無く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうしてユウキを行かせたんですか!?このヤーナムが危険だって事はあなたも身に滲みて解っている筈でしょう!?」

 「…後悔はして欲しくない。ユウキは勿論、あんたにもだ。ユウキを無理矢理止めたとして、彼女が止まる訳が無いのは解りきってるだろ?それであんたが傷付くのは嫌だったからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  到着したのは大聖堂だ。かつて【教区長エミーリア】を討伐した場所、そこに恐らくユウキを導いたモノがユウキを待ち侘びていた。鴉の羽根を使ったマントにペストマスクの様な仮面、そんな特徴的な格好をした人物など、ユウキは1人しか知らない。

 

 「――鴉の人…」

 「――何だイ…こんな場所まで、走ってきテ…ったく、ご苦労な事だヨ…」

 「呼ばれた気がしたから。鴉の人がボクをここに呼んだ様な木がしたから、ボクはここに来たんだよ」

 「そりゃあ良かっタ…でもねェ、早く逃げナ。もう――」

 

 鴉羽の狩人は懐から自らの武器を取り出しながら疾駆、ユウキに肉薄すると同時に言った。

 

 「――耐えられそうに、無イ」

 「ッ!!!」

 

 シャキン!という金属音が耳の横を通り抜けると共に頬に紅い線が刻まれる。感じる不快感(ダメージフィードバック)は鴉羽の狩人が敵対した事の何よりの証だ。

 ユウキはバックステップで距離を取って剣を構えようとするが、相手はそれを許さない。小刻みなステップで距離を詰めた彼女は再び金属音を響かせてユウキへと襲い掛かる。ユウキは体勢を崩しながらも剣を振り、相手が振った剣をパリィする。ここから距離を詰めるにはゼロモーション・シフトが必須だ。今のユウキのコンディションでは連発は避けたい所であり、今は体勢を立て直して反撃の状態を作る事に専念した。

 またしてもステップで突進を仕掛ける鴉羽の狩人に、ユウキはカウンターに突きを置く様に放つ。が、その瞬間に鴉羽の狩人は勢いをそのままにサイドステップ、吸い付く様に斬撃を放つ。釣られた事に相手が仕掛けてくる半瞬前に気付いたユウキは突きを途中で無理矢理止め、更に【ラピッドダッシュ】で後ろに下がる。

 守っていては負ける、そう確信したユウキは【アサルトステップ】で鴉羽の狩人に肉薄、剣を袈裟掛けに振るう。それを斜め前方へのステップで躱した鴉羽の狩人は反撃を加えようとするが、何かを感じたのか上へと跳び上がる。だが何も無い。ユウキは剣を引き摺って火花を散らしながら突っ込んでいく。耳障りな音が近付いてくる中、鴉羽の狩人は逆袈裟に振り上げられる剣を踏み付ける事で攻撃の出始めを潰して見せた。

 

 「計算通り…だよ!」

 

 ユウキは剣を手放し、地面に小さな壺を叩き付ける。巨大な炎が上がるが、ただそれだけ――な訳が無かった。

 

 「……マズ――」

 

 地面に道の様に引かれた油を伝い、炎が燃え上がった。鴉羽の狩人の纏うマントは地面に付く程丈が長い。つまり、羽の先端はたっぷりと油を含んでいるのだ。そんな、ただでさえ燃えやすい羽に油が染み込んだ状態で炎に触れればどうなるか、そんな結果は見ずとも解る。火達磨だ。

 本来、ユウキは戦闘中に道具を使える程器用ではない。シュユやシノンの様な1つの物事を実行しながら他の事を考えるという真似は出来ない。その代わり、1つの物事に専念すれば最高のクオリティを誇る。

 今だってそうだ。元より剣戟で勝負するのは後だと決めていた。防戦一方を演じていたのは相手の攻勢を続けさせて視野を狭くする為と周囲の地形を確認する為。突進の際にわざわざ剣を引き摺ったのは、地面に擦らせた剣が放つ金属音で左手に持って地面に注いでいる油の音を誤魔化す為だ。現に読みは当たって賭けに勝ち、鴉羽の狩人は火達磨になっている。

 悶える鴉羽の狩人に敢えて近付き、【格闘】スキルで少量のダメージを与えつつ手放した剣を回収する。未だ燃え続ける鴉羽の狩人を見た瞬間、目の前に銀色の光が差し込まれた。

 

 「――あっぶないなぁもう!」

 「……………疾ッ!!」

 

 再びの金属音。左手に仕込んである篭手で相手の剣を弾くが、その瞬間にユウキは違和感に襲われる。

 

 (あれ…?あの人の剣、()()()()()()()()()()?)

 

 その直後、腹部に走る不快感。視界を下にズラせばユウキの腹部には剣が突き刺さっていた。勢い良く減っていく体力バーに目もくれずユウキは相手の身体を蹴り飛ばして自ら後ろに跳ぶ。鴉羽の狩人は追撃こそ仕掛けてこないが、相手が携える武器が厄介だという事実は嫌でも理解できた。

 通常SAOには存在しない二刀一対の武器、リーチの一刀流にラッシュの二刀流。半端な腕前ならむしろ弱くなる戦法だが、相手の腕前が凄まじい事は分かりきっている。この悪夢の都で狩りを続けられているのだから。

 X字状に斬撃を放ちながら接近してくる相手にホリゾンタルを合わせつつソニックリープで距離を詰める。それも読まれていたのかバックステップで下がられるが、ユウキはゼロモーション・シフトを使用してバーチカルを放つ。単発の縦斬りはクロスさせた相手の武器に阻まれ、打ち上げられる様に弾かれる。その勢いを利用して跳び上がり、【ライトニング・フォール】を使う。逆手に持った剣が真下の地面に突き立てられ、スパークが飛び散る。身体を少し反らして苦悶の声を漏らす狩人だが、それだけだ。構わずに斬り掛かる狩人の剣を受け止めるが、カチャリという音をユウキの耳が拾う。微かな音、その後に響いた轟音はユウキの身体を穿った。

 

 「ッ、グッ…!!」

 

 狩人の左手に握られていたのは短銃だった。ゲームではポピュラーな武器である銃、しかしSAOには存在しない筈だった。故に反応が遅れた。いや、気付いていても反応は難しかっただろう。

 

 (…ちょっと、不味いかもね)

 

 感情が読めないペストマスクの奥の瞳が、細まった気がした。


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