2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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95話 世界樹

 「…やっぱり大きいね」

 「えぇ。でもこれから私達は上に登り詰めなきゃいけないのよ」

 「うん、そうだね。ボク達の目的はたった1つ――」

 「「シュユを助ける事」」

 「息ピッタリね、私達」

 「これから飽きるくらい戦うんだし、これぐらい合わせていかないとね」

 

 今日は世界樹攻略を決めた3日後だ。あらゆる武器とアイテム、様々なテクニックや幾つかの魔法を覚え、2人は世界樹の入口の目の前に居る。

 現在存在する9つの種族、中でも最も武闘派のサラマンダーと数が多いシルフの全戦力を投入したとて突破出来るか怪しいと言われる程の難易度を誇るALOのグランドクエスト、それにたった2人で挑もうと言うのだ。試しに近くのプレイヤーに今からする事を教えた所で、冗談だろと笑われて終わりだろう。そんな誰もが笑う様な行いを出来るのは偏にシュユの為という理由と、ゲーム内で死んでも現実では死なないという事実が有るからだ。それ故に2人は止まる事を知らず、また知ろうともしない。

 世界樹の扉を潜り、内部に入る。背後の扉は閉ざされて内部から外部に出られなくなり、蜂の巣の様にある壁面いっぱいの模様から滲み出す様にエネミーが現れた。1体1体はそうでもないが、兎に角数が多い衛兵エネミーだ。

 

 「数だけはやっぱり多いね」

 「でも、やらなきゃね。それに、あなたも抑えるのに必死なんじゃないの?」

 「そんなシュユじゃあるまいし…っては言いたいけど、狩りの熱狂は忘れられるものじゃないからね…!!」

 「なら、ここで発散しなさい。私も今までの鬱憤を全部ぶつけるから…ね!!」

 

 シノンが放った矢に衛兵エネミーが3体纏めて貫かれ、ユウキは弾かれた様に突撃する。死闘が始まった。

 シノンは巨大な弓の下端に付いているアンカーを地面に突き刺し、いつも使う矢の2倍か3倍程ある太矢を射る。太さも然ることながら長さもあるその矢を射ち出す弓も当然ながら引くのに強い力を必要とし、1回引くごとに仮想の身体へ偽りの疲労感が積もっていく感覚が感じられた。視界には胴体に風穴を開けて墜ちていく者と纏めて貫かれたまま墜ちる者の2種類が映る。

 シノンが使うのはALOでは産廃とまで言われた大弓【竜狩りの大弓】だ。ハイスピードの空中戦(エアレイド)をウリにしているALOでは当然空中戦が多いのだが、この弓は他の大弓とは一線を画す大きさと威力を誇る。が、その反動と引く難度故に下部のアンカーを地面に刺さなければマトモに射れない。空中にはそのアンカーを刺す為の土台が無く、地上から射ったとしても高速で動き、かつ小さい的を射ち抜く腕前を持つ人など居らず、それ故に使われる事は無い。

 だが、今回の様に大群に射つのなら狙いを付ける必要は無い。疲労は溜まるが、それでも普通の弓でチマチマ射つよりかは数倍マシだろう。

 

 「アハハハハハ!!こんなんじゃ足りないよ!もっと、もっと!!」

 

 舞う様に剣を振るうユウキの口角は吊り上がり、表情は愉悦に歪んでいる。SAOでは出来なかったアクロバットな動きを挟み、剣も自身も縦横無尽に動かして敵を斬り刻んでいく。衛兵エネミーは数頼みの性能だ。それ故に耐久も速度も、大した事は無い。剣を一振りすれば絶対に1体は、イケる時は3体程度なら纏めて斬り伏せている。

 ユウキが使っているのは【ゴットヒルトの双剣】という珍しい双剣カテゴリの武器だ。双剣カテゴリとは文字通り2本で1つの武器であり、それ故に扱うのは難しい。2本1対とはつまり、2本を十全に扱える事を前提にしているからだ。しかしユウキはSAOでの経験、慈悲の刃を扱っていた経験と慣れを活かしている。そして素で繰り出せる連撃数はSAOでトップのユウキに合っているのだ。

