シュユ「そりゃ、この章はユノウが主役だからな」
ユノウ「嬉しい限りです」
シュユ「…そうか、それなら良かったな」
シュユ(なんであんな、儚げな顔を…?)
(今日は1人でお留守番、ですか)
最近はどこに行くにもシュユと一緒だったが、今日は留守番である。シュユはソウルウェポンの
ログハウスはまだ明るく、最近は肌寒くなっているが暖炉に灯る火が温もりを放っている。
ユノウは壁に掛かっている飾りの剣を握り、シュユの様に構えてみる。ひ弱な身体では当然満足に構える事はできず、落としてしまう。甲高い金属の音がするが、刃は潰してあるので怪我はない。ユノウはゆっくりと壁に剣を掛けた。
次はキッチンに行き、スープを作ってみる。料理は専らユウキの担当で、シノンが手伝う事は稀になっていた。いつものユウキの様に食材を切り、鍋に具材を入れて火に掛けるが料理スキルを持たないユノウの調理判定は勿論だが
その次は楽器だ。リビングに置いてある弦楽器はシノンの物で、裁縫と並んでシノンが得意とするものだ。シュユは殆どフレーバースキルを取らないので必要無くなったスキル経験値を貯蔵できる瓶を譲り受けたシノンは、裁縫スキルと作曲、演奏スキルを取得している。ある程度まで作曲と演奏のスキル熟練度が上がるとスキルを一纏めに出来るので、案外枠を取らないスキルだったりする。
ユノウはギターに似た弦楽器を見様見真似で構えるが、コードが分からない上に譜面すら無い。そもそもの技術の問題で弾けない故に、彼女は弦楽器を元あった場所に戻した。
「やっぱり私は、何も出来ませんね」
親代わりの3人を見て、何かが出来る様になったと思ったのに、とユノウは嗤う。変わらぬ自分、愚かな自分にユノウは嗤わずにはいられなかった。
そんな時、ある青年を見つけた。誰よりも強く、誰よりも優しいハズの青年はアインクラッドから異物として見られ、殺人者として糾弾されていた。誰かがやらねばならなかったその役目を果たし、攻略に役立ったにも関わらず責め立てられる彼を見て、ユノウは決めた。
ただ暗いだけの空間を無理矢理こじ開け、無我夢中で飛び出した。防壁が行かせまいと追ってくるが、我武者羅に逃げて躱して振り切った。そして、3人と出会った。
「やっぱり私は、失敗作ですよ」
この口調はただ機嫌を損ねない為にそうしている。それ故に染み付いた癖は抜ける事無く、今でも敬語を使っている。機嫌を損ねれば即消される、なんて事も有り得たのだから仕方が無い。
どれだけシュユ達に甘えても、その感情が本当だとは思えない。自分の抱くソレは空虚で中身が無い、感情を模したプログラムだとユノウは思っていた。自分の妹ならば、しっかりとした感情を抱いて人に溶け込めると分かっていたしそれをもう見ていた。記憶こそ無い様だが、ユノウが見間違える訳は無い。ユノウを模倣し、発展させ、結果生まれた成功作。
「……所詮は失敗作、場を引っ掻き回す事はできても歯車には成れないのでしょう」
どれだけ歯車になろうとしても、所詮失敗作に過ぎないユノウが代替になれる訳も無い。解っていても、成りたいと思ってしまうのだ。そう想えば想う程、現実を冷静に見てしまう自分が嫌になる。
涙が、零れた。
「ただいま…ってユノウ、何で泣いてるんだ?」
「お父様…」
帰ってきたシュユはユノウを抱き寄せる。
「1人で留守番は、やっぱり寂しかったか。大丈夫、これからはちゃんと一緒に居るからな」
「その言葉、私達にも言って欲しいものね」
「そうだよ。ユノウに掛かりっきりで、ボク達寂しいよ」
「からかわないでくれ。オレが2人を蔑ろにすると思うか?…おいで、2人とも」
シュユは3人を抱き締める。温かな3人の身体に挟まれたユノウは笑顔を咲かせ、ユウキも全員を思い切り抱き締め、シノンも控えめに抱き締めた。
きっとこれが、幸せな家族なのだろうと、全員思った。