2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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 次話、SAO編最終話です。


87話 決着

 ここしかない。そう思ったキリトは二刀流最上位ソードスキル【ジ・イクリプス】を発動する。目の前の空間全てを斬り裂く様な27連撃。本来ならばSAO最高のDPS(秒間ダメージ)を誇るその技は、ヒースクリフの大盾に全て阻まれる。

 

 「オオオオオォォォォォォォォ!!!」

 

 届け、届け!!その念を剣に込め、放った渾身の突きは甲高い金属音を響かせ、無慈悲に防がれる。そして、彼の眼には翡翠の輝きが映った。

 

 「え……」

 

 その翡翠の輝きはダークリパルサーと全く同一の輝きだった。それの欠片が空中を舞い、地面に落ちた。解ってはいるが、認めたくなかった。何故ならダークリパルサーは彼の半身にして切り札の片割れ。ダークリパルサーが無ければ、キリトはただ腕が立つ黒ずくめの服装の剣士(ソードマン)に成り下がってしまうのだから。

 だが現実は残酷だ。折れてしまったのだ、彼の半身は。ダークリパルサーは、リズベットの祈りは、ヒースクリフ(絶対者)には届かなかったのだ。

 

 「……ここまでか。殺さないというのは詭弁だよ、キリト君。まさかここまでやれるとは思っていなかったが、もう終わりだ」

 「クッ…」

 「――さらばだ、キリト君」

 

 今までの連撃の威力が蓄積され、紅く輝く刀身がキリトの身体に迫る。シュユの様にVITに1ポイントも振り分けていない訳ではないが、攻略組の最前線を張るキリトの殺意が籠もった連撃を全て受け切ったカウンターだ。当たれば死亡する事は免れないだろう。

 

 「――キリト君っ!!!」

 

 だが、それを許さない者が居た。白い装備が視界を埋め尽くし、この仮想世界で親しんだ温もりと確かな重みがキリトの身体を包む。ソレ越しの衝撃は鈍く、だがキリトのHPには何の影響を及ぼさず、全てを受け切った。

 だが、視界の端の体力バーは凄まじい速度で左に寄っていく。だがそれはキリトではない。最愛のヒト、護りたいと願った女性――アスナの体力だ。

 

 「ア、スナ……?」

 「ごめ…キリト、くん――」

 

 アスナはキリトの手に自分の愛剣【ランペンドライト】を握らせると、たった一言口にする。彼女の願い、いつも無理をする彼に向けた言葉を。

 

 「――生きて」

 

 回復アイテムは、間に合わなかった。腕の中のアスナがポリゴンへと変わり、霧散する。軽くなった腕の中に彼女の痕跡は僅かな温もりと持たされたランペンドライトだけだった。

 

 「………」

 

 ユラリ、と幽鬼の様に立ち上がるキリト。カン、カンと力無くヒースクリフの盾にランペンドライトを叩き付ける音が響く。ヒースクリフは目を伏せ、軽く大盾を払ってキリトをパリィする。

 

 「もう良い、休み給え。彼女の所には私が送ろう」

 

 とても自然に突き出された剣が、キリトの心臓を貫く。凄まじい勢いで体力バーは減少し、瞬く間に左端に到達する。目の前に現れる『You Are Died』の文。それを見てキリトは先に逝ったアスナへの謝罪を考える。そんな時だった。

 

 「っ、ガアアアアァァァァァァァア!!!!」

 

 獣の咆哮の様な叫び。それを発したのはシュユだった。彼が持つのは銀色の短刀と鈍色の大剣。それはユウキとシノンの物で、何故シュユが持っているのか解らないキリトではなかった。何故なら、2人の姿はここになかったからだ。

 シュユの痛覚遮断機能はイカれ、アバターの痛覚がダイレクトに脳に伝わる事をキリトは知っている。だからこそ奮起する。

 

 ――文字通り死ぬ程痛い思いをするアイツが踏ん張ってる。なら、俺も踏ん張らなくてどうする!?

 今ならヤツは油断している。殺れる。だから動け!後少し、命のロスタイムを使い切れ!!

