2度目の命は2人の為に   作:魔王タピオカ

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 シュユ「そろそろ秋アニメの時期だな。結構秋アニメは豊作だから見るかも知れないな」

 ユウキ「それより、投稿が遅れた事でしょ?ずっとコンパスして、ソシャゲして…ホント、予定を守れないっていうかあの作者は…」

 シュユ「しかもフリープレイでGEが来ちゃったからな…少し、いやかなり投稿に間が空くと思うが、更新は続けるから見てくれると助かる」

 ユウキ「それじゃ82話、楽しんでね!」


82話 懐古

 「お前のっ、お前のせいで、ユノウはァァァァ!!」

 「シュユ君、落ち着いて…!」

 「黙れェェェェ!!!」

 

 銀閃が閃き、火花を散らす。アスナの声を遮って剣がぶつかり合い奏でる音すら、1人の男の怒声で掻き消されている。血を吐く様な絶叫は痛々しく、それでいて黒の剣士への憎悪が溢れていた。

 

 「お前がオレ達にこの依頼を持ち掛けなければ、こんな事にはならなかった!!ふざけるなっ、ふざけるな!!」

 「グッ、くぅっ…」

 「消えて逝ったユノウが、どんな苦悩を抱いてたかはオレにだって解らないッ!!だが、絶対に苦しくなかった訳が無いんだ!腹立たしい、オレも、お前も!!」

 

 反撃の為に振ったキリトの剣は容易く弾かれ、体勢を崩した所にシュユの蹴りが入る。腹部にモロに一撃を喰らったキリトはフィードバックに耐え、直ぐに前を見るがそこにシュユは居ない。こういう時のテンプレは上からの攻撃だが、敢えてキリトはここで跳んだ。シュユがそんな単純な事をする筈が無いと信じたからだ。その証拠に、さっきまで立っていた場所に斬撃が繰り出され、鋭く脚を薙いでいた。完全に殺しに来ている一閃に、キリトは戦慄した。

 だがシュユがそんな悠長な反応を許す訳が無く、キリトの胴体に投げナイフを投擲する。キリトとは違い【投擲】スキルを持っていないシュユだが、才能のお陰がスキル持ちと大差ない速度でナイフは飛来する。剣で弾く事はせず、身を翻して側転、ナイフは背後の壁に突き刺さった。そして構えようとした直後、キリトの横顔に膝蹴りが突き刺さった。

 

 「ゴガッ…!」

 「もう止めて、シュユ君!それ以上は私も止めなきゃいけないの!!」

 「なら止めてみろ!!少なくとも、オレは止まれないッ!!」

 

 既に狩人の高揚は解けており、アドレナリンが切れた事により襲い来る反動にシュユは苛まれている。その筈が動きが遅くなる事は無く、むしろ加速し続けていた。アスナが介入しても変わる事無く、シュユはアスナとキリトに向かって果敢に攻めつつ、それでも被弾する事無く立ち回っていた。

 

 「私達もユイを失ったよ!!でもキリト君がどうにかしてくれた。だから、ユノウちゃんも――」

 「――無理だ。無理なんだ、アスナ」

 

 キリトがユイを救えたのは飽くまでも近くに使えるGMコンソールが存在し、間一髪でユイのサルベージが完了したからだ。だがユノウはそうではない。既にGMコンソールは破壊されており(破壊したのはシュユだが、元から使えなかった)、しかも既にユノウの姿は見えない。これではサルベージはおろか、そもそもの前提であるカーディナルへの干渉が行えない。これでは幾らキリトでも助けられない。元々、カーディナル・システムは稀代の大天才茅場晶彦が造り出した世界最高クラスのコンピューター。ソレに少しばかり機械に詳しい高校生が真っ向から立ち向かえる訳が無い。

 だが、シュユ達はキリト達を責められる事が出来るのは確かなのだ。この依頼はキリトが依頼したもの。つまり、キリト達がこの事を依頼しなければユノウは生きていた。それでもシュユ達の腕前不足でユノウがクラレントを使わざるを得なくなったのは確かな事実で、結局は誰も悪くはないし悪いと言える。それが解っていてもシュユは、今この時だけでも相棒(キリト)に憎悪を抱かなければならなかった。

 

 「つ、強い…!」

 「…解ってはいるんだ。本当に悪いのは、このクソッタレなゲームなんだって。だがな――」

 

 シュユは現実なら歯が削れる程強く歯軋りし、爪が掌に食い込む程強く手を握り締め、言った。

 

 「――そんな理屈で納得出来る程、オレは強くも器用でもない…!!」

 「…っ!」

 

 その言葉に、キリトは既視感を覚えた。シュユが以前そういう事を言った訳ではなく、そんな心境で戦った事がキリトには有ったから。違うと解っているのに、馬鹿らしいと知っているのに戦った。だが、自分が傷付かない様に悪役として戦い、止めてくれたのは誰だ?

