2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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 クライン「前回のあらすじのコーナーだぜ!」

 エギル「前回は月の魔物との戦いだったな。それにしてもどうしてあんなに弱いんだろうな。本家でも1つ前のボスの方がよっぽど強いんだが…」 

 クライン「ん〜、分かんねぇ!でもそういうのを考察してくのがフロムゲーの醍醐味ってヤツなんじゃねぇのん」

 エギル「それもそうか。じゃあそろそろ――」

 クライン「63話、楽しんでくれよな!」

 エギル「クラインお前、俺の台詞を…」


63話 上位者『ゴースの遺子』

 海があった。大きな川なら下の階層に有ったが、海を見たのはSAOに閉じ込められてから初めてだろう。だが白い砂浜、蒼い海、そんなリゾートである訳が無い。確かに砂浜は白いがその白さは綺麗な白さではなく骨の白さ、虚ろだった。海の蒼も死んだ蒼、自分から入ろうとは決して思えなかった。

 その浜辺に転がる、白い物体。ソレを見たキリトとアスナは怖気を覚え、シノンは未だ無感情に見詰め、ユウキはソレを狩らねばならないと思っていた。剣を握る両手が疼く。まだ自制は効いているが、ソレが動き出せばこの衝動(殺意)を抑えるのはきっと難しいのだろう。

 

 「何、あれ…?」

 「白い、ナメクジ?それにしてはデカいな」

 

 動かない所を見ると死んでいるのだろう。ヤケにテカテカとしているナメクジは見ていて気持ちいいものではない。アスナが目を反らした時、ソレは動いた。

 まるで子供が産み落とされる様にしてソレは産まれ出た。グジュ、ジュグ、と生理的嫌悪感を抱く音を立てながら産まれたソレは老いた姿をしていた。外見は老人そのものだが、手には胎盤を持っていてそこは赤ん坊と思わせる要素がある。ソレは1歩2歩と踏み出すと空を仰ぎ、産声を上げた。

 

 「ゥアアアアァァァァァァァ!!!」

 

 【ゴースの遺子】

 

 嗄れた声で産声を上げたゴースは手に持つ胎盤を振り回し、4人に迫る。シノン、キリト、アスナの3人はバックステップで回避したがユウキは違う。首を狩る様に振られた胎盤を体勢を低くして躱し、剣をゴースの身体に突き刺したのだ。だがその剣は硬い皮に阻まれて切っ先しか刺さらず、むしろ遺子に反撃の機会を与えてしまった。

 

 「っづぅ…!」

 「そんなに突っ込むものじゃないわよ、ユウキ」

 

 スレスレでの回避。キリトとアスナは肝を冷やし、絶句しているにも関わらずシノンは全く慌てていない。あまりにも冷静――否、冷徹なその態度にアスナは薄ら寒くなる様な感覚を覚えた。

 だがその冷徹なまでの冷静さから放たれた一矢はゴースの頭に突き刺さり、追撃の矢が開いたままの腹部に3本突き刺さる。アスナの突きが胎盤を持つ手に直撃し、キリトの斬撃が首に叩き付けられるが遺子は怯まない。そして視界の端の体力バーは1()()()()()()()()()()()()()()()()。悪い上段だと思えたならどれだけ良かっただろう。しかし、視界に嫌でも映る体力バーの量は増える事も無ければ減る事も無い。その事実が心を挫きそうになるが、その弱気な思いを鼓舞する様なユウキの叫びが場を震わせた。

 

 「ハアアアアァァァァァ!!」

 

 ミコラーシュにトドメを刺した際に使った、現在のSAOに於いて最多の連撃数を誇るであろうスターバースト・ストリーム。ソレを凌ぐ程の連撃をユウキが放っていた。やぶれかぶれではなくしっかりと、繋ぎの事まで意識している連撃がゴースを襲う。反撃の芽を潰す様にステップを挟み、そのステップからの攻撃で本領を発揮する慈悲の刃の連撃は通常の敵ならば抵抗させずに倒し切る事も出来ただろう。そう、通常の敵ならば。

 ゴースは後ろに跳ぶと胎盤を振る。明らかに届かないその攻撃はゴースの手から伸びた緒のせいで立直が伸び、地面を削り取った。飛来する礫から身を守るが、一瞬だけゴースの位置を見失う。その隙を突くゴースの横薙ぎが全員を襲った。幾ら遠心力が乗っているとは言え単発、躱す事は難しくはない。

 

 (まさか、二撃目か!?このままじゃ――)

 

 キリトなら耐えられる。シノンはそのずば抜けた観察力で既に見切っており、回避を始めている。ユウキもその持ち前の反射神経で回避か被害を最小限に抑えた防御をするのだろう。しかし、アスナはどうだ?確かにアスナは強い。だが未だ発展途上。ユウキとシノンにはまだ及ばない。躱しきれない攻撃、しかも通常破壊不能な地面を抉る程の一撃、それを防御面は脆弱なアスナが受ければどうなるか、解らないキリトではなかった。

 

 「グッ…!!」

 

