2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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 今回からは長くなりますよ。あと、ペースは落ちますね、多分。その分1章より長くはなります。それで許して下さい。


2章 The reality of the virtual world
7話 GAME START


 待ちに待ったSAOの発売日。悠達はその日の為に両親と交わしたテストで上位を取る、という約束を果たし、なんと午前で学校を早退した。帰るとリビングのテーブルには丁寧に包装されたソフトが置かれていた。

 木綿季はそれに飛び付く様に走り、悠と詩乃にも渡してから丁寧に包装を剥がす。

 

 「やったぁ!2人とも、早く着替えてやろうよ!」

 「あんなにはしゃいで...確かに楽しかったけど、あそこまでハマるとはね」

 「何だかんだ、勉強時間が多かったのも順位が一番高かったのは木綿季だ。それだけ楽しみだったんだろ」

 「悠、詩乃、早く~!」

 「っと、お嬢様がお待ちだな、詩乃。オレ達も早く着替えてSAOと洒落こもうぜ」

 「えぇ、そうね。.....木綿季がお嬢様、ね。私だって、あなたに...

 

 詩乃が僅かに漏らした不満には気付かず、彼は階段を上がって部屋に入る。ドアは開けっ放しで、女子の制服が散らばっていた。悠は苦笑して制服を拾うと畳み、木綿季のスペースに入るとそっと制服を置く。早着替えが得意な木綿季は着替え中に鉢合わせ、という展開にはならない為に採った行動で、これが詩乃ならやらないだろう。まぁ、詩乃は制服を散らかさないのだが。

 悠も部屋着に着替え、ナーヴギアを装着する。詩乃も着替え終わり、ナーヴギアを着けたと言ったので彼等はバラバラに仮想現実へとダイブした。これから、彼等の現実へと成り得る世界へと....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やっぱ、βテスト経験者特典は有ったか」

 「そうは言っても、外見のカスタムアイテムだけどね」

 「レベルはリセットかぁ...でも、狩り場は同じだよね。行こう!」

 

 【はじまりの街】から出たシュユ達は自分達が見付けた狩り場へと急ぐ。が、シュユは何か違和感を感じていた。βテストとは違う、嫌な予感を。彼の嫌な予感は基本当たらない。というより感じない。しかし、ユウキとシノンが絡む事に関する予感の的中率は確実に当たる。彼はユウキの襟首を掴み、思い切り引き戻した。

 

 「――!?ちょ、ちょっとシュユ...ビックリするじゃん」

 「()().....このゲームは、何かがおかしい....!」

 「え?でも地形は変わってないし、何も――」

 「危ないッ!!」

 

 平原には疎らながら木が生えている。勿論、道の近くにも木は生えている。その道に近い木の陰から、この階層では現れない筈の亡者――つまりアンデッド系統のMOBがシノンの頭に手斧(ハンドアックス)を振り下ろす。

 それを確認したシュユは右手の片手剣を手斧に叩き付ける。偶々パリィが成功したのか、よろめく亡者兵の頭にシュユは兜割りの様な縦斬りを叩き込む。体力バーが消失し、ポリゴン片となって消える亡者兵を呆然と眺め、シノンが呟く。

 

 「βテストと...違う?」

 「地形は変わってないし、敵のポップする場所が変わっただけかも知れない。第一、βテストと製品版が違うってのは珍しくは無いからな」

 「シュユ、ちょっと不味いよ....敵が集まって来てる」

 「....亡者兵か。槍は盾で防がれやすいし、この数に対応するのはな...しょうがない、火炎瓶を使う!」

 

 左手でアイテムウィンドウを操作、ウィンドウを閉じて虚空から現れた火炎瓶を握ると10体は居るであろう亡者兵の集団に投げ付ける。アンデッド系統、特にゾンビ系に位置する敵には火が有効なのはβテストの時に学んだ。変更されていないかと一瞬肝を冷やすが、そんな事は無く燃える。体力バーが無くなり、亡者兵はポリゴン片になって消えた。

 経験値が一定の値を越え、レベルが上がる。上げようとしたが、まだ自分のキャラ構成に扱う武器を決めていない状態でパラメーターを振るのは駄目だ、と思い留まり彼はウィンドウを閉じる。後ろの2人を見れば、腰が抜けている様だ。

 

 「どうした?」

 「ログアウトボタンが....無いの」

 「サーバーのトラブルかしら。初日だから、仕方無いのかも知れないけど」

 「....それはおかしいな。この完全(フル)ダイブの安全には細心の注意を払ったって父さんが言ってた。それが、よりにもよってログアウトの不具合?ボタンが反応しないとか、それぐらいなら有り得るかも知れないけど、ログアウトの項目すら無いとなると何か作為的なものを感じる」

