シリカ「前回はやっっっとシュユさんが皆さんに合流しましたね!」
リズ「にしても流石は主人公の片割れ、良いところで来るわね」
シリカ「そんなメタい事は言わなくても…」
リズ「ま、ここはメタ空間だし良いでしょ。…本編だと出て来てないしね、あたし」
シリカ「私は一応出ましたけど…まぁほんのちょっとですけど」
リズ「今回でヤーナム編は終わりだし、直ぐに出られる…筈よ」
シリカ「筈ですか。取り敢えず64話、楽しんで下さいね!」
走る、兎に角走る。時計塔から飛び降り、廃れた廃村に辿り着くとシュユはひたすらに走っていく。半ば気絶に近い形で睡眠を摂ったシュユだが、実際はその夢の中でマリアの持つ知識のほぼ全てを頭に叩き込まれていたせいで身体の疲労は半分ほど回復したが頭の疲労は回復どころか増していた。
頭が酷く痛む。恐らく他人の記憶を無理矢理捩じ込まれた現実の脳と通常では有り得ない負荷を掛けられた仮想脳が悲鳴を上げているのだろう。それをいつも通りに抑え込み、目の前に見える上がっていて通常は登れない梯子にナイフを投げて梯子を落とし、通常のコースを無視して進む。
人造の上位者、本当の上位者など訳の分からない言葉が脳内を巡る。少なくとも分かったのはマリアは人が造り出した
ヒトが上位者(言ってしまえば宇宙人の事だ)を造り出し、通常では知り得ない知識を得て自らの身を上位者へと昇華させる事を目的にこの世界の2つの勢力の片割れ【医療教会】が計画、そして実験の末に産み出されたのがこの先に居るであろう【ゴースの遺子】だ。先程居た【実験棟】で彷徨っていた肥大化した脳味噌の患者はその
全速力で走り続けているからだろう、四肢が重く立ち止まりたくなる。その仮想脳が齎す偽物の感覚を受け止め、その上でまだ走る。足元は水が張っており、その水音で目の前の頭に瘤がある巨人が振り向く。それを認めたシュユはマリアから譲り受けた【落葉】を分割、二刀にすると短剣の方を投げつける。頭に突き刺さった短剣に跳んだシュユが膝蹴りを打ち付けると脳を貫かれた瘤頭は轟音を立てて倒れ、血を大量に噴き出して死んだ。
赤いオーラが身体に吸い込まれていく。これは【血の遺志】と言うらしく、狩人の『身体』となるモノらしい。それと対を成すのが【啓蒙】で、ヤーナムに足を踏み入れた者は誰もが必ず持っている。しかし、それがどちらに傾いても駄目らしい。血の遺志に偏れば殺意に揺さぶられ、啓蒙に偏ればヒトらしさを失う事はマリアの記憶から学んだ。
ほぼ確実にユウキとシノンはどちらかに偏っているだろう、そう確信を持っているシュユは目の前の霧の壁を通る。手に持つ武器を振り下ろそうとする
「どうだ上位者、ヒトの一撃は効くだろう?」
「シュユ、なの…?」
「久し振り、シノン。ユウキも、オレが居ない間はどうだった?」
「心配に決まってたじゃん!ずっと、シュユの名前の下に赤い文字が書かれたらって思うと、ボクは…!」
「…悪かった。頑張ったな、2人とも。後は任せろ」
2人の肩をポンと叩くシュユ。すると、その触れた所からユウキからは赤い靄が、シノンからは薄い青の靄がシュユに流れ込む。2人を取り巻いていた感覚が消え、その全てがシュユに収束する。
「こんなに血の遺志と啓蒙を…。でも安心してくれ、コレはオレが持っていくから」
ゴースが立ち上がる。だがそれは普通の立ち方ではない。まるでビデオを逆再生する様に不自然かつ早い立ち上がり。だがシュユは慌てない。落葉を突き付け、警戒を最大限に高める。
「そんな外側、さっさと捨てて出て来いよ。オレはお前の事を全部知ってる。もう無駄だ」