 自分が回避する事は捨て置き、アスナを突き飛ばす。一撃目の回避で体勢が崩れ掛けていたアスナは容易く押し飛ばされ、攻撃のコースからは外れる。そしてキリトは一撃目よりも速く、重くなった胎盤を防御する。魔剣クラスのユニークウェポンであるエリュシデータですら軋む気がする一撃。キリトは耐え抜く事が出来ずに吹き飛ばされ手しまった。

 

 「キリトくん!!?」

 (っ、立てない…!指すら動かないとか、嘘だろ)

 

 当然の帰結だ。本来の聖剣を扱えない筈のキリトが本物の聖剣を顕現させただけではなく、短時間とは言えその力を十全に扱って見せた。その負荷がどれだけのものか、想像すら出来ない。本来50キロのバーベルしか持てない人が突然限界の2倍、100キロのバーベルを無理して持ち上げ、その状態をキープしている様なものだ。筋繊維は悲鳴を上げ、下手をすれば断裂すらも有り得る。

 そんな馬鹿げた事を成したのがキリトだ。しかし聖剣の放つ光波は本来運営(カーディナル・システム)が認めていないイレギュラー。その光波が影響を与える物への演算をキリトの仮想脳が全て行い、オーバーヒートを起こしているのだ。あまりの負荷に仮想脳が自壊を防ぐ為にアバターへの命令をシャットアウトしている。後にこの減少は零化現象(ゼロフィル)と呼ばれる事になるのだが、今この場に居る彼らがそんな事を知る由もない。突如動かなくなった身体に混乱するだけだ。

 駆け寄ってくるアスナに2人を援護しろ、と言おうとするキリトだが口すらも動かない。まだ追撃は無いが、いつ追撃されるかも分からない。そうなれば体力が半分を切っているキリトは死ぬだろう。そうさせない為にアスナはポーションをキリトに振り掛け、剣を抜いて警戒する。

 

 (どうして体力が減らない…?ギミック系のボスだとしたら、何か有る筈なのに)

 

 キリトは記憶を探る。ゴースは上位者と呼ばれる存在だ。その名は『姿なきオドン』と共に語られている。しかし明確な話や言い伝えは全くと言って良いほど無く、対処法が解らない。夢の主という点で言うならメルゴーと月の魔物と同一と言えるのだろうが、共通点はそこだけだ。姿も戦い方も、何もかもが違う。

 

 (胎盤…つまりアレは赤ん坊?だけどあの姿は…いや、姿なんて関係無いのか。赤ん坊に胎盤、つまりあのナメクジの死体は子宮って事になる。でもなんで海にナメクジが居るんだ?塩が駄目なら海水も無理な筈。…いや、待てよ?確かそうだった筈。でも確証が無い。アスナに聴ければ、或いは…!)

 

 全く動かない口と震わない声帯を無理矢理動かし、声を絶え絶えになりながらも出す。蚊の泣く様なか細い声は確かにアスナに届いた。

 

 「ア、スナ…」

 「キリトくん、大丈夫!?」

 「今は、それよりも…羊水の成分は海水と同じ。これって、本当なのか…?」

 「…?うん、同じだよ。でも、どうしてそんな事を?」

 「2人に、伝えてくれ…。ボスは、まだ出てきてない…って」

 

 何故そうなったのか。これは今戦っているボスを演出と捉えたからだ。未だ胎盤がくっついている赤ん坊が今のボス。しかしダメージは与えられていない。それはつまり登場演出の真っ最中という事ではないだろうか?ナメクジを子宮と見立てた時、確かにゴースは産まれている。しかし、未だに羊水が出てきていない。それどころか子宮に羊水が存在しなければ赤ん坊は死んでしまう。羊水は胎児を育てる上で大事な役割を担う。まだ手には胎盤を持ち、その胎盤にはゴースと胎盤を繋げる緖がある。つまり、あの海は巨大な羊水。ゴースの遺子は戦いこそすれ、まだ本当のボスではないのだ!

 しかし、そんな予想を立てたとて戦況が覆る訳ではない。むしろユウキはゴースに掛かっていき、シノンがそれを援護している状況に拍車が掛かっていた。もどかしさがキリトを包み込むが、行動を仮想脳が許さない。

 ゴースが自らの血を地面に押し付ける。その直後、シノンの足元が爆発する。浮いたシノンを縦に振るわれた胎盤が地面に叩き付け、カバーに入ろうとしたユウキに重いボディーブローが叩き込まれる。シノンとユウキは蹲り、動けない。ここからアスナがフラッシング・ペネトレイターでゴースに突っ込んだとしても怯みを取れるかすら怪しい。ここままでは2人が危うい。そう感じたアスナは駆け出し、キリトも身体を僅かに動かすが届かない。

 

 「シノン、ユウキッ!!」

 

 アスナの声が2人の名を呼んだ直後、雷鳴の様な轟音が空気を震わす。ここで初めて怯むゴース、そのひらかれた腹部に手刀がブチ込まれ、直後には血と臓物が撒き散らされる。幾らSAO広しと言えど、手刀をエネミーの体内に突き刺して内部から引き裂くという行為をするのは1人だけ。白いオーラを立ち昇らせる背中は懐かしく、ユウキとシノンが渇望した人物の背中と同じ――いや、その背中の人物そのものだった。

 

 「どうだ上位者、ヒトの一撃は効くだろう?」

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