2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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 シュユ「さて、前回のあらすじのコーナーだ」

 マリア「私とシュユの一騎討ちだったね。シュユは覚醒したけど気絶してるし、締まらないね」

 シュユ「仕方無いだろ。アイテムも限られてるし休息もマトモに取れる場所は無いし、疲れてるんだ」

 マリア「なら最近寝不足気味の作者と共に眠ると良い」

 シュユ「あぁ…そうさせて、もらう………」

 マリア「ふむ…では、61話を楽しんでくれ』


61話 上位者『メルゴーの乳母』

 霧を掻き分けて現れたのは、シノンだった。荒れ果てた高楼を見回し、死んだ様に横たわっているキメラのカラスと犬の頭に矢をブチ込む。脳が有るのかは解らないが、大抵のエネミーに設定されている弱点(ウィークポイント)を撃ち抜かれたカラスと犬は起きる間もなく息絶えた。

 

 「――シノン?」

 「…ユウキ、無事だったのね」

 

 振り抜くと防具がボロボロになったユウキが立っていた。霧が在った名残が見えていて、ユウキも自分と同じように何かを倒した事が分かる。現に、腰に提げている武器は見覚えの無い物に変わっていたし、元々ユウキが好まない外套――鴉の羽があしらわれたマントを身に着けていた。

 

 「シノン、シュユは?」

 「一緒じゃないの?私はてっきり、あなた達は一緒に行動してると…」

 「シノンと行動してた訳じゃなかったんだね…誰か味方は居たの?武器も変わってるし」

 「居たけど、死んじゃったわ。私にこの武器を託して、ね」

 「…ボクは、倒したよ。狂ってたから。そしてこの武器を貰ったんだ」

 「そう、あまり多くは聴かないけど。…あなたが無事で良かった、ユウキ」

 「シノンこそ、無事で良かったよ」

 「――ユウキ、シノン?」

 

 普通に階段を昇ってきたキリトとアスナが現れる。予期せぬ人物との再会にキリトは目を見開き、アスナは無言で駆け出し2人を抱き締めた。

 

 「良かった…良かった、無事で…!」

 「ゴメンね、アスナ。もう大丈夫だから、安心して、ね?」

 「心配掛けたわね。でも生きて帰ってきたから、ね?」

 

 キリトは2人が変わったな、と思った。ユウキは危なっかしい感じは無くなったが、どこか感情が見え過ぎている様な気がした。以前から感情の機微は分かりやすい方ではあったが、錯覚かも知れないが抑えが利きにくくなっている様な感じた。シノンは前々から冷静な方だったが、どこか達観している感じがする。前まではもっと感情的だったのだが、今では冷静でそして洞察力が上がっている。現に、リラックスしている様に見える今でも警戒は解いていない。むしろ、更に警戒を強めている程だ。

 抱き合う3人の背後から黒いローブを着た3人組が歩いてくる。カタナ持ちが1人、カタナと燭台持ちが1人、最後に燭台とモーニングスターの様な鈍器持ちが1人だ。キリトはヴォーパル・ストライクを使ってカタナ持ちの胴体をブチ抜き、即座に反応したシノンが矢を撃ってカタナと燭台持ちの頭を撃ち抜く。最後の1人は駆け出したユウキが持つ二刀一対の剣により斬り刻まれた。攻略の最前線、現時点での最高難度とは思えない程の蹂躙だった。

 

 「皆、来るぞ!」

 

 眼が異常な数有る巨大な豚、そしてさっきの黒ローブ達が現れ、殺到する。が、黒ローブと巨大豚は敵対し、勝手に数を減らしていった。後は残党を適当に撃破、4人は先へと進む。

 

 「…敵なの?」

 「いや、それにしては感知範囲も狭いし一切動こうともしない。多分違うと思う」

 