ゴース――否、ソレすらない存在は文字通りゴースの身体を脱ぎ捨てる。現れたのは半透明の人間。背中には歪な翼が有り、右手は肥大化した異形の獣、左手は何本か数える事も億劫になる数の触手が腕の形を象っていた。顔はしわくちゃの老人だが、その左目の瞳は蕩けて形を失っていたが右目はしっかりと残っていた。
『…時計塔のマリアか、
「あぁ、そうだ。メルゴーの乳母に月の魔物、そしてゴースの遺子。他にも上位者は居るが、その中で唯一名を持たない存在。それがお前だ、悪夢の核」
『悪夢の核か、確かに正鵠を射ている名だ。だが
「殺せない?それもそうだ、夢は覚めても殺す事は出来ない。そんな事は分かりきってる」
『ならばどうする?このまま
「なぁ、ここに居る全員に問題だ。
このボスには体力バーは存在する。だが、攻撃を当てられないボスの体力は減らせない。どこからどう見ても絶体絶命のこの状況下でシュユは呑気に問題を全員に投げ掛けている。その状況をボス――仮称【悪夢の核】は楽しんでいるらしく、明らかに攻撃に用いるであろうその両腕を使わずに突っ立っている。
「正解は月、そうだろ…?」
「キリトくん、無理しちゃ駄目だよ!」
「…その通りだ、キリト。お前はさっさと休め。ユウキ達を守ってくれてたんだろ?恩は返すさ」
「そう、するさ…」
『それで、月が有るからどうした?それで
「あぁ、殺せるさ。簡単じゃないが、お前と戦う事無くな」
『ほう?やれるならやってみるが良い。妨害はしないぞ、どうせ出来ぬのだからな』
「その言葉、忘れるな…よ!!」
シュユは葬送の刃に武器を持ち換えると
『……まさか、月を消すとはな』
「この世界の月には特別な意味が在る。夢を与えて夢を監視する存在だからどんな夢にも月は存在した。お前がマリアの言う通りに悪夢の核だとしたら、お前は月自身だって結論に至る。誰にだって解る事だ」
『それでも
悪夢の核は消え去った。戦う事など無く、ただ1人の規格外の強さと機転により討たれたのだ。その本人も今まで溜め込んでいたモノ全てを解き放った事で、既に意識を保つ事すら困難な状態に陥っていたのだが。
「シュユっ!!」
「ゴブッ…!ゆ、ユウキ…もう少し労ってくれないか…?オレ、今にも意識飛びそうなんだからさ…」
「どうしてこんなに心配掛けるのよ、あなたは!」
「た、叩かないでくれ…飛ぶっ、そろそろ意識飛んじゃうから…」
意図してなのか、シュユに追い打ちを掛ける2人。シュユはどうにか意識を保ちつつ、2人を見る。固まった返り血でカピカピになった髪、スレスレの回避を重ねたお陰で擦り切れた服、それを見ただけで自分が居ない間どれだけの激戦を潜り抜けてきたのかが解る。だが2人の心の痛みに自分の心の痛みは敵わないだろう。そうシュユは思う。
シュユは今までの戦いの疲労で軋む身体をどうにか動かして2人を抱き寄せる。血の臭いが強いが、その中に嗅ぎ慣れた2人の香りを感じると途端に涙が出そうになり、それを2人の髪に顔を埋める事で隠す。涙声にならないように気を付けながらシュユは言った。
「当分は戦わないで2人と一緒に居るよ。それで許して、くれないか?」
「…ホントに?」
「あぁ、勿論。流石に戦い飽きた。ボスを何体もソロ討伐すれば――」
「ソロ討伐?ねぇシュユ、そんな馬鹿げた無茶を、しかも何回もしたの?」
「…………………」
不味い。このままでは怒った2人に更に叱られる。そう直感したシュユは形を崩していく
「ちょ、シュユ!?」
「…これは後でお仕置きだね」
結局は同じ事らしいのだが。
いつからヤーナムでラストバトルが有ると錯覚していた?そりゃあ存在していないものとは戦えませんよ。