シリカ「Twitterの名前と同じにしたらしいですよ。ふと気に食わなくなったらしくて」
リズ「なによそれ…あ、フォロワーが100人になったわ。ありがとね」
シリカ「と言う訳で75話、お楽しみに!」
「へぇ、お前とアスナがねぇ…人生、何が有るか判らないもんだ」
「あぁ、その通りだ。あのボスとタイマンして生き残った事も、殺されかけても生きて帰れた事も、全部偶然みたいなものだった。でも、生きてられるんなら良いって思えたよ」
「ヒースクリフに負けたのに、か?」
「それを言わないでくれ」
「似合ってるぜ、その白い装備。なぁ、【黒の剣士】さん?」
湖のほとりで、キリトとシュユは並んで釣りをしていた。シュユの子供っぽい煽りにキリトは笑って返し、シュユは直ぐに「冗談だ」と断っておく。
キリトとアスナは付き合う事になった。と言うより既に『結婚』している。とんだスピード婚だ。交際期間は1月あるかないかだが、生きるか死ぬかの戦場で背中を任せ合って生き延びてきた仲だ。信頼と愛情はその辺の夫婦より何倍も深く壊れないだろう。
「シュユは結婚しないのか?」
「バカ言え。オレはユウキとシノン、2人と付き合ってるんだぞ?どっちにも優先順位は付けられない。どっちも1位だ。重婚制度でも解放されたらするさ」
「…ホント、大切に思ってるんだな」
「ま、娘も出来たし……なッ!!」
「来たか、湖の主!!」
シュユの釣り竿の先には凄まじい大きさの魚が喰い付いていた。釣り竿の耐久度がえげつない勢いで減少していくが、それはキリトが【修理の光粉】を大量に振り掛ける事で減少と回復を相殺し、釣り竿の破損を防ぐ。が、シュユの質量の何十倍もの質量を持つ湖の主を釣り上げるのはアインクラッド内でも有数のSTR数値を持つシュユでも至難の業だ。
「頑張ってー、シュユー!!」
「楽しみにしてるわよ、シュユ!」
「ふぬぬぬぬぬ……」
2人の声援で力が更に入るが、まだ足りない。それを察したシノンは娘の耳に言ってほしい言葉を囁く。因みにユウキはそれどころではなく、手すりを握ってアスナと一緒に顛末を見届けていた。
「お、お父様の格好良い所、見たいですッ!!」
「っ……」
「頑張って下さい、お父様っ!!」
「ふんっ、ぬおおおぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!!」
娘―名はユノウと付けられた―の声援でシュユは全力を超えた全力、120%の力を発揮する。身体のバネ、勢い、ステータスの全てを活かした故の力。それに抗う事は出来ず、湖の主は水柱を上げながらその巨体を数秒空に打ち上げ、直後地面に地響きを立てて落ちた。娘の声援を受けた父は強いのだ。
体力バーが0になり、湖の主の素材がシュユのストレージの中に収納される。それを全てパーティーメンバーとして登録しているアスナ、ユウキ、シノンの料理スキル持ちに渡すとシュユはぐしょ濡れのまま岩場に寝転がった。ユノウはシュユに駆け寄り、顔を覗き込む。
「だ、大丈夫ですかお父様?」
「は、ハッハッハ、流石に死ぬかと思った。それよりもユノウ」
「はい?」
「オレの姿はどうだった?」
「凄く格好良かったです。アインクラッドで1番でした!」
「嬉しい事言ってくれるな、ユノウは。元気になったよ」
強過ぎる力を出した直後の倦怠感を押し込め、ログハウスへと向かうユノウとシュユ。今回はお隣のキリトとアスナ、そしてもう1人のログハウスでちょっとしたホームパーティーだ。
「ほら、行って来な。ユイちゃんも待ってる」
「…お父様は、疲れてませんか?」
「コイツと話してるし、大丈夫大丈夫」
「そそ。シュユの事は俺に任せて、ユノウちゃんはユイと遊んでやってくれないか?」