 アスナの問いにキリトが答える。目の前に居るのは背が高く、青白く頬が痩けている女性。腹部からは鮮血が溢れ、白いドレスを紅く濡らしていた。背はかなり高く、恐らくエギルと同じかそれ以上だろう。女性は自身が見詰める先を指差す。顔の位置が高く影になって見えていないが、何かを願っている様にも思えた。4人は不意打ちを警戒しながらエレベーターに乗る。

 扉が無い為、初めて乗るシノンとユウキは不安げな表情を浮かべるが直ぐに到着し、安堵する。見えてきたのは円形のフィールドと乳母車。時折聞こえる赤子の泣き声が耳障りで、特にユウキとシノンは嫌悪感を丸出しにしていた。この中で最も耐久できるキリトが1人で乳母車の中身を見に行こうとするが、そのキリトの袖をユウキが咄嗟に引き戻した。

 

 「――来るよ!!」

 

 ソレは空から落ちてきた。顔は見えず、そもそも身体があるかどうかすら分からない。風に靡くカーテンの様に揺らぐ身体に複数の腕、その先端には指ではなく曲刀の様な刃があった。

 

 【メルゴーの乳母】 

 

 「これがこの悪夢の主ね…!」

 「皆、行くよ!」

 

 キリトは正面、ユウキは右、アスナは左から攻める。シノンは動き回りつつ矢をつがえ、弱点を探っている。先ずはキリトの先制、エリュシデータが乳母を斬り裂き、僅かに体力を減らす。ターゲットがキリトに向き、右から斬撃が振るわれる。横に跳んで躱し、後ろからアスナの突きが繰り出される。が、その刃は布を突き抜ける様に手応えが無く、ダメージも少なかった。刺突に少なからず耐性が有るのだろう。

 風切り音を響かせ、銀の矢が乳母を貫く。怯みもしない乳母に舌打ちをしつつ、次の矢を射る。それをカバーする様にユウキが右側面からデッドリー・シンズを放つ。銀の刃が金属音を何度も奏でながら乳母を斬り裂き、技後硬直が始まるコンマ数秒前に武器を変形、更に懐に飛び込んで連撃を加える。

 

 「ユウキ、退きなさい!!」 

 「――ッ!!」

 

 シノンの指示を勘に身を任せて実行する。すれ違う様に前に飛び込み前転、直ぐに後ろを向くと乳母が複数の腕を振り回しながら前進していた。あのまま攻撃し続けていればアイアンメイデンに入れられた者の様に身体中から血を流して死んでいただろう。背を這い上がる怖気を戦いの高揚で封じ込めて戦線に戻る。

 アスナのソードスキル、フォーリウムが乳母の纏う布を斬り裂く。独特な軌道で放たれる斬撃はしっかりと乳母の体力バーを減少させ、残りは7割強程度になる。

 乳母は一瞬硬直し、黒い羽を残して消える。いち早く位置を察知したユウキが叫ぶ。

 

 「アスナ、後ろッ!!」

 「ワープかよ、厄介だ…な!」

 「キリトくん!?」

 

 アスナの胴を斬り捨てる筈の袈裟斬りをキリトが受け止める。エリュシデータと乳母の()から火花が飛び散り、ギチギチと鳴る不快な金属音がどれだけの力が込められているか物語っていた。一瞬思考がフリーズしたものの、直ぐに復帰したアスナはキリトの隣から飛び退き、飛び込んでくるユウキに合わせてシューティングスターを使用、ユウキのライトニング・フォールと合わせた事で乳母の腕の1本を切断する。

 

 「逃がさないわよ…!!」

 

 シノンの精密な一射が乳母の頭をブチ抜く。残りの体力は5割、油断している訳ではないが楽かも知れないと考えた4人を嘲笑う様に全員を闇が包む。

 

 「これは…」

 「皆、気を付けろ!こういう時の敵は大抵――」

 

 自身の後ろに現れた乳母の斬撃を止め、キリトが警告する。

 

 「――不意打ちが基本だからな!」

 

 斬撃が止められるや否や直ぐに消える乳母。追おうとするキリトだがワープされては追えない事を悟り、気配感知を使うが全く感知出来ない。しかも乳母だけではなく、他の4人すら感知出来ないのだ。マズイ、その思考がキリトの頭を染め上げる。

 

 (これじゃ迂闊に剣も振れない…!もし誰かに当たったら、下手すれば死ぬ!)