 だが、どれだけ疾く攻撃を繰り出そうとも処理の限界は来る。ユウキは双剣を仕舞うとストレージから槍を引っ張り出す。この槍は名前すら無い店売りの槍だが、それなりの性能はある。それを身体のバネをフルに使って投擲、衛兵エネミーの腹部に大穴を空ける。次に取り出すのは特大剣だ。両手でしっかりと握るとグルグルと回転を始め、そのままベーゴマの様に移動する。剣本来の重さと遠心力が重なって特大剣は触れただけで死ぬ殺戮マシンへと変貌を遂げる。それだけで数十体の衛兵エネミーは無残にバラバラになって散っていった。

 

 「流石に間に合わないわよね…!」

 

 竜狩りの大弓では連射性がどうしても足りず、シノンは空中への退避を余儀無くされる。そんな取り出したのは2丁のクロスボウ。1発放つ度にクロスボウを手放し、何とクロスボウごと使い捨てるという荒業を疲労する。弓と違って両手に構えられるがリロードが面倒、それならリロードしなければ良いという脳筋の考え方から導いたやり方だ。

 威力は竜狩りの大弓に劣るが、それでも取り回しの良さを活かして飛び回りながらも衛兵エネミーの頭を正確に撃ち抜く事で威力の低さをカバーする。

 

 「よっこい…しょぉぉぉぉ!!!」

 

 特大剣をハンマー投げの原理で投げ捨て、複数の衛兵エネミーを巻き込んだユウキは曲剣を取り出す。両手に構えた曲剣を使って高速機動と並列して加速の威力を加算した斬撃を喰らわせる。曲剣は手数武器だからこその発想だ。

 ユウキがしている戦い方はユウキ本来の戦い方ではない。むしろ、複数種の武器を使い分けるのはシュユの戦い方に近い。本来ならここに投擲アイテムなどを加えるのだが、ユウキはそこまで器用ではない。だからこそ使い方が解る武器を複数種使い分けているが、結局ソレは模倣に過ぎない。シュユ程臨機応変ではないし巧くもなく、それぞれの動きに注目すれば粗が多く見られる。それでも戦えているのは彼女の才能故なのだろう。

 

 どれだけ斬り、撃ち抜き、貫いても衛兵エネミーは減るどころか増える一方だ。ALOには飛行時間に制限が存在し、それぞれの種族ごとに上限と回復手段、速度が定められている。世界樹内部には日が差しており、飛行時間は確かに回復するが飛びながらだと収支は0ではなくマイナスになってしまい、飛べる時間は少しずつ減っていく。シノンならまだしも、速度で威力を補うユウキには痛いだろう。

 しかも疲労が蓄積している。ALOをプレイするのに使う端末はアミュスフィアだ。つまり、脳に深く接続し過ぎない様になっている。それ故にSAO攻略組の一部が出来た技能である仮想肉体(アバター)の疲労の黙殺が出来なくなっているのだ。

 疲労の黙殺とは、SAO時代に()()()()()技能の事だ。アミュスフィアもナーヴギアも仮想肉体が動くと脳に疲労に似た信号を現実の脳に出力し、それにより現実とほぼ同じ疲労感を演出する。が、それを無理に無かった事にするのが疲労の黙殺だ。SAOは思い込みにより普通なら出来ない事もある程度ならやる事が出来る。ゼロモーション・シフトを始めとしたそれらはVR適性が高くなければ難しいのだが、疲労の黙殺はその限りではない。VR空間での疲労は単純に脳が疲れていると感じているだけで、現実とは違い身体に過負荷が掛かったせいで身体が運動をセーブしている訳ではない。言ってしまえば錯覚と何ら違いは無く、()()()()()()()()()()()()()()。そんなゴリ押しの元に成立するのが疲労の黙殺だ。

 本来のスタミナ以上の運動を可能とするソレだが、端末がアミュスフィアに変わったせいで不可能となった。つまり、疲労はしっかり疲労として感じてしまうのだ。クロスボウや弓を撃つシノンですら疲労していると言うのに、近接でしかも飛び回っているユウキが疲れない訳が無い。

 

 「数、多い…!」

 「耐えて捌くしかないわね…!」

 

 この場にシュユが居れば、2人はそう感じずにはいられない。ユウキよりも多くの武器やアイテムを使いこなし、戦闘に関してならシノンより頭が回る彼ならこの状況を打開できるかも知れない。

