2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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88話 泡沫の夢

 目を開ければ、2年間もの間過ごした黒鉄の城(アインクラッド)が崩落する景色が眼に映った。無音ではあるが、下層の方からガラガラと崩れていくソレに哀しさを覚えない訳ではない。むしろ愛着が湧いていた事にシュユは苦笑した。クソッタレなデスゲームでも自分達は確かに生きていたのだと、改めて実感する。

 

 「全く君は、好き放題にゲームを引っ掻き回してくれたね」

 「……茅場晶彦」

 「本来では有り得ないユニークスキルの取得に武器の獲得、まだまだ有るが…君は本当に『イレギュラー』だった」

 「人の思い通りになるのはあんまり好きじゃなくてな」

 「まぁ、初めは目障りだった。だが途中から楽しくなっている私も居た。だからこそ言わせて貰うよ、シュユ君」

 

 背後に居るのはSAOの開発者、茅場晶彦なのだろう。だが、シュユは決して振り向かない。シュユにとっての茅場晶彦は仲間を失う原因である敵だ。でもその大切な仲間と出逢うにはSAOが無ければ出逢えなかった。仇には変わりない故に顔を見れば殴り掛かる自信がシュユにはある。だからこそ、感謝の一片を抱いている自覚が有るからこそ、シュユは彼の顔を見ないのだ。

 

 「ゲームクリア、おめでとう」

 「……攻略の途中で、何人も死んだ。アンタの言う事だ、本当に死んでるんだろう。だけど、アイツらは…キリト達とはこのゲームが無けりゃ逢えなかった。だから、オレも1度だけ言う。……このゲームを作ってくれて、ありがとう」

 

 茅場晶彦は指を真っ直ぐ伸ばし、前方を指し示す。

 

 「この先に君の求めている2人が居る。行くと良い」

 「あぁ、勿論」

 

 シュユは振り向かずに歩き出す。このゲームの終わりを、2人と見る為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「見つけたよ、2人とも」

 「え、悠!?」

 「どうしてここに…?」

 「ハハハ…悪い、相討ちだった」

 

 2人で並んで座っているユウキとシノン。シュユが座るスペースを間に作り、それを見たシュユは2人の間に座る。

 

 「かなり奮闘したんだぜ?だけど相討ちだ」

 「ボクは戦えなかったしな〜。詩乃は戦ったんだよね?」

 「あのねぇ…私は元々ミドルレンジ専門なの。剣で、しかもタイマンの対人なんて専門外も良いとこよ。手も足も出なかったわよ」

 「この状況だし、確実にキリトはヒースクリフを、茅場晶彦を倒したんだろう。流石だよ、アイツは。…そう言えば、2人はどうやってアイテム使ったんだ?」

 「気合だよ気合。ボクはどうにか指をゆっくり動かしてアイテムを実体化させて、瓶ごと噛み砕いたの」

 「私も似たようなものね。まぁ身体の下に敷いて割ったけど。まさか木綿季がそんなやり方とは知らなかったけど」

 「良いの良いの、やれたんだから!でもダメージは入らなかったけど、なんか口に違和感は残ってるかな」

 「んな事言ったらオレの身体なんてどうなってる事か…下手したら痛覚神経がイカれてるかもな」

 「そもそも【ゼロモーション・シフト】なんて裏技を乱用してるからよ。結局私は任意で使えなかったし」

 「ボクだって土壇場でやれるくらいだよ?シュユはソードスキルも使えたらしいけど」

 「無理無理、あんなの乱用したら負荷が大き過ぎて脳がパンクする。てか、こんな血みどろな話は止めてもっと思い出に浸ろうぜ?」

 「あのクエストは大変だったよね。虹の根本を掘れってヤツ」

 「結局オレがアイテムでゴリ押しで取ったんだよな。アルゴから高値で買った情報で虹の出現地点を予測して…それは良いけど、報酬がしょっぱかったなぁ。2人は黒字でもオレは大赤字だった」

 「木綿季が暴走した事もあったわね。背中にムカデみたいな虫が入って、ビックリした木綿季が迷宮の奥地まで走っていったの」

 「だってビックリしたんだもん!」

 「あの時1番大変だったのは私なのよ?悠は悠で木綿季の事を全力疾走で追い掛けてったし。敵は全部倒してたけど、AGIガン振りのあなた達を追い掛ける私がどれだけ苦労したか…」

 「オレだって苦労したんだぜ?ボスがデカいムカデだったから木綿季はビビってひたすら突っ込むし、詩乃は息も絶え絶えだったし。結局オレが倒したんじゃないか」

 「そんな事言ったら悠だって水着着るのが必須なダンジョンで全然戦えなかったじゃん!」

 「しょうがないだろ!?そもそもなんでビキニで来るんだよ!よくあそこで気絶しなかったってむしろ褒めてくれよ!」

 「クールな感じ出してるけど案外ウブよね、悠」

 「ほっとけ」

 「あ、アインクラッドが…」

 「もう直ぐ全部崩落か。そうなるとオレ達がここに居られるのももう少しか。…なぁ、2人とも」

 「「なに?」」

 「おぉ、ハモった。で、後悔はしてないか?この世界(SAO)にログインして、デスゲームを経験して」

 「後悔なんてしてる訳無いでしょ。ここに来なきゃ私はあなたに想いを伝えられなかったでしょうし、キリト達とも出逢えなかった訳だしね」

 「まぁ辛い事は沢山あったよ?でも、それよりも嬉しかったり楽しい出来事が多かった。誰を恨むとか、そういうのは絶対に無い。元々、誘ったのはボクだしね」

 「…ククッ、確かにそうだったな。オレにとっては地獄だったよ。色んな人を殺して、殺されそうになって、狂って…喪ったモノは多かった。だけど、その分得たモノは多かった。せいぜい楽しい地獄だったよ」

 「そうね。……もう、終わりね」

 「生きて帰るのも死ぬのも、一緒だよね」

 「……あぁ、一緒だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「2人とも、――。―――」




 これにてSAO編、終了です。
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