 

 だが所詮は1体、金属音と周囲にさえ気を付ければそうそう当たらない。

 

 「がっ…!」

 「あぐっ…!」

 「きゃあぁぁ!」

 「っづぅ…!!」

 

 4人全員が苦悶の声を上げる。姿こそ見えないが、傷を負った事なら分かる。キリトは即座に居た場所から逃げる。その直後、乳母が我が子を抱き締める様に飛び掛かってきていた。シャキンと鳴るハサミの様な金属音が寿命を縮めた気がする。更に正面から先程ユウキにした様な乱舞を繰り出しながら迫ってくる。右に転がって回避するが、それを読んでいたと言わんばかりに乳母の腕が伸びてキリトの脇腹を斬り裂く。不快感が駆け巡り、脇腹から鮮血が零れ落ちるがソレと引き換えに判った事がある。

 

 (このボス、()()()()()!)

 

 最低でも4体、最高は何体か判らないが、少なくとも複数体居る事が判る。全ての腕を振り回している乳母が腕を伸ばしてキリトを斬るなど、少なくとも1体では不可能だ。ボスの仕様と言われればそこまでだが、今までの経験則でボスは強いが決して理不尽ではない事を知っている。闇の中かつ見えない斬撃など有り得ないとキリトは断言できる。

 能力の引き金はこの闇だろう。そうアタリをつけたキリトは何か明るくしようとアイテムストレージを流し読みし、松明を取り出す。アイテムストレージの中でも燃えた状態がキープされる松明だが、取り出した途端に()()()()()()。草食獣に喰らいつく肉食獣の様に、文字通り闇が火を喰ったのだ。他のアイテムも同じで、闇を照らす事は叶わなかった。

 

 「ぎぃっ…!」

 「ユウキ!?あなたどこに――あぁっ!」

 「ユウキ、シノン!クッ、邪魔よ!」

 

 闇が展開される前の優勢はどこへ、確かに狩る側だった筈の4人は何時の間にか狩られる側になっていた。嬲られ、今では互いの位置すら確認出来ず傷ばかりが増えていく。キリトは思考する。今までの経験、知識、記憶の全てを引っ張り出して打開策を練っているのだ。

 

 「チィっ…!」

 

 しかし攻撃を躱しながら、それも複数体から視界が制限された状態で思考を巡らせる事は難しい。現にキリトは防戦一方で、何より切羽詰まっていた。何故かキリトに向けての攻撃が激しく、数も多いのだ。まるで、逆転の一手を持つのがキリトであると言わんばかりに。だが攻撃が激しいという事実すら自分以外の者が見えなければ解らない事だ。キリトは必死に躱し続けている。

 が、限界は来る。一瞬、たった一瞬警戒が緩んだキリトは後ろからゆっくり音も無く迫る乳母に気付けなかった。身体ごと回転して放たれた巻き上げる様な一撃。気付いた時には当たる寸前で、自ら飛んでも高く打ち上げられ、闇が一瞬晴れると直後に地面に落ちる。言葉を放つ事すら出来なかった。

 

 「月…月なら、もしかしたら…」

 

 冷酷な蒼い光を放つ玲瓏なる月。その光なら、闇を晴らせるかも知れない。だが、既に消えた贋作をどうやって実体化させれば良いのか、キリトには分からなかった。ミコラーシュ戦で使えたのは飽くまでも偶然、しかも贋作の劣化版だとミコラーシュも言っていた。それで光を喰らう闇を晴らせるのかという懸念もあった。それでもやらないよりはマシだ、そう思ってキリトは念じる。