 「じゃあ、それって――っ、強制転移!?」

 「2人とも手を伸ばせ!」

 

 シュユは2人と手を繋ぎ、強制転移に備える。ゲームでは良くある罠で、大抵こういう罠の行き先は決まっているからだ。敵の巣窟(モンスターハウス)罠部屋(トラップルーム)、他にもあるがその殆どがプレイヤーに害を成すものだ。ログアウトが出来ない以上、どんなバグや不具合があるか分からない今、分断だけは避けねばならないからだ。

 だが、その懸念は外れる事になる。転移させられたのはログインした時に見た広場、つまりは【はじまりの街】の中央広場だったからだ。周囲を見回せば、他にもプレイヤーが転移してきている。

 

 「...ユウキ、シノン」

 「どうしたの、シュユ?」

 「出口の辺りに逃げよう。だけど、壁からは離れた位置に」

 「え、どうして?中央に居た方がイベントだった時に有利なんじゃ...」

 「初回購入のプロダクトコードとかなら兎も角、プレゼント系のイベントで強制転移は無いだろ。ネームドとかを狩ってた奴等が不満を漏らすだろうし、何より告知を見られない後続に不利すぎる」

 「となると、何かロクでもない事って事ね。分かった、シュユに従うわ」

 

 もしこれがプレゼントイベントなら、素直に頭を下げる。だが、シュユの頭は警鐘を鳴らし続けていた。自らの事には全く反応しないシュユの警鐘はユウキとシノンの事には敏感だ。だから彼は自分を信じ、また、彼女達は彼を信じた。壁に近付かないのは壁が破壊されるイベントならば被害を真っ先に被るからだ。中央に行かないのもその通りだが、出口から遠ざかってしまっては脱出が難しい。故に中央と出口の延長線上に位置取った。

 空が赤い警告のウィンドウで埋まり、空は紅く染まり粘性の液体がフードを被った男を形作る。

 

 『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 

 男が大仰な身振りで話し始める。そして「私の世界」という言葉で男がゲームマスター、茅場晶彦である事を確信する。

 

 『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 「SAOの開発者、だよね。コントロールって事はつまり、ゲームマスターってこと....?」

 『プレイヤーの諸君は既に、メインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気付いているだろう。...しかし、これはゲームの不具合ではない』

 「不具合ではない....?まさか、仕様だと言うの?」

 

 シノンの言葉に応える様に茅場は言う。

 

 『繰り返す、これは不具合ではなく、ソードアート・オンラインの本来の仕様である』

 「なに...?」

 『諸君は自発的にログアウトする事は出来ない。また、外部の人間の手によるナーヴギアの停止、或いは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 「高出力....?シュユ、どういうこと?」

 「...電子レンジと同じだ。電子レンジは液体を加熱すると膨張して破裂する。つまり、卵を電子レンジに入れてスイッチを押した時と同じ....脳が破裂する...!」

 『残念ながら、現時点でプレイヤーの家族、友人が警告を無視し、ナーヴギアを強制的に解除しようと試みた例が少なからず有り、213名のプレイヤーがアインクラッド及び、現実世界からも永久退場している』

 

 その言葉が終わった直後、シノンの隣に居た男性がポリゴン片となって消える。動揺する様に設定されたNPCと言えばそれで終わりだが、死ぬ要因の筋が通っている以上、本当に死んだと思ってしまう。

 まだ茅場は何かを喋っているが、シュユの意識からはシャットアウトされた。ユウキとシノンの目を塞ぐ事に精一杯だったのだ。何故なら、男の周囲に漂う現実世界のニュースの中に、彼等の写真が有ったのだから。見出しは【ナーヴギアによる被害者】、つまりこれが現実である事を示していた。が、成されるがままの2人ではない。呆けるシュユの指をずらして空を見ると、力が抜ける。ぺたんと座ってしまいそうになる身体を、シュユの腕を掴んで耐える。

 

 『しかし、充分に留意して貰いたい。今後、ゲームに於いてあらゆる蘇生手段は機能しない。HP(ヒットポイント)が0になった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に――』

 

 聴きたくはなかった。だが、聴かねばならない。最後通告を。この場に居る全員が聴かねばならないのだ。

 

 『――諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』

 

 シュユは思った。このゲームの難度についてだ。

 

 (βテストの時より難度が跳ね上がってるのに、正気か?出待ちに不意打ち、多勢に無勢もやってくる癖に、コンティニュー無しのデスゲーム?MMORPGである以上、生産職になれば生活は出来るとは言え、どうせこういうパターンの解放条件はゲームのクリア。攻略する人が居なければ脱出は有り得ない...!)

