2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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 アイ「あたしの名前はアイリーンなんだが…なんで縮められてるのかねぇ?」

 ユウキ「多分長いからだと思うよ」

 アイ「む、そんな事もあんのかい。長過ぎてもダメだに短過ぎてもダメ。…面倒臭いねぇ」

 ユウキ「まぁまぁ。前回はボクとアイリーンの一騎討ちだったね」

 アイ「作者のヤツはあたしに苦戦した事は無いらしいから、書くのが難しかったらしいね。ざまあみろ」

 ユウキ「口悪いよ、アイリーン。…あ、60話、楽しんでいってね!」


60話 シュユ編 殺意

 閃光が空間を飛び回る。耳障りな甲高い金属音と共に放たれる斬撃は全てが致命の一撃クラスだと言うにも関わらず、2人は平然とその攻撃を繰り出し、そしてそれを躱している。シュユは右手に葬送の刃、左手に千景を持って応戦する。マリアは大して力が強くなく、どうにか応戦は出来ているが消耗が激しい事には変わらない。

 

 (クソ…剣速に精密さ、どれを取ってもオレより上だ。箍を外して勝てる相手でも無い、どうする…?)

 

 シュユの殺意は収まった訳ではない。未だに鎌首をもたげ、隙あらばシュユを乗っ取ろうと虎視眈々と機会を狙っている。ソレを捩じ伏せつつシュユは戦っているのだ。確かに殺意に身を任せれば人間離れした身体能力を発揮する事は出来るが、それは同時に本能で戦う事を意味する。マリアは本能に任せて勝てる様な相手ではない。つまり今の、理性的な状態のシュユでなければ太刀打ち出来ないのだ。

 しかもマリアは自分から仕掛けていない。何回剣を打ち合わせたか分からないが、その全てでマリアはシュユの攻撃を躱して反撃しかしていない。少なくとも、マリアは全力を出してはいないという事に他ならない。

 

 「ふむ…さっきよりはマシになったね。だが、()()()()()()。殺意を恐れて抑え付けている状態で、私に勝てる訳が無い」

 「殺意を出せば抑えろだの抑えれば出せだの…ハッキリして欲しいもんだ…な!!」

 「私は一言も抑えろとも出せとも言ってないさ。キミはまだ若いだろう、記憶力は大丈夫か?」

 「安い挑発だなッ!」

 「大分効いている様だがね」

 

 縦斬り、防がれる。横薙ぎ、防がれた。突き、防がれる。逆袈裟、弾かれる。袈裟斬り、流された。どのコースで攻撃してもあらゆる手段で防がれ、躱される。正直な話、攻撃が掠りもしていなかった。そしてマリアの攻撃が当たる寸前で止められている事にも、シュユは既に気付いていた。

 おちょくられている、ならば殺せ。オレを愚弄したあの女が無様に泣き叫び、命乞いをするまで痛め付けてから殺せ。そう囁く殺意をシュユはまた抑え付ける。未だに膨れ上がる殺意は抑える事で精一杯だ。

 

 「まだキミは『英雄』を夢見ているのか?それもそうか。キミと似た年頃の狩人の中にも名声を求めて狩人になった者も居たよ。まぁ、当然だが全員死んだがね。英雄として持て囃されたのが聖剣のルドウイークだ。それも最初だけで、結局は蔑まれ、迫害された。…ここまで言えば解るだろう?」

 「解ってるに決まってる。オレ(狩人)は英雄にはなれないと、そう言いたいんだろう!?元よりオレに英雄になる気は無いッ!!」

 「ならば何故戦う?」

 「さっきも言った筈だ。オレはあの2人の為に戦っている!」

 「あの2人の為に、ね…。その想いも強くなり過ぎれば束縛と何ら変わりない。それも人の罪なんだろうね」

 「訳の分からない事を…!」

 

 振り続ける剣は未だに当たらない。それどころかマリアが力を抑えるのを徐々に止め、当てる云々ではなく攻勢に出る事すら出来ていないのだ。しかも今は二刀流ですらない。マリアは手数が少ない両刃剣形態の武器でシュユの猛攻を防いでいる。

 

 「その程度で他人に命を賭けると言う…。嗚呼、不愉快だ。実に不愉快だ!」

 「ッ!!?」

 

 振り下ろした葬送の刃が弾かれ、そしてマリアは攻勢に出る。目で追えたのは初段の突きだけ。その直後に見えたのは『突きの壁』。捌くとか、そんなレベルではない。どんな剣の達人でも全方位から放たれる斬撃は躱せても剣で捌く事は出来ない。それはVR適性が凄まじい高さを誇るシュユでも同じ事だ。目で追う事すら困難な突きを全て回避するなど不可能、半分すら防げない始末だ。マリアの突きが全て放たれた後、シュユは片膝を付いて荒い呼吸を繰り返していた。

