キリト「拉 致 監 禁」
クライン「そんな一言で終わらせんなよ…」
キリト「実際そうだから別に良いだろ?じゃあ67話、楽しんでくれ!」
クライン「雑だなオイ」
いつからだろうか、自分が彼に惹かれたのは。始まりは強盗事件の時ではなく、それより少し後だとシノンは記憶している。少なくとも朝田詩乃が秋崎悠に恋情を抱き始めたのはそうだった。
詩乃は父親との記憶をあまり覚えていない。昔はしっかり覚えてはいたが、母親の介護に追われる余り掠れてしまった。交通事故で他界した父。そんな父を深く深く愛していた母は父が居なくなったショックで幼児退行してしまい、普通の生活を送る事さえ危うくなった。いや、送れてはいなかった。
学校に通いながら自分よりも精神が幼い母と会話し、食事をさせて留守番をさせる。休日には公園に散歩をしたりした。奇異の目で見られる事も有ったがそれもいつしか慣れた。母の介護で心が擦れていくに連れ、詩乃の精神年齢はどんどんと大人びていき、強盗事件に巻き込まれる頃には母の精神疾患は父が生き返りでもしない限り治らないのだと半ば理解していた。終わる事の無い介護生活に絶望を感じていたのは未だに記憶に残っている。
そんな時、詩乃は強盗事件に巻き込まれた。拳銃を持った男3人組の犯行、未来など知らない詩乃はまんまとそれに巻き込まれた訳だ。もう死んでも良いと思っていた詩乃は初めて反骨精神を露わにし、1人の男から拳銃を奪い取った。しかし同年齢の女子平均と比べれば少し力が強い程度の詩乃ではもう撃つしか無いと思った時、1人の少年が飛び出して1人をノックアウト、それから人質(その人質が木綿季だった)を取られたが、彼の金的2連撃で男は気絶。しかしその彼も詩乃が撃った銃弾が頬を掠め、緊張の糸が切れた途端に気絶。その時の傷は未だに残っている。それを未だに引け目に感じているのは自分だけの秘密だったりする。
母の状態を警察に知られ、あわや養護施設に送られる所を悠の父、秋崎
それから詩乃は秋崎家の一員となった訳だが、やはり1歩引いた関わり方になっていた。木綿季は赤ん坊の頃から秋崎家の一員だった上に本人の気質も有って遠慮などしないタイプだったが詩乃は違う。長年の母の介護で培った自分の意思を抑え付ける方法をフルに使って、詩乃は手の掛からない子を演じた。今思えば馬鹿らしいが、その頃は本気でそうしなければ、捨てられると思っていたから。
自分を偽り続けていたある日、悠と2人きりになる事が有った。その時木綿季は女友達と遊びに行っており、悠は真面目に机に向かって中学の勉強の予習をしていた。その時の詩乃は何故そんな事をするのだろうと疑問に思ったものだ。馬鹿みたいに暑い夏の日、半端に開いたドアの隙間から悠を見ていた(その時の詩乃の部屋は悠と木綿季の部屋とは別だった。因みに悠と木綿季は同部屋である)。
詩乃に気付いた悠はエアコンのスイッチを入れ、キッチンから適当に麦茶を2杯持ってくると詩乃に隣に座る様に言った。恐る恐る座った詩乃に麦茶を手渡し、2人は無言で飲み始める。そろそろ飲み終わるか、といった時に悠は呟く様に詩乃に言ったのだ。
「キミはキミのままで良いと思うよ、詩乃」
その言葉で詩乃は救われた気がした。彼は自分を見ていてくれていた!ありのままで良いと言ってくれた!自分を認めてくれた!そんな思いと久しく抱いていなかった純粋な喜びが胸を満たし、涙を流した。手で顔を押さえて涙を流す詩乃を恐る恐る抱き寄せ、ゆっくりと背中を一定のリズムで叩き、優しく頭を撫でる。
詩乃はその時、彼の中に自らの理想を見た。…いや、理想が悠になったと言った方が確実なのだろう。
「ねぇ、シュユの事知らない?」
「知ってると思う?」
「…知ってたらまずボクに言わずに会いに行くよね。ゴメン」
「別に良いわ」
シュユは行方不明になっていた。と言うより、ただ目撃情報がめっきり途絶えてしまっている。フレンド機能を使って捜そうにもシュユの方から
