ユウキ「前回はラストバトル詐欺みたいな感じだったね。戦闘描写と言える描写なんて無かったし」
アスナ「まぁ、あれでも頑張って考えたらしいよ?オリジナルのボスとの戦闘を書くのも楽しそうだけど、敢えて戦わないっていうのも面白そうって事でああなったらしいね」
ユウキ「へぇ〜、そうだったんだ。ま、そんな事より65話、楽しんでね!」
アスナ「そんな事って…ナチュラルに毒を吐いたね、ユウキ…」
65話
(やっぱり47層は凄いな。花の香りで階層全体が満たされてる感じがする)
第47層の街、フローリアにシュユは居た。格好はいつもの
というのも、今のシュユは武器の類の殆どを没収されているからだ。あれから目覚めたシュユは2人からの説教でこってりと絞られ、お仕置きとして最低1月の間は戦闘を禁じられた。更に何かとトラブルに巻き込まれるシュユが自ら渦中に飛び込んでいかない様に葬送の刃と落葉、老狩人シリーズをメンテナンスも兼ねて没収、今頃は恐らく2人のどちらかが保管しているだろう。今のシュユが持っているのは戦闘用のアイテム各種と刀身が半ばから折れている千景だけだ。その千景も今はもう武器として運用するには不安が残る為、結局戦えないのと同じなのだが。
(…そう言えばここはデートスポットだったな。何とも居心地が悪い。リア充がそこかしこに居るし。まぁ恋人に依存するのも仕方の無い事なんだろうな)
フローリアはその花が咲き乱れる美しい光景から、カップルのデートスポットとしてメジャーなものになるのはそう時間は掛からなかった。まぁデートスポットと言ってもそうカップルの数は多くない。それはSAO内の男女比が8:2 、下手をすれば9:1と言われる程の偏った男女比が原因だ。幸運にも(今となっては皮肉だが)SAOの初期生産分10000本を手に入れた者の中で肉弾戦闘がメインになるSAOを好むのはやはり男性の方が多かった。故に仕方無いと言えば仕方無いのだが、それでもイチャつくカップルを横で見るのは気まずいし惨めになるらしい。故にテイマーでもなければこの階層に近付く者はそう多くない。
それでも花は綺麗だし、香りも良い事には違いない。現実とは違って花粉症は無いので現実ては花粉症の人だったり攻略組で戦いに疲弊した精神を癒やす為に来る人も多い。一定数の需要が有るのだ。
「―――、―――♪」
「…歌?」
弦楽器が奏でる旋律に乗せられた言葉は確かに歌だった。SAOで歌、もっと言えば音楽を聴く機会は多くない。たまに鼻歌を歌う人は居るが、スキルを用いた歌などシュユは初めて聴いた程だ。バージョンアップによって今は味が付いたが、以前はNPCの店で食べる料理に味が無かった事も有って【料理】スキルを取得した者は少なくない。
空腹感を感じるSAOで食事をしないのは精神的にも辛い上にデバフが付与される事も有り、彩り豊かでも味がしない料理を食べる事を嫌がって料理スキルを取る事は有っても、言ってしまえば不必要な音楽に【作曲】と【演奏】を取る者は少数派だ。
それも今歌っている誰かの歌は恐らくオリジナルだ。しかも演奏を間違える事無く、機械で奏でる様に精密で確実な音色を奏でている。風の噂では演奏スキルの熟練度が低い者の演奏は間違いだらけで不協和音、聴けたものではないらしい。
(…楽器は多分オリジナルだな。じゃあ【調律】に【楽器作成】のスキルも持ってるのか。凄いな、鍛冶スキルと違って利益を上げられるかすら怪しいフレーバースキルをそこまで鍛えられるなんて)
戦わなければ脱出出来ないSAOでは武器が売れる。同じ理由で
そんな事を考えていると
「――良い演奏だった。…どうかしたか?」