 

 「キミが大事に想う2人は知っている。あの真っ白な羽根と錯覚する様な一途な想い…実に素晴らしいね。とても、嗚呼とても…引き千切ってあげたく――」

 「――いい加減に、しろ」

 

 マリアの頬に薄く紅い筋が刻まれる。頬を伝う血を指で掬い、舐め取ったマリアは口角を吊り上げる。

 

 「――そうだ、()()()()()()。それでこそ狩人だよ」

 「さっきから狩人狩人と…オレは『シュユ』だ!オレは…オレを見ろ、マリアァァァァ!!!」

 

 叫ぶシュユの身体から立ち昇る白いオーラ、これが葬送の刃の能力。シュユの精神が昂ぶった時だけに発現する。だがこの能力はSAOの運営であるカーディナル・システムには認知されていない特異なモノ。体力バーの下に在る状態変化を示すマークは明滅し、効果時間も定まらない。故に唯一(ワンオフ)、故に特異(ユニーク)。それこそがシュユの持つ武器の異能【狩人の高揚(ハンターズ・ハイ)】だ。

 

 「オオオオオォォオォォ!!!」

 「殺意を乗りこなしたか!良い、良いよシュユ!」

 

 消えたと錯覚する程の移動速度。マリアの懐に入ったシュユはマリアの腰から短銃【エヴェリン】を奪い取ると接射する。短銃という都合上、連射が利かないエヴェリンを撃ち終わると即座に投げ捨て、シュユは千景を抜くと斬り掛かる。先程とは見違える速度にマリアの笑みに陰りが生まれる。膨れ上がる殺意に身を任せつつ、手綱は離さずに操作する。マリアは2つに変形させた剣の長剣の方を突き出す。シュユの殺意(本能)が反射的に飛び退こうとするが、シュユの知恵(理性)がそれを御して左に回避する。恐らく左手に持っている短剣で反撃しようとしていたであろうマリアは舌打ちを1つ打ち、後ろへ跳んだ。

 シュユの殺意は抑えていない。だが暴走もしてはいない。単純な話、奔る殺意を無理矢理コースに押し込めているだけだ。先程までのシュユは殺意を完全に抑え、本来は濁流の様に奔る殺意を小川の様に穏やかにしようとしていた。しかし今は違う。濁流の様な殺意を水路に流し込み、溢れようとも大まかなコースを決めている。それにより完全な暴走ではなく半端な、半分だけ暴走させているのだ。殺意を完全に抑えた時よりも格段に速く、完全に解放した時よりも読み合いに強い。【狩人の高揚】も相まってその差は顕著になる。

 マリアが静止し、右手をピンと伸ばす。そして初速から最高速の突進、本来なら初見で見切る事は難しいソレもシュユは千景で剣を受け止めて防いで見せた。続く左手での攻撃も喰らいながら回避、そのダメージをマリアを斬ってリゲインで回復するという荒業を成す。その命知らずとしか言えない行動を前にマリアは笑み、両手に持つ剣を逆手に持つ。どんな攻撃が来るのか、と身構えるシュユを前に彼女は()()()()()()()()()()()()

 

 「っ!?」

 「――フフ、驚いたかな?キミからすれば狂人の行動そのものだろうね。でも、私からすれば――」

 

 マリアは剣を引き抜く。血飛沫が宙を舞い、そして()()()()()()()()()()()()。血を纏った刃を携え、彼女は吐き捨てる様に言った。

 

 「――呪い、そのものさ」

 

 無造作に振るわれた短剣は血によってリーチが長くなり、シュユの手前の空間を薙ぐ。血でリーチと、恐らく威力も強化された武器は確かに脅威だろうがリーチが長くなった以上、取り回し難くなる。特に長剣はそれが顕著だろう。シュユはもう1度接近しようと脚に力を込め、加速する。が、殺意と理性が同時に警鐘をけたたましく鳴らす。流石にここから止まれない、シュユはゼロモーション・シフトでマリアの左斜め後方に逃げる。強い頭痛を感じ、アイテムを取り出しながらマリアを見やるとマリアの懐に血で出来た丸鋸が回転していた。あのまま行っていれば胴体を真っ二つにされてゲームオーバーだっただろう。

 足音を立てず、だがしっかりと踏み込んで背中を斬り付ける。斬られながらも反応したマリアは振り向きながら剣を2本纏めて袈裟掛けに振るう。再びゼロモーション・シフトで回り込むが人間離れした反応速度でシュユに追従したマリアはシュユの胴に1本の傷跡を刻む。感じるのは不快感ではなく、純粋な痛み。既に痛覚遮断機能は停止しているらしい。それでもシュユは怯まずに千景を振るう。