ユウキはシノンを怪しいと思い、質問をするがシノンはその質問にイライラした様な口調で答える。その逼迫した様子にユウキは謝罪し、シノンはぶっきらぼうに許す。武器はシノンが、戦闘衣はユウキが持っているのでそう長くは戦いない筈だが、システム外スキルを複数使える彼に常識が通じるかは不明であり、その点が2人の精神を焦らせていた。
「…………」
「どこ行くの?」
「シュユを捜すわ。こんな所でKoBの情報網に頼るより、私の勘の方がまだ頼れるもの」
「本当にそれが確実だと思ってるの?」
「そうでもしないとおかしくなりそうなの。解るでしょ?」
それだけ言うとシノンはドアをバタンと閉め、どこかへと歩き出す。ユウキは1度溜め息を吐くと椅子に座る。柔らかい座面はユウキの身体を受け止め、回転する際に音を少し軋ませる。ユウキは腕で顔を覆い隠し、本音を零した。
「………会いたいよ、シュユ」
その袖には、2つの濡れた跡があった。
目が覚める。腕を縛られている為メニューすら開く事が出来ず、今が何時かは分からないが少なくとも意識を失ったのは5度目だと記憶している。
「ただいま、シュユ」
「おかえり、シノン」
外から帰ってきたであろうシノンが現れる。今のシュユはこの部屋から外に出ておらず、窓は目張りされているのでここがどこだかも分からない。室温は快適なままで発汗する事は無いので入浴の必要が無く、身体すら拭いていない。それでも臭くないのは流石仮想世界と言った所か。
「はい、お昼ご飯よ」
「あぁ、頂くよ」
「んぁ、ふっ…」
何故シュユに食べさせているだけなのに艶めかしい吐息が漏れるのか、その答えは簡単だ。単にシノンがシュユに口移しで食べさせているに過ぎない。箸やスプーンが無い訳ではない。と言うよりシノンが口に食べ物を含む際に使っている。それでも手を使わないのは縛られているからで、口移しなのはシノンがそうしているからだ。
「次はそのスープが良いな」
「分かった、じゃあ行くわよ」
「あぁ」
次食べたいものを指定するシュユだが、考えている様でその実何も考えていない。言葉はただのルーチンワークと化していた。解放を願っている訳ではない。別にこのままで良いと思ってすらいる。何故ならここにシノンが居る限り、シノンが死ぬ事は無いのだから。自身の精神はかなり消耗している中、それでもシノンを案じるのはやはりシュユであるからなのだろう。
口に流し込まれたスープを嚥下する。中華スープ特有の胡椒の辛み、その中に独特の甘みがあるのはシノンの唾液なのだろう。
「ねぇシュユ、外に出たいと思ってる?」
「…さぁ、どうだろう。自分でも解らないな」
事実、その通りだった。ユウキの無事を確認したいとは思うが、言ってしまえばこの外にも
シュユが産まれる以前、『彼』の魂の時に施された感情の枷は壊れていた。ヤーナムでの度重なる致命的な過負荷が精神と仮想脳を押し潰し、その過程で感情を抑えていた筈の枷が半ば外れているのだ。それがシノンの告白で完全に壊れ、今のシュユは相反する2つの感情に悩まされていた。
1つはこの場所から脱出し、また3人で暮らしたいという以前までの感情。そして2つ目はこのままシノンの想いを受け容れ、添い遂げる。むしろ、ここで肉体的に襲ってしまうという手段に出ようとしている思春期男子特有の性衝動に突き動かされた本能と感情が入り混じったものだ。
ここで襲えばシノンは確実にシュユを受け容れてくれる。そして結ばれるのだろう。それは
(シノンの血…クソ、どうしてこんなに血が見たいんだ?シノンの血、血だ。こんな普通の食事じゃない。シノンの血を!見たい飲みたい吸いたい!!!!)
1度狩人になった者は血から逃れられる事は決して無い。例え狩人としての一線を退こうと、血の誘惑からは逃れられないのだ。シノンの細い首筋を掻っ捌き、その血に身を沈めたい。だが今の階層では血が出る事は無い。原則、ヤーナムでなければ血は出ないのだから。
ひたすらに血を求めるシュユは食事を終えると、自分の唇の内側を噛み切ったその痛みでどうにか正気を保とうとするのだった。延命処置にもならない、その程度の児戯で。
キスの吐息?そんなもの妄想に決まってるだろ、いい加減にしろ!(血涙)