 その間にも皆は傷付き、苦悶の声を漏らす。それでも贋作は出て来ない。剣のシルエットすら見えない。ただ希う、また過ちを繰り返さない為の力を。

 

 ――欲しいのは英雄になる為の力なんかじゃない。ただ仲間を守れるだけの力を!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、馬の嘶きの様な音が聴こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これ、は…」

 

 目の前に突き立てられたソレは石の様な剣だった。石をそのまま削り出した様な、剣と呼ぶにも烏滸がましい一振り。普通なら使えるとは全く思えないその武器だが、キリトには確信が有った。これだ、と思った。これならば、きっと道を拓けると。

 手に取れば、エリュシデータよりも遥かに重い重さが右手を襲う。それでも良い。キリトは刀身を空いた左手で撫で、その剣の名前を呼んだ。

 

 「…この1戦だけ力を貸してくれよ、【月光の聖剣】」

 

 それはオリジナルにしてオリジン。贋作やその劣化などとは比べ物になる訳が無い。かの英雄と一時は讃えられた狩人だけが持った導きの光、その原物が今キリトの手に有った。

 光が強くなっていく。それに連れて闇が晴れていき、攻撃も穏やかになっていく。乳母がキリトに攻撃を仕掛けるが、もう遅い。飛び掛かってきた乳母向かって前進し、彼は聖剣を振り抜く。

 

 「オオオオォォォォォォッ!!!!!!」

 

 闇が、晴れた。碧き輝きが皆を優しく照らし、そして敵対した乳母を無慈悲に斬り捨てた。だがまだ死なない。乳母はゆっくりと立ち上がると飛び退き、動かなくなる。回復ではなく、様子見に徹しているのだろう。

 

 「キリト、その剣は?」

 「良いから早く決めるぞ!…あんまり長くは保たない!」

 

 確かに聖剣を扱えてはいるが、キリトは元々聖剣の持ち主ではない。持ち主は今ここではない悪夢に居るが、所持を拒否してキリトに権利を譲渡したに過ぎない。故にキリトは聖剣を十全には使えない。ここには居ない彼専用にチューンナップされた物を十全に扱うなど、絶対に不可能だ。

 キリトを狙う腕。その腕の全てが射抜かれ、動きを止める。シノンの射撃だ。更にワープで逃げようとする乳母の動きを止めたのはユウキとアスナのラッシュだ。目にも留まらぬ速度で繰り出される連撃は、幾ら威力が低くとも怯ませるには充分なダメージ量だった。

 ここまでお膳立てされては決めない訳にはいかない。キリトは駆け出す。剣は引きずり、火花が地面と剣から散る。それでも自分に出せる最高速を出し、渾身の力で逆袈裟に振り上げる。

 

 「ダメージが足りない!キリトくん、下がって!」

 「任せてくれ。足りないなら、もう一発ブチ込めば良いんだろ!!」

 

 巧みな体重移動で立ち方を切り替え、筆記体のLを描くように振り下ろす。斬撃の後に巨大な光波が追従し、完全に乳母の体力を0にする。乳母の身体はポリゴンとなって消え去り、残っているのは地面の斬痕と乳母車のみ。時折響く赤ん坊の鳴き声は虚しく遠ざかっていき、最後には消えてしまった。それと同時に、聖剣も砕け散った。

 

 「…ありがとう、本当に助かったよ」

 

 そして背後から先程の女性が現れる。敵かと身構える全員だったが、女性はそんな事は気にせずに乳母車の近くへ歩み寄る。そして何かを抱きかかえ、4人、向けて深く深く礼をした。その直後に現れる『HUNTED NIGHTMARE』の文字。

 真っ白に染まっていく視界に、全員集まって手を繫ぐ。浮いていく様な感覚と共に現れるのは聖剣を惜しいと思う心。だがもう無い物は仕方無い。4人はあと2体の悪夢の主を狩る為に光の奔流に身を任せるのだった…

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