 

 「ッ…痛いじゃないか」

 「それはこっちも同じだ…痛くて仕方無い」

 「嗚呼、こんなに痛い。キミがこんなに痛みを与えるのなら、本気を出さなきゃいけないじゃないか」

 

 マリアの血が再び集まっていく。仮想の肌が感じる温度が高まっていき、スリップダメージを警戒するが()()。血液は温度を際限無く高め続け、そして最後には()()()()()()()()()()()。触れた身体に燃え移り、直ぐに火を消すが体力は確かに削られる。つまり、マリアの炎は設置型の攻撃と何も変わらない。厄介この上ない。

 

 「もううだうだと戦いを続ける事も無いだろう?この一撃で終わりにしよう」

 

 マリアは武器を両刃剣に戻すと、武器に血を収束させていく。燃える血液はこの空間の温度と緊張感を上げていく。シュユも気休めに体力を全回復させ、構える。凛、と澄んだ音が響いた瞬間、空気が弾けた。

 

 「…ッ!!!」

 「ガッ…!!」

 

 マリアの放った突きは血の奔流がシュユの胴体を貫き、シュユをポリゴンの塊へと変える。あまりにも疾い突きはシュユの反射神経を以てしても見切れず、シュユはポリゴンへと成り果ててしまった。

 

 「――ぁ…?」

 

 マリアの胸から銀色の筋が生える。その筋――カタナは見間違える事は無い、千景と全く同じだ。ゆっくりとマリアが後ろを見ると、そこには服装備を焦がしただけのシュユが。シュユは刃筋を立てるという基本すらかなぐり捨て、カタナをただ振り抜く。甲高い音を立てて折れる千景、柄だけが残った千景を名残惜しく思いつつ、シュユは空いている左手をマリアの傷跡に捩じ込む。グチャリ、と内臓を掻き回す感触。マリアの身体の中で左手を獣の爪の様に立てると内臓を掴み、身体を引き裂く。

 凄まじい量の返り血が身体を濡らし、マリアの身体は力無く地面に落ちる。体力バーが消え去り、ドサリとマリアが崩れ落ちると共にシュユも膝をつく。荒い呼吸を繰り返し、痛む頭をクールダウンさせる。

 

 「――一体、何をした…?」

 「アイテムを使った。ギリギリの賭けだったが、上手くいった」

 

 シュユが使ったのは転移結晶だ。それも最高レア度である赤色である。転移結晶には種類があり、特定のポータルにしか行けない青色、ポータルには行けないがダンジョン内の登録した座標に行ける緑色、そしてフィールドの登録した座標に行ける黄色。最後に、今シュユが使ったどこでも好きな座標を登録でき、移動できる赤色だ。

 シュユは先程アイテムを取り出した際、緊急回避用に座標を登録した。そしてマリアが最期の一撃を放つ位置取りが偶然登録した座標を背にする様になっていた。だから悟られない様に服と脇腹を焦がしながらもスレスレで躱し、転移結晶を使って移動、攻撃を叩き込んだ訳だ。死んだ様に錯覚したのは移動後に残るポリゴンの演出で、実際は背後に移動していた。

 

 「…ハハ、やはりキミは狩人だ。正々堂々なんて言葉を嘲笑う様な戦い方をする」

 「あんなのと真正面からぶつかれば確実にこっちが死ぬ。だから躱しただけだ」

 「そう、それで良い…」

 

 マリアは自分が握る武器をシュユの前に差し出す。流石に察せない様な人ではない、シュユはその剣を受け取る。

 

 「…使うと良い。あと、これもな」

 「…骨?」

 「古狩人の業が使えるようになる遺骨さ。きっと、この先の遺子との戦いの助けになる…。私の師を苦しめ、そして恥となった存在…きっと、キミなら倒せると信じている」

 「………」

 「そうだ、言葉など要らない。…ただ1つ、願えるのなら…私達の悪夢を、終わらせてくれ…」

 

 霧になって消えるマリア。ここから甦る様な事は無いだろう。シュユは折れた千景をアイテムストレージに収納すると装備欄を操作し、受け取った武器を装備する。銘は【落葉】。かつてのマリアが捨てた、呪われた武器だ。

 落葉を握ると、殺意が少し大人しくなった気がした。緊張の糸を弛める。すると今まで行ってきた無茶な戦い、ゼロモーション・シフトの反動、極度の緊張状態が解けた事による反動で一気に疲労感が押し寄せる。シュユは『灯り』を灯すと意識を手放す。その寝顔は、幾分か穏やかになっているような、そんな気がした。

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