「.......何処だ、ココ」
「起きた!良かった...悠....!」
「木綿季?...あぁ、病院ね」
どれぐらい寝ていたのかは悠には分からないが、自分に掛けられている布団に顔を押し付けて泣いている木綿季にナースコールを押してくれ、と頼むのも忍びない。彼は自分で枕元に手を伸ばし、ボタンを押した。
「は~い、お呼びですか?」
「...母さん?」
「見ない間に怪我しちゃって、母さん悲しいわ...」
「不可抗力だし、仕方無い。で、この傷は残る?」
「...うん、残っちゃうわ。薄くだけど、抉られた跡みたいに残る」
「そうか、まぁ良い」
「いや、軽くない!?」
「いつの間に復活したし」
「聴いたらビックリだよ!傷が残るんだよ、それでも良いの!?」
悠は少しだけ考える。実際、悠の顔はイケメンかと聴かれれば答えるのに少し戸惑い、ブサイクではないというのが事実。派手に残る訳でもないし、木綿季を守った証にもなるという事で彼は普通に――むしろ喜んで受け入れていた。
「別に木綿季を守った証みたいなもんだしな。ほら、良く言うだろ。傷は男の勲章って」
「悠...それは擦り傷とかであって、銃創は違うと思うの」
「変わんない変わんない。質問は終わったから、母さんは仕事に戻って」
「息子の優しさが沁みるわ....」
母親――秋崎桜は息子直々に仕事に戻れ、と言われたので仕方無く仕事に戻っていった。勘違いされがちだが、これでも悠は母親に感謝している。ただ、無表情かつ言葉に感情が乗っていない様に聴こえるからおざなりな対応に見えるだけで、本当は心配してくれている母親に感謝している。
そして直ぐ、3回ドアがノックされる。この病室に居るのは悠だけで、廊下に出ていないから判らないが表札は悠の名前になっている筈だ。誰が来たのかは不明だが、彼は「どうぞ」と口にする。
「....キミは確か――」
「....あの時以来ですね。本当にすみませんでした、守ってくれたのに、怪我をさせてしまって」
「別に、大した怪我じゃない。オレの名前は秋崎悠、キミは?」
「詩乃。
「この横に居るのは紺野木綿季って言うんだ。宜しくな、詩乃。あと、敬語は要らない」
「ボクはついでなのかな、悠?」
「うん、取り敢えず静かにしててくれ。で、どうして此処に?」
「怪我させた事を、会えなくなる前に謝りたくて」
「会えなくなる?どうして...って、オレ達初対面じゃん。引っ越しでもするのか?」
「...そんな感じ。施設に引き取られる」
彼女の話を要約しよう。彼女の母親は夫、つまり詩乃の父親が交通事故で他界したショックで幼児退行してしまった。詩乃はその介護をしながら生活していたが、今回の強盗事件で母親は
「施設に、か。なぁ詩乃、此処で暮らしたいって思うか?」
「まぁ、それは思うわ。でも、もうツテもそれしか無いし、どうしようもないでしょ」
「....気に入らねーな、そういうの。という訳で父さん、良いかな?」
「話は聴かせて貰ったぞ、母さんと一緒にな!」
「静かにして下さいね、
引き戸を開けて現れたのはガタイの良い、暑苦しいおじさん。この人が悠の実父にして木綿季の養父、秋崎椚だ。
「詩乃ちゃん、いや詩乃!」
「は、はい?」
「
「は、はぁ.....えぇ!?」
「施設など、言っては悪いが子供が行くべき所ではない!君さえ良ければ、家族にならんか?」
「でも、お母さんや悠くん、木綿季さんは...」
「ボクは良いよ!同じくらいの妹が出来た感じだし!」
「椚さんのトンデモ行動には慣れましたし、家族が増えるのはウェルカムですよ」
「オレは...うん、良いよ。不思議とキミには素直に感情を出せそうだ」
「悠が!?椚さん!」
「あぁ、今日は赤飯だ!」
と、悠が感情を出せそうなのは詩乃が原作のヒロインなのだからだ。しかし、それを知らずに息子が本当に心を開ける家族が出来た事を喜ぶ両親を尻目に、悠は言った。
「変にこの怪我の負い目を感じてるなら、オレの言う事を聴いて欲しい」
「...何でもするわ。言って」
「オレ達の家族になれ。はい、これで後腐れなし、スッキリだ」
「.....普通なら、もっと怒ると思うけど」
「オレは普通じゃないからな。じゃ、これから宜しく、詩乃」
「えぇ、宜しくね、皆」
桜と椚と木綿季に囲まれ、楽しそうな詩乃を見て悠は一言だけ呟いた。
「女子が何でもするって言っちゃ駄目だろ...」