 『諸君らが解放される条件はただ1つ。このゲームをクリアすれば良い』

 「アインクラッドは確か、100層にラスボスがいるんだよね、シノン」

 「えぇ。この場所は第1層、つまり――」

 「100層まで上がらなきゃ、クリアは不可能....か」

 

 シュユ達が上がれた階層数は8階層。それ以外にはもう1人しか居なかった。つまり、現時点での到達している階層は8階層。しかし、βテストよりも難易度が跳ね上がっている今、MOBが強化されている以上フロアボスは更に強化されている筈だ。以前と同じように攻略出来るとは限らない。

 

 『それでは最後に、諸君のアイテムストレージに私からのプレゼントを用意してある。確認してくれたまえ』

 

 ウインドウを開き、アイテムストレージの項目をタップする。そこには【手鏡】というアイテムが確かに入っていた。周囲のプレイヤーは半信半疑で眺めてから使用する人が多い中、シュユはフレーバーテキストを読んでいた。フレーバーテキストには有用な情報が記載してある事も少なくないからだ。

 

 《仮想世界を現実世界に置き換える為のアイテム。これを使用すればプレイヤーはこの世界を現実とし、死ぬか脱出するまでこの世界で生きる事となる。それがもたらすモノが救済なのか絶望なのか、それは鏡に映るとは限らないものなのだ》

 

 読んでも想像がつかない。シュユは諦めて使用のボタンをタップする。彼が使用した事でユウキとシノンも手鏡を使う。すると、手鏡が掌に現れ、シュユのアバターを鏡面に映す。その姿を見た直後、シュユも含め、手鏡を使用した全員の身体が身体が眩い光に包まれ、直後に光が収まった。

 

 「...ねぇユウキ、その姿....どうして――」

 「シノンこそ、しかもシュユまで、どうして――」

 「「――現実(リアル)の姿になってるの?」」

 

 握っている手鏡を見る。目付きの悪い三白眼、不機嫌そうな顔、癖っ毛を抑える為のオールバック染みた髪型。10数年も見た、自分の顔だ。ユウキは髪が短くなり、シノンも髪の色が元に戻っている。

 

 「キャリブレーションに、ナーヴギアの高出力マイクロウェーブで身体をトレースしたのか...?」

 「でもどうして?」

 「現実世界と変わりなくする為でしょ。この世界は仮想であって現実、そんな感じの事がテキストに載ってたわ。違う?」

 「その通りだ。...でも、直ぐに答えてくれるさ。ゲームマスター直々に、な」

 

 ざわめく群衆を尻目に、茅場は再び語り出す。

 

 『諸君らは今、何故と思っているだろう。何故、ソードアート・オンライン及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんな事をしたのか、と。私の目的は既に達せられている。この世界を創り、干渉する為にのみ私はソードアート・オンラインを作った。そして今、私の目的は達成せしめられた。...以上で、ソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君、健闘を祈る』

 

 その言葉を最後に、ウィンドウと粘性の液体で作られた茅場の身体は崩れ、空は元の黄昏に戻る。出口から出られる様になった今、ここに居る理由は無い。彼等は走り出し、街の出口に辿り着く。

 

 「ねぇシュユ、どうするの!?」

 「ここに居ても仕方無い、次の村へ行って雑魚を狩ってレベリングだ。フロアボスの攻略は積極的なプレイヤーに任せて、オレ達はβテスト時のレベルくらいに上げよう」

 「マージンは大きく取るのね?」

 「あぁ、そうだ。1度死んだらそれっきり。臆病になってなんぼだからな」

 「分かったわ。行きましょう、他のβテスターも同じ事を考えないとも限らないし」

 

 βテスターの3人は次の村へ向けて走り出す。他のプレイヤーの事は構わない。助けの手を差し伸べるテスターも居るのかも知れないが、序盤の今にそんな余裕は無い。彼等は走り、斬り、突き、投げ、戦う。ただ【今】を生き抜く為に。




 申し訳程度のダクソ要素は入れました。まだ序盤だからね、仕方無いね♂
 因みにシュユ(悠)の外見は戦場のヴァルキュリア4のラズです。バンダナは巻いてませんが。
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