 

 「う、アアアアアアァァァァァァ!!!!」

 

 その想いが通じたのか、キリトの身体を構成していた無数のポリゴンが少しだけ寄り集まり、半透明のキリトの身体を構成し直す。未だに握っていたアスナの魂(ランペンドライト)を突き出す。普通では考えられない、死後一瞬の復活。それを見たヒースクリフは口角を上げ、その刃を受けたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今まで戦った敵の中でも最高峰だ。そうシュユは実感し、それが自分達の模倣だと実感して更に怒りを募らせる。

 流血鴉とシュユが使用する骨片は【古狩人の遺骨】と言い、シュユと死闘を繰り広げた【時計塔のマリア】の遺骨だ。その能力はマリア達古狩人と呼ばれる狩人達独特の【加速】という(わざ)、それを一時的に再現できるというもの。その効果時間中はステップなどの短距離を素早く移動する時に霧に隠れる様な消え方の高速移動を可能にする。

 だが、流血鴉のソレはヒースクリフが勝手にシュユ達を解析して完璧に模倣した偽物だ。シュユの骨片はマリアを殺して受け継いだ、正当なもの。それを模倣されるのはまだ許せたかも知れない。だが、それを模倣された事でマリアの生き様が愚弄された、そんな気がしたのだ。

 

 「チッ…!」

 

 ナイフを投げる。返ってきたのはナイフよりも格段に速い銃弾だ。速度が上がったステップの前では問題無いが、怖いのは流れ弾だ。シノンの弓矢にはヘッドショット判定がある。それなら流血鴉の銃弾にも判定があると見て良いだろう。

 頑丈さだけを強化したクレイモアを振りかぶるが、容易く躱される。回避先を先読みして剣を振るうがそれは千景に受け止められ、弾かれると流血鴉は鞘にカタナを納めてから抜刀し振り抜く。

 当たれば死ぬ。元は自分が使っていたカタナだ、異様なまでに攻撃に寄っている千景の性能を知らない訳が無い。クレイモアを地面に突き立てて防ごうとするが、クレイモアの刀身に千景の刃がめり込んだ事を確認すると即座に飛び退く。直後、クレイモアは真っ二つに分かれてポリゴンとなる。

 分かってはいたが、敵に回ると非常に厄介な武器である。

 

 「そぉらぁ!!」

 「………」

 「クソ、軽々躱してくれるな!!」

 

 地面に転がしていた【仕込み杖】を踏んで跳ね上げてキャッチすると、変形したままの刃を振るう。蛇蝎の刃はうねった軌道を描いて流血鴉へと向かうが、中心部のワイヤーを斬られた仕込み杖はバラけてしまい、もう使い物にはならないだろう。

 ならば、と取り出したのは【獣肉断ち】だ。大剣と同程度の重さを持つ獣肉断ちも仕込み杖と同じく鞭剣となる。その重さ故に振る速度は仕込み杖に劣るものの、威力と範囲は折り紙付きだ。

 当たる。そう思った瞬間、シュユの予想だにしなかった展開が訪れる。流血鴉は自分の身体を鞭剣が当たる事を厭わずに、前方へとステップしたのだ。咄嗟に獣肉断ちを手放して落葉を握り、前方にクロスして迫る千景を受け止める。だがシュユはここでらしくもないミスを犯した。犯してしまった。流血鴉は先程から刀身に血液を纏わせたまま、1度も解除していない。つまり、シュユは――

 

 「なっ……!?」

 

 ――シュユの持つ落葉は、半ばから絶ち斬られた。どうにか身を躱して千景を回避するが、続けざまに撃ち込まれた銃弾は躱せない。大きく怯んだシュユに、流血鴉の鋭い手刀が迫る。

 

 「っ、シュユっ!!」

 

 飛び出してきたのはユウキだ。近くには空の【女神の祝福】が落ちている。準ユニークアイテムのソレは体力を全快し状態異常も全て治す。それをどうにかして飲み、ユウキはシュユに抱き着く様に飛び出したのだ。背後からは矢が飛来し、流血鴉の肩に突き刺さる。だが怯む事無く手刀を突き出し、その手刀は確かに突き刺さった。

 

 「――ユウキ…?」

 

 ユウキの身体に、だ。シュユがいつも使う攻撃の様に、流血鴉は体内から相手の身体を引き裂く。ユウキの腹部からは紅いダメージエフェクトが飛び散り、体力は直ぐ様左端に辿り着く。

 

 「シュユ、だいじょうぶ…ボクは、キミを、信じて――」

 

 そう言って砕け散るユウキ。腕の中に遺されたのは銀の短刀、【慈悲の刃】だ。まだ戦いは終わっていない、解っているシュユは流血鴉を見やり、そして驚愕する。

 

 「ァ…カハッ…」

 

 シノンの首根っこを流血鴉が掴み、持ち上げている。それもそうだ。シノンは本来槍で、現在は弓剣だがある程度距離を取って戦うスタイルだ。それが生粋のインファイターであるシュユ、そしてヤーナムの要素を抽出して取り込んだ流血鴉に敵う訳が無い。

 

 「止めろ、シノンを――」

 

 離せ。そう言って駆け出す寸前、流血鴉のカタナがシノンの心臓を穿く。いつの間にか血液を振り払ったのだろう、銀色の刃がシノンの背中から生えている。流血鴉はトドメを確信したのだろう、千景を振り払ってシノンの身体を雑に放り投げた。

 

 「シノン、待ってろ。今助ける、死ぬな!」

 「……信じてる。先に…ユウキと、待ってるから――」

 

 また、護れなかった。シノンの使っていた【シモンの弓剣】と数種類の矢がシュユのアイテムストレージに収納される。

 想像できない程の怒りと殺意と哀しみと喪失感が頭の中に渦巻き、その感情に全てを委ねたくなる。叫び声を上げて流血鴉を殺し、その遺体をグチャグチャに蹂躙し尽くしたい。だが、2人は何と言い残した?