「…いや、そんなストレートに言われたの初めてだったから、少しびっくりしただけ」
「オレは嘘も言うし隠し事もするが、世辞は言わない。良いと思った歌は良いとハッキリ言うさ」
世辞は言わない(ユウキとシノンに対しては除く)である。
「ねぇ、名前は?」
「オレはシュユ、そっちは?」
「私はユナ。どうしてこんな所に居るの?」
周りを見ればもう誰も居ない。時間も逢魔が時と呼ぶに相応しい夕暮れだった。昼と夜は人気の第47層だが、夕暮れ時にはユニークエネミーが出ると言われておりその時間帯になるとフィールドを出歩く者は殆ど居なくなる。故に人は居ないのだろう。
「キミの歌が聴こえたから。それにやる事も無かったしな」
「何それ、暇じゃなかったら来てくれなかったの?」
「……………」
「そこは黙んないで欲しかったかな〜」
「悪い、冗談だ。良い歌だったから、やる事が有っても多分寄ってただろうな」
「それ、真顔で言うことじゃないよ、多分。…えへへ、でも嬉しいな」
「コレ、貰ってくれ。あんなに良い歌を聴かせて貰って何も渡さないのはオレ自身が許さないからな」
そう言ってシュユが渡したのは水色のリボンだった。ある時クエスト報酬で貰ったのだが、周りの女性プレイヤーでリボンを使う人が居なかった為アイテムストレージの肥やしになっていた。ユナは水色が主体のファッションだ。統一性が出る(かも知れない)ので渡したのだ。
「…そういう事なら貰っちゃおうかな!」
「あぁ、そうしてくれ」
ユナは帽子を脱ぐと長い茶色の髪をリボンで結わえる。そしてシュユの目の前で1回転すると無邪気な笑みでシュユに質問した。
「どう、似合う?」
「…あぁ、凄く」
その答えに満足したのか、ユナは笑顔のまま楽器を抱えて帽子を被った。
「じゃ、もうそろそろ行かなきゃ。じゃあね!」
「…また、歌を聴かせてくれるか?」
「……うん、勿論!!」
シュユは後ろを向き、フローリアに向けて歩き出す。ユナは動かず、シュユに向かって手を振り続ける。ある程度進んだ所でふと気になったシュユは後ろを振り向く。だが、もうユナは居なかった。本当についさっきまで気配を感じていたし、転移結晶を使った音もポリゴンの残滓も見えなかった。忽然と居なくなったのだ。
(そう言えば、どこかの階層で幽霊が出るって聴いた様な…。いや、まさかな)
風が頬を撫でる。ユナの奏でていた旋律が聴こえた気がした。
フローリアの目前に着く頃には既に周囲は真っ暗だった。途中でエネミーに襲われたがそれは接近してからの穿牙で全て屠ってきた。シュユは攻略組、この階層の敵に苦戦する訳が無いのだ。
「――ッ!!?」
一瞬の殺気。咄嗟に構えて腕で飛来物を防ぐ。連続して腕に針状の物が突き刺さる感触がした。襲撃者を倒そうと折れた千景を実体化させようとしたが、途端に視界がグニャリと歪む。足元が覚束なくなり、膝をつく。その直後には倒れ伏してしまう。
(レベル3の麻痺と睡眠だと…!?クソ、耐性もこれじゃあ…)
シュユのスキルには一応【状態異常耐性】が有る。蓄積値の軽減と効果時間の短縮とは言え、レベル3 の状態異常になればそんなものは気休めにもなりはしない。
レベル3 の状態異常は殆どのエネミーも使ってこない上にプレイヤーが作ろうとするとかなりの手順と面倒を必要とする。それでも使うのは
シュユは目の前に現れたフードの人物の顔だけでも見てやろうと目を凝らすが、歪んだ視界ではそれすらも難しい。フードの人物の足を掴み、立ち上がってフローリアに入ろうとするも掴む手に力が入らない。詰みだ。そう直感したシュユは一瞬見えた
おや?忘れ去られていたヤンデレ要素がウォーミングアップを始めているぞ…?