ユノウ「これからも主役ですよ。そもそもSAOは――」
ユイ「あー!あー!作者さんの受け売りは大丈夫ですから、本編行きましょう!」
ユノウ「むぅ…それでは81話、楽しんで下さいね」
【鉄の古王】と名付けられたボスは凄まじく巨大で、しかも強大であった。その剛腕から繰り出される一撃は比喩抜きで地面を揺らし、口から吐き出される焔は空間を灼き、凄まじい熱波が身体を撫でる。
普通のゲームなら強制的な負けイベントなのか?と思ったかも知れない。だが生憎、このゲームは
鉄の大矢が古王の頭に直撃するが、減少した体力は微々たるものだ。通常のエネミーの頭に直撃しようものなら体力を消し飛ばすその大矢ですらその程度のダメージにしかならず、古王は刺さった矢を気にする事無く虚無の中を泳ぐ様に移動し、その剛腕を振り翳す。
「速っ…!頭おかしいでしょアレ…」
「気ぃ抜くなシノンッ!!下手すれば、いや下手しなくても当たれば死ぬぞ!!」
「それにしても、速すぎるんだよねッ!!」
AGIが高い3人でも躱す事が精一杯、下手に近付けば衝撃に足を掬われて転倒、次の攻撃を躱し切れずにゲームオーバーだろう。それを防ぐ為に余裕を持って回避するが、そうすると追撃が追い付かない。有効打はシノンの矢だけで、古王が居る虚無に足を踏み入れたのならきっと戻れはしまい。
「クソ、リズに怒られるから嫌なんだがなぁ!!」
翼竜の特大剣を両手持ちにして突き出す。刀身が真っ二つに折れるのと同時に衝撃波が古王に向けて飛んでいくが、まるで虫を払う様に振られた手に掻き消され、現時点で単発最強の火力が容易く突破される。
「ホントに効いてる雰囲気すら無いよ、シュユ!!」
「だが体力は減ってる!!どうにか削り切るか逃げられる様になるまで耐え抜くしか無いんだ、耐えてくれ!!」
「時間にしてあと10分…中々厳しいわね」
通常、ボス攻略時に徒歩で逃げる事は出来ない。出来てもボスと接敵してから15分経たねば出入口を塞ぐ霧は消えず、進入は出来ても退出が出来なくなる。普段通りの15分は早くとも、戦いに於いての15分は長い。長過ぎると言っても過言ではない。こんなギリギリの戦いで集中力を保つ事も難しい上に体力も保たない。
生き抜く為には形振り構わず戦うしかないが、それをすれば後ろで隠れているユノウを気遣いながら戦う事が出来なくなる。12のレベル差が生み出す暴力は伊達ではない。でなければ、アインクラッド内トップに名を連ねる3人が
振り下ろされた腕にシュユは落葉で刺突を織り交ぜた斬撃を繰り出すが、体力バーは頑として動かない。先端は純刺突属性であり刀身は純斬撃属性という、攻撃に偏重した性能の落葉ですらこのザマだ。ユウキの幻影剣を使っての連撃も殆どが堅い表皮に弾かれ、ただ火花を散らすだけだ。
「ユウキッ!!」
「なっ、シノン!?」
「っ、嘘だろ!?」
ユウキが掴まれそうになったその時、シノンがユウキを突き飛ばす。だがシノンは逃れる事が出来ず古王の巨大な手に掴まれ、シュユは
「ッづぅ…オオオオオォォォォォオ!!!」
ならば、と現実の脳に掛かる負荷を増大する事を許容して狩人の高揚を重ね掛けする。漂う白いオーラは増したが、その分シュユへの負担は凄まじい。傷跡を抉られる様な激痛に耐えながらの連撃は流石に効いたのか、シノンを手放す古王。しかし、シノンはまだしもシュユは既に動けない。あまりに大き過ぎた負荷のせいで
(クソ…詰みなのか?)
