シュユ「中々に大雑把だけど、的を射てるから困るな」
ユイ「フッフッフッ…私は有能ですから!」
シュユ「なんかキャラが違うような…ストレスでも溜まってるのか?」
ユイ「出番が未だに無いからですよ…うう、57話、楽しんで下さいね!」
シュユ「ヤケクソになるなよ。うん、愚痴ぐらいなら聴くからさ、元気出せって」
ユイ「ううう…」
門を潜ると、その門は霧に閉ざされ引き返す事は出来なくなる。シノンは右手に感じる重みを頼りに先に進む。視界が狭くなる程に強い吹雪だが、戦えない訳ではない。
椅子に座る人が立ち上がる。身体が凍り付いているからか、バキバキと氷が割れる音を立てながら。その人物の顔はミイラと同じ様に干からび、ローブから見える手も細く節くれ立っていた。視界の右上に写る【殉教者ローゲリウス】という名の通り、何かの教えを守って死んだ者の末路なのだろう。
ローゲリウスは自らが握る杖を地面に突き立てた。
「っと、危ないわ…ね!!」
5本の筋を描く様に拡散する髑髏型のエネルギーを躱し、近付いて横薙ぎに剣を振る。今まで剣を扱った事とこの剣が重量級片手剣に分類される事が相まって身体ごと振り回される。勢いと重さが充分に加算された剣だが、それは左手に握る剣で防がれる。シノンを追い払う様にローゲリウスが剣を振ればその場に巨大な髑髏型エネルギーが現れ、直後に爆ぜる。どうにか直撃は回避したが、少量ではあるが体力バーが削れる。どうやら、完全に回避は出来なったらしい。
(厄介ね…近付けないわ。弓を使おうにも、肝心の矢が――ッ!!)
そう、シノンは矢を持っていないのだ。元々SAOに遠距離から攻撃出来るアイテムは極少数存在すれど、完全な遠距離武装は存在しない。となれば当然、矢などというアイテムも存在しない。矢は弓で飛ばす事が普通、剣や槍ではどう足掻こうと使えないのだから。
ローゲリウスは近距離は滅法強いが、遠距離への攻撃手段はあまり無い様に見える。シノンは距離を取って屋根の上に点在する尖塔に隠れて片っ端から使えそうな物を探す。実際、心当たりが無い訳ではない。
(使えそうなのは有るけど…こんな
【水銀弾】は換金アイテムだ。ヤーナム全域で拾う事ができ、1つ1つの単価は低いものの大量に入手出来る。しかもレアドロップではなく、ほぼ確定で落とすエネミーも居る事からいつの間にか所持数上限まで達している事が殆どだ。しかし、このアイテムを実体化させた時の姿はあくまで『銃弾』。弓で射る事が出来る物ではない。それでもやらねば死んでしまう、やるしか無いのだ。
「ッ、流石に近付いてくるわよね!!」
背後に気配、咄嗟に前方に飛び込むとさっきまで居た場所に爆発が起きる。判断が遅れていれば直撃していただろう。そして左手を見れば、水銀弾が姿を変じていた。より細長くスリムに、そう、矢の形に変わっていた。
「よし、これなら!!」
右手に持っている剣を左手に持ち替え、下に振る。そのモーションに反応して剣はもう1つの刀身を展開して双刃の様になり、剣先の間には鋼鉄の糸が張られる。形を弓へと変えた武器【シモンの弓剣】は、かつての持ち主が扱っていた時の様に正確かつ迅速にそのもう1つの姿をシノンに見せたのだ。
ローゲリウスに向き直り、バックステップ。その途中に弦を引き絞り、放つ。風切り音を響かせて飛んだ矢はローゲリウスの胴体に直撃こそするが、ダメージは少量。勝負を決する程のダメージを与える事は無かった。
(そんな事は想定内!元は近接しか無いゲーム、遠距離武器の威力が低くなきゃとんだバランスブレイカーよ!!)
