2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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 ALO編、開幕にございます。


10章 Rest Fairy Township
89話 欠けたピース


 2024年11月7日、この日を以てかの大天才茅場晶彦が造り上げた悪夢のデスゲーム【ソードアート・オンライン】はクリアされた。

 SAO事件後、人を殺せる出力のマイクロウェーブを放射出来るナーヴギアの危険性が指摘され、世論からは叩かれながらも新たなフルダイブ機器【アミュスフィア】を発売、絶対的な安全性をウリに発売されたソレは同じ時期に発売した【アルヴヘイム・オンライン】と共に爆発的なヒットを記録した。

 ゲームが好きな悠、木綿季、詩乃は勿論購入を――

 

 「………悠」

 

 ――してはいなかった。何故なら、肝心の悠が目覚めていないからだ。SAOクリア後、生存者は勿論目覚める事が出来た。しかし、生存しているにも関わらず未だに眠りから目覚められない者も居た。その内1人が悠だ。

 悠が死亡判定ならば、悠よりも先に死んでいた筈の詩乃と木綿季が生きているのはおかしい。今悠の病室に響くのは無機質なピッ、ピッ、という機械音と3人の微かな呼吸音くらいのものだ。

 

 「なんで、起きないんだろうね。アスナも…」

 「まさかリアルネームだとは思ってなかったけど…それはあなたも一緒だったわね、木綿季」

 

 詩乃の皮肉も今ではキレが無い。この病院には3人の他にキリトこと桐ヶ谷和人、アスナこと結城明日奈も入院しており、リアルで交流を図ったのだ。しかし、5人のウチの2人…悠と明日奈は未だに昏睡状態にあり、完全に交流出来てないのが現実だ。

 両手を2人に繋がれる悠。2年前は逞しく、頼りになりそうだった手は今では筋張り、痩せ細っている。身体も例外ではなく、脂肪どころか筋肉も落ちて骨張っており、髪もかなり長くなっているだろう。見ようにもナーヴギアを無理に外せば死亡する為、外せてはいないのだが。

 

 「…今じゃ本まで出されるくらい、世間はSAO事件に傾いてるよね」

 「単に事件を経験した人数が少なくて実態が見えにくいからよ。生き残ったプレイヤーの殆どが下層でぬくぬくと暮らしてた人達で、実態を見られた攻略組なんて一握りだもの」

 

 SAO生還者(サバイバー)と呼ばれる、文字通りSAOから生還した者から取材する事で書かれた本は今ではベストセラーであり、ワイドショーやニュース、果てはバラエティ番組でさえSAO事件についての事しかやっていない。だがその本も攻略組が持つ正確な情報を掴めている訳ではなく、様々な情報が錯綜しており複数の本が出されているのが現実だ。

 特に本によって違いが大きいのは(シュユ)についての情報だ。ある本では『冷酷無比、人殺しだが野放しにされている危険人物』と書かれ、またある本では『常に前線で戦い続ける、攻略組最強のプレイヤー』と天と地程の差が有るのだ。

 番組でもどこかの偉そうな弁護士が悠を殺人犯と見るか英雄と見るかで分かれている。生還者、しかも悠を良く知る者からすれば殆どの情報が虚偽であり、それ故に腹立たしいものなのだが。

 

 「…今日も起きないね、悠」

 「えぇ、本当に…ねぇ、あなたこんなに寝起き悪かったかしら?木綿季は寝起きが悪くて大変なの。それに朝ご飯も起こすのに手間が掛かって冷めちゃうし…」

 「いつもボクを起こす側だったのにね。最近は寝起きが悪いよ。詩乃じゃなんか違うんだよ、悠。だから、いつまでも寝てないでボクを起こしてよ…」

 

 実はこれはタチの悪い冗談で、その内ドッキリ大成功とか言って起きる。そんな事を何度夢想したか分からない。今日も数時間悠の眠るベッドの横に座り、手を握る。

 リハビリを終え、以前の様な身体に戻った2人だが、心は未だに戻ってこない。彼がまだ戻ってこないのだから、彼女達にとってまだ現実は現実になっていないのだ。

 

 「…帰ろうか、詩乃」

 「そうね…。また来るわね、悠」

 「…バイバイ」

 

 別れを告げてもまだ彼は目覚めない。故に、何も返事をする事は無い。その事に2人はまた心に傷を負い、病室を後にするのだった。

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