そう感じ、仮想の身体の背中に冷や汗が伝う感覚を覚えたその時、世界が揺れた。それは古王によって齎されたモノではなくシュユ達の背後、ユノウの居る場所から伝わってくる。
「父様と母様達に…手を出さないでッ!!」
燃え盛る蒼い炎剣。ソレを携えた
ユノウは浮かび上がり、剣を構えると突進する。遠ざける様に振られた剛腕をスレスレで回避するとその顔面に一撃見舞う。その剣は通り道にある総てを灼き払い、古王の顔面すら消し飛ばす。放たれた炎のブレスを刀身に隠れるように構える事でやり過ごすと、ユノウはその剣を古王の胸に突き刺し、トドメを刺したかを確認する間もなく墜落した。それをいち早く察していたユウキが受け止めるが、ユノウの顔色は悪く状態が不味い事は明らかだった。
「取り、敢えず…先に見える、
シュユはシノンの肩を借りて歩く。ユウキは先に進み、本当に安全地帯である事を確認するとアイテムストレージ内の柔らかい布類を全て取り出して地面に敷き、そこにユノウを横たえた。
「やっぱり…厳しいですね…」
「何が!?何をしたの、ユノウ!」
「カーディナル・システムに干渉して、上層で獲得出来る…最高クラスの武器を、無理矢理使ったんです…」
「そんな事が出来るお前は…」
「私はカウンセリングAI…に成れなかった失敗作、です」
「失敗、作…まさか、あなたの言っていた『親』って――」
「――カーディナル・システムそのもの…です。成功作…ユイなら、一撃で倒せたのに…」
それは衝撃の事実だった。シュユは薄っすらと気づいていたが、それでも衝撃だった。それでも関係ないと即断は出来るが、何より驚いたのはユイも人間ではなかった事だ。そしてソレをユノウが知っていた、その事実が残酷だと全員が感じた。
「臆病者の剣、【クラレント】…私に相応しい、魔剣の紛い物…きっとユイは、あの【レーヴァテイン】を、使って…」
「良いから、黙れ!!お前は失敗作なんかじゃない!オレは、オレ達には解ってる!ユノウはユノウ、失敗作なんかじゃないって事を!」
「…えへへ、やっぱり父様は優しいです…あったかくて、陽だまりみたいな人…」
「そんな遺言みたいな事言わないで!死ぬ訳じゃないのに!」
「……カーディナルに私の存在が…出来損ないの力が観測された以上、私は生き残れないんです…きっと、削除されてしまうから…」
現にユノウの声には時折ノイズが入り、目も虚ろになっていた。娘を消させまいとシノンとユウキは背後にある巨大なコンソール画面を弄くり回し、シュユはユノウを不安にさせない為に手を握っていた。その握り返す力も、今では微々たるものだ。
「…初めて父様を見た時、私は父様みたいになりたいと、そう…思ったんです。どれだけ後ろ指を、指されても…前に進める力と、自己犠牲を厭わない…そんな、人に…」
「オレはそんな高尚な人間じゃない!それにオレ達はお前に教えてない事だって沢山有るんだ!色んな知識も、
「やっぱり、名前から取ったんじゃ…無かったん、ですね。父様が…そんな、唐突な、名前にする訳が…無いと…」
「ユノウ、ユノウ!!」
どんどん身体は透けていき、もう残っているのは胴体と半ばまで消えている手足だけだった。既に言葉にする事も辛そうなユノウだが、それでも笑顔を浮かべている。対照的に3人は涙を浮かべ、ユウキとシノンは祈る様に起動すらしないコンソールを弄り、シュユはユノウの手を握り締めている。透明になりながらも、まだ存在する手の感触でユノウの存在を確かめている。
「ユウキ母様…私は、『良い』娘でありましたか…?」
「っ、当たり前だよ!!ユノウは良い子で、ボク達の娘はユノウだけなんだから、逝かないで!!」
「シノン母様、私…もっと楽器を、弾いてみたかった…で、す」
「だったらこれからずっと教えてあげる!!私が楽器を教えるのなんてあなただけなの、今までも、これからもっ!!」
「父様…ずっと、見ています…心の、奥底から、あなたを……」
「ユノ――!!!」
はらり、と身体が糸の様に解けた。先程まで腕の中に確かに在った筈の重みが一気に軽くなり、腕の中の温かみが少しだけ残り、消えた。もう目の前に『ユノウ』という少女は無く、腕の中には何も無い空虚な空間だけが在った。
「ァ、―――――――――!!!!!!!」
形容し難い怒声を上げ、シュユは怒り狂った。荒れ狂う殺意に抗う事無く、呆気なく狂気に手綱を手渡した。本来なら破壊出来ない
いつもなら止める2人も力無く床に座り込み、さっきまでユノウが居た場所を見ている。さっきまでユノウが居た布の上には、確かに子供が寝転がっていた様なシワがついていた。
「みんな、大丈夫――!?」
キリトとアスナが息を切らせて現れる。今の惨状を見て2人は驚き、誰かに理由を訊こうとした。
その時、シュユに悪魔が囁いた気がした。脳裏に浮かび、冷静ではない今だからこそ
「……お前が、お前のせいだ、キリトォォォォ!!!!」
シュユは、剣を抜いた。