ミコ「ふぅむ、それはキミ達の事かね?」
キリト「うわっ、ミコラーシュ!?キャラが濃いのはアンタだよ!」
ミコ「私が濃い…?私の一体どこに濃い要素が有ると言うのかね!?」
キリト「全部だよ!」
ミコ「何たる事だ…あぁ、59話、精々楽しんでくれたまえ」
キリト「切り替え早いなオイ…」
背筋を冷や汗が伝う気がした。直後、ユウキの長い髪を刃が掠める。パラパラと落ちる髪を気にする暇もなく、ユウキは次々と振り下ろされる致死の刃を捌く。嫌な予感が脳裏をよぎる。頭を勢い良く左に傾けると、右耳を銃弾が掠めて飛んでいく。頭を傾けなければ、きっと頭を吹き飛ばされていただろう。
実体化させた投げナイフを投げてみるが、スキルを取得していない投げナイフなど速度も出ない上に威力も低い。鴉羽の狩人は容易く投げナイフを打ち落とし、ユウキに肉薄する。1本だった剣は2つに分かれ、二刀流となって襲い掛かる。右の袈裟掛けの一撃をステップで躱し、左の水平斬りを剣で防ぐ。全力で防いでいるのに、徐々に押し込まれていく。左手に注意を奪われると、次は右手の一撃が突き出される。倒れ込んで弦月を使って攻撃しつつ回避するが、読まれていたのか簡単に回避されてしまう。ユウキは舌打ちを1度打つと、後ろに下がって距離を取る。
(剣もそうだけど、銃がヤバいね…1発1発が全力で回避しないと当たるレベルだよ)
事実、直撃こそしていないが何度も掠めている。服も線状に破れている所が数ヶ所見られる。銃弾を反射と勘で躱せるユウキを称えるべきか、それとも全力回避するユウキに掠らせる精密さの相手を称えるべきか。それに剣だって二刀流を相手にするのは骨が折れる。両手が完全に別々の動きをする相手の剣は非常に受け難く攻め難い。
確かに攻撃に偏重している節はあるが、それも攻められなければ関係ないのだろう。『殺られる前に殺る』をそのまま形にした様なものだ。実際、ユウキは押されるがままだし攻めあぐねている。
放たれた銃弾を剣でぶった斬るという離れ業をやってのけるユウキ。しかし相手はその程度で驚く程間抜けではない。銃を腰にマウント、剣を再び変形させて二刀流で攻め立てる。ユウキは自分から攻めてどうにかイーブンに持ち込んではいるものの、ジリ貧を感じていた。だから、自分も炎に巻き込まれるかも知れない綱渡りを選んだ。
「その銃、貰った!!」
火に一瞬怯んだ鴉羽の狩人の腰から銃を奪取、入ってきた階段に向けて全力で銃を投げる。これで銃を取るにはユウキに背を向けなければならない。だが、銃が使えない程度で劣勢になるなど有り得ない。そうでなければ、狩人を狩る狩人になどなれはしないのだから。
ユウキの拳を回避した相手は左手に握る剣を上に放り投げる。予想外の行動、驚く事は無いがユウキはついその剣を目で追ってしまう。その意識の一瞬の空白を突いて鴉羽の狩人は右手の剣を薙ぎ、ユウキの左眼を斬る。視界が塞がれ、左眼が死角となってしまう。突然蹴られたユウキは抗わず、その勢いのまま吹き飛ばされる事を選択した。
「づぅ…流石は狩人狩りの狩人だね。対人技術なら敵わないよ」
その狩人と呼ぶには異常な対人技術、ソレにユウキは振り回されていた。獣と戦うだけならその動きだけで、自分の剣を片方放り投げるなどしなくとも圧倒出来る。確かに銃を弾かれるかも知れないが、それもあの動揺の無さに理由が付けられない。普通の狩人ならば銃が弾かれれば動揺までは行かずとも一瞬の思考の硬直くらいは有っても良い筈なのに。それこそが彼女が【狩人狩り】と呼ばれる所以。人を狩らない狩人が血に酔い、人に手をかけた時に引導を渡す役割を担う者。対人のスペシャリスト、それが【狩人狩り】なのだ。
当然、ユウキが彼女に勝てる道理は無い。対人と対