人型エネミーの特徴として、体力が低く怯みやすいという所がある。胴体に直撃を受けたローゲリウスは少し怯み、そして受けた矢を自らの手で引き抜く。その大きな隙をシノンが見逃す葉図も無く、先程よりも強く弦を引き、矢を放つ。凛、と鈴の様名音がした瞬間に放った矢はローゲリウスのぽっかりと空いた眼窩に突き刺さり、弱点に当たった事によるクリティカルダメージを与えた。
ローゲリウスの表情は変わる事は無い。だが、雰囲気が変わる。剣を地面に突き刺し、何か力を込める様な動作をする。剣に戻した弓剣でローゲリウスの身体を斬り続けるが、体力は減少すれど怯む様子は無い。その直後、魔法の爆発が起こりシノンは吹き飛ばされる。ダメージこそ殆ど無いが、ローゲリウスを見た瞬間に理解する。コレにシモンはやられたのだ、と。
空を飛び交う無数の直剣。ホーミングこそしないが、だからこそ読み難い軌道で剣は地面に、尖塔に、壁に突き刺さる。短時間しか対峙していないが、ローゲリウスは突きを使ってこなかった。だがシモンの身体は穴だらけで、剣に穿たれた様だった。つまり、シモンはこの攻撃に殺られたのだ。この、無数の剣に。
「自分は動けるとか、本当にこのゲームの作者は性格悪いわねッ!!」
ローゲリウスは高く跳躍する。目では追えない程速く高い跳躍だが、経験則でシノンは知っている。このSAOでボスが高く跳躍した時は大抵、落下攻撃を仕掛けてくる事を。
前転で回避、その先に剣が飛来する。咄嗟に剣で弾くが、その横からも剣が飛んでくる。一点に留まり続ける事が得策ではない、解っているシノンは次は左に飛び退く。さっき居た場所には魔法の剣とローゲリウスの斬撃が通っていた。下手をすれば死んでいただろう。
(厄介だけど、打ち消せない訳が無い…筈!)
このゲームは確かに難易度は高い。だが決してプレイヤーに理不尽ではない。確かにボスは遠距離攻撃を使ってくる。だからこそ、プレイヤーが突ける致命的な弱点か突破口が用意されている。
シノンは地面に刺さっている剣を蹴る。呆気なく折れた剣は消失し、共に空を飛び交っている剣も消失する。血で出来ていたらしく、地面にビシャビシャと音を立てて血が落ちてくる。雪は紅く染まり、地面に跳ねた飛沫でシノンも紅く染まっていた。
あの剣さえ無ければ少なくとも動きは制限されない。シノンは剣を変形させて弓にすると矢を放つ。立て続けに放った3発の矢は全てローゲリウスの剣に打ち落とされ、更にローゲリウスは死体とは思えない速さでシノンへ肉薄する。苦し紛れに右手に握る矢を払う様に振り、ローゲリウスの腕に突き刺す。一瞬勢いが弱くなった事で回避が間に合い、事無きを得る。
バックステップで距離を取り、矢を放つ。腕が痺れる様な不快感を感じる。鋼の糸は引く事すら難しく、STRがあまり高くないシノンに負担を強いていた。未だ怯まずに近付いてくるローゲリウスから距離を取ろうと足に力を込めるが、血で濡れた雪のせいで足が滑り、転倒してしまう。予想外の転倒から即座に起き上がり回避――など間に合う筈が無く、ローゲリウスが握る剣に腹部を貫かれる。
「あああぁぁぁぁ!!――っ、あ゛あ゛あ゛!!!」
腹部から脳に伝わる凄まじい不快感に叫びながらもシノンは剣に戻した弓剣をローゲリウスに突き刺す。弓剣はローゲリウスの身体を貫いたが、引き抜く暇すら与えずローゲリウスは後ろへ下がり、尖塔を蹴って急加速。先程よりも速くシノンへ突進する。動転したシノンは腕を前に構え、怯えた様に顔を伏せる。その程度でローゲリウスの斬撃が止まる訳が無い。その斬撃はシノンが出した腕ごと斬り捨てる――
「――なんてね。そう簡単に諦められないのよ、私はね!!」
構えた腕は腕でも異形の腕――小アメンの腕だ。人を超越した筋肉を断つ事は叶わず、逆に拘束されたローゲリウスの胸を小アメンの腕の先端の爪が突き刺す。シノンはローゲリウスの腹部から生える様に突き出た弓剣の柄を握り、そのまま横へと振り払う。その勢いで1回転、勢いを乗せた剣はローゲリウスの胴体を両断する!!
胴体を両断されたローゲリウスの体力バーは左端へと至り、その身体をポリゴンへと変える。倒したのだ、SAOでも最強クラスと言われる人型ボスを、たった1人で。
腹部を貫かれた事で大きく減った体力を、今まで使う事を避けてきた輸血液で回復する。ポーションよりも多く、即効性のある回復薬。だが、感じる高揚感や全能感はまるで麻薬だ。確かに、フレーバーテキストで言われる様に依存する狩人が居てもおかしくないとシノンは思った。
目の前に現れたウィンドウには選択肢が記載されていた。
『悪夢を狩りに行きますか?』
一瞬迷うが、シモンは言っていた。この世界を構築するモノを狩れと。そして今自分が居る場所、シュユが居るであろう場所は悪夢であると。ならば、迷う事は無い。シノンはウィンドウの選択肢のYESを1度、タップした。
ローゲリウスってあんまり苦戦しないボスだと思いません?メインデータは50周を超えてる訳ですが、ローゲリウスは剣を壊さないっていう縛りを付けても普通に倒せるボスだったりします。戦ってて楽しいですしね。
え?パールとかはどうなんだって?…そんなボスは居ない、良いね?