 シュユだ。

 

 「…そうだ、ユノウちゃんが死んだのは俺のせいだ」

 「キリト君!?」

 「来いよ、シュユ。お前の娘の仇は、ここに居る」

 「行くぞ、キリトォォォォ!!」

 「来い、シュユゥゥゥゥゥ!!!」

 

 裂帛の気合いと共に放たれるのは長剣での一撃――ではなく、短剣の投擲。馬鹿正直に突っ込んでくるとは毛頭思っていなかったキリトは難無く短剣を躱し、【ダークリパルサー】を袈裟掛けに振るう。その剣は身を捻ったシュユのコートを掠めるだけで終わるが、初めてシュユが表情を変える。憤怒の表情には変わりないが、100%の怒りからほんの少しだけ安心が混ざった様な、そんな表情を浮かべた。

 シュユはフリーになった左手を引き戻す。すると、短剣の柄に括り付けられた糸が反動で短剣を引き戻し、左手に再び短剣が収まった。そのまま斬り掛かるがキリトは2本の剣を交差させて防御、そこから勢いを解放する様に剣を跳ね上げてシュユを崩し(パリィし)た。

 打ち上げられる身体。決定的な隙だが、そんな事は既に予測していた。キリトの剣はどちらも重量片手剣、つまり装備して十全に扱うには高いSTRが必要になる。対してシュユが扱うのはDEXが主になるカタナや軽量片手剣であり、力負けするのは最初から判っていた。だからシュユは敢えて抵抗せず、後ろに倒れ込んで弦月を使ってキリトの顎を掠める様に蹴りを放つ。脳震盪を狙った一撃は上体を反らす事で回避したキリトは蹴りをシュユの背中に見舞った。

 背中にマトモに蹴りを喰らったシュユは飛ばされ、壁に叩き付けられそうになるが空中で立て直し、壁を蹴って加速する。その横合いから差し込まれた一閃はアスナのものだ。しかし、その剣閃は1本の重量片手剣に阻まれた。

 

 「…私だってね、何も感じない訳じゃないの。たまには、私も発散させて貰うわよ!!」

 

 直後、アスナに向けて放射状に放たれる5本の矢。アスナは最低限の、中心の1本だけを叩き落としてシノンに肉薄する。シノンも弓から剣に変形させると応戦し、激闘を繰り広げていく。

 アスナの横槍で加速を殺されたシュユだが、次は【歩法】のソードスキルを絡めた変則的なステップで接近。落葉で斬り掛かる、と見せ掛けて剣を手放し、ストレージから実体化させた大鎌で一閃。キリトの腹部に紅い線を薄く刻む。だがそれでは終わらず、勢いで1回転して横薙ぎの一撃を更に繰り出すが躱される。が、むしろ躱される事を前提に攻撃していたシュユは冷静に大鎌の刃を取り外して片手剣にすると、大鎌の柄を投げ付けた。飛来する長大な柄をキリトはエリュシデータで弾くと構える。

 ダークリパルサーは背中の鞘に入れ、エリュシデータが紫紺の煌めきを放っていく。通常なら届かない距離も、このソードスキルならば届く。シュユも片手剣にした葬送の刃を同じく構え、チャージを開始する。シノンとアスナが奏でる剣戟の音が遠ざかり、世界の全てを身体で感じている様な錯覚に見舞われる。見えるのはエリュシデータの切っ先と、その向こうのキリトの真剣な表情。殺意こそ含まれてはいないが、ソレに似た闘気は余すところ無くシュユに向けられている。

 一際大きな金属音が響いた瞬間、ジェットエンジンの様な甲高い音を立てながら2本の剣が交差する。切っ先同士がぶつかり合い、ギチギチと音を立てる。拮抗する力は武器の耐久度を削っていく。葬送の刃は折れないとは言え、耐久度が0になればその辺りの鈍らと大して変わりらない。早期決着を望むシュユは、更に踏み込んで力を入れた――

 

 「――ッ!?」

 

 筈だった。だがシュユは体勢を崩し、前に倒れ込んでいた。腹部に違和感を感じ、そこを見れば鳩尾に突き刺さるキリトの拳が。軋む身体に鞭を打って後ろを見れば、壁に弾かれて転がっているエリュシデータが有った。

 つまりこれは、昔の再現なのだ。サチが死んで自暴自棄になり、怒りを撒き散らしていたキリトを止めたのはシュユだ。そして今はユノウを目の前で失ったシュユが暴れ、それをキリトが止めている。立場も強さも違えど、決着はあの時と同じ、拳を鳩尾に叩き込んで意識を刈り取る結末だ。

 前のキリトには剣を戦いの最中手放す事など選ぶ訳が無かった。()()()()()手放した。対エネミーならまだしも、対人戦に於いてアインクラッドでシュユの右に出る者は居ない。故にシュユの予測を超えねばならなかった。そうでもしなければ、止められないのだから。

 自らの進む勢いとキリトの勢いが加算された拳はシュユの鳩尾に突き刺さり、シュユの体力の1割強を持っていく。薄れゆく意識の中、シュユはただこう思った。

 

 ――すまない、ありがとう。

 

 と。ただ、浮かぶのはそれだけだった。


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