「分かりました。じゃあ、遊んできますね」
「あんまり遠くには行くなよ〜」
ロッキングチェアに座り、ヒラヒラと手を振るシュユ。キリトも椅子に腰掛け、水際で楽しそうに遊ぶ2人を見ていた。
「なぁシュユ、訊いて良いか?」
「何をだ?」
「ユノウちゃんの名前の由来」
「んー、まぁそうだな。別に良いか。オレ達の名前から一文字ずつ取ってきたのさ。ユウキのウ、シノンのノ、
「へぇ、そうだったのか。まぁでも、仲が良くて嬉しいよ俺は」
「それもそうだな」
本当はユノウの名の由来はもう1つ有るのだが、別に嘘は吐いていないので言わなくても良いだろうとシュユは断定し、ロッキングチェアに揺られながら微睡む。手錠は外れているので手を組んで枕にしている。確かに見せしめの懲罰という意味合いが強い手錠とは言え、流石に警備が緩い気もするが鍵を外せる者がそう判断したのだから良いだろう。
そんな事を考えながらウトウトしていると、テーブルに皿を置く様な音が聴こえた。重たい瞼を上げるとそこには配膳している娘たちの姿が。遊びより手伝いを優先する娘達に内心拍手を贈りながらシュユは身体を起こす。キリトも眠りかけていたので顔に油性ペンの様なアイテムでヒゲを書き加え、それから起こして用意されていた椅子に座る。
「パパ、どうぞ」
「ありがとう、ユイ」
「お父様、これをどうぞ」
「ありがとう。ユウキとシノンもユノウのお陰で助かってるよ」
「お父様とお母様の為ですからっ」
そう言ってパタパタと駆けていくユノウ。彼女の後ろ姿を見てシュユはしみじみと呟く。
「良い子だな、ユノウ」
「ユイも負けず劣らず良い子だぜ?」
「見てりゃ分かる。…だからこそ、オレは情けない」
「なにがだ?」
「あの子は初め、自分を失敗作と呼んだ。つまり、親かそれに準ずる誰かにそう言われたって事だろう。それに、あの子はずっと敬語だ」
「それを言うならユイだって敬語だけど…」
「感覚だが、ユノウとユイちゃんの敬語はどこか本質が違う。ユイちゃんは、そうだな…癖みたいな感じがする。それにお前とアスナの事はパパ、ママ呼びだろ?」
「あぁ」
「それはまだ子供らしさがある。だけどユノウの敬語は聞いてて痛々しくなる事もある」
「痛々しくなるって、あの子の敬語で?」
「まるで大人を怒らせない様にしている感じがする。殺されない様に目上の相手を持ち上げて、顔色を窺う。前に1回だけ、ユノウが怯えた様な表情をした事があった」
「誰に対してだ?」
「ユウキだ。エネミーに襲われた時、ユウキが助けに入ってな。その時だ。武器を見た時、ユノウは酷く怯えた。初めて武器を見たとか、そういうレベルじゃない。本当に斬られた痛みを知っていたかの様な、そんな怯え方だった」
「そんな…」
今楽しそうにしているユノウの過去に何が有ったのか、シュユには全く分からない。だが少なくとも、ロクな過去でない事は分かる。故にシュユは憤怒する。そんな目に遭わせた者に、そしてその過去を察しながらも傷の癒し方すら解らない自分自身に。
「…なら、シュユ達が埋めてあげれば良いだろ?どんな過去が有ったのかなんて、そんな事は別に良い。大切なのは今で、これからだ。だから過去の痛みを受け止めて、その上で3人がユノウちゃんを愛してあげれば良いと、俺はそう思う」
そう言うキリトに、シュユは握り締めていた拳を解いて笑う。
「…良いこと言うねぇ。さて、そろそろ手伝わないとあの子達じゃ手が回らなくなる頃だ。行こうぜ、
「…冗談で終わらせないでくれよ。なぁ、
2人で見つめ合い、直後どちらからともなく噴き出す。軽く握った拳をぶつけ、家族が待つログハウスへと向かう2人。そんな2人を祝う様に、空は抜けるような晴天であった。