 だが、そんな弱音は言っていられない。再び双剣を抜いたユウキは果敢に衛兵エネミーの群体の中に飛び込み、身体に刃を浴びながらも処理を進める。熱く疼く様な感覚が狩りの熱狂を高めるが、どうにもならない。

 ユウキに群がる衛兵エネミーを3連射された矢が貫く。シノンのとっておき、【アヴェリン】だ。弓を3本セットし、連射するというクロスボウあるまじき逸品。本来は3本を纏めて当てるその武器を振りながら撃つ事で別々の敵に当てるという荒業を繰り返している。

 

 「『þeir slíta fimm grǿnn vindr(5つの緑の風で敵を撃ち切れ)』!!!」

 

 ユウキが使ったのは風魔法に分類される魔法だ。回復魔法を覚えずに覚えた魔法は複数の衛兵エネミーを巻き込んで斬り刻む。そしてアイテムストレージから取り出したハルバードをシノンに渡し、また同じ魔法を詠唱した。

 ハルバードを渡されたシノンは背後に迫っていた敵を纏めて薙ぎ払う。槍より重いが薙ぎ払いも出来るこの武器に少し魅力を感じつつ、左手に持つアヴェリンをまた撃ち、リロードする。

 

 「あぐっ…!!」

 

 が、快進撃もここまでだ。衛兵エネミーの持つ剣がユウキの太腿を貫く。動きを止めたユウキに狙いを定め、何本もの剣が突き刺さる。個としての攻撃は大した事は無くとも、集団の攻撃は凄まじく痛い。着ていた鴉羽のマントと中に着込んでいた鎖帷子のお陰で体力の減少は半分に抑えられたが、突然のショックに飛行を行える余裕はユウキに無かった。

 このまま墜ちれば墜落死する。そう確信したシノンは全力飛行でユウキの元へ向かうが、ケットシーの空中戦性能は大した事は無い。加速も最高速も下から数えた方が早いだろう。それでも助けるが、アヴェリンは落とした上に複数箇所斬られたせいで体力はユウキと同程度になってしまった。

 

 「…来なよ。ボクが、お前ら全部殺して――!!」

 

 ユウキが抑えていた衝動を解放して、アミュスフィアの性能が許す限りの負荷で最高の動きをする。そうしようとした瞬間、背後から熱感を感じる。後ろを見れば、何やらドラゴンが引く戦車が向かってくるではないか!

 

 「これ、何が起きて…?」

 「『Ek verpa einn brandr muspilli,kalla bresta bani, steypa lundr drótt』!!!」

 

 呆然と呟くシノン達を避ける様に放たれた湾曲する炎弾は衛兵エネミーに当たると爆発し、赤い爆炎を上げる。爆発だけでなく残留する炎にもダメージが有るらしく、燃えた衛兵エネミーは藻掻いた末にポリゴンへと化した。

 

 「『|þú fylla heilaqr austr brott sudr bani《我は満たされる、聖なる水、冷たい死を遠ざける》』」

 

 温かな感覚が身体を包み込み、視界の半分まで減っていた体力バーがみるみる内に全快する。

 

 「『þeir slíta fimm grǿnn vindr(5つの緑の風で敵を撃ち切れ)』!!」

 

 先程ユウキが使った魔法と同じだが、より威力が強力になった真空の刃が敵を薙ぎ払う。

 今見ただけでもシルフ、サラマンダー、ケットシーの軍勢が居る事は確実だ。更にUIに表示される音符型のマークは【音楽妖精属(プーカ)】が持つ共通スキルである【歌唱】だろう。更に視界に写る突撃していく筋骨隆々の男達は【土妖精属(ノーム)】で、基本的に敵対しているサラマンダー、ノーム、シルフが共闘している事は異常だろう。

 

 「良かった、間に合った!」

 「キリ、ト…?」

 

 未だに理解が進まないシノンが突然現れたキリトの名前を呼ぶ。ALOでも変わらず黒ずくめの彼は【黒の英雄】らしい頼もしさと風格を滲ませながら、2人に言い放った。

 

 「やろう。その為に、俺達はここに来たんだろう?」

 

 その言葉に、2人は言い返した。

 

 「「当然っ!!」




 因みにサラマンダーの魔法にルビが振られてないのは何故かルビ君が仕事をしてくれなかったからです。意味としては

 『我は投げる、1つの悪魔の炎。破裂する死を呼び、森の軍団を倒す』

 となります。
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