 

 『信じてる』

 

 その言葉を忘れてはならない。今のシュユを人に繋ぎ止める楔であり、無くせば獣に堕ちるのだから。

 信じられた。それならばゲームをクリアして、2人にまた逢おう。次は現実で。だからこそ、シュユは立ち上がる。折れた落葉の代わりに慈悲の刃とシモンの弓剣を握り、【狩人の高揚(ハンターズ・ハイ)】を発動させる。

 

 「……往くぞ」

 

 古き狩人の遺骨の効果で加速した不可視のステップ。右手に握る弓剣を逆袈裟に振り上げるが躱される。その程度、既に読んでいる。左手の慈悲の刃が風切り音と共に突き出され、流血鴉のマントを貫く。一瞬鈍った動きの隙に差し込む様に弓剣を突き出す。流血鴉は千景の腹に弓剣の切っ先を当てて防ぐ。

 少し吹っ飛ばされる流血鴉に向け、シュユは先程よりも多い本数の投げナイフを投げ付ける。自分に当たる軌道のナイフを斬り捨てるが、それは悪手だ。斬り捨てたナイフから爆炎が上がり、鴉羽のマントに火が燃え移る。以前使った【時限爆発瓶】と投げナイフを改造して合成した物だ。

 一瞬の怯み、シュユはそれを見逃さない。シノン謹製の撃つと拡散する矢を放つ。流血鴉の身体に3本の矢が刺さる。好機と見たシュユは立て続けに拡散矢を放つが、流石に躱される…そう思った矢先、矢ではない何かが流血鴉の胴体に突き刺さる。

 

 「効くだろう、ユウキの剣は」

 

 慈悲の刃は変形すると二刀となる。その片割れを決め打ちで回避先に放ったのだ。結果論になるが、それが功を奏して流血鴉の体力をごっそり減らす事に成功する。

 彼に苛立つという感情が有るのかは不明だが、一気に距離を詰めてくる流血鴉。慈悲の刃の片割れと弓剣で応戦するが、超速で放たれる斬撃に対応しきれない。あまりの衝撃に左手が痺れて慈悲の刃を取り落とし、両手で弓剣を握る。

 

 「クッ、喰らえッ!!」

 

 悔し紛れの一撃。大振りなその一撃はガラ空きの胴体に銃弾をブチ込まれ、大きく体勢を崩してしまう。ここから後ろに跳んでも即座に距離を詰められて終わりだろう。詰みだ、流血鴉の手刀がシュユに迫り――

 

 「――油断大敵だ、クソ野郎」

 

 雷鳴の様な轟音が鳴り響いた。流血鴉の体勢も大きく崩れ、少しだけ立て直したシュユはほぼ同時に手刀を突き刺し合う。

 そのシュユの左手には紅く長い銃が、【エヴェリン】が在った。奇しくもここで、共闘をしなかった3人の狩人の武器が揃っていた。

 

 「っ、ガアアアアァァァァァァァア!!!!」

 

 自らの身体が引き裂かれる感覚と相手の身体を引き裂く感覚、そのどちらも味わいながら最期の一撃を放つ。ブチ撒けられるダメージエフェクトの中に見えるのは敵の体力バー。既に左端に辿り着き、その身体をポリゴンへと還している所だ。

 キリトの方を見ると、ヒースクリフとキリトが戦っていた場所には2人の武器が落ちていて、その戦いの結果は簡単に察する事ができた。

 

 ――あの2人が居ないんだ、生きる理由も特に無い。けど…やったんだな、オレ達。

 

 どこか空虚でありながら満ち足りた様な、そんな今まで経験した事の無い感覚と共に意識が落ちていく。シュユの体力も既に0であり、目の前には『You Are Died』のウィンドウが出現する。

 

 ――頑張ったよ、2人とも。どんな結末か、キミ達は知らないだろ?だからオレが伝えるんだ。あと、キリトの戦いの結末も知りたいな。

 

 ――だけど、ごめん。少し、いやかなり疲れた。だから、少しだけ眠るよ。起きたら沢山、そりゃあもう沢山話そう。約束、だ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2024年、11月7日を以て

 ソードアート・オンライン、攻略完了

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