2度目の命は2人の為に   作:魔王タピオカ

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 シュユ「前回のあらすじだ」

 シノン「シュユを堪能させて貰ったわ」

 シュユ「オレだって健全な男児なんだぞ…勘弁してくれ」


68話 置いてけぼり(助けなければ)

 SAOにログインしてから、ユウキとシュユは同じ時をあまり過ごせていない。KoBに入団した、ひいてはアスナに着いていったのは後悔していない。死にたがりだったアスナを抑えるにはアスナよりも強い自分が行く事が最良だったのだから。それ故に彼女はまだ生きている。少なくとも、悪い事では無い筈だ。ユウキはそう信じている。

 

 

 

 

 紺野木綿季は本当の家族との記憶はもう殆ど覚えていない。と言うより殆ど知らないと言った方が近い。優しい両親と綺麗で憧れだった姉だった事は覚えている。そしてその3人が熱心なクリスチャンだった事も。だから木綿季もクリスチャンになった。その理由は単純で、もう殆ど覚えていない家族への弔いになるようにだ。

 だから木綿季は食事をする前に祈りを捧げていた。それもSAOに来てからはやっていないも同然なのだが。SAOにログインする以前は、神など信じていない悠がお祈りに付き合ってくれた事が無性に嬉しかった。

 物心ついた頃から一緒に居た悠。そんな彼に明確な好意を抱いたのはいつだろうか?少なくとも木綿季にその記憶は無い。今までの木綿季の人生は悠への好意と共に歩んできたと言っても過言ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 シュユに会いたい、もうその想いしか無い。シュユを除いた皆のユウキへの認識は、明るく芯の強い少女。しかし、本来は違う。それはシュユという強い支え有っての事で、本来のユウキは弱く脆い。

 今までシュユとここまで離れた事が無かったユウキは間違ってしまう。今、彼と会えないのは頑張りが足りないからだと。だから頑張ろうと、ユウキはそう思った。彼が消息を絶ってから2週間、丁度良くフロアボス攻略戦が今日行われる。

 

 「ラストアタック取ったら、きっとシュユは褒めてくれる…。えへ、えへへ…見ててね、シュユ」

 

 ユウキは慈悲の刃を腰に着けると、浮かされた様に歩き出す。鬨の声を上げる攻略組に混じり、ただ想い人に会う為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ぁ…っ、痛いな」

 

 遠のいていた意識が痛みに引き戻される。ヤーナムでの戦いを終えた頃から、痛覚遮断機能の機能が果たされなくなり、ゲーム内の怪我の痛みが現実と同じ痛みになった。この痛みは唇の内側を噛み切った痛みだ。血の味を感じないのはSAOに原則流血表現が無いからだが、今はそれが憎たらしい。今は血を摂らなければイカれてしまいそうだと言うのに。

 既に時間の感覚は滅茶苦茶になっていた。睡眠(気絶)は10回を超えた所から数えるのが億劫になり、止めた。回数を重ねるに連れてシノンの行為は大胆になっていき、昨日はシノンの腹部に盛られた料理を貪った。俗に言う女体盛りである。もっと危うい所でやると思っていたシュユだが、流石にそれはシノンも自重してくれたらしい。それも焼け石に水な気もするが。

 分かった事として、シノンはレアアイテムを使用して自分を閉じ込めている事が挙げられる。この部屋の扉から見える景色がいつも違っているからだ。1回前の扉の向こうは森だったのに今回は洞窟、なんて事も有った。となればシノンが異なる空間を繋げるアイテムを所持していると考えて良いだろう。それが判った所で、という話でもあるのだが。

 

 「んっ…キス、上手くなったわね。もっとあなたを味わっていたい所だけど、これから行かなきゃいけない所か有るの。良い子で待っていてね、シュユ」

 

 シノンがドアを開け、出ていく。シノンが必要になる事柄、シュユにはフロアボス討伐戦しか思い浮かばない。以前ヒースクリフが自分がシノンに攫われる前の暇な時間に、2週間後にフロアボス討伐を始めると言っていた事を思い出したからだ。

 となれば早く助けに行かねばならない。正直なところコンディションは最悪だがそれとこれは話が別、例え攫われたとしても助けに行くのがシュユだ。

 先ずは縄から抜けねば動けない。指を動かしてウィンドウを開き、アイテムを実体化。ナイフで切ろうと試みるが刃が微妙に届かない上に触れている刃から判るが何かしらのエネミーの毛が混ざっている。カーボンファイバー的な使い方で強度を底上げしているのだろう。そもそも投げナイフは突き刺す事には向いていても斬る事には向いていない。力が入りにくい事もあって刃が滑り、縄は切れなかった。

 

 (…やれるか?)

 

 目を閉じて集中、目をカッと開けるとゼロモーション・シフトを発動。左手が障害物を無視して移動し、手が自由になる。後は適当な武器を実体化させ手右手を縛る縄を切る。凝り固まった身体を伸ばし、ドアを開ける。出た場所は普通の宿屋だった。

 備え付けのチェストを見ると中には修理が終わった落葉が入っていて、シュユは有り難くそれを装備する。戦闘衣はどれだけ探しても無かったので諦め、アイテムストレージの中から【古狩人シリーズ】を選択して装備する。前の【老狩人シリーズ】より少し重いが代わりに防御力が戦闘衣にしては高く、しかもユニーク装備と思われる。シュユにとって装備はユニークだろうがなかろうが、使えれば関係ないのでどうでも良い話ではあるのだが。

 日付を見れば2週間と1日が経過していた。恐らく既にフロアボス攻略は始まっているか始まる寸前だろう。シュユは転移結晶を取り出し57層の街【マーテン】に転移する。シュユは休む事無く歩き始め、ある種類のNPCを捜していた。路地裏の隅に座る、髭も髪も伸び放題の老人が居た。普通なら敬遠する類のその人物に向けて話し掛ける。

 

 「爺さん、『この世界の厄災は?』」

 「おぉ…厄災を知りたがる若者が居るとはな…」

 

 このNPCはフロアボスに関する情報を与えてくれるNPCだ。『この世界の厄災は?』という言葉を合言葉に、迷宮区の解放度合いに比例して明確かつ具体的な情報をくれる。恐らくこの機能はデスゲームと化する以前、本来在るべき世界初VRMMORPGとしてのSAOに用意されたものだとシュユは思っている。詰み防止用の救済措置になる筈が、今ではその詰みが人生をこのゲームの中で終わらせる事を意味するものと化したのだ。故にこの類のNPCを知る者はあまり居ない。シュユを除けば腕の良い情報屋ぐらいのものだろう。

 

 「世界の最奥に座する大木…自らの身体から眷属を産み出し、無限の軍勢を創り上げん。その種子は相手に乗り移り、我が身とせん」

 「ありがとう、もう充分だ」

 「気を付けるが良い、勇者よ」

 

 全ての情報を聴いた限り、とても不味い事が分かった。直ぐ様走り出し、フロアボスの居る場所へ向かう。この情報への理解が正しいものなら、下手をすれば全滅も有り得るのだから。


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