首を挟む様に振られる剣をしゃがんで回避、足払いを仕掛けるが相手は跳び上がり、着地する瞬間にユウキの脚をへし折らんと踏み付ける。読んでいたユウキはそこで【花月】を使う。速く鋭い下段の蹴り技は攻撃ではなく踏み付けを躱す為だけに使われる。だが不利なのはユウキである事には変わらない。鴉羽の狩人は普通に着地するとヤクザキックを叩き込もうとする。通常なら腹部に当たるソレは、現在しゃがんでいるユウキの顔面に迫る。死ぬ気で後ろに倒れ込み、同時に弦月を発動させるが当たらない。
「っ、回復ももうコレしか無いよ。…本当に、強いなぁ」
ユウキが握っている回復とは輸血液の事だ。ユウキは容器を握り潰して輸血液を使用する。ズクン、と何かが脈動する感覚と共に鮮明になる視界。肌を撫でる生暖かい風を身体全体で感じる様になり、突然投げられた投げナイフも指で挟んで止める事が出来た。何故かは解らない。だが、そんな事はどうだって良い。この場を切り抜ける為には、どんな事でもしなければならないのだから。
「――行くよッ!!」
四つん這い寸前まで体勢を低くし、疾駆する。『純粋な速度』により現れた残像に、相手は一瞬硬直する。が、背後から振るわれた攻撃すらも簡単に防御される。幾ら狩人と言えどもマトモとは思えない反射神経である。
防がれたのなら、とユウキは再び疾駆。次は右、その次は左と縦横無尽に駆け回り斬撃を繰り出していく。どれだけ攻撃しようとその重さと速さは鈍らない。それどころか、ますます加速している様に見える。何回斬ったか数えるのを忘れた頃、鴉羽の狩人の左腕に大きく傷が刻まれる。ユウキの剣が抉ったのだ。鴉羽の狩人は慈悲の刃を二刀から一刀に戻し、改めて構えた。突きを繰り出す姿勢で構えるその姿は狩人と言うより騎士のソレで、ユウキは笑みを溢して自分も構える。ソードスキルなんて無粋なモノは使わない。今使うのは自らの握る剣と力、ただそれだけだ。
2人の武器から凛、と澄んだ音が鳴り響く。2人は同時に剣を突き出す――事は無く、鴉羽の狩人はユウキの剣を躱すと懐に潜り込み、慈悲の刃をその身体に突き立てた。
「――ァ、ガッ…!」
が、その手は身体を貫く寸前で止まっていた。鴉羽の狩人の身体からは剣の柄が生えている。突き刺さっているのは折れた【黒騎士の黒剣】、かつての愛剣だ。その剣は丁度心臓、クリティカルポイントに突き刺さっており、あっという間に体力バーを左端に届かせる。
「よく…殺ったもんだねぇ…」
「鴉の人!」
「その呼び方も良いけど、あたしの名前はアイリーンっつーのさ。狩人狩りの、イカれた狩人さね」
「イカれた狩人って…そんな」
「イカれた狩人を狩るのがあたしの仕事さ。…まさか、あたしがそのイカれた狩人になるとは思えなかったけどねぇ。ったく、情けないったらありゃしない」
「アイリーン、死んじゃうよ!回復とか、早くっ…!」
「…闘ってる時はあんなに容赦無い癖して、実際は優しいじゃないか。回復は要らないよ。こんなババアだ、血を入れてもどうもならないさ」
「でも、でも…!」
「良いから聴きな、ユウキ。あんたはこれから3体の化け物を狩らなきゃいけない。その全部がブッ飛んだ強さをしてるし、下手したら死人が出るだろうさ。あんたにとって大切なヤツも、死ぬかも知れない」
「そんな…」
「だからあんたが行くんだよ。血に適性が有るあんたが居れば、少しはマシになる筈さ。…なぁに、あたしを殺れたんだ、きっと出来る」
「アイリーン…!」
「選別だ、持っていきな」
アイリーンは自分が纏うマントと使っていた武器をユウキに渡す。アイテムストレージに1度収納されている為血液などは付いておらず、温かい訳が無い筈なのにマントは何故か温かく、剣は本来の重さより重く感じた。
「使い方はきっと解る筈さ。さぁ行きな、あの頭蓋に触れりゃ最初の主の所に行けるからね」
「…分かった。じゃあね、アイリーン」
「あぁ、行ってきな。血の狩人、ユウキ」
ユウキはマントを纏い、耐久度が摩耗してボロボロになった剣を慈悲の刃に装備し直す。その間にもユウキは振り向かず、祭壇に辿り着くとそのまま頭蓋に触れた。一瞬だけ後ろを見た時、アイリーンの姿はもう無く、そして直後に視界がブラックアウトした。鴉羽の狩人の誇りは、ユウキの手に。